先進国どこでも共通する三極図式——参議院選挙総括のために
※ 後記:『地平』誌さんから、私の寄稿記事をすでにネット公開している旨連絡がありましたので、リンクをつけておきました。登録すれば7日間は無料で読めるそうです。(8/16)
※ 後記:本記事、昨日公開して以来早速ネット上で多くのかたにお取り上げいただいているようで、誠にありがとうございます。特に、途中、安倍政権時代に講演スライドで見せていたものとして掲げたスペクトルの世論分布の図二枚をよくお取り上げいただいて、大変うれしく思いますが、安倍政権時代に言っていたことということが伝わっておらず、誤解を受けているケースが見受けられます。引用いただくときにはご注意いただきますよう、よろしくお願いいたします。(8/15)
本題に入る前にお知らせ4件
れいわ新選組のオンライン勉強会での講演
6月27日にれいわ新選組の「第21回全国オンライン勉強会」で、はじめて講演させていただきました。ありがとうございます。
講演動画は、れいわオーナーズ・フレンズにご登録いただきますとご視聴いただけます。上のリンク先から登録できます。
私の作った講演スライドは、下記に格納してあります。
消費税賛成と反対の動画を見ながらツッコミ・解説する動画
「ボーダーライン」さんが「消費税必要」「消費税反対」のそれぞれの論拠を三分ぐらいにわかりやすくまとめた動画を作成されて、「消費税反対」のほうの監修を依頼してくださいました。
一般の人むけにわかりやすく三分にまとめているということなので、いろいろ突っ込まれそうなところもあったのですが、やむを得ないということでそのままになった箇所が多いです。でも、自分が監修者として責められることになったらいやだなあと言っていたら、私が消費税必要動画と消費税反対動画の両方を見ながらツッコミや補足・解説をする動画を別途作ってくださいました。
本編と合わせてぜひご覧いただき、コメントや拡散をいただきましたら、ボーダーラインさんにおかけしたご苦労が報われると思います。よろしくお願いします。
産業連関統計の投入係数を使った分析がコブ・ダグラス型の生産関数を前提していると解釈できるという動画
大学院生の研究指導とか大学院の授業で産業連関分析をする機会が増えて、ごく基本的なことで全く知られていないことがあることに気付きました。
それで、同じ話を何回もして、わりとスムーズに話せるようになったものだから、どうせならということで動画にしました。
産業連関統計の投入係数表を使った分析は、「レオンチェフ型」の生産関数を前提していると思われていますが、「コブ・ダグラス型」だという解釈もできるという話です。コブ・ダグラス型の生産関数を前提して企業の費用最小化問題を解いたら、産業連関統計の固定投入係数が出てくるということを数学的に証明しています。
投下労働量を使った総労働配分分析の意義とやり方がわかる動画
大学院の授業の課題を解いてもらうための解説動画を作ったので、せっかくですので公開しました。講義の主題である総労働配分とその把握のために必要になる投下労働量(価値)の意義を確認し、実際に2015年の日本経済について、産業連関表データを用いてそれを計測する手順を説明しているものです。
数式が出てくる前の、最初の30分ぐらいは、投下労働量概念を使った総労働配分というものが、いったいどんなもので、どんな意義を持っているのかを説明している部分で、予備知識がないかたでもどなたでもご理解いただけるように作ったつもりです。
やっぱり悪い警告ばかり当たった参議院選挙
何もかも望み通りにならなかった
参議院選挙は、何もかも、自分の望み通りにならない結果に終わりました。直接応援していた長谷川ういこさんは、予想よりずっと低い順位の得票で落選してしまいました。
