と同時に、宮崎駿は「魔が差した」作品として、黒歴史扱いしているのも有名な話。
このあたりはだいぶ前に書いたエキサイトニュースの記事に「紅の豚」関連の宮崎駿周辺の発言や記録をがっつりまとめているので、こちらも是非読んでみてください。当時の自分頑張ったなー本買いまくってめっちゃまとめてるじゃん。
「僕は、政治的には再軍備も反対だったし未だにPKOも反対な人間なんですけれど、軍事的なことについて、一貫して興味を持っているんですね」
「魔がさしたんです……、ああいうのは……」
ミリタリー好きからは逃れられないもので、それを精算したのが「風立ちぬ」でしょうか。「君たちはどう生きるか」でもキャノピー作ってたり、ちっちゃい戦車出してたりしましたね。
「紅の豚」については庵野秀明がくそみそにいっており「『紅の豚』はもうダメです。あれが宮崎さんのプライベート・フィルムみたいですけれど、ダメでした。僕の感覚だと、パンツを脱いでいないんですよ」とバチバチに叩いています。そこまで言わんでも、と思うけどこれこそが後の「風立ちぬ」につながる、ふたりの作家のものづくりへの愛だったんだなーとも。
人が死ぬシーンがなくて、ほんわかかっこよくて、主人公が豚で、ロリコンの夢みたいなフィオと、大人の女性の権化みたいなジーナに好かれて。…あ、確かにパンツ脱いでないわ。おっさん趣味丸出しでかっこつけすぎて「魔がさした」というところなのかな。
でもね、そこがいいじゃん。エンタメとしてはこういうかっこいいヒーロー、美しいヒロインたち、見たかったんですよ!ちょっと恥ずいから自己投影は豚っていうのも、共感できるじゃん!
宮崎駿の自己追求の芸術ではないかもしれないけれども、好きなものを詰め込んでみせてくれたわけでしょう、最高のエンタメじゃないですか。
その好きなものをもっとむき出しにして、グロテスクさにも目を背けなかったのが「風立ちぬ」なのも、わかりますが!ちょっとくらいかっこつけてるのも、いいよね。そこが大人だから、アーティストだから、恥ずかしかったのかもしれないけれども、観客のぼくは嬉しかったよ。
それまでの宮崎駿作品は子どもたちが主役で、見ていて爽快だったんだけれども、ある意味「カリオストロの城」に戻ったと言うか、かっこつけて理性で人間の本来の部分を隠しているのが「紅の豚」。
ルパンがクラリスを抱きしめなかったように、ポルコもフィオのラブには答えない。フィオはあらゆる宮崎駿作品の中でもロリコン度MAXだったと思います。「手を出さない」ことで豚のキャラを立たせるキャラでしたね。
そんなハードボイルド、あるいはハードボイルドごっこが、ぼくはたまらなく好きなんです。電話口で「飛ばねえ豚はただの豚だ」なんていうの、ださいじゃないですか。だから現実を見ているジーナにも怒られるんだけど、言っちゃうんだよ。男って本当にバカね! でもバカなミリタリー狂の男が夢中になって飛ぶところ、見たいじゃん。手に汗握って空中で赤い飛行機ひねる馬鹿男、見たいじゃん。
ぼくはそういう馬鹿野郎が大好きなので、夢中になって「紅の豚」を見続けてきました。何度見ても飽きない。
アクションシーンの描きこみは素晴らしいし、ばあちゃんたちや子どもたちの蠢きまくる命も素晴らしいし、ジーナのファム・ファタル感も素晴らしいし、真逆のようでそっくりなカーチスも素晴らしいし、マンマ・ユート団の馬鹿っぽさも素晴らしいし、男が夢想するであろう理想の少女像たるフィオの姿も素晴らしい。
ただ、人間そんなに完璧の積み重ねでできているわけではない、と指摘されると辛い。それはそう。
何より人が死なない。死んでいる人間はいるけど死ぬシーンはない。あんだけドンパチやれば誰かしら死ぬはずだけど死なない。「もののけ姫」はちゃんと死ぬのに。ここもずるいと言えばずるいんだけど、エンタメ作りとしては何の違和感もなくて安心して見られる。目を背けたとも言えるんだけれども……。
いいじゃんたまには。
家族向けハードボイルドごっこアニメとして完璧です。だから多分、刺さった人が大好きになるのは、仕方ない。ぼくは「紅の豚」を愛する自分を肯定します。
「紅の豚」を「風立ちぬ」「君たちはどう生きるか」とあえて比較しながら見ると、人間ってそんな簡単にストーリー化できないことや、複雑に動く綺麗で汚い生命の描写そのものが全然違うので、発見が多いという点でも意義のある作品だと思います。飛び立つオウムの群れのうんちの雨は、「紅の豚」の輝く赤い翼やかっこつけたセリフとベクトルが違う美しさがありました。
ぼくは作中でポルコたちがカートゥーンアニメをぼんやり見ながらしゃべっているときのような格好をして、「紅の豚」を見て「いい映画だ」と全肯定するのが好きです。全肯定する自分が好きです。
ぼくのアッパー系脳内麻薬にしてチルアウト作品、おじさんの夢「紅の豚」は、誰がなんと言おうと、作者がなんと言おうと、一生の宝物です。ありがとう宮崎駿。
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