世界中がトランプ2.0政権に振り回されている。今月中国で<全人代>があったのだが、トランプ2.0の施政方針演説がカブっていて、メディアの扱いは相対的に小さくなってしまった。
ウクライナ支援停止・ガザのリゾート開発・グリーンランド割譲要求・パナマ運河から中国排除・移民の強制送還・・・そして関税乱発。まるでDDOS攻撃のように一杯降ってくるので、まずは落ち着いて考えようと専門家と意見交換する場に参加した。
国際政治が専門でよくTVでもお見掛けするこの人は、トランプ政権の本質は大統領個人の欲望そのものだとおっしゃる。
1)自身が刑務所送りにならず
2)自分や家族がより裕福になり
3)死ぬまで権力を持ち続けたい
が全てである。これまでの米国大統領が少しはもっていた公徳心が、彼には全くない。司法長官やFBI長官を、自らに忠誠を誓う人物で固めたのは1)のため。
3)も重要で、4年後誰かに大統領職を譲る(*1)にしても、それは忠誠心ある人物にしたいし議会も民主党には渡したくない。そのために、最も重視するのは米国経済で、なんとしても減税もしたい。だから経済閣僚には比較的真っ当な人を置いている。しかしやろうとしていること、例えば関税合戦は、米国国内にインフレを招き景気後退につながる。だから株価が下がり自身の財産も減れば、2)が達成できないので軌道修正するだろうという。
ただ経済を含む内政はいいとして、外交は不安だらけだ。ロシアに対するサイバー攻撃を停止すると発言(*2)したヘグゼス国防長官は、攻撃と防御の区別もついていないようだ。CIAなど情報機関を全部束ねる国家情報長官は、プーチン大統領に近い人物(*3)である。これでは「Five Eyes」の国は、米国と機密情報の共有などできるはずもない。
「America First」で内政重視をするにしても、あまりに外交がお粗末。これでは米中対立での<ソフトパワー戦*4>に敗れるのは必然。さて日本はどうするのでしょうか?
*1:通算3期目の大統領をやりたいのも確かで、憲法改正しなくても裏技はいくつかある
*2:米国防長官、ロシアに対するサイバー作戦を停止 米報道 - BBCニュース
*3:トランプ政権の国家情報長官は日本に深い恨み?日米再戦の懸念を発信 そのギャバード氏就任で、「民主党脱藩3人組」が内政のカギ握る(2/5) | JBpress (ジェイビープレス)
ランチタイムは、最上階フロアにある食堂でベトナム料理いただいた。この建屋ではすでに1万人以上が働いていて、昨年2倍に拡張したという。幹線道路沿いで、周りには更地も多い。伸び盛りの企業にふさわしい場所だ。
午後のセッションは事業所内見学の前に2つ。
4)AI Capability
すでに200のプロジェクトでAIを使っていて、専門家150名をリーダーとして組織で合計1,000名が働いている。社外のAIコミュニティにも参加、人材育成のため6ヵ月のAIキャンプや、大学(*1)に専門学科を設けた。プロンプトエンジニアリングやバックグラウンド設定などのワークショップも随時行う。これからは、Ethics of AI や Responsible AIに取り組む。
5)Data Cloud
データ活用の課題として、データのサイロ化がある。そうなると断片(不完全の意)AIになってしまう。方程式は、Cloudに集め⇒ Data Transformationし ⇒ AI Transuformationするというもの。ビジネス目標にマッチさせたデータ統合で、生のDataをInformationにし、KnowledgeからWisdomに進化させる。
データ活用やAIに関する認識は間違っていないが、そこまでは種々の教科書で学べる。次のステップとして彼らが目指すという「Ethics of AI や Responsible AI」について聞いてみた。
・これらは従来のブラックボックスAIやLLMモデルに比べて手間がかかる(*2)
・何倍のコストや時間がかかると考えているのか
・それでも取り組むのは何故か
期待したのは、
・表面上同じ性能にするのに5倍(*3)くらいリソースが必要
・それでもAIが社会に受け入れられるには必要と思うから