京都選挙区では、もともとれ共共闘が実現しなかった時点で思い通りにならなかったところでしたが、もう少しで落とせそうだった自民党の西田昌司さんも、結局当選してしまいました。
そして全国的には、予想されていたこととは言え、参政党さんが大躍進する結果になりました。
選挙が終わるとほぼ同時に授業も試験監督も終わり、嫌でも毎日人と顔を合わせて目の前の仕事をこなさなければならない日常ではなくなったので、一気にメンタル不況に落ち込んで、今でもなかなか抜け出すことができていません。
やはりドイツの二の舞になってきている
前回7月17日の本ノートの拙記事では、れいわ新選組がドイツの類似政党のザーラ・ワーゲンクネヒト同盟(BSW)が失敗したことの二の舞になるのではないかと警告したところでした。
左翼党を割って出たポピュリスト政党のBSWは、結党後一時既存政党を脅かすほど支持率が拡大していましたが、選挙戦に入って極右AfDが移民排斥の主張で勢力を伸ばす中、移民政策反対の主張がAfDと同一視されるなどして支持を失い、とうとう5%の足切り得票を得ることができずに議席を失ってしまったのでした。
他方で、一時は消滅必至と思われていた左翼党が、断固としたAfD批判で復活し、AfDが第2党にまで伸長する勢いを止めることはできなかったものの、8.8%の得票を得て躍進する結果になりました。
このBSWがれいわ新選組、AfDが参政党さん、左翼党が共産党さんになって、同じことを繰り返すのではないかと、れいわ新選組に対して警告したのが前回の内容でした。
前回は、私が悪いことを警告したらいつもよく当たるということを言いましたが、今度もやっぱり当たったようです。
最悪二議席に終わるのではないかと懸念しましたから、三議席とって議席を増やしたことには安堵しましたが、一時は8議席は確実などと言われていたのですから、なんとか踏みとどまったという感じですね。
そして、選挙が終わっても、支持率の停滞傾向は続いているように思います。やはり依然BSWのたどった道からは逃れられていないように見えます。
前回の記事では、共産党さんがドイツ左翼党同様支持率を伸ばしていると書きました。これはれいわ新選組への警告で言っていたことではありますが、せめてこれぐらいは当たってほしかったところです。
でも、蓋を開けたら共産党さんは伸びるどころか、れいわ新選組よりもっと減ってしまいました。
やはり悪いことばかりが当たるようです。
私自身の取り組み方にも組織体制にも反省の余地はある
れいわ新選組にとってこの結果は、やはり敗北だったと総括するべきでしょう。
その原因は、根本的には、前回の記事で参政党さんと比較する形で述べたように、地方議員が少なく、地域支部もなく、党員制度もなく、継続的にドブ板活動ができていないという実情にあることは間違いないと思います。
私個人のかかわりとしては、長谷川ういこが当選できなかったことは誰が見ても敗北であって、心に油断が残っていたことは否定できず、もっとがんばるべき余地を残していたと思います。
たとえば、前回の記事について、こんなものを書いている暇があったら全戸配布チラシ入れろという内容のコメントがエックスにありましたが、誠にそのとおり、グウの根も出ません。深く反省するところです。
しかし他方で、比例の枠をもっと広げることにもつながる戦術改善の余地もまた、中央レベルであっただろうと感じます。私は兵法に口を出すべき立場にはありませんから何も言いませんけど。
しかしどうであるにせよ、一番大事なことは、戦略や戦術の判断について、責任がはっきりする体制にすることだろうと思います。
