2025年3月26日、SmartHR取締役ファウンダーの宮田昇始さん、取締役 / 常勤監査等委員の玉木諒さんが任期満了にて退任、同日付けで退社します。今回の退任・退社により、SmartHRの創業期メンバーのうち2名が会社を去ることになります。
このnoteでは、二人がどんな経緯で退任・退社を決めたのか、そしてこれからのSmartHRへの思いについてお伝えします。創業期メンバーでもあるCEO・芹澤さんとともにSmartHRの創業からこれまでを振り返りながら、新たなフェーズに向けての期待や意気込みを語りました。

写真中央:芹澤雅人さん
2016年、SmartHR入社。2017年にVPoEに就任、開発業務のほか、エンジニアチームのビルディングとマネジメントを担当する。2019年以降、CTOとしてプロダクト開発・運用に関わるチーム全体の最適化やビジネスサイドとの要望調整も担う。2020年取締役に就任。2022年1月より代表取締役CEOに就任。
写真右:宮田昇始さん
2013年に株式会社KUFU(現SmartHR)を創業。2015年に人事労務クラウド「SmartHR」を公開。2021年にはシリーズDラウンドで海外投資家などから156億円を調達、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。2022年1月にSmartHRの代表取締役CEOを退任、以降は取締役ファウンダーとして新規事業を担当する。2022年1月にNstock株式会社(SmartHR 100%子会社)を設立。2025年3月、任期満了にて退任・退社予定。
写真左:玉木諒さん
2007年よりあらた監査法人(現PwCあらた有限責任監査法人)にて上場企業や外資系企業の法定監査業務に従事。その後、山田ビジネスコンサルティング株式会社にて国内企業の事業再生コンサルティング、株式会社サムライインキュベートにてシード期のスタートアップ投資やファンドレイズを行う。2017年、SmartHRに入社し、2018年1月に取締役CFOに就任。コーポレート体制の整備や資金調達業務の推進に従事した後、2023年10月にCFOを退任、取締役 / 常勤監査等委員を務める。2025年3月、任期満了にて退任・退社予定。
それぞれのさらなるチャレンジのために退任を決めた
宮田:2025年3月26日の取締役会で、僕と玉木さんの取締役退任、加えてNstockとSmartHRの連結解除の方針が決議される予定です。
3年前に僕がCEOを退任した時、メディアの記者さんから「一体どんなトラブルや仲違いがあったんですか!?」とめっちゃ聞かれて(笑)。今回は聞かれる前に、玉木さんと芹澤さんと僕でお話しするのがいいかなと思いまして、こうして集まりました。退任の経緯やこれまでのSmartHRを振り返ろう、と。
玉木:ありましたね(笑)
芹澤:2人ともちゃんと喋ってくださいね!
宮田:退任の理由から話していくと、僕はSmartHRのCEOを退任した2022年の1月、同じタイミングでNstockという新しい会社を立ち上げました。Nstockでは現在3つの事業を同時並行で進めており、社員数も50名程度と会社の規模も大きくなりつつあります。このタイミングでよりアクセルを踏むため、SmartHRグループから連結を外れる選択をしました。
玉木:僕は2018年にSmartHRのCFOに就任し、その後2023年、森さんへとCFOを交代して監査等委員に就きました。比較すると、CFOはより前線の仕事で、監査等委員は後方から支援する仕事と言えます。それぞれに役割があり、重要な仕事です。とはいえ僕は40代前半で、まだ体力があって、成長の意欲もあって。後方でどっしり構えているよりも、さらに新しいフィールドに出たいという思いが強くなってきたというのが背景ですね。
芹澤:2人とも、もっともっとアグレッシブに行きたい、という思いがあったんですね。
宮田:加えて、僕はCEOを芹澤さんに交代して3年、玉木さんはCFOを森さんに交代して1年半。バトンタッチ後も、会社はすごくうまくいってる。
玉木:僕らがそのままやってるより、ずっと良くなってますよね。
宮田:現経営メンバー向けの大きな株式報酬の設計も2024年に行い、バトンタッチした新経営陣のインセンティブも整いました。それで、「うん、いいんじゃない?そろそろ」と思ったタイミングで、芹澤さんから肩を叩かれました。具体的にはGoogle Meetの画面越しに肩を叩かれた。
