『ブックビジネス2.0』が発売されましたね!

自分も遅ればせながら本日、購入してきました(まだ読んでいません(汗))。
この本に限らず何かと電子書籍・電子図書館が話題になることが最近多いですが、今月の三田図書館・情報学会の月例会も角川書店の新名さん、『出版流通合理化構想の検証』等の著書でも知られる湯浅先生のお二人を招いての、電子書籍関連のテーマについての会でした。
演題:再編される出版コンテンツ市場と図書館の役割
- 概要:
新しい電子書籍リーダーの発売が多くの関心を集めています。また,文芸書の新刊が電子書籍で発売され,デジタル雑誌の実証実験がおこなわれるなど,日本の出版流通業界にも大きな変化が起きようとしています。このような状況で,図書館が果たすべき役割も見直しを迫られています。
この研究会ではΣブックが発売された時代から一貫して電子書籍に関わってこられた角川書店の新名氏と,出版コンテンツの変容を絶えずフォローし,図書館に求められる役割を提言されてきた湯浅氏を講師に迎えます。そして,電子書籍ビジネスの現状と課題から,出版界と図書館界の連携の可能性まで,幅広くお話しいただく予定です。
ディスカッションでの新名さんのAmazonに関するお話が大変刺激的でしたが、それに限らず新名さんからは角川書店自身の状態も含めて数字を大いに取り入れたご発表があり、湯浅先生からは今こうして電子書籍が話題になる以前からの流れも踏まえてのお話があってと、とても面白い会でした。
以下、いつものように参加記録です。
なお例によってmin2-flyの聞きとれた/理解できた/書きとれた範囲の記録ですので、ご利用の際はその点ご理解願います。
お気づきの点等おありの場合はコメント欄などでご指摘いただければ幸いです。
では最初に角川書店の新名さんから、出版界で今起こりつつあることについてのご紹介です!



出版社はこれまで複本問題をめぐって、大手は特に図書館と矛を交える関係。我々も対策委員会を作ったことがある。
それも出版界が図書館に対して警戒心を持っていることの基盤になった。
長尾プランについても、私個人は面白いとも思っているが、出版界の中で意見を聞くと「そこを委ねてしまって、その後のプラットフォームの歯止めはどこまで行くのか?」ということを警戒している人が多い。
それを煽った図書館関係者もいる。
「図書館法はすぐ改正できるが著作者隣接権はすぐには・・・」みたいなことをおっしゃった方がいて、感情的な対立も生んでいる。
また、民業圧迫の部分については、あの部分をやりたいと考えている出版社もある。
しかしそれがAmazon、Apple、Googleの勢力に対抗できるものが作れるかは、個人的には非常に疑問でもある。
Sonyや凸版、朝日新聞、KDDIが組んで電子書店をやりたい、紀伊國屋が電子書店をやりたいという話があって、コンテンツを出してほしいと相談もある。
いかに業界のトップブランドが組んでも、Amazon一つにかなわないのではないか。
象徴的なのは、コンテンツを集めたいということでSony、KDDIが通信とハードウェアを担い、凸版と朝日新聞がコンテンツ集めを担当するということで朝日新聞の人が来た。
朝日新聞から来たのは書評の担当であった人でもあるが、そのとき半分からかい、半分本気でいったのは、「朝日新聞は大企業だと思っているだろうが、零細である我々から見たら朝日新聞はAmazonより小さい。本当に(朝日新聞で)できるの?」と言ったら絶句していた。
日本の大企業にはGoogle、Amazon、Appleの恐ろしさを知らない無垢な人々が多すぎる。
仕事でそれらとやり合うことは多いが、例えばAmazonのKindleで最初から大量にデータがあったのは、あれはAmazonが作ってくれとお願いしたって出版社がやってくれるわけはない。
じゃあなんで出来たかと言えば、print on demandのためのデータというのものがアメリカでは最初からあった。
そのデータを、日本の出版社や書店なら品切れ重版未定のために使うと考えるだろうが、Amazonは違う。
Amazonは例えばダヴィンチ・コード発売時に10万部買ったとして、1週間持つだろうと考えていたのが3日で売り切れたとする。
そこでもし出版社にも在庫がなければ、Amazonは迷わずprint on demandで刷って売る。
そのprint on demandの本にはISBNも入るし、print on demandであることは読者に明示しない。
さすがにpaper backに限られているし、print on demandの方が原価は高いが、そうすることで「Amazonに品切れはない」というブランドを作る。
そのためのprint on demandデータがアメリカの出版社にはあって、それがKindleに流された。
だからKindleには最初からデータが大量にあって売れた。
こういう発想を日本の出版社は持てるか? そういう相手と一戦交えようとしているのを朝日新聞の人たちはわかっているのか?
