
小谷野敦VS與那覇潤(feat.上野千鶴子)/百田尚樹VS飯山陽(with守る会) 「悪口芸」の世界
三文字苗字で、一文字名前の批評家どうしが、なんか喧嘩している。
小谷野敦
1962年生まれ。62歳。東京大学文学部卒。専門は比較文化。博士(学術)。大阪大学助教授を経て、現在、作家、比較文学者。「もてない男」など。
與那覇潤
1979年生まれ。45〜46歳。東京大学教養学部卒。専門は日本近代史。博士(学術)。愛知県立大准教授を経て、現在、評論家。「中国化する日本」など。
年齢はだいぶ違いますが、学歴、プロフィールも、なんとなく似ている二人です(傍目には)。
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二人の喧嘩には、10年以上さかのぼる「前史」があるらしい。
小谷野氏が『高畑勲の世界』という本の中で與那覇氏の『中国化する日本』をdisったのが最初らしい。
詳細はわかりませんが、ネット上には、その頃の喧嘩の断片が残っていました。
與那覇潤(Yonaha Jun)2013/4/5
@jyonaha
それ自体が「中国化の産物」だ、として拙著では東洋文明を批判しているのですが、お読みでない。個人的に小谷野さんは好きなのですが、「読まず批判」は困ったものです。 RT @pamisyu 後者(東洋文明)の優位を証明しようとする試み(近代の超克論など)の亜流”小谷野敦「高畑勲の世界」
小谷野敦が与那覇潤の著述は学問でないと昨日ツイートされていたが、同意。読み物としては司馬遼太郎並の面白いものではあるが。理由は、各章の中に出来不出来の差が激しいが、なぜそうなるかといえば、一次資料に当たらず他人の研究書から主観的結論に都合のよい論述を剽窃しアガルマムとしたためだ。
(Independent Critic 2013/4/7)
小谷野敦が与那覇潤の著述は学問でないと昨日ツイートされていたが、同意。読み物としては司馬遼太郎並の面白いものではあるが。理由は、各章の中に出来不出来の差が激しいが、なぜそうなるかといえば、一次資料に当たらず他人の研究書から主観的結論に都合のよい論述を剽窃しアガルマムとしたためだ。
— Independent Critic (@haigujin)April 7, 2013
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いま進行中の喧嘩は、與那覇氏の新刊『江藤淳と加藤典洋』の帯に、上野千鶴子氏が推薦文を寄せたことに発します。

3月中旬に、上野氏の推薦文が使われることがわかると、これに、小谷野氏が「衝撃」を受けた、とポストしました。
與那覇潤が文藝評論を文春から上野千鶴子の推薦文つきで出すなんて、独ソ不可侵条約並の衝撃だ
(2025/3/19)
與那覇潤が文藝評論を文春から上野千鶴子の推薦文つきで出すなんて、独ソ不可侵条約並の衝撃だ
— 小谷野敦🦖アンチTRA (@tonton1965)March 19, 2025
この小谷野氏のポストは、私も見ていました。
與那覇氏の本を私はあんまり読んでないけど(noteの記事は愛読してますが)、西部邁が創刊した「表現者」に連載し、フェミニズムも批判していたから、どっちかというと保守的スタンスの人かな、と思ってたので、上野千鶴子が推薦していることに、私もちょっと驚きました。
でも、文春から、上野千鶴子の推薦付きで本を出すなんて、メジャーリーグで鳴物入りで登板するようなものですから、すごいなあ、出世したなあ、と與那覇氏のために喜びました。
その時は、小谷野氏と與那覇氏との過去の経緯は知らなかったので、小谷野氏は嫉妬したのかな、くらいに思ってました。
さて與那覇氏は、本の発売日の5月15日のnote記事で、この小谷野氏のポストを取り上げ、「一度も会ったことがないのに昔からぼくのことを嫌いな小谷野敦氏」と書き、以下のように婉曲に小谷野氏の「悪口芸」を非難しました。
小谷野さんの政治的なスタンスからすると、上野さんの方がスターリンになるはずだから、これは「與那覇潤なんてヒトラーみたいなやつだ」と書いてるのと同じである。欧州のいくつかの国か、ましてイスラエルだったら、訴えれば刑法犯とかに問えるのかもしれない。(中略)
「小谷野敦氏投獄」といったネットニュースで笑ってみたい気持ちが、ないと言ったら嘘になるけど、この程度の悪口芸を認めずに、法的な難癖をつけて言論を萎縮させるのはぼくの趣味でないから、開示請求とか、勤め先への弁護士書簡とか、民事訴訟とかも含めて、なにもしないでおく。
(2025/5/15)
さらに與那覇氏は、5月19日のnote記事で、小谷野氏の『現代文学論争』に誤りがあることを指摘し、小谷野氏を追撃しました。
記事を書くために小谷野敦『現代文学論争』(2010年)を参照したら、該当する箇所が結構フォニイだったので、ご報告しておこう。レーベルは筑摩選書で、本格的な学術書も収めるところなのに、残念だった。(中略)
