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「今、佐川のトラックが来たので、Switch入りましたよね?」――これはとあるゲームショップで実際にあった“ちょっと困った”問い合わせである。
2017年3月に発売したNintendo Switchは、約半年経った今もなお品薄が続くという状況が続いている。多くの店舗では抽選販売を行い、整理券が配布される度に長蛇の列ができているが、その模様は既にさまざまなニュースサイトでも報じられている通りだ。

だが、上記のような、現場で日々起きている驚くような出来事の数々を私たちはよく知らない。いや、そもそもゲームショップの裏側の話などは、これまでほとんど語られることはなかった。
なぜなら既存のゲームメディアが、その重要性をよく知りながらも、あまり表では書かずにきたからだ。だが、現代のゲーム産業を知る上で、ゲームショップの知識は欠かせない。
例えば、中古ゲームをめぐる問題。90年代後半に展開された「中古ソフト撲滅キャンペーン」で裁判になった経緯もあり、「中古ソフトはメーカーの利益にならない」というユーザーの声が依然として存在する。だが――ゲーム業界に詳しい人間ならば知っていることだが、中古ゲームなしに現在のゲーム業界は成り立たない。
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この記事では、そんなふうにゲーム業界に深く根を下ろした「ゲームショップ」という存在に光を当ててみたいと思う。
その“実態”に迫るべく話を聞いたのは、全国に店舗を構える株式会社ゲオ(以下、ゲオ)の中古バイヤーである海津氏と、店舗担当者である片岡氏。
中古品を扱う独特の産業事情ゆえに、ゲーム市場の未来に対する冷静な洞察を持ち合わせた彼らの姿からは、私たちの知らないゲーム市場の「リアル」が浮かび上がってくる――。
聞き手/クリモトコウダイ、小山オンデマンド
文/クリモトコウダイ

熾烈すぎる!Switch品薄の情報戦
――本日はゲームの小売店からこそ見える世界に迫りたいと思っています。まず、直近の話題としてNintendo Switch(以下、Switch)の品薄が問題になっていますが……この現状をどう見られていますか?
海津氏:
厳しいですねえ。
片岡氏:
厳しいし、凄まじいですね。5台の入荷に対して200人並んだりしますから。
海津氏:
倍率が10倍とかですまないのは間違いないですね。
――完全に供給と需要のバランスが崩壊していますね(笑)。
海津氏:
現状の販売ベースラインは、半年かからずで150万台ちょっとです。携帯機でもかなり早いという感じですけど、据え置き機だと考えたら驚異的ですね。

初期想定では「年度末で200万台いくかいかないか」という見通しでしたが、それも10、11月くらいには余裕で超えてしまいそうですよね。「供給も頑張っているけど、ユーザーの盛り上がりがそれを超えちゃった」という感じがします。
――それって販売店的には嬉しい状況と言えるんでしょうか。
海津氏:
嬉しいと言えば嬉しいんですが……ちょっとあまりに度合いが極端すぎますね(笑)。もう少し落ち着いてくれないと、プレゼントシーズンが恐ろしいですよ。
大人が自分のために買えないのは百歩譲ってまだいいとして、Switchを欲しがっている子供が『スプラトゥーン2』【※1】や『スーパーマリオ オデッセイ』【※2】を遊べないという状況が続いてしまうのは……。
※1 スプラトゥーン2
2017年7月に発売されたニンテンドーSwitch用ソフト。『スプラトゥーン』(2015)に続くシリーズ2作目にあたる。発売開始から3日間での推計売上本数が67万本と、驚異的な売り上げを記録した。
※2 スーパーマリオ オデッセイ
2017年10月27日発売予定の「スーパーマリオ」シリーズ新作。2002年の『スーパーマリオサンシャイン』以来シリーズ15年振りの、広大なステージを自由に攻略できるオープンワールド型ゲームとされ、ファンの間では期待が高まっている。
――それはたしかに悲しいです。
海津氏:
我々としても一人でも多くの方にお届けしたいんですが、供給が上がらないことには難しくて……。過去の例でいうと、ニンテンドーDS Lite【※】のときが一番近いですね。5分に一回「DS Liteありますか?」という電話が店舗にかかってきてましたから(笑)。