今は依然、組織が小さい時のまま、何があっても結局は全責任を山本太郎が負う体制が続いていると思います。しかし、急激に組織が拡大して、実際には山本太郎が隅々の声を把握しているわけでも、何もかも決めているわけではなく、しかもそれを実際にはみなが周知しているのに、組織が小さいときと同じ体制が続いているので、結局誰も失敗の責任を負わないことになっている懸念があるように思います。
まず第一歩として、選挙総括について、広く意見を聞く必要があると思います。
反緊縮左派は極右とマーケットを取り合うのが法則である
先進国どこでも見られる当たり前の現象
そうした上で、参政党さんに奪われた票をどうすれば守れたのかを真剣に考えないといけないと思います。
ネット上では、れいわ新選組の支持者から40万票が流れたという言説が出回っています。古谷経衡さんの推測によれば、「れいわ新選組が本来獲得すべきだった100万票強が参政に流れた」とされています。私もそれは決して驚かない。ひょっとするともっと多かったかもしれないと思います。
何度も言いますが、これは先進国どこでも見られる「法則」です。フランスの「黄色のベスト」に参加してマクロン中道政権と闘った人たちは、左派ポピュリストのメランションさんにも入れるけど右派ポピュリストのルペンさんにも入れるのです。アメリカの民主党の大統領候補選びでサンダースさんを支持して惜しかった思いをしたたくさんの人たちが、本選挙では決してヒラリーさんやハリスさんに入れず、トランプさんに入れたのです。
新自由主義でひどい目にあった人たちは、その苦しさや怒りにフィットした言葉を求めているのです。怒りを「上」のごく少数の搾取者に向ける言葉が届かなければ、本来経済的立場が同じで手を組んで「上」と闘うはずの人々に怒りの矛先を向ける言葉に飛びつくのは当然なのです。
だから、これまでも何度も書いたと思いますが、れいわ新選組は極右勢力と同じマーケットを取り合っているのです。
そもそも安倍政権を支持していた人たちは、本来左派が支持者として獲得するはずだった人たちなのだということは、私が当時くどいほど言い続けていたことです。
2014年東京都知事選挙ですでに見られた現象
また、当時から何度も私は紹介していたことなのですが、2014年の東京都知事選挙のとき、2月11日の田中龍作さんの記事で次のようなエピソードが紹介されています。
宇都宮陣営に関わっていた、ツイッター名 @keiki22 さんは次のように明かす―
「宇都宮ボランティアの少なくない数の人間が田母神さんの街宣を見に行ってる。実際にチラシも受け取って、向こうのボラの人の話も聞いて来てる。そして、どんな気持ちでボラに参加してるのかも様々な事を知ってる。彼らの中に、田母神さんと宇都宮さんで悩んでる人も少なくないと、そこで知った」。
宇都宮候補は、共産党さんと社民党さんの推薦候補で、貧困問題に取り組んできた弁護士です。田母神候補は元空幕長の極右候補です。選挙ボランティアまでしている人たちが、この両名の間でどちらを支持するか悩んでいる人が少なくなかったという話です。
当選したのは自民党さん公明党さんが推す舛添要一さんでした。
当初舛添さんに対抗する本命と見られていたのは細川護熙元首相で、首相時代は人気者で、当時の野党第一党の民主党が推していて、しかも高支持率だった小泉純一郎元首相も支持していました。勝てる候補だから細川さんに一本化するために宇都宮さんに降りろと圧力がかかったりしていました。
ところが蓋を開けたら二位は宇都宮さんの方で、細川さんは三位だったのです。しかも田母神さんが13%もとり、20代では二位で、四位の細川さんをはるかに引き離したことも注目を集めました。若い層での細川さんの人気はさっぱりだったのです。