図書館の電子書籍で一番ネックになるのは著者。
著作者隣接権が出版社にないので、我々の一存でなかなか動かせない。
図書館との対立との話もあるが、出版社はまだビジネスの観点でものを見るが、著者は一個人なので感情でものを見る。
「図書館のせいで売れない」とか思いがちで、我々が話を持って行っても「うん」と言わない。
マーケティングツールに図書館はなると思うが、そこに至るまでに著作権者の意識改革をする必要がある。
他の公共図書館の館長と話す機会もあるが、NDLがなにかやってくれるならできるが自分たちではできない、という発想がある。
一方で社会教育委員会や市議会では「iPad時代に図書館はなにしてるの?」とも言われて困ると言う。
コンテンツをもっと増やすことが千代田等でできなければよそに広がることもないだろう。
・・・いや、ディスカッションでのAmazonの話が面白くてそれまでに考えたことがかなり吹っ飛んでしまったのですが・・・
Print on demandを、絶版本のために使うのではなく品切れで重版が間に合わない新刊本に使っていたとか。
しかもそのデータを電子書籍用に使いまわすとか。
なるほど、そいつは「そういう相手と一戦交えようとしているのを朝日新聞の人たちはわかっているのか?」との疑問もわかります。
同人界隈におけるダウンロード販売の普及っぷりとか*6、本じゃないけどYouTubeと棲み分けて独自に展開できているニコニコ動画のことなんかを考えると、依然、日本語と言う言語の壁がある日本で独自に商売成立させるってのは決して無理ではないはず。
無理ではないはずですが、とかくコンテンツ数を揃えないことには話にならないわけで、そこで日本の出版界隈のこれまでの慣行(契約等を結ばない)ってのが・・・それ自体は、逆に出版社から著者の権利を取り戻そうとしているオープンアクセス業界のことを考えてみても決して悪いことではないのですが・・・ネックになっている感じが伝わってきました。
新名さんのお話の中で電子書籍販売サイト数の多さが紹介されていましたが、いやいや、フォーマット等が統一されていない今の状況でそんなにあるのは収拾つかなくなるだけでは感も(汗
大きなところが本気で日本語で売ってきたらまとめて吹き飛ばない?
あとは、後半で話題になった長尾プランについて。
自分は参加するイベントの傾向の関係もあって、出版業界の中でも比較的長尾プランを肯定的に受け止めている方とお会いする機会が多いのですが、業界全体としてはやはり批判と言うか、警戒感を抱かれているのですね。
それを図書館関係者が煽って悪化させた、と言われてしまえばなんとも・・・危機感を煽って「一丸になってなんとかしよう!」という方向に行くことを期待したケースもあるかとは思いますが、お互いdisりあって対立してしまえばどうにも話が進まなくなってしまいますね・・・うーむ。
色々考えるところはありますが、すぐにはまとまりそうにもないですね。
ただ、最後に湯浅先生からあった「NDLがやってくれないと」という発想、あるいは「誰かがやってくれないと」という発想、という点は興味深いようにも思います。
もちろん予算の制限も時間の制限も人の制限もあり、単館レベルで出来ることには限りがあるのは当然とも思いますが、他方で業者にただ「やって」とお願いするだけでコンテンツが増えるんだったら今までの電子書籍関連サービスが「いつか来た道」呼ばわりされることもなかっただろう、というのも確かで。
湯浅先生から「やるなら日本の図書館全体で出版界に頼まないと」というご発言もありましたが、なんらかの形で出来ることがあるなら模索していかないと、他者任せで状況の変化に対応するのに追われているだけだとどうにもならんのかな、とかなんとか。
未来は自分の手で切り開くもの。
そこでNDLが自ら動き出したところは評価に値すると思うのですが、あとは出版社とどう友好関係築きうるのかですかねえ・・・*7
*1:Amazonでは売り切れ・マーケットプレイスにもない様子。NDL-OPACの書誌情報は次の通り:国立国会図書館オンライン | National Diet Library Online
*2:
*3:
*5:No.11 電子書籍の流通・利用・保存に関する調査研究 | カレントアウェアネス・ポータル
*6:そういえば最近自分が買った18歳未満が買えない本は全部ダウンロード購入ですね・・・
*7:築かないでやっちゃえ、といけるような規定も我が国にはないわけですしねー・・・
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