という答えだったが、残念ながら「欧州でAI-Actがあるなどが理由」で、何倍かという推定はしていないようだった。ちょっと意地悪な質問だったかもしれない。発展途上の企業であり、これからも注視していきたい。
*1:車で5分ほどのところに直営の大学がある
*2:息の合った「AI禅問答」(後編) - 梶浦敏範【公式】ブログ
*3:ケースバイケース、数倍と考えればいいと思う
午前中説明を受けたのが3項目。
1)Managed Service
アプリ・インフラ・セキュリティ・デバイス管理をサービスとして提供している。いずれも運用~保守~管理のすべてで顧客の要望に応えられる。特徴は以下の6点。
・サービスモデルが柔軟
・展開がグローバルに可能
・能力ある技術者が多数
・改善型の運用提案もできる
・優れたツール等を使う運用能力
・充実したノウハウ
2)Legacy Migration
過去に構築し、現在も運用しなくてはいけないシステムがある。しかし技術の引退等で、システム維持に悩んでいる企業も多い。そこでFPTでは、
・メインフレーマーとのアライアンス
・COBOL等の技術者育成
・AIも活用した自動化
のソリューションを提供している。これまで200件の実績がある。
3)Enterprise Business Service
多くの企業がERPを活用しているが、種類も多いし十分に生かされていないケースもある。FPTでは、顧客のニーズにあったERPサービスを各社(SAP・Microsoft・Oracle等)とのアライアンスやデータ分析技術で選び、開発から導入まで包括的なサポートを行っている。豊富な業務経験とノウハウがあり、基幹システムとして、データ保護(例:欧州のGDPR)の規制などにも対応している。
ここでランチタイムとなった。そこで同社幹部の隣席に座り、聞きたかったことを個別に話した。まず「データの置き場所が問題になっている。ITサービス企業がサーバを韓国に置いたり、開発を中国でしていることが発覚して総務省から厳重注意された。貴社ではどうしているか?」と質問すると、
ベトナムで訪問するのは1社だけ。ホーチミン中心部から北西に(渋滞がなければ)30分ほど行ったところにあるITサービス企業「FPTソフトウェア*1」。ベトナム最大のテック企業(従業員48,000名)で、1億人の人口を持ち若いIT人材を輩出するベトナムを象徴する企業だ。
単なるソフトハウスではなく総合ITサービス企業であって、マネージドサービス・レガシーマイグレーション・エンタプライズビジネスサービスなどを広範に手掛けている。事業の5本柱は、デジタルテクノロジー・テレコミュニケーション・人材教育・(小売・流通などの)DX・スタートアップ支援である。日本企業から見るとオフショア企業だが、BtoBだけでなくBtoC事業も手掛けていて「FPT-ID」はすでに6,900万人が持っている。
ビジネス展開は世界30カ国に広がっているが、最重視しているのが日本市場。2005年に日本法人を立ち上げ、コンサルからシステム・サービスの受託開発や運用、人材教育・提供、AIやクラウドを用いたDXまで業容を拡大している。AI拠点やデータセンターも日本に作ったし、中国でのジョイントベンチャーを引き揚げて日本に移す動きもある。今後も、日本重視の姿勢は揺らがないという。
この拠点では、11,000名が働いていて、近くには直営する大学もある。毎年1万人の人材を輩出し、その多くは日本語教育を受けている。人材不足やレガシーのIT資産管理に悩む日本企業にとっては、非常に嬉しいサービス企業である。
ただ私にとっては、委託先からの情報漏洩やサプライチェーン攻撃のリスクを考えて、どのようなスタンスでサービス提供しているのかが気になった。説明を受ける前に、自己紹介を兼ねて3点知りたいことを申し上げておいた。
1)デジタル化の課題として、サイバーセキュリティ強化がある。FPT自身をどう守るか、顧客をどう守るか?
2)AI時代に入っているので、プラス面だけでなくマイナス面(例えば育成したプログラマーやデバッグ要員が削減される)をどう考えているか?
3)個人情報保護、データの囲い込み、AI規制など各国政府が異なった動きをしている。デジタル政策について各国政府への働きかけをしているか?