政治学者の中島岳志さんの話でも、同様のエピソードが出てきます。ある新聞社の出口調査で、田母神さんに入れた人が、誰と迷ったかを尋ねたら宇都宮さんが最多だったそうです。
先進国どこでも見られるこの法則は、日本でも例外なく、すでにこの頃には確実に存在していたのです。
票が奪われる力動があることを心得て対策を
れいわ新選組が現れた頃は、安倍政権も消費税を引き上げて社会保障抑制姿勢が強まり、新自由主義の色が強まっていた時です。安倍政権終了後の自民党政権は、さらに緊縮姿勢を強めていきました。
そのような中では、登場した唯一の反緊縮政党であるれいわ新選組が、新自由主義の犠牲者たちの支持を一身に集めて発展していくことは、理にかなったことでした。
しかし、先進国どこでも見られるように、エスタブリッシュメントの保守政党の外に反緊縮の右派政党が登場したら、れいわ新選組はマーケットを奪われることは当然予想されることだったのです。
前回の記事で言いましたように、本来でしたら、生身の個人の自由を求めるれいわ新選組の理念を強固に内面化した活動家が「党員」として四桁規模で存在して、粘り強いドブ板活動の中で、支持者の声に学びつつ、支持者の中の排外主義傾向を克服して真の敵に気づいてもらうよう、粘り強く働きかけることが必要だったでしょう。
しかしそれは、一年や二年で対処可能なことではありません。
もう少し短いスパンの中で、何ができたかと考えてみたら、一つ象徴的なものをあげると、「財務省解体デモ」へのかかわりかたが思いつくと思います。
モリタクの遺志を歪ませない機会を逸した
財務省解体デモに初期段階で関与して説得するべきだった
2025年に全国的に起こった財務省解体デモは、全く自然発生的に始まったものですが、財務省前に集まった参加者の発言には、陰謀論や排外主義が多く見られました。
デモの自然発生的な拡大ということ自体は間違いなく、これまでの緊縮政策がもたらした苦しみに対する大衆の正当な怒りのエネルギーが湧き上がったものだと言えます。それは、高井幹事長が公に「当然起きてしかるべき」こととみなしたとおりです。
しかしそれがわかっているがゆえに、陰謀論や排外主義を容認するわけにはいかないれいわ新選組は身動きが取れなくなり、肯定も否定もできず、事実上無視する態度をとる結果になりました。
これは一番マズイ対応だったのかもしれません。
今から振り返れば、運動が起こった初期の段階で、れいわ新選組のリーダー的な活動家は積極的に関与して、排外主義的にならないように説得する発言をしておくべきだったでしょう。
私自身も事態に気がつくのにずいぶん遅れましたが、おそらく党としても認識した時には手遅れだったのだと思います。
しかしそうだったならば、排外主義的な言動をすることを批判して、別の対財務省デモを組織して大衆のエネルギーに応えるべきだったと思います。
現実には、もともとれいわ新選組の宣伝もあって立ち上がった人たちに対して、はっきりとした支援の言葉もくれないれいわ新選組は頼りにならないと感じさせ、失望を与えたと思います。
その一方で、もともとれいわ新選組の宣伝もあって立ち上がった無垢な人たちを、一方的に排外主義的宣伝に触れさせて、参政党さん躍進の苗床を作ったと思います。
この運動で意を決してはじめて街頭に出て、きっとれいわ新選組からも応援されているのだと思って参加してきた人たちは、選挙が始まってから今さられいわ新選組から「日本人ファーストはいけない」と言われても、「どうしていけないの?」とキョトンとするだろうと思います。
モリタクの命を削る執筆が生み出したエネルギーが
