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教え子がドラッグに手を出した。
驚きをもって伝えられた事実に、心が落ち着かない日々を過ごしました。

わたしはどんな目でこの現実を見ればいいのでしょうか。つらつらと思うことを、少し書き記してみます。


依存に走る小学生たち

ソロモンの学校は1月に始まる暦なので、12月が年度末の季節です。いま(11月末)は学年末テストや成績付けの時期で、先生たちはテストづくりや採点、レポート作成に追われています。

わたしはChatGPTの文字起こし機能を使って先生が下書きしたテストの作成を行っていました。レイアウトを整えて印刷。テストの大量生産がいまの活動内容になっていたくらいです。

「わたしにしかできない作業になってる時点で、協力隊活動ではないな」とも思いつつも、この学校で役割を果たせていると考えてヨシとしています。



あるテスト実施日のこと。テストを終了した5年生のクラスがなにやら騒がしいことになっていたので、教室を覗いてみるとこんな一言が聞こえました。

「先生、アイツCopenやってる!」

Copenは身近にあるもの(タバコや歯磨き粉や植物)を混ぜて作られる自家製麻薬のことです。価格は1袋5ドル(約90円)。このCopenの流通・服用に伴う様々な健康被害が子ども達の間に広がっていて、ソロモンの中で社会問題化しつつあります。

Copenは飲み込むと死ぬ?らしく、味わった後は吐き出す必要あるそうです。今回はその吐き出された唾から、ドラッグの使用の痕跡が見つかりました。テスト中に服用していたのは何とも驚きです。

この学校では以前にも、酒やたばこ、ビートルナッツ(オセアニア地域で流通している嗜好品)をたしなんでいる子どもたちの存在が確認されていました。いずれも校則違反&違法行為ですが、取り締まるまでは至っていません。

これらの嗜好品は共通性質として中毒性があり、集中力や判断力に影響を及ぼします。学校で「未成年が摂取するのは良くないもの」と学んでいるはずですが、彼らはドラッグや酒、タバコに走ってしまっています。何が原因なのでしょうか。

何に救いを求めるかという話

アディクションは快楽に溺れるためにではなく苦痛から逃れるためにハマってしまうという「自己治療仮説」には非常な説得力を感じます。

松本俊彦・横道誠
『酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話
』p21

ソロモン諸島はキリスト教圏の国で、国民の9割以上はクリスチャンであると言われています。彼らにとって信仰とは、彼らの生き方を示す道であり、希望を願う行為であり、罪からの救いを求める行為です。

開発途上国の中でも「後発」に分類され、さまざまな苦しい生活を抱えるソロモンの人々。言い方は悪いかもしれませんが、困難を乗り越えるために、現実世界を超越した神の力に依存している側面はあると思っています。

しかし全ての人が祈りをささげているわけではなく、教会に行かない人や宗派で禁じられている酒を飲んでいる人もちらほら見かけます。彼らは神の力ではなく、酒やたばこなどの嗜好品に依存して生きているのかもしれません。

人とのつながりは依存症発症に対して抑止的に、そして、依存症からの回復に対して促進的にはたらくーーそれが、私の一貫した主張です。

同上p196

多くの人が教会に行くのは信仰や祈りのためだけではなく、人々との交流すなわちコミュニティとの出会いを求めている節もあると思います。

マーケットや小さなストアがただ買い物をする場ではなく、おしゃべりや情報交換をする場としての機能を有しています。同じように教会も、同じ村やコミュニティの人が一堂に会する場であり、地域の公民館的な役割を果たしています。

村に1つは必ず教会があるくらい、ソロモンにはたくさんの教会があります。教会へ行けば、同じ村のコミュニティの人と出会うことができ、性別・年齢関係なく交流します。ソロモンでワントク制度が根付いているのは、宗教文化も大いに関係していそうです。「みんなでみんなの子を育てる」雰囲気があるのも、こうした交流の成果でしょう。

しかし人間関係が築かれていることで、大人の嗜好品へアクセスしやすい側面もあるように見えます。また、「学校を中退した / 通えなかった」「両親の早死で生活が変わった」「卒業したのに仕事に就けない」などの出来事も、現実から逃れる手段としての嗜好品に走っている要因かもしれません。