<続く>
*1:https://fpt.com/en https://fptsoftware.jp/about-us/fpt-japan
シンガポール最後の訪問先は、スマートモビリティ企業「SWAT*1」。2015年創業で日本市場にも2020年に進出した。スタートアップではすでになく、起業家が憧れる企業になっている。交通・物流分野のルート計算が得意で、乗り換え案内やオンデマンド交通を含め、各種アプリにルーティングのAPIを提供している。
世界中に競合と思われる企業は5~7社あるが「世界一のルーティングアルゴリズム」を持っているので、優位にあると説明してくれた。ヒトの移動にしても、荷物の物流にしても、運転者・車のサイズや特徴・道路事情などを細かく勘案しないと、使えるルーティングにならない。
9ヵ国の200以上のプロジェクトで、160万のルート計算を行った。その中には、日本の20箇所以上の地域でのプロジェクトが含まれていた。日本での地図はゼンリンのものを使うことが多い。
企業理念としては「移動そのものは目的ではない。消費行動をどうサポートするか」だという。今は交通・物流の予測からルーティングだが、いずれは自動運転につなげていけると自信をのぞかせた。事業を支える技術は3つ。
1)特許で守られたルーティングアルゴリズム
2)200以上の変数(パラメータ)
3)複数のマッピングレイヤ
最後のものは、地図にも何種類かあり道路の細かな仕様や目的地の属性なども勘案しているという意味だろう。キーになるのは2番目のパラメータで、この移動がどういう目的をもって行われるか、どういう手段が採り得るかなど、ユーザニーズによって変数をどう組み合わせてシミュレーションするかにノウハウがあると思われる。
その範囲内では、間違いなく優れた技術である。ただ、もっと改善する余地はあると思った。変数に含まれるかもしれないのだが、付近の人流や他の車の情報なども利用できれば、予測精度は増していく。反面、個人情報保護などで批判されることもあり得る。面白いデータ活用型企業で、今後の発展に注目したい。
*1:SWAT Mobility | Vehicle Routing Technology Leader in Asia
PDDはシンガポール政府が後押し産官学連携機関で、地下鉄の駅まで延伸して街ごと作り上げている。具体的には多額の支援金と、政府系不動産会社JTCの関与だ。ただJTCは(地面だけでなく)古い建物も多く持っている。かつてシンガポールが製造業誘致を図り、島のあちこちに建設した工場設備である。これらをリノベーションして、スタートアップ企業を育成する「団地」も作っている。そんな地区の一つ「One North」を訪ね、現地でスタートアップ支援にあたっている日本人から話を聞くことができた。
シンガポールのエリート層は非常に教育水準が高く(*1)ある意味「ガリ勉」。しかしビジネスが上手くないので、政府が起業家支援を始めた。世界の課題をどのように解決するか戦略的に考え、そのソリューションを探る。政府も支援(年間7,000億円ほど)するが、外資の呼び込みにも積極的だ。エリート技術者のシーズと、上記のニーズのマッチングをしているのがこの機関。
政府の後方支援もあって、世界中から課題を抱えていたり、出資を考える企業がやってくる。一度の会合で数億ドルの契約をしていく企業も少なくない。そんな中で日本企業は、
・年間100社ほどやってくる
・契約に至ったケースは昨年はない
・契約するにしてもやたらと時間がかかる
ので忌避(*2)されているという。やってくる日本企業には、
・解決したい課題なり出資目的などをはっきりさせ
・求めるスタートアップの「仕様」を固めた上で
・意思決定できる人間が来い
と言いたいようだ。激烈な競争の中で、日本にも意識を残して奮闘している彼に敬意を払いながら「日本企業にも世界で闘えるようになっている企業はあるし、経営者も若返りつつある。そういう企業なり経営者なりに巡り合う必要があるね」と言った。
もちろん、彼の国にスタートアップ探しに行く場合は、上記の条件を守ってほしいと思う。物見遊山気分は論外である。
*1:世界大学ランキングでシンガポール国立大学は28位の東大より上の17位。欧米上位校への留学も多い。世界大学ランキング・順位・THE(2025年版)
*2:表面上は笑顔で「一緒にやりましょう」と言うが、本音では「顔も見たくない」と思っている
産学共同でデジタル「応用」研究をするというPDD、政府系不動産会社JTCがバックにいるので、日本ではなかなかまとまらない研究都市構想が、スピーディに進んでいる。額は不明だが、多額の政府予算が投入されていると思われる。
では応用研究をする人材をどう育てるのか?SITの学生は在学中に8~12ヵ月の期間、事業会社でのインターンを義務付けられている。学生が「ビジネスとはこういうものだ」という感覚を得る一方、企業側も「こういう人材なら欲しい」と判断することができる。一旦企業に就職しても、ここに戻って継続教育やリカレント教育をうけることもできるらしい。
実践技術者が最も求められるのが、サイバーセキュリティの分野である。2年前にオーストラリアで実践教育をしている大学を訪問(*1)したが、ここはどうかと聞いてみた。すると、
・SOCのような機能は持っていない
・ハッカー教育は、完全に孤立した環境で進めている
とのこと。学んでいる学生の真剣さから見て意義ある教育(*2)とは思ったのだが、全体として「攻撃には精力を注ぐが、防御はさほどでもない」印象だった。セキュリティ部門の教授と個別に会話する機会があって、彼が「民間企業の防衛」という言葉を発したので、その意味を聞いた。すると、
・まず政府機関と社会を支えている企業の防衛
・そのためにもセキュリティ産業を育成強化
・そしてセキュリティ産業自身の防衛も必要
だという。セキュリティを売り物にしない他の(デジタル)産業については、彼の意識の外にあるようだ。日本ではデジタルでもない普通の産業、特に中小企業の防衛をどうするか業界団体で議論しているというと、すぐには反応してくれなかった。
SIT&PDDは、もう少し詳しい話を聞きたい機関だった。特に政府支援について・・・。
*1:Western Sydney大学訪問(前編) - 梶浦敏範【公式】ブログ
*2:研究目的でマルウェアを作っても罰せられる日本とは異なる法体系である
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