振り返ると、「財務省解体デモ」に至る世論の醸成にあたっては、末期がんと闘病する森永卓郎さんの命を削る執筆活動の貢献がありました。それによって湧き上がった財務省の緊縮路線への大衆の怒りが、年頭の森永さんの死をきっかけに、弔い合戦的にデモへと結実していった経緯があります。
反緊縮の論客と言えば、日本では三橋さんとか藤井さんとか中野さんとか、右派系の論客ばかりが目立つ中、森永さんは私とともに、数少ない左派・リベラル派の反緊縮論客でした。
そのような森永さんの遺志を引き継ぐ意識で盛り上がったデモが、結局参議院選挙での参政党さんの躍進を招いたとしたら、こんなに故人の遺志に反することはないでしょう。
森永さんが9年前の参議院選挙のときに書かれたこの「マガジン9条」のエッセー。まるで今回の参議院選挙の参政党さんとの攻防のことのように読めます。
あるいは、森永さんが何のために反緊縮を受け入れない野党の尻を叩いていたのか。ぜひこのエッセーを読んで欲しいです。
そう考えると、森永さんが命を削って燃え上がらせた大衆のエネルギーが、故人の遺志に反する方向に向かうのを放置してしまったことに対して、もうしわけない気持ちでいっぱいになります。
それは、れいわ新選組も反省するべきことだと思います。
先進国どこでも見られる三極化の法則
新自由主義とリベラルの緊縮中道が手を組み、左右両極の反緊縮派と対抗する図式
では、これからどうすればいいのか。
れいわ新選組の組織の問題については前回も今回も十分言ったと思うので、それはおいおい考えてもらうとして、これから我々が直面するであろう大きな構図について私見を述べますので、それをふまえてどんな戦略をとるべきか、以下で考えてみたいと思います。
『地平』誌の昨年12月号の特集「総保守化する政治」で、「二度目はもっと悲劇として?——新三極を闘い抜け」と題するエッセーを寄稿しました。
そこで述べたのは、石破自民党と野田立民は大連立を組むか、あるいは「○党合意」といったものを繰り返す形で事実上の大連立を組み、それに対して右派の反緊縮と左派の反緊縮が対抗する新三極鼎立の時代になるという予想でした。
(まあ、大連立と言えば鮫島浩さんがさんざん警告してきたことで知られていますが、鮫島さん自身もハードルは高いと見ているようで、そんなに可能性が高いわけではないと思います。しかし互いに連携を強めていくということはあるだろうと思います。)
これは、先進国を見渡すと普通に観察される傾向です。
ドイツやフランスは明瞭にそうなっています。ドイツはキリスト教民主同盟と社民党の大連立政権で、右のAfDと、左の左翼党(と議席がなくなったがBSW)がそれに対抗するという図式になっています。フランスは、共和国連合と社会党の出身者からなるマクロン連合に対して、右の国民連合と左の左派連合が対抗しています。
イギリスでは、反緊縮のコービン前党首を追い出した労働党政権は、すっかり緊縮政策に逆戻りし、このかん緊縮を推進した保守党とともに支持を失っています。それに対して極右のリフォームUKが支持を伸ばし、支持率第1党になっています。そんな中で先日、コービンさんが左派新党を結成しました。
アメリカでも、共和党の旧主流派の面々は、大統領選挙の本選挙でトランプさんの対抗馬を応援して、共和党、民主党のエリートたちの間で連携が作られ、それに対して、右からトランプさん、左からサンダースさんやオカシオコルテスさんらが対抗する図式ができていました。
このような図式になることは、私は上記の東京都知事選挙のときあたりからずっと言っていて、安倍政権時代、講演でこんなスライドを見せてきました。


新自由主義と長期不況の犠牲になった大衆は、左右どちらの反緊縮政党にも入れますが、新自由主義やそれと区別がつかないリベラルの中道勢力には決して入れないのです。
「石破辞めるな」と言うな!
