引っ越しても一緒! ヤドカリの貝殻にくっつく新種イソギンチャク「カルシファー」
2022.05.13 12:00:51 Friday
日本でヒメキンカライソギンチャクとして知られていたイソギンチャクが、学術的に新種であると判明しました。
「Stylobates calcifer(スタイロバテス カルシファー)」という学名を与えられた新種のイソギンチャクは、ジンゴロウヤドカリというヤドカリが住む貝殻の上に共生する、その姿が非常にユニークな深海生物です。
まるで無理矢理居座られているかのようですが、こう見えてジンゴロウヤドカリも、イソギンチャクとの共生を望んでいます。
ヤドカリが別の貝殻に移るとき、ヤドカリ自身がイソギンチャクを一緒に新しい貝殻に移して連れていくのです。
なぜ、ここまでしてこのヤドカリとイソギンチャクはベッタリなのでしょうか。
深海での生存戦略において、互いにとって唯一無二のバディとなる、共生の秘訣を探ってみましょう。
新種のイソギンチャクの研究については、2022年4月26日に東京大学 大気海洋研究所により発表されています。
目次
「宿」をつくるイソギンチャク×足となるヤドカリ

東京大学大気海洋研究所附属国際・地域連携研究センターの研究チームは、三重県や静岡県の深海を調査したところ、特殊なイソギンチャクを発見しました。
そのイソギンチャクは、ヤドカリの棲む貝殻の上で暮らし、自身の分泌物によりその貝殻構造を増大させることができるそうです。
信じがたい話に思えますが、イソギンチャクがヤドカリの宿である貝殻をどんどん大きくすることができるのです。
このイソギンチャクは以前から「ヒメキンカライソギンチャク」という和名で図鑑に載っていましたが、論文などで認定されたことがなく、学術的には無名の種でした。
そのため、2022年4月、東京大学の研究チームがヒメキンカライソギンチャクを、キンカライソギンチャク属における世界で5つ目の新種として正式に発表する運びとなりました。
このとき、研究チームによって”Stylobates calcifer”という学名が与えられたため、ヒメキンカライソギンチャクは世界共通で「カルシファー」と呼ばれることになります。
1986年の小説『魔法使いハウルと火の悪魔』に登場するカルシファーという火の悪魔にちなんで命名されたそうです。この小説はジブリ映画『ハウルの動く城』の原作でもあります。
このイソギンチャクの見た目や役割が、小説において「火の悪魔」であり宿主と契約して城を守るカルシファーと似ていると考えられ、学名に”calcifer”とそのまま採用されました。
ギブ&テイクの「相利共生」
カルシファーは、ジンゴロウヤドカリ以外のヤドカリを共生相手に選びません。また、ヤドカリにとっても、カルシファーの存在は生存戦略において大きなプラスとなっています。
二者は強い共生関係にあるとされており、深海生物におけるニコイチと言えるでしょう。
というのは、カルシファーとジンゴロウヤドカリの助け合いが次のようにして成り立っているからです。
一般にイソギンチャクは、ヤドカリの天敵であるタコを自身の刺胞の毒で追い払うことができます。
それだけでもヤドカリにとって大助かりですが、カルシファーの場合は、ヤドカリの貝殻を増築していくという信じがたい役割も果たします。
一方、カルシファーも、ヤドカリから食べ残しをもらったり、よりよい環境に移動する足としてヤドカリを頼ったりして、恩恵を受けています。
こうして、お互いにとってプラスのため共生を選ぶ「相利共生」が成立しています。

驚きの引っ越し方法
相方のカルシファーが宿の増築を進めてくれるとはいえ、よりよい貝殻が見つかれば、ヤドカリはそちらに宿を替えます。
そのとき、ヤドカリはカルシファーを置き去りにしません。
ヤドカリは自分が引っ越しを終えたあと、元の貝殻に取り残されたカルシファーを引き剥がして、新しく背負った貝殻へ時間をかけて移します。
カルシファーも、ヤドカリが最初に刺激を与えると「あ、引っ越すんだな」と気づくかのように、貝殻との接着部を緩めるそうです。

引っ越しまで共にする2匹の共生関係は、資源の少ない深海において、成長するヤドカリがなるべく宿を替えずに済むための戦略にもなっていると考えられています。
しかし、柔らかいイソギンチャクが貝殻のような固いものを生み出すメカニズムは、実はまだ明らかではありません。
様々な生存戦略をとる生物が多い深海ですが、カルシファーも魅力的な謎を持つ一員として、今後も注目を集めていくことでしょう。
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