
行政機関が管理する膨大な数の「文字」がデジタル改革を阻んでいる。字形がわずかに異なる文字も含め、戸籍だけで約70万字。岸田文雄政権は自治体の情報システムを効率化するため、約7万字に絞り込む計画だ。だが、人によっては名前の漢字が変わる可能性があり、慎重論もくすぶる。文字を決めるのは誰なのか――。
「スマートフォンやパソコンで表示できない文字がある。魑魅魍魎(ちみもうりょう)とした世界だ」
デジタル庁幹部は、戸籍などで使われてきた文字の特異性をそう表現し、「自治体システムを複雑にし、ガラパゴス化させた元凶だ」と言い切った。
政府は、自治体ごとに仕様がばらばらな戸籍や住民基本台帳、国民年金など20業務の情報システムを2025年度末までに標準化する方針を掲げている。
人口減少で公務員の確保が難しくなる中、システムの効率的な運用で行政サービスの質を維持する目的だ。多すぎる文字をどこまで減らせるかが、焦点の一つになっている。
例えば「辺」という文字には、旧字体の「邊」の他に、形がわずかに異なるものが多数存在する。自治体によって使える文字は異なり、ある自治体では使えても、別の自治体では文字化けするなどしてシステム連携に支障が出かねない。
法務省によると、全国の戸籍システムには約70万字が使われており、スマートフォンで通常表示できる約1万字をはるかに上回る。
政府はこの約70万字を分析し、わずかな字形の差なら同じ文字とみなして約7万字に絞り込んだ。これを「行政事務標準文字」と称し、23年3月に全国の自治体に提示。20業務のシステムで使用を義務づける考えだった。
ところが、改革は出だしからつまずいている。…
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