このように考えると、リベラル派の人たちが「石破辞めるな」と言っていることに、れいわ新選組の関係者が乗ったりしては絶対にならないことがわかるはずです。
企業の海外進出路線と表裏一体の国内設備投資の停滞が30年に及ぶ不況をもたらした中で、さらに80兆円の対米投資を約束してきた石破政権なのです。高額医療費の本人負担を増やそうと企てたり、病床削減やら薬の本人負担増やらを推進している石破政権なのです。
新自由主義に痛めつけられた大衆の前で、石破政権と本気で闘う姿勢を見せなければ、こうした大衆の支持はますます参政党さんに向かいます。「石破辞めるな」というような言葉を口にするのは厳禁だと心得なければなりません。
小選挙区を廃止することは急務
「自民党vs参政党」とか「自民党vs高市新党」の二大政党時代がくるかもしれない
こうなる傾向法則をふまえて、私たちは最悪を避けるためにどのような対策をたてればいいでしょうか。
一つ急いだほうがいいのは、小選挙区制を廃止することだと思います。
立民さんが今野党第一党の支持率を得ているのは、小選挙区制で二者択一をしなければならないので、自民党さんが嫌なら対抗できるのは立民さんだけなので選ばれているという要因がかなりあります。
つまり「野党第一党であるがゆえに野党第一党である」という側面がある。
ということは、野党第一党争いで逆転されると、今度はそっちが野党第一党であるがゆえのプレミアを得ることになるわけです。
これまで立民さんは、まず維新さん、次に国民民主党さんの挑戦を受けて、なんとかしのいできました。今度は参政党さんが挑戦してくる番になります。これまでなんとかしのいで野党第一党の地位を守ってきた立民さんですが、次もうまくいくかわかりません。
もし参政党さんが逆転したら、自民党vs参政党の二大政党になって、毎回この両者の二者択一を迫られる時代がくるかもしれません。
参政党さんではそんな事態はイメージしづらいかもしれません。
しかし、もし石破自民と野田立民の大連立というようなことに本当になれば、高市早苗さんが自民党を割って出て新党誕生ということも考えられます。そうすると、高市新党には、維新さんや国民民主党さんの一部または全部が合流するでしょう。参政党さんももしかしたら加わるかもしれません。加わらない可能性のほうが高いと思いますが、たとえ加わらなくても移る議員は確実に(おそらくたくさん)出ます。
そのような事態になれば、自民党vs高市新党との二大政党制になって、立民さんも共産党さんやれいわ新選組同様に小選挙区での選択肢に事実上登らなくなる時代がやってくるということは、とても現実的になります。
こうなる可能性はなんとかなくしておきたいところです。
現在先進国どこでも通底する法則では、緊縮的なエリート中道と左右の反緊縮急進派の三者鼎立になるのが自然なのですが、小選挙区制はそこに無理やり二大勢力を作る力が働くので歪んでしまうのです。
小選挙区を廃止してすべて比例代表にすることが全野党にとって得
冷戦期に野党第一党だった社会党は、小選挙区制の導入で野党第一党の地位を失ったとたん転落し、後継党の社民党は今や消滅の危機にあります。立民さんもそうなるかもしれないわけです。
他方、野党第一党に手が届かなければ、現在いかに支持率で立民さんに肉薄しても、結局中小政党のままだということは、維新さんも国民民主党さんも参政党さんも同じことだと思います。
そうだとしたら、衆参両院で野党の議席数のほうが多い今のうちに、野党全体が合意して小選挙区制をなくして全部比例代表にしてしまう法改正をすることは、野党全員にとって利益なのではないかと思います。
政策の組み合わせのパッケージが二つだけでない世論の時代
そもそも小選挙区をやめて比例代表制にすべきということは、もっと真面目に政治的立場を超えた正論として言えることです。
というのは、今は有権者の政策志向が二つのパッケージを結ぶ軸の上に直線的に乗っている時代ではなくなったからです。
たとえば、伝統的な安全保障問題をめぐる「タカ派/ハト派」の対立軸の他に、マクロ経済政策をめぐる「緊縮/反緊縮」の対立軸があって、世論が直線上ではなくて、平面的に分布するようになっています。