小谷野氏は比較文学が専門で、文芸評論の書物が多く、受賞歴もある著名な著者だが、まちがえるときはこうしてまちがえる。
(2025/5/19)
私も以前、小谷野氏の本を読んでいて、エドゥアルト・フォン・ハルトマンとニコライ・ハルトマンを混同している記述を見て、「あれ、あれ」と思ったことがあります。(どっちも有名なハルトマンですが、別人)
前者は森鴎外に影響を与えたことで有名で、文学の研究者がそんなことを間違えるとは、と情けなく思いました。(エドゥアルト・フォン・ハルトマンは、「無意識の哲学」でフロイトの先駆とも言われ、私はそっちの文脈で知ってました。ニコライ・ハルトマンは「倫理学」で有名)
まあ、間違いや勘違いは誰にでもあるとはいえ、日頃、東大出や博士号を自慢げにひけらかし、他人の間違いに厳しい人としては、かっこ悪いなと思ったのは確かですね。
さて、與那覇氏のこの攻撃に対して、小谷野氏もXで反撃しました。
與那覇潤はヴァン=ルーンの原典には気づかなかったみたいだな。
(2025/5/19 9:12)
與那覇潤はヴァン=ルーンの原典には気づかなかったみたいだな。
— 小谷野敦🦖アンチTRA (@tonton1965)May 19, 2025
凍雲篩雪 - jun-jun1965の日記https://t.co/hjYMh8r2eo
與那覇潤、敵討ちを試みてその程度か、という感じ
(2025/5/20 10:07)
與那覇潤、敵討ちを試みてその程度か、という感じ
— 小谷野敦🦖アンチTRA (@tonton1965)May 20, 2025
與那覇潤は、「中国化する日本」という論理的に読めない本について、学術論文版を出すと言っていたので楽しみにしていたがついに書けなかったんだろうか。それともどこかで出たのか?
(2025/5/20 10:08)
與那覇潤は、「中国化する日本」という論理的に読めない本について、学術論文版を出すと言っていたので楽しみにしていたがついに書けなかったんだろうか。それともどこかで出たのか?
— 小谷野敦🦖アンチTRA (@tonton1965)May 20, 2025
さらに、小谷野氏は、與那覇氏を推薦した上野千鶴子氏もdisります。
上野千鶴子は江藤淳を「日本の文芸批評の正嫡」などと言い、與那覇潤を「正嫡を継ぐ者が現れた」などと推薦しているがそんな家父長制的なことを言っていいのか?ボケたのか?
(2025/5/22 20:47)
上野千鶴子は江藤淳を「日本の文芸批評の正嫡」などと言い、與那覇潤を「正嫡を継ぐ者が現れた」などと推薦しているがそんな家父長制的なことを言っていいのか?ボケたのか?
— 小谷野敦🦖アンチTRA (@tonton1965)May 22, 2025
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この喧嘩、まだまだ続くかもしれませんが。
こうして小谷野氏のポストを転記していると、やっぱり百田尚樹氏の「悪口芸」も思い出しますね。
日本保守党代表の作家、百田尚樹氏は、長らくイスラム研究者の飯山陽氏と喧嘩を続けています。
それについては、私もnoteに書いてきましたが、あんまり長く続くので、最近は飽きていました。
しかし、昨日、ちょっとした進展がありました。
百田氏の飯山氏への「悪口」に関して、百田氏を刑事告訴する、と「日本保守党の言論弾圧から被害者を守る会」が発表しました。
【守る会】よりサポーターの皆様方への緊急会見 会長 藤岡信勝(日本保守党の言論弾圧から被害者を守る会 2025/5/22)
百田氏が、5月20日にYouTube番組で発した「ほんまに死んだらええなと思うとるけどね」という、飯山氏に当てたと思われる「暴言」が対象のようです。
罪状は、侮辱罪、脅迫罪を考えている、とのこと。
百田氏は国政政党の代表なので、告訴状が受理された時点でニュースになるでしょうか。
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小谷野氏も百田氏も「作家」ですね。
作家というのは、口も性格も悪い、というのが相場です。
少なくとも、元編集者の私の感覚としては、そうですね。
才能とは良識の欠落だ、という有名な言葉があるくらいで。
だから、作家が「悪口」を言うのは当たり前、という感覚で、百田氏の「暴言」についても、正直、そんな特別なものに思えません。
彼らの「悪口」は、その作家性と深く結びついているように思われます。
そして、小谷野氏についても、百田氏についても、その彼らの「悪口」をこそ私は愛している、と言ってもいいくらいです。
でも、時代が変わって、「悪口芸」が通用しなくなったのかな、とも思います。
小谷野氏62歳に対して、與那覇氏46歳。
百田氏69歳に対して、飯山氏49歳。
この年齢差が、けっこう重要な気がします。
私は、百田氏、小谷野氏の方に年齢が近いので、「悪口」の感覚については両氏に近いと思いますが、世代のギャップが生じていることを、そろそろ両氏も認めるべきではないか、と老婆心ながら思います。(俺も危ない)
<参考>

