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全連載6回分を一気にまとめた記事を作りましたので、そちらをご覧ください。

「日経グローカル誌」2023年11月20日掲載


前回は、少子化が先進国全体の共通課題であり、日本の少子化の大きな要因は結婚行動の変化であることを示した。今回は日本で結婚行動がどう変化してきたかを詳しく紹介したい。

まず、ここで言う結婚行動とは「結婚するかしないか」と「いつ結婚するか」に分けられる。そして、これらの結婚行動の変化として「非婚化」「未婚化」「晩婚化」が挙げられる。非婚化とは50歳までに結婚しない人が増えることを意味し、50歳時点での未婚割合で測定する。未婚化は年齢別未婚率で測定し、50歳までのある年齢(例えば30歳)の未婚率が以前より増加していることを指す。晩婚化は結婚する年齢が遅くなっていることを指し、平均初婚年齢で測定する。

非婚化、未婚化、晩婚化の要因

1920年から50年までは、男女ともに50歳時の未婚割合は約2%と、ほぼすべての人が50歳までに結婚する皆婚社会だった。ところが女性の50歳時未婚割合が50年ころから、男性の値は80年ころから急激に増加し始め、2020年には男性の28%、女性の18%が50歳時点で未婚となっている。

次に未婚化を見てみよう。国立社会保障人口問題研究所の「人口統計資料集2023年版」から25~29歳、30~34歳の男女別未婚率を見ると、女性のうち、1920年時には25~29歳の9%、30~34歳の4%が未婚だったのが、2020年には25~29歳の66%、30~34歳の39%が未婚になっている。男性は1920年時から女性に比べて未婚割合は高く、25~29歳の26%、30~34歳の8%が未婚だった。それが2020年にはさらに増加し、25~29歳の76%、30~34歳の52%が未婚だ。

また同じ資料集の1910~2021年の男女別平均初婚年齢を見ると、男女ともに1950年から2015年くらいまで、平均初婚年齢はほぼ直線的に上がってきたが、15年ほどからその上昇傾向は停滞しており、21年の平均初婚年齢は男性で31歳、女性で29.5歳となっている。1950年時に比べて、男性は5歳、女性は6.5歳も上昇している。また21年まで一貫して男性の平均初婚年齢は女性のよりも高いが、近年では男女の平均初婚年齢の差は縮まってきている。

それでは、このような非婚化、未婚化、晩婚化をもたらしている要因はなんだろうか。一つの要因は、交際・結婚相手との出会い方の変化にある。国立社会保障・人口問題研究所の岩澤美帆、三田房美両氏の研究によると、少子化になった1970年代以降の初婚率の低下の約半分は「見合い結婚」の減少によって、そして約4割が「職場や仕事を通じて出会う、職縁結婚」の減少によって説明できる。職縁結婚が減少した背景として、「日本的経営」スタイルの減退、そして企業内のクラブやサークル活動、旅行などの活動が衰退したことなどを挙げている。

二つ目の要因は、経済的に不安定な若者の増加だ。図は1990年から2020年の50歳時未婚割合を学歴別に示したものだ。

図:学歴別50歳時の未婚割合
データソース:国勢調査

非婚化を学歴別にみると、どのグループでより非婚化が顕著なのかがわかる。各線は最終学歴が中卒以下、高卒、短大・高専卒、そして大卒以上の人の50歳時未婚割合を示し、点の大きさは各年次におけるその集団の未婚者数を示している。1990年から2000年までは大卒以上の女性の値は10%と、他の学歴の女性に比べて最大だった。2000年以降、最終学歴が中卒以下の女性の値が増加し始め、10年以降、最も未婚に留まりやすいグループになっている。ただ中卒以下の女性を除くと、学歴が高いほど未婚に留まりやすい傾向がわかる。一方、男性は1990年から一貫して低学歴層ほど50歳時未婚割合が高く、学歴が上がるにしたがって低くなるという傾向にある。20年には最終学歴が中卒以下の男性の37%(3人に1人以上)が50歳時に未婚である。

未婚者の8割以上が結婚を希望

複数の研究でも、社会経済的地位の低いグループ(例えば低学歴、非正規雇用など)が結婚しにくいことが報告されている。

現に、日本全体で結婚が減っている理由として「若年層の低賃金」や「将来の賃上げに期待がない」と答える人が多い。実際に若者では所得が低い人々の比率が増加しており、特に男性の中では収入の低い人ほど結婚している割合が低くなっている。また、この経済的理由は、一つ目の出会い方の変化にも影響を与えているかもしれない。このように、社会経済的に低いグループが経済的な理由によって、望まずに未婚に留まっている可能性が高い。

一方、近年は社会経済的地位の高いグループほど結婚しやすくなっている。「高学歴女性ほど結婚しにくい」や「女性の経済的自立が未婚化の要因だ」という傾向を信じる人も多いかもしれない。図が示すように2020年に50歳の女性は中卒以下を除くと、確かに高学歴女性ほど結婚していない割合が高い。しかし、少なくとも近年の研究ではこうした言説は支持されず、むしろ高学歴女性の方が結婚する確率が高いという結果になっている。

さて、こうした結婚行動の変化は結婚を望まない人が増えていることによるものなのだろうか。出生動向基本調査という5年おきに行われている全国調査では、未婚者に「自分の一生を通じて考えた場合、あなたの結婚に対するお考えは、次のうちどちらですか」(1.いずれ結婚するつもり、2.一生結婚するつもりはない)という質問をしている。この質問に対して、18~34歳の未婚者のうち、1992年調査までは90%以上の男女がいずれ結婚するつもりと答えていた。その後この割合は減少するものの、2021年調査においても男性の81%、女性の84%がいずれ結婚するつもりと答えている。確かに90%以上の18~34歳の未婚者が結婚を希望していたときに比べると、最新調査年の2021年では、10%ポイントほど減少している。しかし、未婚者の8割以上が結婚を希望していると答えているため、非婚化・未婚化の主な要因は結婚を望まない人の増加ではなく、結婚を希望しているのにできない人の増加だと言える。


「日経グローカル誌」で2023年10月から2024年3月まで連載させていただいた記事からの転載です。編集に携わってくださった方に感謝申し上げます。

日経グローカル誌掲載の記事はこちら

(注1:所属先など当時のままです)
(注2:掲載文に引用元を追加しています)

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研究×政策×発信を軸に、少子化課題の理解と改善に挑戦しています。佐賀市、福井県、サイバーエージェントEBPMデータベース等でアドバイザー。掲載誌:日経新聞、FT他。ポンペウ・ファブラ大学研究員🇪🇸。✉️ryohei.mogi@upf.edu二児の父

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