ニッポン半導体産業復権へ、静岡大学の新拠点「集積化センサ設計評価オープンラボ」が担う役割
長きにわたり沈んでいた日本の半導体産業が復権に向けて動き出している。国内では官民一体となった半導体への大規模投資が続く。IoT(モノのインターネット)や生成人工知能(AI)の普及、自動車の知能化などに伴い半導体や大規模集積回路(LSI)など応用製品の需要に拍車がかかり、国産化による安定供給体制の構築は必須だ。日本は半導体の部素材の供給や製造装置の開発で世界的な主導権を握る一方、半導体そのものの生産では低迷していた。その影響で国内の半導体関連人材は不足しているため、産学官を挙げた人材育成が進む。
そうした中、地域の国立大学でも新たな動きが始まっている。4月から静岡大学浜松キャンパスにある電子工学研究所の新たな拠点「集積化センサ設計評価オープンラボ」が稼働する。LSI技術を使用して作られるセンサを設計評価して、企業の研究開発機能の一端を担い研究成果の社会実装を目指す拠点だ。

新たな拠点でどのような研究活動を行っていくのか、静岡大電子工学研究所の青木徹教授に聞いた。
―新たな拠点の供用が4月に始まります。
「社会的に半導体の重要性が高まっている。注目を集めているのは回路線幅が2ナノメートル級の半導体だが、一言で『半導体』と言ってもその用途や種類は多岐にわたる。新拠点で主に取り組みたいのはデジタル化に欠かせない、半導体を応用したセンサの領域だ。比較的日本は競争力を持つ分野だが、事業に近接している上、開発費がかかるため『企業が研究するもの』という風潮が強く人材が不足している。静岡大は特にイメージセンサなどに強みを持っている。他大学や産業と連携して特色を生かした研究活動を行い、半導体全体を俯瞰する人材を育てていきたい」

―どのように連携していきますか。
「豊橋技術科学大学の拠点とそれぞれの個性を生かしながら一体的に運営する。具体的には豊橋技科大の『次世代半導体・センサ科学研究所』の『集積化センサプロセス開発オープンラボ』と連携する。同研究所のLSI工場は半導体集積回路を試作できる優れた拠点だ。静岡大の新拠点では企業と共同で、試作したLSIで制御するセンサの研究開発を行う。この枠組みに東京科学大学と名古屋大学が参画する。国立と私立という設置形態の違いを越えて静岡大と包括連携協定を結ぶ静岡理工科大学の教員や学生も参画し、地域の半導体人材を育てていく」
―地域や企業にはどのような利点がありますか。
「新たな製品やサービスの開発に必要なLSIを試作しようとしても、期間は数年以上、費用は1億円以上かかる場合もある。中小企業にとっては大きな負担だ。事業化にセンサ技術を求めるテック系スタートアップにとっても壁となる。我々の拠点を活用すれば期間は半年程度、研究開発費は500万―1000万円程度に抑えられる可能性がある。豊橋技科大の工場との連携で、すばやくエンジニアリングサンプルレベルのセンサシステムを開発できる。静岡大浜松キャンパスが持つ化合物や新材料、回路設計の技術のほか、数多くの大学発スタートアップを産みだしてきた事業化ノウハウも使える」
―拠点をどのように運営していきますか。
「静岡大電子工学研究所の建屋にはなるが、オープンな拠点として工学部や情報学部だけでなく、豊橋技科大や静岡理工科大の関係者にも積極的に利用してもらう。それぞれが必要な新技術や新材料をインテグレート(統合)する、いわば『オーダーメード型オープンイノベーション』を目指す」
―設備面での特徴は。
「建屋はオープンイノベーションを促す開放的な構造にした。研究用の設備としては、センサの機能を評価するためにX線や中性子線、テラヘルツ波などを照射する大規模な『照射室』を整備する。大学が研究や試験用に保有する設備としては比較的めずらしい」
―今回の枠組みで、10年後の共同研究費受入額8億円という目標を掲げています。
「複数の大学にまたがり、共同研究と地域の半導体人材を育成するという全く新しい試みを成功させたい。拠点供用開始以降にはさまざまな課題も出てくるだろう。例えば知財が発生した場合の取り扱いはどうするか。共同研究の依頼内容を調整し、各大学のシーズとのマッチングや連携を進めやすくする窓口組織も必要になるかもしれない。設備面も拡充していきたい」

連携大学からも新拠点への期待の声が寄せられている。
豊橋技術科学大学 次世代半導体・センサ科学研究所長
澤田和明教授

静岡理工科大学
木村雅和学長
