千鳥の「相席食堂」で、芸人やゲストが海に落ちるという定番の笑いがあって、私もおもしろがって見ていたんだけれど、これは女性芸人がやるとあまりうまくいかないと思う(女性ゲストで海に落ちた方もいるが、男性にくらべると数は少ない)。なにより「危ない」「かわいそう」など、笑いではない感情が先に立ってしまう。また、私の知人女性は「お笑いは好きだが、身体を張る笑いがよくわからない」と話していた。落とし穴に落ちたり、海に飛び込んだりするタイプの乱暴な笑いがそもそも男性的で、決して万人向けではない可能性がある。一方で、女性が身体を張る企画をすると、どこかセクハラまがいになるケースも多い。よって積極的に「海に落ちたい」と思っている女性芸人は少ないのではないか。そこで私が主張したいのは、だから女性芸人はおもしろくない、と考えるのはあきらかに間違っているという点である。
男性が海に落ちておもしろいのは、それが男性に有利なルールだからだ。海に落ちた芸人に「ちょっと待て」ボタンを押してツッコむのも、また男性である。男性が演じて、男性がツッコむ。プレイヤーも審判も基本は男性というルールでは、男性が有利に決まっている。そんな土俵でたたかったら、女性芸人が不利になるのは当然ではないか。思うに、いまのお笑いは男性が作ったルールで成り立っていて、全体的にいかにも男性が勝ちやすい仕組みになっている。いま主流となる笑いの手法のスタンダードは、主に男性芸人によって制定され、練り上げられてきた。よりウケるための所作、声の出し方、言葉選び、ネタの方向性。男性芸人は、男性が勝ちやすい笑いの方法を、何十年もかけて作り上げてきたのである。新しく芸人を始める男性は、諸先輩が作ってきたお笑いメソッドのスターターパックを使って、気軽に芸人を始められる。道路はすでに幾多の先輩方によって舗装されており、好きなだけスピードを出して進めるようになっているのだ。
そもそもテレビ番組の座組からして男性有利である。多数の男性芸人がずらっと並んだところに、2人くらい若くてキレイな女性タレントが立っていて、みんなで順番にふざけたりボケたりする、バラエティ番組で定番の座組は、要するに「なるべく男性芸人が勝ちやすいように調整されたセッティング」だ。この場に女性芸人がひとり入っていっておもしろいことをするのは難しい。だって女性芸人のための座組じゃないんだから。お笑い界隈、さすがに男すぎないだろうか。であれば女性芸人は、男性芸人のルールや座組のなかで張り合って勝とうとするのではなく、自分たちがより有利にたたかえる別のルールを作って、そちらで勝負すべきではないかと思っている。まずは「このルールじたいが不公平だ」と主張すべきである。しかし、長らく日本のお笑いにおいては男性の寡占が続いてしまっているため、女性芸人による笑いのルールやメソッドはまだ開発途中だし、その道は舗装されていない泥道、砂利道のような状態である。
新しいルールの開発。たしかにこれは大仕事である。しかし多くの女性芸人はこの点に自覚的であって、どうにか新ルールを作っていこうとしているように思う。また大いに可能性があるのは、男性芸人のルールや土俵がしだいに時代と合わなくなってきている点だ。いまだに「飲む打つ買う」がおもしろいと思っているオールドスクールな連中であり、ここが明確な弱点である。この弱点を突けばきっと勝てる。男性芸人の土俵は古いと感じている人たちを自分たちの土俵へ移動させることができれば、女性芸人がみずから作った新しいルールでたたかうことはじゅうぶん可能だ。私は「THE W」に意義を感じているが、それは参加者がどうにか泥道を舗装して、自分たちが走っていける別の新しい道を作ろうとしているからである。道がなければ作るしかあるまい。その際は、ぬかるんだ沿道で元気いっぱい応援させてもらいたいと思っている。
【私の書いたスキンケア本です】