芹澤:いや、「来期どうしますか?」って聞いただけですよね(笑)。でも実際、2人の退任で議論になったり混乱したりすることもなかったですね。会社が受け入れられるだけの態勢になっていたんだと思います。
経営体制が変わってからSmartHRはもっと良くなっている
玉木:現CFOの森さんは、入社して2〜3年目にしてすでに実績を出し、貫禄すら感じられるほどで。次にCFOをやってもらうんだったらこの人だなとずっと思っていましたし、本人にその期待値も伝えていました。2023年の役員変更のタイミングで、僕よりうまくやってくれそうな森さんにCFOを任せるという意思決定に迷いはありませんでしたね。実際バトンタッチしてみて、思ったよりさらにやってくれてます。
宮田:SmartHR社のCFOとしての活躍にとどまらず、なんだかスタートアップ業界を代表するようなCFOになっていきそうですね。
玉木:そうですね、期待値を大きく超えてます。早くCFO交代してよかったなと思っています。

宮田:僕はNstockで2回目の起業にチャレンジをしているのですが、自分はスタートアップの初期フェーズにめちゃくちゃ向いてるなと改めて感じるんですよね。新しい事業をゼロからつくって、それを大きくしていくことに力を発揮できるタイプというか。
ただ、ある程度会社の規模が大きくなってくると、組織の課題が出てくるじゃないですか。そういうのを見ると、悲しくなっちゃうんですよ。
芹澤:悲しくなっちゃう、ですか。
宮田:芹澤さんはそういうのを見ると、「人間が集まるとこういうことが起きるのか!」と興味深く思うって前言ってましたよね。向き合い方が全然違うんですよ。そういう人間のほうが、会社の拡大期には向いていると思うんです。
それだけじゃなくて、創業期からSmartHRにいて、会社のカルチャーや成長してきた体験を知っているからこそ、芹澤さんがリーダーだったら会社のカルチャーがガラッと変わることもなく、むしろ創業期からの良さを守りながら新しいことに取り組んでくれるだろうと思いました。実際に、僕にはできない新しいことも始めているんです。
今、自分で一つ新しい大きなプロダクトに関わって、つくるところから売るところまでやろうとしていますよね。
芹澤:何ヶ月か前にSmartHRのユーザーの方とお話しする機会があり、かなり赤裸々にフィードバックをいただいたんです。僕が入社した2016年当時からするとSmartHRはとても大きなプロダクトになっていますが、これだけやってもまだミッシングピースがあるぞ、と。これは自分がやってみたいと、ユーザーの方に突き動かされて始めたプロジェクトですね。もう少し待っていてください。
宮田:うまくいけば事業にとってすごいインパクトがあるけど、僕だったら絶対やらないというタイプのプロダクトです。まさにバトンタッチした意義があるというもので、早く世に出てほしいです。
創業期からこれまでーSmartHRは複利で大きくなってきた会社
宮田:創業期の芹澤さん絡みで面白かった話を思い出したので話していいですか。
芹澤:なんでしょう(笑)
宮田:芹澤さんが入社した2016年の夏に5億円の資金調達をしたんですが、明日には着金というタイミングで、1人の投資家に「やっぱり投資やめます」と言われる事件があって。初めて大きな資金調達をしようという時にそんなことが起こって、ほかの投資家にも投資やめると言われたらどうしようと、かなり焦りました。
芹澤さんはその様子を見て会社が潰れると思って、その日にご家族に相談したって言ってました。
芹澤:そうでしたっけ(笑)。でも、いつ潰れてもおかしくないとはずっと思ってましたよ。入社してから売上を見て、こんなに少ないのかと。
宮田:芹澤さんが入社した月の売上、15万円くらいでしたからね(笑)。これが本当に1億、10億いけるのかと不安に思いながらやっていた時期でしたよね。
芹澤:スタートアップは今ほど恵まれた環境ではなかったですからね。生き残るほうがレアだという感覚でした。でも、どんな会社にいても一定のリスクテイクは必要ですし、最悪ダメでも、困難に立ち向かって乗り越える“ハードシングス”を経験することは自身の成長にも繋がりますから。このままいってみよう、と。
玉木:宮田さん、初期は「1億円で会社売れたらラッキーだね」と話していたんですよね?