(画像はAmazonより)
片岡氏:
Switchが発売してからは、毎週末そんな感じですよね(笑)。
海津氏:
しかもDS Lite のときはSNSでの拡散が弱かったから、今ほどのトラブル意識はなかったんです。単に「実際に探してみてあるかどうか」でしかなくて。
片岡氏:
それが、今はもう「佐川のトラックが何々店に着いた」という情報だけでお客さんがワーッと来たりとか。

――そんな凄まじい情報戦が繰り広げられているとは……。あれ、でもそれって何が積まれているかなんて分かるんですか?
片岡氏:
それは分からないはずです。でも、カウンターのスタッフに「今佐川のトラックが来たんで、Switch入りましたね」と言うんです。最近は落ち着きましたが、『スプラトゥーン2』の発売前後は、「仕入れする前に売れちゃう」という状況が続きましたね。
――ああ……それはすごい状況ですね。正攻法でいってもなかなか買えないというか。
海津氏:
今や店舗側の配達状況や出荷状況をユーザーさんが把握できる時代ですからね。
ただ面白いのは、これだけ熾烈な情報戦の中で――むしろ発売日が一番買いやすかったということですね(笑)。実は初日の午後とかだったら、本体のどちらか1色なら買える余裕があったんですよ。
――たしかに当日販売分が残っている店舗がちらほらあった気がします。それにしても、今後はいつごろ出荷されるのでしょうか……?
海津氏:
今後の出荷スケジュールは分かりませんが、少なくとも任天堂さんは出荷数を絞ってないです。よく「品薄商法だ」と言われてますが、それはないと断言できます。ただ、いきなり国内で100万台みたいな数を投下できるかというと……。
――流石にその規模での出荷となると、なかなか踏み切れないのかもしれませんね。
転売ヤーとの終わらぬ攻防
――そういえばゲオはSwitchを含め、ゲームの予約を前金なしで受け付けていましたよね。そうすると「ゲオで予約したけど、やっぱりあっちで買おう」という人も出てきたと思うのですが。
海津氏:
取りに来られない方がどうしても一定数いらっしゃるので、正直なところ、たしかに諸刃の剣です。とはいえ、それも踏まえて受注数を設定しているんです。弊社の場合は、発売週の日曜日以降はキャンセル扱いになるので、その後すぐ処理できてしまいますしね。
――予約という話では、最近「ゲームを予約購入するユーザーが減った」というお話をゲームメーカーから聞くんです。ゲオの認識としてはどうですか?
海津氏:
弊社に限った話ですが、予約が減ったという認識はないですね。これは弊社が頑張ってシェアを取った成果かなと思っています。前金を一切取らないし、ゲオアプリ【※】でも予約が取れますしね。

