要約
ハンガリーの少子化対策は、オルバーン政権下で2010年以降、GDPの5~6%を投じた大胆な家族支援政策として展開されたが、2024年の出生率は1.38という壊滅的結果で「大失敗」と言っても過言ではない。
出生率はEU平均を下回るとされ、若者の国外流出、財政赤字、社会的格差の拡大を招いた。移民比率の上昇が一部で出生率を支えるが、政権の反移民理念との矛盾を露呈している。現在、日本は周回遅れで彼らを模倣しようとしている。
1. ハンガリーの少子化問題と政策の背景
ハンガリーは、人口約950万人のEU加盟国であり、1981年以降、継続的な人口減少に直面している。2011年には合計特殊出生率(TFR)が1.23まで低下し、EU内で最低水準を記録した。この深刻な少子化は、労働力不足や社会保障の持続可能性を脅かし、国家存続の危機と認識された。
ヴィクトル・オルバーン政権は、2010年の発足以降、「移民に頼らずハンガリー人を増やす」とのスローガンを掲げ、家族支援政策を最優先課題に据えた。この政策は、伝統的な家族観を重視し、経済的支援を通じて出生率と婚姻数を増加させることを目指した。
政府はGDPの5~6%という巨額の予算を家族支援に投じ、これはOECD平均(約2.55%)を大きく上回る規模である。新憲法で「家族と胎児の保護」を明記し、家族政策省を設置するなど、国家的プロジェクトとして推進された。しかし、この取り組みは、出生率の低迷、若者の国外流出、財政危機を招き、壊滅的な失敗に終わったと評価される。
2. ハンガリーの少子化対策の具体的内容
2010年からのハンガリーの少子化対策は、経済的インセンティブ、育児環境の整備、文化的価値観の強化を柱とする包括的なアプローチであり、「欧州最大の少子化対策」とされる。
経済的支援として、4人以上の子どもを持つ母親には生涯所得税の免除が適用され、2人以上の子どもを持つ母親にも拡大予定ともされている。また40歳未満の新婚女性に対し、無利子の「出産ローン」を提供し、子どもが生まれると返済が猶予され、2人目で3割免除、3人目で全額免除される。
さらに、3人以上の子どもを持つ家庭には、住宅購入補助や7人乗り以上の新車購入の補助が支給される。学生ローンでは、子どもを産んだ女性はローンを猶予され、2人目でローンの50%、3人目以降で全額が免除される。
育児環境の整備、育児とワークライフバランスの強化として、子どもが3歳になるまで家族が取得可能な3年間の有給育児休暇を導入した。最初は給与の7割、2歳までは同額の保育料、2~3歳で定額手当が支給される。残業は小さな子どもを持つ親に原則禁止され、公立保育園・幼稚園の利用料は無償化された。
文化的価値観の強化として、小学校のカリキュラムに「家族の大切さ」を組み込み、結婚・出産を肯定的に捉える意識を醸成している。若者向けの教育機関では、キャリア形成を支援し、家族志向を高めている。
これらの大盤振る舞い施策は、まったくと言っていいほど効果がなかった。そして当然、誰かがこの過剰な少子化対策の負担をせねばならない。これらの政策は深刻な副作用を生んでいる。
3. 2024年の出生率1.38:失敗の決定的証拠
2024年のTFR1.38は、ハンガリーの少子化対策が壊滅的な失敗に終わったことを明確に示している。ハンガリー中央統計局(KSH)の公式データによると、TFRは2010年の1.25から、2020年には1.59あたりまで一時的に上昇したが、2022年に1.52、2024年には1.38と急落している。
そのうえ、この一時的な上昇トレンドは欧州の他国(チェコなど)でも起こっており、その時期にハンガリーほどの少子化対策をしていない国でも起こっている事から、ハンガリーの政策は統計的にエビデンスに乏しいとされる。
出生率1.38は1949年以来の低水準であり、もちろん人口維持に必要な2.1には遠く及ばない。出生数が77,500人(前年比6%減、過去最低水準)となり、10年以上にわたる巨額投資の効果がなかったことを示している。