それなのに小選挙区制だと、これを無理やり二大パッケージにまとめて選択させることになるので、どちらかの軸で、民意の多数派と反対の政策が選ばれる可能性が出てしまいます。
安倍政権時代はある意味そうだったと言えます。
安倍首相の安保政策はほぼすべて、世論調査では反対のほうが多いことばかりやっていました。その点では当時の民進党のほうが支持されていたのです。しかし選挙のときになるといつも、安倍さんはそのことを争点から隠して経済問題を表に出し、民進党みたいな緊縮政策よりはアベノミクスのほうがいいという世論によっていつも圧勝していたのです。
当時は安倍さんの政治姿勢に反対してなおかつマクロ経済政策が反緊縮派という政策パッケージの政治勢力がなかったので、このような志向を持った世論の受け皿がなかったからこんなことになったわけです。
逆に、戦争の危機なりなんなりで安保政策が目の前の争点になるような選挙で選ばれた政権が、経済政策については民意の多数派と反対のことをするということもあり得るわけです。
あるいは、バリバリの格差上等派の新自由主義者の女性ベンチャー経営者が夫婦別姓論者だということは現実的に大いにあると思いますが、新自由主義政策を遂行してくれそうな保守政党がみんな夫婦別姓反対だったら、彼女は投票するところがなくなります。
逆に、90歳代の私の父の若い頃は「共働きしなくていい賃金をよこせ」というスローガンで戦闘的労働運動をしていたそうですが、そういう古い時代の家父長主義的センスをいまだに捨てられないご年配の頑固左翼親父もまた、依然現実に存在するでしょう。
そうは言っても経済政策や福祉の問題は重大な利害ですので、小選挙区制のもとでは、前者の彼女はしかたなく保守政党に入れ、後者の彼はしかたなく左派政党に入れるほかないでしょうが、その結果選ばれた国会の多数派は夫婦別姓についての世論を正確に反映していないことになります。
こうしたことは、人々の人生に深刻にかかわる政治選択が、民意に反して行われるということであり、民主主義が機能しないことを意味します。
ですから、比例代表制にして、世論の中でのいろいろな政策パッケージの分布が、国会の中で比例的に反映されるようにするべきなのです。
日銀を比例代表制の国会の管理下に置き、民意に基づく運営を
小選挙区がなくなって全部比例代表制になったなら、日銀は国会の勢力を比例的に代表する委員会の管理のもとにおくようにすべきです。そうすると、内閣が安全保障問題などで合意する諸政党の間の連立で形成されたとしても、それとは別の民意を反映した組み合わせの多数派によって金融政策運営が行えることになります。
例えば、安保問題などが絶対に相入れず、当然ながら内閣を共にすることはないれいわ新選組と参政党さんが、この日銀を管理する委員会では多数派を形成して通貨をたくさん出す政策を遂行するということもあり得るわけです。逆もしかりで、与野党に分かれた自民党さんと立民さんが、この委員会では多数派を形成してインフレ抑制の引き締め政策をするかもしれません。
緩和派が多数でも、たとえばれいわ新選組と参政党さんとの間では、軍拡のための国債を引き受けるなどということには合意はとれないでしょう。
ですから、たとえば、地方交付税交付金の特別会計で国債を発行し、それを日銀の判断で引き受けできる制度にすれば、その使い道は各自治体の管理に委ねられることになるわけですから、合意が取れることになります。
もしそれでは憲法上問題があるならば、財政投融資同様の国債を日銀に引き受けさせ、一律の客観的基準で各自治体に融資する制度にすればいいと思います。
新三極の一極をしっかりと確立せよ
円高利上げ好き立民さんから脱落者がでるかも
ところで、もしも本当に大連立などということになったら、自民党側も割れるかもしれませんが、立民側でも脱落者はでるでしょう。
今年の秋、冬ぐらいから、とうとうアメリカの景気後退が始まるという予想はよく聞きます。そうすると、アメリカでは多少とも利下げが起こります。他方、日銀は利上げの方向ですので、金利差の縮小から円高に向かい、アメリカの景気後退自体と関税引き上げもあって、日本の輸出はくじかれて、日本も景気後退に向かうと思われます。
