Movatterモバイル変換


[0]ホーム

URL:


たまごまごごはん

たまごまごのたまごなひとことメモ

中世ヨーロッパのパンも現代日本のパンも、みんな違ってみんな良い「ペストが明けたら遊びましょう!」

この記事をはてなブックマークに追加

 

タイトルでぎょっとしてしまう「ペストが明けたら遊びましょう!~中世ヨーロッパ世界と現代文明スローライフ~」

ペスト(黒死病)という言葉は最悪なイメージしか無いですよ。不衛生な中次々死んで路上に転がる死体、飲めない井戸水、あふれかえるネズミ、いつ伝染るかわからない日々の恐怖。

ってことはそれと闘う話なのか…?と思いきや全然違う。すごく前向きだし、清潔な話です。

ペストから抜け出し始めた中世は、コロナ禍から明けかけた現代と似ているかもね。

 

ヒロインは1353年の神聖ローマ帝国(今のドイツらへん?)に住む少女、レイチェル。ペストで両親も友達も失い、崩壊した都市から離れて田舎の村にやってきた若い独り身の女の子。はっきりと死は描かれていないものの、境遇自体は悲惨です。今は田舎でパン焼き職人をやっています。

そこに現れたのが、現代日本からやってきた、よくラノベにでてくるタイプの異世界(タイムスリップ?)転移者(転生ではない)の小納谷愛舞。彼女は向こう(日本)からこちらにいろいろなものを送ってもらうことが可能ですが、こちら(神聖ローマ帝国)から向こうへは送れない+戻れないという特殊な状況。帰れなくなっちゃったけど、現代社会の文明の利器で困ることはない。

彼女が現代の科学を披露し、レイチェル含む中世の人を驚かせていく…という異世界文化交流の現代人無双ものかと思いきや、この漫画が描こうとしているものはそこじゃない。

 

ぼくがこの作品を好きな理由のひとつが、現代文化が中世に勝っているとは言っていないところです。

パンのシーンが特に印象的。レイチェルはパン職人。そんな彼女に愛舞は現代日本で買って食べることのできるパンを食べさせてあげます。これでレイチェルは、おいしすぎるとすっかり心が折れそうになるのですが、愛舞は全然そう思っていない。

むしろレイチェルの作るパンに感激しっぱなしです。シュトゥッツベッグ、フォルコーンブロート、プレーツェル…。どれもこれもおいしそうのベクトルが違う。職人の技術によって作られたパンは、袋に入ったパンと異なる手のこんだ味わいがあります。

中でもロッゲンブロートは二人の評価がガッツリ分かれていて面白い。レイチェル側としては最安値の田舎風パンがそんな評価されると思っていなかったわけで。でも愛舞にしてみたら、職人さん手作りの贅沢でおいしいパン、という認識。

 

この作品全体的に、愛舞の持ち込む現代日本文化が特異なのは事実なんだけれども、それを目立たせて戦闘や政治・経済に持ち込まれることはないです。魔女として村のはずれでこっそり暮らしているだけなのがみそ。レイチェルと出会ったことで食べ物やお風呂やVRなどをシェアして楽しみはするものの、それ以上のことはしない。ほんと、ペストがあけかけたので中世の日々を楽しむためにちょっと便利なことして遊ぼうか、くらいのノリ。

レイチェルは愛舞の世界の文化が魔法みたいだ、とは思ってはいるけれども、自分たちの世界のいいものを愛舞にもちゃんと伝えている、というのがこの作品のとてもいいところ。

神聖ローマ帝国の家にこもっていた時期のスローライフと、日本人がコロナで家にこもっていた時期のスローライフの交換会、と言った様相。なのでレイチェルと愛舞が対等なのが、ぼくはとても好きです。どうしてもこういうのって、未来人側が神様ポジションになっちゃうと感じてしまうんですが、ふたりのリスペクトのおかげで決してそうならない。

 

たとえば、マスタードがないとする。愛舞の家から送ってもらうのは簡単です。でもレイチェルは、自分たちの努力で他の地域の人と親しくなろうとした結果、仲良くなってマスタードを近所の人に分けてもらえます。

どっちのマスタードがおいしいか、といわれたら味だけなら前者だけれども、後者の方がもっといろいろな価値があるはず。

 

愛舞が技術で無双して村のリーダーになることだって、多分できたんだよ。でもしない。700年前の世界に今と違うすごさがあるのをちゃんとわかってリスペクトしている。

未来を教える愛舞、中世を教えるレイチェル。ギブアンドテイクです。文化で上下をつけない意識が徹底しているので、かなり読みやすいです。

作者の「中世西欧の世界を史実を参考に実際に漫画に落とし込むと、彼らが過小評価されているのではないかと感じることが多々あります」という発言が、この作品の根幹にある気がします。

 

異世界というよりタイムスリップものなので、今後「魔女」の語が運命に悪さをしそうで怖いのですが、今は人間関係がスムーズなのでじっくり見守りたいところです。

豆知識ページも毎話はさまれていて、それが超盛りだくさんで勉強にもなります。学生さん、おすすめです、まじで。めちゃくちゃ時代考証されています。

コロナにせよペストにせよ、現代にせよ中世にせよ、悪いところは探せばいっぱいある。けれども「こんな素敵なものがあるんだ!」とお互いに自慢しあえるくらいに、いいところもあるんだと再認識させてくれます。どの時代も、疫病みたいな悪いことは山ほどあるけど、世の中そんなに捨てたもんじゃないよ。

検索

引用をストックしました

引用するにはまずログインしてください

引用をストックできませんでした。再度お試しください

限定公開記事のため引用できません。

読者です読者をやめる読者になる読者になる

[8]ページ先頭

©2009-2025 Movatter.jp