記憶するチューリップ、譲りあうヒマワリ
植物行動学
ゾーイ・シュランガ ー
岩崎晋也 訳
早川書房
2025年8月20日 初版印刷
2025年8月25日 初版発行
The Light Eaters
How the Unseen World of Plant Intelligence Offers a New Understanding of Life on Earth(2024)
2025年9月27日の日経新聞朝刊の書評で紹介されていた本。
記事には、
”植物は、ある場所に根を張り、天敵が来ても逃げることはできない。いつのまにか成長しているので動いているのは確かなのだろうが、オジギソウやハエトリグサのような例外を除いて、肉眼で動く様子は観察できない。そして、植物には脳がないので、当然知能も存在しない。あくまで「植物は静的かつ受動的な存在」というのが私たちの〝常識〟だ。
しかし、近年の研究により、植物は私たちの想像を超えて能動的に行動していることが明らかになりつつある。本書では、その植物の知られざる一面を多数紹介している。
植物のなかには虫や草食動物などに食べられないように葉などに毒を含むものがある。それを私たち人間は薬草として利用することもある。しかし、毛虫にある程度葉が食べられると、植物は葉の成分を変え、毛虫にとってまずい味になったり、毒の成分を出したりすることが研究によって明らかになった。最初から毒を仕込んでいるのではなく、攻撃されると毒を盛るのだ。
しかも驚いたことに、虫に葉をかじられていない近くの植物も、同様に葉の成分を変える。これは、葉をかじられた植物が空気中に化学物質を放出し、植物同士でコミュニケーションを取っているからだという。
さらに、トウモロコシは、イモムシに葉を食べられると、イモムシの唾液と吐き戻し液を調べてイモムシの種類を特定する。そしてそのイモムシに寄生するハチを呼ぶための化学物質を放出する。植物というものは私たちの想像以上に能動的に敵に立ち向かっているのである。
植物は音を感じ取ることもできる。エノテラ・ドルモンディというマツヨイグサ属の植物は、ミツバチの羽音を聞くと蜜の甘みを増すことがわかった。つまり、受粉を手伝ってもらうために能動的にミツバチを誘い込もうとしているということだ。
音を感じ取るだけでなく、植物が音を発することもわかっている。トマトは水不足になると、人間の耳には聞こえない音を出しているという。
これらの事例を知ると、植物に対する固定観念が覆され、「植物すごいぜ!」と思うはずだ。”
とあった。
植物が、コミュニケーションをとっているという話は、以前読んだ『樹木たちの知られざる生活 — 森林管理官が聴いた森の声(著:ペーター・ヴォールレーベン/訳:長谷川圭)でもでてきた。さもありなん、とも思っている。
面白そうだったので、図書館で借りて読んでみた。
表紙は、ヒマワリの絵。なんか、、、、カズオ・イシグロの『クララとおひさま』と印象が似ていて、、、暗くなる・・・・。
内容は、全然関係ないけど。
著者のゾーイ・シュランガ—は、 アトランティック誌記者。Quartz誌とニューズウィーク誌で 環境問題を担当。ニューヨーク・タイムズ紙、タイム紙、NPRなどにも記事を掲載。デトロイトの大気汚染報道で2017年全米科学記者協会賞を受賞、テキサス・メキシコ国境の水政策に関するシリーズで2019年リビングストン賞の最終候補。
訳の岩崎さんは、 1975年生まれ。京都大学文学部卒業。書店員などを経て翻訳家に。
早川書房のHPには、
”養老孟司氏(解剖学者)
「生きることの本質を植物から学ぶ、植物学の最新の成果。非常に興味深い」”
とある。
表紙をめくると、袖には、
”トマトは水分が不足すると音を出す。トウモロコシは虫に食べられると、その虫の天敵を呼ぶ。こうしたメカニズムは自然な現象か、あるいは植物が意図的に引き起こしているのか? 最新の植物行動学の見地から、生物の「知性」や「主体性」とはなにかに迫る!”
とある。
目次
プロローグ
第一章 植物の意識に関する疑問
第二章 科学界の意識はいかに変わるか
第三章 植物のコミュニケーション
第四章 鋭敏な感覚
第五章 耳を地面に当てて
第六章 (植物の)体は数を記録する
第七章 動物との会話
第八章 科学者とカメレオンつる
第九章 植物の社会生活
第一〇章 次世代への継承
第一一章 植物の未来
謝辞
訳者あとがき
原注
感想。
面白かった。
読み始めは、うん?なんだかな?つまらないかな?とおもったのだけれど、読み進めるとどんどん楽しくなる。
植物が、 植物同士でコミュニケーションを取る方法、あるいは虫や動物、環境から情報を得て自らの動きを導き出す方法、そうだよ、植物だって生き物で、言葉をはなさないだけで感情があるとは言わないけど、、、、人間が理解していないだけかもしれない!と思えてくる。
著者は、もともとジャーナリスト。 環境問題を取り扱っていたために、日々直面するのはくらい話ばかり。それがストレス緩和のために植物の世界をのぞき込むようにになり、気がつけば、すっかり植物研究者たちの取材に・・・。
ただ、学者としての植物研究者としては、植物がコミュニケーションをとるとか、植物が考えているとか、感じているということを口にすると、非難の対象となる時代があったため、多くの人は、「植物には知性がある」といった言い方はしない。でも、知性という言葉を人間を基準に考えれば「植物に知性がある」なんて狂っている、とおもうかもしれないけれど、いやいや、、、人間が植物を知らないだけで、知性がないのが人間では?とも思てて来る。
つまるところ、「植物に知性はあるのか?」というのが本書のおおきなテーマなのだけれど、「知性がある」という結論ではないが、人間が理解していない植物の宇宙のように壮大な世界がある、ということがわかる。
家にある植物たちをもっと慈しみたくなる、そんな本だった。
うん、面白い!
