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本を全て読むか、生成A Iが作った要約で読むか?

最近毎朝1時間ほど、生成AIのClaudeと対話している。これが予想以上に唸るものがあり、いまや朝のルーティンになっている。最近考えたことを伝えてみると、いい感じの回答が出てきて、そこからさらに細かいやりとりへと続く。

誰かと話し機会があると、朝のこのClaudeとの対話について話すことが多い。人とA I、今はどちらが欠かせない話し相手だかわからないほどだ。

そんな中、先日もこのClaudeとの会話について、「問い読」の共同創業者である井上慎平さんと話していた。彼は最近『弱さ考』という本を出版したばかりだ。井上さんは自分の著書を生成A Iに要約してもらったそうだが、それが驚くほど的を射ていたという。自分で書いたものなので、要約を評価しやすい立場でいる彼が、お墨付きを与えるほどその要約はよくできていたそうだ。僕も自分で編集した本を読み込ませてみた。その要約は、全くケチをつけるところがない。

この生成A Iが作った要約を読んで思ったのが、客観性の高さである。当たり前だが、個人的な感想や解釈がない。その分、ペラっとしているがフラットに表現した良さがある。これは悪くない。僕は本を読む前に他人の書評をあまり読みたく、「この本、よかった」と言う感嘆詞的な感想だけ知りたいのだ。その本の解釈は見ないようにして、本を読むのが好きだ。その意味で、僕は生成AIが書いた要約は、とても好都合なのである。

これを生成AIが作ってくるのなら、人間の手で客観的な「本の要約」を作る必要性はかなりなくなるのではないかと思う。

さて、
「これだけ要約のクオリティがいいとなると、今後、僕らが本を最初から最後まで読む価値はどこにあるのだろう?」
これを考えているうちに、自分で試してみようと思った。

題材にしたの『傷つきやすいアメリカの大学生たち』この本、本文だけで400頁ほどある。字数にすると22万字程度だと思う。

これをClaudeに「5000字に要約してほしい」とお願いするとものの数秒で文字が出てくる。それは著者のバックグランドから本書の趣旨、それに構成まできちんとわかるものとなっている。「1万字に要約してほしい」と再度依頼すると、要約はさらに丁寧になり一つのレポートを読んだような気分だった。1万字を読むのに要した時間は15分。これで400頁近くもある本の内容を、ある程度詳しく知れるわけだ。

それから、いざ本を最初から読み始めることにした。
この本は、z世代の登場以降、アメリカの大学では学生を過保護に扱うようになった現実とその背景にあるものを描こうとするものだ。僕ら日本人からするとアメリカの大学は日本よりはるかに自由に思えるのだが、それでも、「ストレスを感じる学生がいる可能性がある」という理由から講義が中止に追い込まれたりする現実を描いている。この「傷つきやすさ」を守ろうとすると、ますます過保護になり、それが「傷つきやすさ」に慣れることなくむしろ助長してしまう。この悪循環が社会に生まれていることが、独自の視点と事例から描かれる。そして、その背景として断絶が進む社会やSNSなどの影響などが書かれていて、これら背景に関しては驚くほど日本には当てはまる。

分厚い本だが夢中に読むことができた。かかった時間は8時間ほどである。
事前に要約を読んでいたので、本書のキーワードが理解しやすい。これは本を読み進めることでとても役立った。「要所」を要所として読めるので、そこを読み飛ばすことがなかったのは大きい。それでも8時間かかったのだが、、。

では、要約を読むのに要した15分と全文読むのに要した8時間の違いを「得たもの」から評価するとどうなるだろうか。

僕はずっと出版業界にいたし、今も読書に関わる仕事をしているので、簡単に読書を否定したくない。とはいえ、要約のパワーは絶大だと認めざるを得ない。事前にこれを読む効果は大きい。「どんな内容の本か?」という疑問には申し分なく答えてくれるのだ。

それを読んで「読まなくてもいい」という本は当然生まれるだろう。その意味で、読むか読まないかを選択する際にとても役立つツールである。それでも15分で内容を知れるのに、わざわざ8時間かけることに意味はあるのか?なんせ、8時間あればこの手の要約を32冊分、読むことができるのだ!

まだ答えは出ていないが、いま思うことを書こう。

まずは読書とは身体的な活動だと思う。読んでいた時間は、著者の考えをなぞろうとした時間でもあり、それに8時間を要した。この時間の体験があるからだろう、僕はこの『傷つきやすいアメリカの大学生たち』という本について、自分の言葉で語ることができる。書かれている20万字を記憶しているのではなく、そこから濃淡をつけて自分仕様でインプットしたのだ。なので、これを語る自分の言葉は相当バイアスがかかっているが、これが僕の解釈である。この「自分の解釈」を手に入れたのが、8時間だったのではないだろうか。

もう一つは、僕はこの8時間、このテーマ(なぜアメリカの大学生は傷つきやすくなったのか?)について考えて続けたことになる。もちろん著者に補助線を引いてもらってだが、そこには自分の思考や経験、過去に読んだ本などを総動員して、著者の主張を解釈しようとしたのだ。

生成AIが作る要約を読んで、そこまで頭が回らない。自分の思考や経験が総動員されるほどの刺激がないのであろう。「そういうものか」と半ば受け入れ、そこから概念的に発展させられるものの、もう一つ身体が伴わない。

とはいえ、何度も言うが、生成AIが作る要約はパワフルである。これは今後活用しない手はない。中途半端に斜め読みするなら、要約で十分なような気がする。そして、「知っておくため」の読書は必要なくなるのではないかと思う。自分が考えたいと思うテーマではないと、今の段階で生成AIに軍配が上がっていると認めざるを得ない。

「情報収集のための読書」の時代は終わったかもしれない。残されているのは、考えるため、解釈するための読書であろうか。同時に、生成AIを使うことで読書がより対話的に活用できる可能性を大いに感じている。これについてはまた実験してみたい。

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「問い読」共同創業者。編集者。書籍『「風の谷」という希望』『妄想する頭 思考する手』『シン・ニホン』『熟達論』などを手掛ける。ハーバード・ビジネス・レビュー編集長、音声メディア「VOOX」編集長を歴任。本ブログはアフィリエイトプログラム「amazonアソシエイト」に参加。

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