2024年のハンガリーの出生率はEU平均を下回るとされ、GDPの5~6%という巨額を投じたが際立った成果を上げられなかった。報道機関によると「ハンガリーの家族支援は出生率向上に失敗し、EU平均を下回る」や「家族支援の財政負担が経済を圧迫」と報じ、政策の失敗を裏付けている。
4. 若者の流出:少子化対策が国家を滅亡に導く
ハンガリーでは若年層の国外流出が深刻な社会問題となっている。現役世代の国外流出は、少子化対策以前に国家の基盤を崩し、ハンガリーと言う国家自体の滅亡を加速化させている。
ハンガリーの人口は950万人ほどであるが、70万人以上が国外移住を選択しており、人口減少に関わらず30年前から倍増している。彼らの多くは20~39歳の現役世代である。
大学卒業者の3分の1が国外に移住したとの調査もあるほど、若年層では国外移住を検討・希望するものが非常に多い。若く、スキルがあり、優秀なものほどハンガリーから流出している。
国外流出の原因は、まず経済的要因である。ハンガリーの平均賃金(月約1500ユーロ)は、ドイツ(約4000ユーロ)やオーストリア(約3000ユーロ)に比べ低く、ハンガリーは経済的に恵まれているとは言えない。
そのうえで少子化対策の費用が圧し掛かってくるのである、この負担は、子供を持たない現役世代、特に若者に重くのしかかる。負担の増加に直面した若者は、将来に希望を見出せず、国外への脱出を選択する。一度、国外流出した現役世代はほとんどが戻ってこないとされる。
結果、ハンガリーは人口減少と急激な高齢化に苛まれている。政府の少子化対策は、子育て支援の美名の下に、若者の未来を犠牲にする矛盾した政策だ。そのうえ効果が皆無なのだ。過剰な少子化対策がハンガリーを滅亡に導いている。
5. 移民比率は右肩上がり:出生率への影響
ハンガリーでは若年層は流出している、それを補うために移民を流入させている。オルバーン政権は強烈な反移民スタンスにもかかわらず、移民比率は一貫して上昇し、出生率を支えている。
2023年に約60万人の外国人がハンガリーに居住し、人口の約6%を占める。これは2010年頃の約4%から増加し留まる気配をみせない。2030年代には10%を超えるとされている、10人に1人以上が移民の国となる。
この上昇は、流出し続ける若年層不足を補うためである。そして移民家庭の出生率はネイティブを上回っているとされる。すなわちハンガリーの出生率は移民により水増しされたものであり、大盤振る舞いの少子化対策にも関わらず、ネイティブの出生率はほぼ一貫して下がっている事が示唆されている。
かつて人口維持水準の出生率2.1以上だった時代からみれば、移民を含めても下がっている現実である。
ハンガリーの若年層が流出し、穴埋めに移民が流入する、移民が多く子供を作る。結果としてネイティブのハンガリー人は中高年ばかりになり、若者は移民ばかりになる。
当然、移民の子供達をネイティブのハンガリー人が支える構図となる。果たして、これが成功なのだろうか
6. 日本はハンガリーを模倣しようとしている
ハンガリーの少子化対策の失敗は、日本にとって重大な警告である。しかし、日本は周回遅れでハンガリーを模倣する兆候を示している。
日本は世界最速の人口減少国の一つであり、2022年のTFRは1.26とハンガリー並みに低い。人口は2008年をピークに減少している
政府は「こども未来戦略」を打ち出し、児童手当の拡充や育児休業給付の強化を急激に進めている。これらはハンガリーの政策とまったく同じ方向性のアプローチである。
日本がハンガリー同様のアプローチを続ければ、出生率向上は非常に困難で、財政負担が増大し、人口減少による国の滅亡を早める恐れがある。
結論:ハンガリーの戦線拡大といつか来た道
ハンガリーでは、政策の失敗にもかかわらず、政府は責任を認めていない。むしろ戦線を拡大するように、矢継ぎ早に新たな少子化対策と新たな財政負担を国民に強いている。
今後、GDPの5%では足りない、では10%にするのであろうか、まるで国家総動員体制である。戦争末期のどこかの島国を思い起こされるのは私だけだろうか。
日本でも、少子化対策の効果が上がらない場合、政治家や官僚が失敗を認めず、どんどん国民負担は増大され、財政赤字や社会保障の崩壊の責任を国民に押し付けることになるであろう。かつての敗戦のように