0. 初めに
筆者は親の仕事の都合でアメリカに居住し、義務教育を受けた経験を持つ帰国子女である。その立場から最も違和感を覚えたのは、日本における「アメリカの理数系教育は先進的であり、日本は遅れている」というナラティブである。日本のメディアや評論は、アメリカの成功した起業家を例に持ち出し、日本の理数系教育への批判につなげる傾向がある。
しかし、当事者としてアメリカの教育現場に身を置いた経験から言えば、その主張には同意できない。むしろ現場の空気感としては「理数系を学ぶ生徒は変わり者」という認識が強く、数理教育が社会的に高く評価されているわけではなかった。これは、日本社会が抱きがちな「アメリカは理数系教育に積極的」というイメージとは大きく乖離している。
さらに不可解なのは、日本の報道や世論、ネットがアメリカの理数系教育についてほとんど掘り下げてこなかった点である。トランプ政権下のH1-Bビザ規制が話題になるまで、STEM教育や外国人労働力政策との関連に焦点を当てる議論は乏しかった。つまり、日本におけるアメリカ教育への言及は、多くが「先進的である」という憧憬に基づいた表層的な理解にとどまってきた。