快走!サブスクEVバス…全国初のスクールバスに、九州電力が新規事業
福岡県南部・筑後市の田園地帯を色鮮やかな4台の電気自動車(EV)のマイクロバスが駆け抜けている。4月に開校した市立小学校の通学用バスだ。九州電力が自治体や企業に提供する、サブスクリプション(定額制)の「九電でんきバスサービス」を同市が採用して運行が始まった。同種車両の小中学校向けスクールバスとして全国初の事例となるほか、普通充電器を初採用するなど九電の新規事業としても快走中だ。(西部・三苫能徳)
九電の新規事業「九電でんきバスサービス」は、バス車両のリースに加えて充電設備や電気、整備などを一括で提供するパッケージだ。芙蓉総合リースなどとの共同事業で、ユーザーは設定した年間走行距離の範囲で定額利用できる。九電はグループでの設備提供や充電時のエネルギー管理といった知見で強みを生かし、電源を含めたトータルサービスで競合と差をつける。
福岡県筑後市は小学校3校の統合に伴い、4月に新設した市立筑後南小学校のスクールバスとして、遠距離通学の児童向けに導入した。校区の13カ所に乗降所を設けて、24人乗りバス4台で8ルートを無料で運行する。
九電の江口洋之執行役員福岡支店長は同市でのバスお披露目式で「脱炭素社会の実現につながる新サービス。通学の利便性と安全、脱炭素化に貢献したい」と力を込めた。
同サービスの実績は筑後市で3カ所目、累計6台になった。1台目は小型コミュニティーバスを用いる鹿児島県・沖永良部島のホテルでの送迎用として、2台目は大分バス(大分市)の大型路線バスとして走る。いずれも“地場”のEVモーターズ・ジャパン(北九州市若松区)製だ。
九電は2027年3月期までに累計50台の導入を目指し、九州で需要を掘り起こす。同社担当者は「企業、工場の従業員やホテルでの送迎用途に合うのでは」と狙いを定める。九州で活発な設備投資も背景に、環境意識の高い企業や工業団地向けを視野に入れる。
ディーゼル車に比べると運用を含めて2割ほど割高になるが、環境性を付加価値として訴求する。送迎用途では稼働率は低いが、再生可能エネルギーの有効活用や非常時の電源車としての利用など多目的な用途がニーズにかなうとみるためだ。
コストダウンにつながる施策も試みる。筑後市には出力6キロワットの普通充電器を初めて導入した。急速充電器より充電時間は長いが、導入費用は安い。電力のピークカットで電気料金の抑制にもつながる。コスト低減分は利用料に反映することで、ユーザーのメリットにもなる。
ゼロから満充電に20時間ほどかかるが、走行距離の短いスクールバスでは充電時間は短いと見積もる。電気を大量消費し、緊急に充電する必要があれば近隣にある高速充電器を借用してまかなう。
西田正治筑後市長は児童らに「新たな価値観を持ち、明るい未来を切り開く人になって」と国内初の取り組みという点を踏まえて期待をかけた。当面は平日の通学に限り運行するが、将来は休日の催事での送迎などに利用するなどバスの活躍の場を広げる考えだ。