特に、何度も警告してきたことですが、そうなるとトランプさんは関税インフレのせいで十分な利下げもできず、議会が財政悪化を懸念して大規模な景気対策に抵抗するので、輸出拡大に活路を見出すしかありません。ですから植田総裁を体育館の裏に呼びだして日本の利上げが促進される可能性があります。そうなると急激な円高で一層景気の下押し圧力が働くでしょう。
(ちなみに昨日、アメリカのベッセント財務長官が日銀の植田総裁と会談し、利上げ圧力ともとれる発言をしていたことが報道されました。)
こんなことが、大連立みたいな政局のタイミングで起こったら、石破さんも野田さんも利上げや円高が大好きですので、チャンスとばかり歓迎する可能性が高いです。彼らの頭では、円高ドル安は、アメリカの財政悪化と、日本のプライマリーバランス黒字化(たぶんその頃実現する)によってもたらされた正常な事態と認識されるのではないかと思います。
そうするとさすがにこれではマズイと思う政治家たちが、立民さんの中でも現れると思います。
そのときこそ、れいわ新選組は懸案の組織のステップアップをするいい機会になるかもしれません。「軍門に下る」的なイメージでは加わりにくいでしょうから、対等な形式のために名前も変えるということになるかもしれません。
れ共が足を引っ張り合っている余裕はないはずだ
そのときには「円暴落」だの「ハイパーインフレ」だの言った幻想は吹き飛ぶことになりますから、できれば、共産党さんや社民党さんも含めた幅広いプラットフォームを、反緊縮経済政策のもとで形成し、新三極図式の一極を担うことになることが理想です。
フランスでは、左派ポピュリストが共産党や社会党とともに左派連合を形成し、総選挙で第一勢力に躍進しました。この経験は我々にとっても大いに参考になると思います。
復古主義的な排外主義者の参政党さんが支持率で野党第一党にまでなった今、しかもこのあとにはラスボスのように高市さんが控えている今、足を引っ張り合っている余裕はないはずです。このままでは先進国で日本だけ、三極のうち左派側の極にあたる勢力がないということになりかねません。
「ショービニスト・インターナショナル」に対抗せよ
参政党さんの神谷党首が8月5日の参議院予算委員会で、トランプ関税をゼロにしてもらうために、トランプさんのさまざまな政策に日本も足並みをそろえるべきだと政府に迫りました。
この話を聞いた時、「ショービニスト・インターナショナル」という言葉が浮かびました。
いやまあ「ショービニスト」というのは国粋主義者という意味で、「○○インターナショナル」というのは左翼にありがちな国際共同組織の名前。要は、国粋主義者の国際共同組織ということで「丸い三角」みたいな自己矛盾した言葉で、しかも右翼に対して左翼組織みたいな名前つけて当てこすっている皮肉です。ネタ解説なんて無粋なことをしてすみません。
でも実際、先方は、世界のどこでも大手を振るって言うようになっていることだから勢いがついているという面はあると思います。
そしたらこっちだって、先進国どこでも見られる政治勢力の一角なのだということをアピールすることは、ある程度効果のあることでしょう。こっちは国粋主義者じゃないのですから自己矛盾じゃないし。
6月8日、れいわ新選組の長谷川ういこさんは、バルファキス元ギリシャ財務大臣とズーム対談しました。れいわ新選組の米村明美さんが通訳しています。バルファキスさんは、ヨーロッパの代表的な反緊縮の論客で、コービンさんやサンダースさんの盟友でもあります。
そして8月6日、訪日中のコービンさんと、れいわ新選組のくしぶち万里さんが懇談しました。
ジェレミー・コービンさん(英労働党前党首・下院議員)にお会いしました!先月、新しい政党を立ち上げる、それは、富と権力を握る者たちに立ち向かい、富の再分配を訴えるためだと発表されたばかり。私からは、れいわ新選組の、人々のための積極財政や政策、活動についてお話しました。…pic.twitter.com/06jqtOwsZJ
— くしぶち万里 れいわ新選組 共同代表 衆議院議員(東京14区・墨田、江戸川) (@kushibuchi)August 6, 2025
こうしたつながりを発展させて、先進国どこでも共通する図式の一環を占める勢力として位置付けをはっきりさせて、何をめざしているのかということについて人々の信頼を得ることが重要だろうと思います。

