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7/20の参院選は、一説によれば「ロシアの工作によって」参政党が躍進した(笑)。比例はおろか、自民党の牙城だった地方の選挙区でも保守票に大きく食い込み、当選者も出したのには驚く。プーチンの工作員は、国際政治からずいぶん離れた地域まで、入り込んでいるらしい。

ちなみに日本の不安定化を狙い、ロシアが参政党を伸ばすようSNSに介入していると、7/15にnoteで喧伝した山本一郎氏は、3日後に事実上、自分は自民党のために働いていると明かしている。

議席まで獲られずとも、保守票が割れるだけで自民党は不利になり、野党が漁夫の利を得る。それを止めるには、参政党への投票は「ロシアの思う壺!」とPRすれば効くということだったらしい。

朝からひっきりなしに「もう消化試合だ」という連絡も来ますが、各候補も陣営もまだまだ諦めず必死に戦っているところで、私としても、最後の一分一秒まで全力で頑張ります
 (中 略)
私ら保守層が渇望する「自由民主党政治の未来」と、それによって日本国民が希望をもって安心して暮らしていけるという未来図を、石破茂さんと共に高市早苗さんには語っていただきたいのです。

山本一郎氏note(2025.7.18)
強調は引用者

選挙の際に、そういう仕事をする人は昔からいたと思う。問題は大学教員なのに一緒につるんで、参政党の人気は「ロシアの工作!」と太鼓判を捺していた、(国際)政治のセンモンカの方だろう。

両者が相当程度に親しいらしいことは、SNSを見ればわかるが、ふつうに考えてかくも党派的に振るまう研究者は、いまの憲法に「学問の自由」があっても行使していない。だったら参政党の憲法草案に倣って、そんな自由は取り上げても、少なくともこの人は困らなそうだ。

@hinabe_ch は山本一郎氏のアカウント

さて、では「ロシアの工作」は措いておいて、今回の結果をどう見るか。

参政党の特徴は、ひとことで言えば「現状全否定型」の政党であることだ。とにかく今の世の中はおかしい! という、社会の秩序を根本から疑う不信感が党勢の原動力で、憲法とか政策とか歴史とかはすべてネタに過ぎない。

彼らの歴史観は稚拙だが、それは「こんなテキトーな日本史の方が、俺らには魅力的に映るくらい、お前らを信用してないからね」というメッセージである。学者とか信じないし、と言っている相手に「うおおお歴史学者のジッショーを喰らえ!」などと吶喊するのは、自爆行為だ(苦笑)。

学者が専門家を名乗り、「日本の司令塔」気取りで国民に指図したコロナ禍のあいだ、アカデミズムはなにも有益な相互批判をしなかった。それへの反発が、参政党を軌道に乗せたことは、国政デビューだった3年前の参院選での報道からわかる。

「コロナになってから2年間、いまだにマスクを外せない人たちがいる。ワクチン接種もマスクも強制ではありません。だからマスクをつける自由もあればつけない自由もある。ワクチンだって、打ちたくなければ打たない自由だってあるはずなんです」

2022.7.10のNHKより
神谷宗幣氏(当時は党事務局長)の演説

で、コロナが終わっても、政治家も・メディアも・学者も、検証や反省をしなかった。「まちがえた」と知ってるくせに、黙ってれば忘れるとタカを括った。それを「ふざけんな」と感じる職種の人たちは今回、参政党の熱烈支援に繰り出した。

そもそも、昨年11月に斎藤元彦・兵庫県知事の「まさかの再選」を見た3日後に、はっきりとぼくはこう書いている。

今回の私の仮説の当否は、たとえば今後の選挙によって検証できるから、結論を焦る必要はない。
 (中 略)
〔失敗の検証や反省を〕行わずに居直る勢力への報復が、今後さまざまな形をとるだろうと思う。今回の知事の再選に、一票を投じた世代の「ざまぁ!」の声を聴くとき、彼らの復讐はすでに感受されている。それこそが日本の暗雲である。

2024.11.20(強調を変更)

はい的中!(笑)。これがホンモノですよ。結果が出てからそれっぽいデータをかき集め、論壇誌で「センモンカの私には、驚きはありませんでした」とかドヤり始める後出し屋とは、違うのです。

社会が狂ってしまったと感じ、その前提となる価値観自体が憎いといった憤懣を吸い上げて、(おおむね右寄りの)新興政党が台頭する現象は、近年のヨーロッパでおなじみである。ドイツのAfDになぞらえて呼べば、さしずめ参政党はAfJ(日本のための選択肢)だろう、賛否は別にして。

ちなみにAfDも、コロナ禍でのロックダウンには批判的だった。議会で追及する口調も、

AfDのガウランド氏は政府のやり方を、「戦時中のプロパガンダ」と攻撃。政府が行う「毎日の『新規感染者数』の発表は、『爆撃速報』さながらで、国民を恐怖に陥れる」と。

さらに、政府が国会の頭越しに重要な決定を下していることを指し、メルケル首相に向かって、「我が国の主権は国民にあることを思い出していただきたい。それは、つまり、ここ、国民の代表者の集う国会です」と言った。

川口マーン惠美氏(2020.11.6)

な感じで、今回の選挙の参政党に似ていた。

「ロシアの工作」説をはじめ、選挙戦では火がついたように口汚く参政党に罵声を浴びせる識者を、左右問わず目にしたが、なにをしたいのかまったく不明だった。君らはなにが目的なの?

参政党の思想が危険で、政権に入れたくないというなら、ドイツのようにファイアーウォール(連立しないという合意)を築くよう、他の政党に働きかければいいだけだ。議会第二党にまで達したAfDに比べれば、躍進と言っても十数議席の参政党に、ヒステリックになる理由はない。

むしろ、こんなことが起きるのは「外国の工作に違いない!」といった主流派の過剰反応こそが、真の危険だ。それはこの世界は「むちゃくちゃだ」という感覚を強め、かえって現状を全否定する政党ほど有利にする。叩いている相手に養分をあげる、典型的なマッチポンプである。

今回、参政党がミニ政党の規模を脱して、民意のバロメーターとして機能する議席数を得たのは、いいことだ。今後も世の中の「前提自体がまちがっている!」という空気が続くなら、次の選挙でも伸びるし、逆にそうした現状が改まるなら、自ずと議席を減らすだろう。

れいわとN国の進出が注目された、2回前(2019年)の参院選の後、日本でも同時代の欧州(イタリア)に似た動向は見られるが、遥かに速度がゆっくりで中途半端だと評価する記事を書いたことがある。6年経って、今回はそこから、だいぶアクセルが入った。それが妥当な位置づけだろう。

世の中が「壊れている」のに、政治家も識者もそれを修復せず、むしろ「壊れていない」と強弁し続けるかぎりで、現状を全否定する政党はどこまでも伸びてゆく。それがもうひとつの選択肢の地位を掴むのと、壊れた社会をきちんと直すのと、どちらが早いか。

それが、日本がどこまで「欧州化」するかを決めてゆく。その指標となる政党が日本の国会で地歩を占め、ホンモノの予言を今後も検証してくれるのは、ありがたいことだ。支持はしないが、参政党の躍進を喜びたい。

参考記事:

(ヘッダーはサンスポより。プーチンではなく左の梅村みずほ氏が、躍進の立役者です。選挙前に「議員5人」を達成し、右の神谷宗幣代表のTV露出を可能にしました)

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