

Photo: Big Brother Recordings
最後に演奏された“Champagne Supernova”が始まって、やっぱりこれがオアシスだという実感が込み上げてくる。
それはあの兄弟が16年間に及ぶ疎遠な関係に終止符を打って、同じステージでライヴを行っているという、それだけの事実にとどまらない。もちろん、この二人が揃うことがなければ、オアシスの再結成なんてものが実現することはあり得なかったわけだけれど、この日のライヴで感じたのはそんなことよりもはるかに大きなものだった。
しかし、昨年8月までは誰もこんなことが現実になるとは思っていなかった。空白の16年間を通して、オアシスの再結成に肯定的なリアム・ギャラガーと否定的なノエル・ギャラガーという基本構図があったと思うのだけれど、2024年の時点でもノエル・ギャラガーは「いつ俺たち二人に会えるか?って。2025年か、2026年か?って。答えはどちらでもないね」と語っていた。これを嘘だと笑い飛ばせる日が来るなんて、想像だにしていなかった。けれど、Xデイは突然やってくる。2024年8月27日、「銃声は止んだ。星は揃った。長い待ち時間は終わった(The guns have fallen silent. The stars have aligned. The great wait is over.)」という言葉と共にオアシスの再結成は発表された。この言葉は今回のライヴでも冒頭に“Fuckin’ In The Bushes”がかかる中でスクリーンに映し出される。
その映像が終わった頃に、あの二人が高々と腕を上げてやってくる。今回のツアーではもはや恒例の儀式となっている光景だが、それが日本でも実現する。なにか談笑しているような様子が見て取れる。当然のことながら、1曲目は“Hello”で、「Hello, hello, it’s good to be back」というコーラスが今、目にしている光景に添えられることになる。歌い終わってリアムが拳を上げ、演奏が終わると、リアム・ギャラガーが「アリガトウ」と言う。2曲目は“Acquiesce”で、こちらも「Because we need each other. We believe in one another And I know we’re going to uncover What’s sleepin’ in our soul(だってお互いを必要として、信じ合っている。魂に眠っているものを見つけ出せることは分かっている)」という歌詞が今回の再結成を象徴するラインとして度々引用されてきたが、この曲でいけば「Who wants to be alone when we can feel alive instead(生きていることを実感しているのに誰が一人を望むんだ?)」という歌詞も突き刺さるものがある。リアム・ギャラガーはタンバリンを咥えて、その後に客席に投げてみせる。タンバリンを投げることをしばらく止めていたリアム・ギャラガーだが、日本であれば大丈夫と判断したということだろうか。
このあたりで目に留まるのがジョーイ・ワロンカーのドラムだ。オアシスの楽曲というとミドル・テンポの楽曲が多いけれど、それに合わせて、ヴォーカルならびにギター陣が生きるようなスペースを与えたドラムを叩いている。アトムス・フォー・ピースのライヴでもベックのライヴでも観たことがあって、かなりのものが叩ける人だというのは分かっているのだけど、今回は前に出ないようにして、しかし、スネアでサウンドの抜け感は出しながら楽曲の素晴らしさを際立たせるドラムに徹している。
今回のツアーでセットリストが固定されていることは周知の事実だが、2025年の時点でノエル・ギャラガーとリアム・ギャラガーがやるべきだと思った楽曲が一部の隙もなく詰まっていて、早々に“Morning Glory”や初めて全英1位を獲得した“Some Might Say”といった楽曲が演奏されていくことになる。ハンドクラップをリアム・ギャラガーが求めた“Bring It On Down”を経て、披露されたのは“Cigarettes & Alcohol”で、いわゆるポズナン・タイムが展開される。ポズナンはポーランドのサッカー・チームを発祥として兄弟の愛するマンチェスター・シティーの応援スタイルとしても定着したもので、日本でどうなるかは分からなかったのだけど、まあ、ぼちぼちな感じだっただろうか。でも、アメリカでもカナダでもこの演出にこだわったのは、今回の再結成公演の意義を含めて、つまらない自意識なんか取っ払ってもいいと思える雰囲気であってくれという思いだったのかなと考えたりもする。その後の“Fade Away”では古いマンチェスターの写真がスクリーンには映し出される。