私は、植物学者、子供の時、あこがれなくはなかった。でも、きっと食べてはいけないだろう、、、、と子供ながらに思った。だから、職業として植物を研究するという道には進まなかったけれど、植物は大好きだ。実は、動物より好きかもしれない。犬、猫を飼いたいとはあまり思わないけれど、植物が家にない生活なんて、考えられない。こうして、ブログを書いていても、ふと顔をあげれば、家のあちこちに緑がある。ベランダから摘んだ花もある。花屋さんでかってきた花もある。花瓶にさしたら、何年も持ち続けているグリーンもある。みんな、私からなにかの信号を読み取っているのかもしれない。
植物も、立派な生き物である。
コミュニケーションとれる相手である。
そんな気にしてくれる一冊だった。
記事や目次にある通り、次々にいろんな植物の能力が紹介されている。
ちょっと、覚書。
・オリヴァー・サックス『オアハカ日誌』: メキシコのオアハカへシダの調査旅行へ行った際の感動の記録。
・重さでは、植物は地球の生き物の80%を占めている。
・アリストテレスは、人間の考えるヒエラルキーで、人間が最上位、植物が最下位とした。それに反して、弟子のテオプラストスは、人間と同じヒエラルキーで植物を語ることできず、植物は独自のカテゴリーであるとした。(BC350)
アリストテレスは、女性は男性より劣るとしていたのに、後世ではすばらしい哲学者のように言われている。これは、白人男性に都合の良い話だったからだろう。植物に対してもなんたる尊大な態度。近頃私は、アリストテレスは、ただのぼっちゃん(小僧)だと思っている。なにが、えらそうに、けっ!ってな感じ。
テオプラストスなんて、知らなかったけど、すごい奴じゃないか。『植物誌』を書いたらしい。
・ダーウィンも、晩年に植物の研究に没頭し、根が切られても水を求めて再生し伸びる様子を「根の脳」といい、「植物の幼根先端は、脳のような機能がある」と主張した。が、当時はだれも合意しなかった。
・植物は、電気信号を感覚として受け取る。人間と一緒。カルシウムイオンの流入による電位差を細胞に次々と伝達する。動物でも知られているイオンチャネルが植物にもある。ただし、そのタンパク質は異なる。
・トライコーム:植物の葉にある葉に毛のような構造。 トライフォームによって 植物は ガヤ 芋虫が歩いていることを感知し それに応じて 防御を固めることが分かっている。あるいは、音を聞いているのか?
・多くの植物はバイセクシャル。おしべとめしべの両方を持つ。イチョウは、雄株と雌株があるが、途中で性転換したイチョウの記録がある。雄株だったのに、突然銀杏をつけた。日本の天然記念物のイチョウでも観察されたらしい。どこの話かは記載なし。
・植物は擬態する。ライ麦は、小麦畑で雑草として抜き取られないように、だんだんと小麦に近づいていった。そして、ついには、ライ麦も穀物としてその地位を確立。
・植物が擬態する(周囲にあるものと似る)メカニズムは不明。だが、最近ではマイクロRNAと言われる遺伝子が微生物等によって、伝達されているのではないか、という説がある。
遺伝子の伝達は、トウモロコシのトランスポゾンなど、一般にもよく知られているものがある。ウィルスやベクターと呼ばれる小さなDNAも、遺伝子運び屋となりえるので、微生物を介して遺伝子が複製、挿入されるというのは、学説的にさもありなん、と思う。
私たちは、動物も植物も、微生物に囲まれて生きている。
・「ホロビオント」:多くの生物からなり、協調して働く複合生物。人間のミトコンドリアや、植物の葉緑体もその一つ。
・ヒマワリの近親同士を隣に並べて畑に植えると、最大47%油の収穫量が増えた。ヒマワリをかつてなかったほど密集させて植えると、近くで育つヒマワリは常に地下で攻撃し合うと考えられていたが、逆のことが起きた。地上では、隣り合う近親を日陰にしないように茎を曲げた。
本書のタイトル、「譲りあうヒマワリ」は、近親同士のヒマワリが互いに影響し合うはなし。
・アレロパシー:上記ヒマワリのように、他の植物に互いに影響し合うこと。 資源が少ない時、他の植物の発芽を抑制するために土壌中に化学物質を放出する。 そのため ヒマワリは庭に入る雑草を防ぐとされる。トマトとバジルを近くに植えると、トマトが甘くなるのもその一つ。
最後の章では、植物の無限の可能性が語られていて、その奥深さに感動を覚える。たしかに、植物は地球上の唯一の生産者。光合成をして他の動物に必要な酸素、そして炭水化物をつくってくれる。カフェインやある種のアルカロイドなど、動物には到底つくりだすことのできない複雑な構造の物質も作り出せる。
人間にはない驚異的な能力を持つ植物。人間が理解できる言葉や文字をもたないだけで、生物界のヒエラルキーの下位と考えるは、人間のエゴだろう。
植物はすごい。
なんだか、植物園にいきたくなった。
植物の声に、そっと耳を澄ませてみれば、違う世界がみえてくるかも。。。。

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