
美大の講師を経験してUXデザインを学び直した話
この記事はPLAID Design Advent Calendar 2024 20日目の記事です
2024年春、女子美術大学に新設された「共創デザイン学科」でUXデザインの非常勤講師を務めました。その経験から、講師を始めることになったきっかけや授業の内容、そして自分が得た学びについて振り返ります。

女子美術大学で非常勤講師を始めたきっかけ
きっかけは、プレイドの同僚から「美大でUXデザインの講師をやってみませんか?」と声をかけてもらったことでした。その後、女子美術大学で新しく設立された「共創デザイン学科」の学科長の松本先生と話す機会をいただきました。
松本先生の「多様な領域の人々と共に新しい価値を創造する共創型リーダーを育てたい」という学科のコンセプトに共感し、非常勤講師を引き受けることにしました。
従来の美術領域だけでなく、ビジネスやテクノロジー、UIUXを横断的に学ぶ新しい学科が美大の中にも新設されていることに驚きました。同時に「その領域であれば自分にも何か役立てることがあるかも」と思ったのも大きな理由です。
偶然にも教員免許は持っていましたが、現場の仕事が楽しすぎて教員の世界に進むことは考えていませんでした。これも一つの縁だと思い、挑戦してみることにしました。

授業の概要と大事にしたコンセプト
授業の全体設計
授業は全10回、1回3時間の集中型です。普通の授業のように週1回1コマのペースではなく、短期間で一気に進めるスタイルです。そのため、授業中にアウトプットするところまで完結するように設計を工夫しました。
内容は、UXデザインの基礎から始まり、サービス企画、ユーザーリサーチ、コンセプト立案、そしてコンセプト検証までを網羅しました。学生たちは、理論を学びつつ実際のプロジェクトに近い流れで体験することで、デザインプロセスの全体像をつかめるようになっています。


授業を設計するうえで「これだけは大事にしよう」と考えた3つの方針があります。
(1) 座学 < 実践
UXデザインは、理論を学ぶだけでは実務でうまく活かせないことが多いです。そこで、授業では「女子美 DX」というテーマを設定し、学生にとって1番身近な大学生活の課題を解決する形式を取りました。生徒たち自身が課題を感じているリアリティのあるテーマとケーススタディを通して、デザインの問題解決プロセスを「自分ごと化」して体験・実感することができます。
(2) 一方向 < 双方向
その知識を何のために学んでいるのか使い所が見えないまま座学を続けるより、実践してから理論を学ぶ方がモチベーション高く理論や知識を吸収することができます。私自身、実務を通じて学ぶ中で「やってみて初めて分かること」が多かった経験があります。だからこそ、授業でも「まずやってみる」「後から知る・学ぶ」「またやってみる」の反復性を重視しました。
(3) 単独作業 < グループワーク
UXデザインは多職種のチームで協力して進めることが多く、異なる専門知識やスキルを持つメンバーが一緒に問題を解決するプロセスです。学生たちにも協業のプロセスを体験してもらうために、グループワークで課題に取り組む形式にしました。グループ内で意見がぶつかる場面も多々ありましたが、他人とぶつかることで他人の視点を理解し、多様なアイデアを統合する力の素地を養うことができます。


制約と創造性のバランス
今回カリキュラムを考える上で意識したもう一つのポイントは「実務の視点をどう授業に落とし込むか?」です。
実務では、限られたリソースや条件の中で成果を出すことが求められます。この「制約の中で創造性を発揮する力」はプロとして欠かせないスキルです。授業でも、学生たちにそのバランス感覚を身につけてもらうことを意識しました。
具体的には、自由な発想を引き出すアクティビティを取り入れるする一方で、現実的な制約も設けました。たとえば、ツールを「アプリ」に限定したり、ターゲットを女子美生(学生自身やクラスメイト)に絞ったりしました。この設定によって、学生たちは身近なターゲットに対して仮説を立てやすくなり、すぐにフィードバックを得られる環境を作れるようになります。
さらに、チームごとにターゲットに近い人をペルソナとして設定し、そのペルソナの意見を参考にアイデアをブラッシュアップしてもらいました。最終日のプレゼンテーションも、講師が評価するのではなくクラスメイト全員にGoogleアンケートで評価してもらう形式を取りました。
制約条件がある中で、いかに自由な発想を活かしながら現実的な解決策に落とし込むかを学ぶ。このプロセスを通して、理想(アイデア)と現実の折り合いをつける感覚や、「仮説を作って壊すこと」の勇気を身につけてほしいと考えて設計に取り入れています。

教えることは学び直すこと
人に教えるためには、自分の思考やプロセスを言語化し、整理する必要があります。特に今回のようにUXデザインという抽象度が高い分野を教える中で、自分の過去の実務経験やデザインプロセスを振り返り、棚卸しをするまたとない良い機会になりました。今回の授業を通じて、改めて「教えることは学び直すこと」だと実感しました。
また、学生たちの姿勢やアウトプットから多くの刺激を受けました。短期間の授業にも関わらず、アプリのUIやサービスロゴまで自主的に作るなど、必須要件を超えた工夫や創造性に驚かされました。「やらなくてもいいけど、作りたかったから作ってみた!」という純粋なものづくりの姿勢は、自分自身が忘れかけていた感覚を思い出させてくれました。
最終プレゼンで学生たちが見せてくれたアイデアやクリエティビティを見て、もっと自由に発想し、楽しむ気持ちを大事にしようと思えました。
社会人になって初めて講師として教壇に立つことになったので緊張や不安の中で講義を実施しましたが、学生や大学の皆さんに助けられる形で全10回の授業を全うすることできました。このようなきっかけがなければ現役大学生の若いメンバーと触れ合うこともなかったであろうと思うとこの出会いと機会に心から感謝しています。

PLAID Design Advent Calendar 2024 21日目 は、Takashi Fujiiさんの「コムデディレクターと「4歳の壁」へのコミュニケーション反省会」です。