そこからはデビュー・シングルとしてバンドのアイデンティティを定義することになった“Supersonic”、ブラーと同日リリースでブリットポップ戦争を生むことになった“Roll With It”といったキャリアの節目を彩った楽曲が演奏されていく。“Roll With It”ではリアム・ギャラガーが途中で両手を高々を挙げてみせる。ここでセットリストはノエル・ギャラガーがリード・ヴォーカルをとる時間帯に入っていくのだけど、去り際にリアム・ギャラガーはノエルとグータッチを交わしてみせる。こうした一瞬が見逃せない。ノエル・ギャラガーのリード・パートでは“Talk Tonight”、“Half the World Away”、“Little by Little”という3曲が演奏されたが、今回のツアーにおいてディスコグラフィーの後期から演奏されているのは“Little by Little”だけで、今回の再結成公演はリスナーに向けて、次世代に向けて、あらゆる世代に向けて行われているものだけれど、あくまでタクトを振るのはノエル・ギャラガーその人だという表れだと思ったりもする。
ここからライヴは後半に突入していき、『ビィ・ヒア・ナウ』からの“D’You Know What I Mean?”と“Stand by Me”が続いていく。“Stand by Me”はリアム・ギャラガーが観客に委ねたこともあって、コーラスではシンガロングが響き渡る。その後はしっとりと“Cast No Shadow”を披露したところで、ハイライトに向かってエンジンをかけるように鳴り響くのは“Slide Away”のイントロだ。しかし、全編を通して考え抜かれたセットリストだと痛感する。やらなければいけない曲がこれだけある中でロック・バンドとしての自然なバイオリズムというのがまったく失われていない。あくまでロック・バンドとしてのサウンドで披露した“Whatever”に、“Live Forever”、そして、本編最後を飾るのは“Rock ‘n’ Roll Star”だ。巨大なスクリーンではバンドのロゴやアートワークが移り変わりながら、最後にはオアシスのロゴが画面いっぱいに映し出されることになる。そのメッセージは明白だろう。
アンコールの冒頭でノエル・ギャラガーがメンバーを紹介するのも恒例となっていて、ゲム・アーチャー、アンディ・ベル、ジョーイ・ワロンカー、キーボードのクリスチャン・マッデンといった主要メンバーに加え、ポール・“ボーンヘッド”・アーサーズに代わって参加しているギタリストのマイク・ムーアも紹介されていく。ここからは当然、名曲が立て続けに演奏されていくことになる。“The Masterplan”、“Don’t Look Back in Anger”、“Wonderwall”、そして“Champagne Supernova”。シンガロングについてはUKとの温度差を気にしていたのだけれど、バンド側からの日本への愛も含めて、あたたかい場として成立していた気がする。リアム・ギャラガーはマラカスでタンバリンを叩きながら、最後、帽子の上からタンバリンをはめて、仁王立ちをしてみせる。そして、ノエル・ギャラガーとのハグだ。完璧な、完璧過ぎる来日公演初日が終わった。
今日もセットリストで大半を占めることになったのはデビュー作『ディフィニトリー・メイビー』やセカンド・アルバム『モーニング・グローリー』期の楽曲で、スペシャル・ゲストを務めたASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤さんも少し触れていた通り、そのリリースからは30年以上の歳月が経つにもかかわらず、オアシスの鳴らすロックンロールは今も、無理にスペックの高さを誇るわけでもなく、安い共感を生むわけでもなく、もっともらしいことを言うわけでもなく、ただただ2025年にも通じるサウンドトラックの役割を果たしていた。あらゆる世代を撃ち抜く、曇りのないロックンロールとして、それは鳴り響いていた。
今回の再結成公演はリアルタイムでバンドとして活動する中で行われたライヴではなく、あり得なかった再結成が現実となり、それで来日公演までが実現することになった。オアシスの再結成が実現したのにはノエル・ギャラガーにとってもリアム・ギャラガーにとっても様々な理由があると思うけれど、自分が今回の再結成公演の動きを見ていて思うのは、やっぱりオアシスというものを歴史として後世にのこすということは大きかったのだと思う。そして、10月25日、日本はそんな歴史の1ページに加わることになった。
Hello
Acquiesce
Morning Glory
Some Might Say
Bring It On Down
Cigarettes & Alcohol
Fade Away
Supersonic
Roll With It
Talk Tonight
Half the World Away
Little by Little
D’You Know What I Mean?
Stand by Me
Cast No Shadow
Slide Away
Whatever
Live Forever
Rock ‘n’ Roll Star
Encore:
The Masterplan (preceded by band introductions)
Don’t Look Back in Anger
Wonderwall
Champagne Supernova
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