(画像はGEO Onlineより)
もちろんデメリットもあるのですが、それよりも、「ちゃんと数を取ろう」という方針で現在のスタイルを続けています。
――ちなみに、予約する人が減ると、何か影響はあるのでしょうか。
海津氏:
新品の発注に関わるので、予約実績は重要な数字です。例えば、予約が少ないと「人気がないのかな」という判断で受注数を下げるんですが、もし「実はその商品は人気があった」となった場合には、いざ店に行ったらお客様が買えない状況が発生してしまうわけです。
――なるほど。予約といえば、最近は転売もより一層問題化していますよね。
片岡氏:
もちろん問題として認識していますし、お客さんから「転売ヤーがメルカリ【※】に出してますよ」と言われたりもします(笑)。でも、正直なところ、どうにもできないのが現状です。
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少しでも平等にするために抽選販売を行うなどの対策をしていますが、これも店舗の規模や立地によっては行えなかったりします。
※メルカリ
2013年にサービスを開始したフリーマーケットアプリ。iOS/Androidで配信されている。出品や購入の手軽さゆえに若年層から絶大な人気を獲得している。
――それこそ購入時にマイナンバーが必要で、一回買ったら登録されるような制度にでもしないと厳しいですよね。そういう時代になった、ということなのですかね……。
海津氏:
昔と比べて転売し易くなったのは大きいですね。
片岡氏:
今は個人で容易に売買できますからね。
中古ゲーム市場の存在意義とは?
――さて、ここから本題に入っていきたいと思うのですが、ゲオのほぼ全ての店舗では、Switchのような新品を取り扱う一方で中古も扱われていますよね。ゲーマーの間では「中古ゲームはメーカーに利益がいかないからよくない」という意見もありますが、もし中古ゲーム市場がなくなるとどうなってしまうのでしょうか。
海津氏:
まず、弊社は運営が厳しくなりますね(笑)。新品と中古の売り上げ比率って、弊社では大体6:4ぐらいなんです。その上、弊社の場合は中古の利益をもとに新品を仕入れるので、新品の仕入れ量が減っていきますね。
――ゲームショップの数が今よりも減ってしまいそうだぞ、と。
海津氏:
ゲームを売る店は家電店さんとEC【※】しかなくなっていき、リアル店舗が激減すると思いますよ。そうなると、今度はソフトの単価が上がっちゃいます。
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※EC
Electronic Commerce(電子商取引)の略語。ここではインターネット上で商品を販売するサイトを指す。Amazonや楽天といった通販サイトもこれにあたる。
片岡氏:
メーカーさんも卸すところなくなっちゃいますし……絶対高騰しますよね。
――それは、多くのユーザーが知らない事実ではないでしょうか。実は中古市場が存在していることによって、むしろ新作ゲームの価格が安価に保たれているんですよね。
海津氏:
ゲームソフト・ハード市場では、弊社みたいな小売店の売上が3~4割ほどあるんです。もちろん一部は家電店さんみたいな大手小売店やECに流れますが、取扱い店が限られることによりゲーム自体が売れなくなっていくと思いますよ。
片岡氏:
中古市場でいうと、住宅や車の世界と似てるのかなと思います。
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――まさに中古車がこの世からなくなると、新車の価格が高騰するのと同じですね。ここは読者の納得がいかない表情も思い浮かぶのですが……(笑)、実のところゲームに限らず、他の産業でも普遍的にみられる現象だと思います。
海津氏:
そういうこともあり、正式に裁判が終わってから15年が経った今、中古商売はメーカーさんから「扱いやがって」みたいに強く糾弾されることが、ほぼなくなりました。
片岡氏:
追加のダウンロードコンテンツで、中古でも利益が得られるようになったのも大きいと思いますよ。
存在意義を担う「パッケージ」の未来
――そこでお聞きしたいのが、中古ゲームって全て“モノ”じゃないですか。ただ、将来的にデータ販売が主流になって、パッケージが作られなくなる時代が来るとも言われていますよね。
海津氏:
来て欲しくないんですけど、可能性はゼロではないですよね。ただ、そのような時代が来るには、まだ時間がかかると思っています。なによりも、まずネットインフラ【※】の強化が必要なんですよ。
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というのも、実はまだまだ速くない回線を使っている方が結構な数いらっしゃいますし、東京都内にいると分かりませんが、少しでも郊外に出るとWi-Fiの普及率ってガクンと落ちるんです。そう考えると、ダウンロードにしてもストリーミングにしても、まだまだインフラが弱いと言えます。
そしてもう一つ必要なのがストレージ容量ですね。ゲームがリッチになるにつれて容量は増えていきますので、パッケージがなくなるとかなりのストレージが必要になります。
※ネットインフラ
ネットワーク・インフラストラクチャーのこと。ここではインターネットに接続するための通信機器/通信回線の整備のことを指している。
――なるほど。ちなみに「パッケージを作り続けてほしい」という話は、メーカーさんにもするんでしょうか。
海津氏:
各メーカーさんにはお話しさせていただいています。我々だけではなく、流通さんやメーカーの営業さんもパッケージ販売を前提にお仕事されているので、そういったところからも話は出ているみたいですね。
片岡氏:
また、そうならないためにも我々は“お店に来る意義”を作らなくてはいけないと考えています。お店に人が来なくなる→ゲームソフトが売れなくなる→パッケージが作られなくなる、という流れが最悪なケースですしね。
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逆に、“お店に来る意義”さえあれば、100%なくなることはないと思っています。ここについては後ほど話させていただければ、と思います。
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