宮田:そうそう。Open network Labのデモデイで100人くらいの投資家の前で初めてSmartHRをプレゼンして、そこで優勝した帰り道、共同創業者の内藤さんと祝杯をあげて。ビール飲みながら「この事業、1億円くらいで売れたらすごいね」と。まだプロダクトが何もない、プレゼン資料しかないタイミングの話です。10年も経ってない、9年前のことですね。
創業初期の頃の写真を見返している3人宮田:でも思い返してみても、SmartHRの事業がどこかでダイナミックに変わったかというと、実はそうではないんですよね。エポックメイキングなできごとは、強いて言えばSmartHRを思いついた瞬間くらいのもので。その時々の困りごとや、今後起こるであろうこと、ネガティブなことだけでなくポジティブなことも見越して、臨機応変に対応しながら徐々に大きくなってきた。
芹澤:リニアな成長という感じですよね。
玉木:そうですね。目標も急に引き上げるというよりは段階を踏んで設定していました。「今の自分たちよりも2割上乗せする」という目標を積み重ねていった結果、気づいたら大きくなっていたという感覚。
宮田:2割ずつ上げていった、その複利の結果ですよね。毎月の成長率で見れば緩やかな上昇だけど、それが積み重なった複利がすごいことになっていったという。
玉木:2019年にARR(Annual Recurring Revenue:年次経常収益)が10億超えたときに「SaaSの積み上げすごい、これならもう潰れなさそう」と思った記憶があるんですが、2024年の後半には、ひと月でARRが10億円も増えた月もありました。
宮田:びっくりしましたね。ARR10億に達するまで4年かかってるんですよ。その額を1か月で達成できるようにまでなりました。

SmartHRがあることで「人生が良くなった」という人が増え続けてほしい
宮田:最後に、今後のSmartHRに対する期待というか、願いというか。個人的に期待していることなんですが、送別会やってほしい。
芹澤:はい。前向きに検討します。行けたら行く。
玉木:(笑)。僕は、真面目な話をします。期待というと偉そうになってしまいますが、僕からの思いを。SmartHRは先ほど話したように、複利でコツコツ積み上げるスタイルをとって成長してきて、それでここまで大きくなれたわけですが、これから先は、急激で大きなアクションを起こすことが必要な場面も出てくると思います。これまでのスタイルにとらわれずに、新しいことにチャレンジしてもらえるといいなと思っています。
宮田:僕も真面目な話をすると、今年の1月に、SmartHRの全社イベントで、活躍している社員を表彰する「SUMMIT」というアワードが開催されましたよね。そこで表彰インタビューに答えていた浅野さんの話が印象的で。「もともとはデスクワークとは無縁の仕事をしていて、転職でデスクワークを始めた時にはパソコンの使い方もままならず、やっていけるか不安だった。そんな時にSmartHRを使ってみて、これなら私にも使える!と使いやすさに感激した。こういうプロダクトをつくるSmartHRでいつか働きたいと思い続けてきて、それで今ここで表彰されるなんて」と、涙ぐみながら話していて。僕は配信でその様子を見ていて、自分の創業した会社でこういうことが起きるんだな、素晴らしいことだと感動していました。
芹澤:そんなことを思っていたんですね。
宮田:僕がCEOだった頃もMVP制度をやってみたんですけど、まだ人数も少なく、誰か一人だけ称賛するのも違うなと思って取りやめたんです。でも今は社員数1400人の大きな会社になって、こういうアワードをめちゃくちゃいい感じで開催するようになって。会社として、プロダクトの便利さだけじゃなくて、人や社会に価値あるものを提供できるようになりつつあるんだなと、しみじみ思いました。会社が大きくなるにしたがって、この会社があってよかった、人生変わったという人が増え続けると嬉しいですね。
玉木:僕自身も、SmartHRに入って人生変わったなと思います。これだけ大きな変化のある会社で過ごして、人生で見たらすごく短い期間かもしれないけど、いい時間を過ごしてきました。働く人がそう思えるような会社であり続けられたらいいなと思いますし、そういう気持ちをユーザーに対しても提供できる会社であってほしいですね。
芹澤:本当に、入社した9年前は、こんな風になるなんて想像してなかったですね。
宮田:初めて入居したオフィスは、このミーティングルームより小さかったもんね。

芹澤:社内的には2030年に向けたストーリーを示し始めているわけですが、実際は5年後、どうなってるかわからないですよね。SmartHRにとって、5年という月日はすごく長い。
宮田:今から5年前の2020年、社員数でいうと10分の1くらいですもんね。
芹澤:今から5年経って2030年を迎えたら、やっぱり「あの頃はこんな風になるなんて信じられなかったよね!?」と言えるようにしたいですね。そのくらいの変化スピードをキープしていかなければならないし、さっき玉木さんが言っていたような非連続的な成長も成し遂げる必要がある。そこに向き合っていきたいです。これからが楽しみです。
宮田:スタートアップではない業界の人と話をすると、いまだに「SmartHRってなんですか?」と言われることも多いです。でも、同じITサービスでもメルカリやタイミーは知られていて。もちろんtoCサービスとtoBの違いもありますけど、やっぱり「well-working」とミッションを掲げて世の中の“働く”を変えていこうとするなら、もっと知られていかないとですよね。10年後には、誰に言っても知られている状態になっていたら嬉しいです。
玉木:2035年。じゃあ10年後にまたこの話を振り返りましょう。