曰く、「アディクションはリカバリーの始まり」。そこには、次のような意図があります。ーー「死にたくなるくらいつらい現在」を生き延びるためにアディクションを用いるのは最悪なことではない、少なくともただちに死ぬよりははるかにマシな選択だ、なにしろ、リカバリーの前提は「まずは生き延びること」だから。しかし同時に、ただアディクションに頼って延命するだけでは、長期的には死が近づいてきてしまうのも事実です。

同上p232

子ども達は、「アディクション(中毒)=悪いこと」は、頭の中では分かっています。その証拠に、Copenの赤い唾液はこっそり缶の中に隠して捨てられていました。「ダメなことだ」と認識しているからこそ、隠れて服用していると思います。

日本の薬物乱用防止教育のように「ダメ!絶対!」を唱えることは、彼らをさらに排斥していくことと同義で、人とのつながりの輪から遠ざけていく行為なのかもしれません。

彼らの現実が死にたいくらい辛いものなのかどうかは分かりませんが、何かしらの要因があって現実を逃避したいと願っている。それは神の力では足りなくて、即効性と中毒性の高い嗜好品が一役買っている。そんな風に思えます。


わたしだって、嫌なことがあった日や異常につかれた日は爆食いをしたくなりますし、お酒を沢山飲んでしまうことだってあります。でもひどい依存状態まで陥らないのは、まわりの人と豊かなつながりを持てているからに他なりません。

ソロモンの同期隊員、世界中の協力隊員、ソロモンでの生活を支えてくれている人たち、日本で帰国を待っていてくれる人たち。弱く細いつながりであっても、多くのつながり(依存先)があるからこそ、今を健康に生きていけています。

わたしの目・まわりの目

未成年の嗜好品やドラッグの使用は、健康上良くないことです。それらに依存する状態も看過できるものではなく、この先の人生を考えれば一刻早く脱するのが適切な意見でしょう。

しかし、遠い場所から「ダメだ!ダメだ!」と叫ぶのは、「もうお前とは縁を切る!勝手にハマってろ!」くらいに冷たい一言なのかもしれないなと、今回の事例で感じています。

まだ小学生の彼らが依存に走るくらい逃避したい現実や問題があるのならば、まずはそれが何なのかを寄り添って考えるところから始まるのではないでしょうか。依存行為をやめさせる前に考えるべき重要なことはたくさんあるだろうし、その視点をもって彼らと接する道をわたしは選びたい。

依存自体が悪いことなのではなく、むしろ依存先を増やすことで自立することができると信じています。悪いのは、まわりの人たちが依存先を断つことなのかもしれません。

どんな目で彼らを見ていけばいいか、答えが出ているわけではありませんが、温かなまなざしを向けていくことは忘れないようにしたいです。

〇おまけ

少し重いテーマなので、明るく締めたいと思います。
ヘッダーの画像、何をしている写真か分かりますか?

これは結婚式前夜の準備の様子です。村の人達総出でご飯の準備をしています。両家の親族だけでなく、村全体でお祝いの準備をするのがソロモンらしさ出てますね。コミュニティの強さであり、温かさを感じます。

ご祝儀は日本と同じように、いや日本以上に手間暇かけて準備されます。豚やシェルマネー(貝のお金)が用意されますが、一般家庭の経済レベルを考えると非常に高価です。一家庭では賄えないからこそ、こうしてコミュニティで祝うんですね。

ソロモンでの人のつながりは、本当に良い面も課題の面もあります。省みて学ぶべきことはまだまだ多そうです。


福岡の小学校で3年間勤めた後、JICA海外協力隊2024年度2次隊になる。派遣国はソロモン、職種は小学校教育。現在はマライタ島アウキにある小学校で活動中。人生の目標は「いいパパになること」。


こちらのプロフィール記事もぜひ!(2025/11/22更新)

赴任3か月時に書いた記事です。


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ヤマトカズキ読んでいただきありがとうございました!
大和 一輝|JICA海外協力隊2024年2次隊。Teach For Japanフェロー9期、元小学校教員。現在ソロモン諸島マライタ島アウキで活動中。職種は小学校教育。

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