何度目かの韓国にやってきた。配偶者のオタ活のおともである。また、同時に、今回、韓国でめちゃくちゃスープを飲むぞと思っていた。韓国というのは、キムチ、チャプチェ、チジミ、トッポギなどなど、それぞれに魅力的な食べ物がたくさんあるわけなのだけど、個人的には韓国というのはスープ大国だなと思っていた。
日本で、飲食店に行ってスープを飲むということはあまりないような気がする。、韓国におけるスープは日本におけるスープとは違い、熱々の器でぐつぐつに煮られたドデカスープで大変な食べ応えなのである。おそらく日本と韓国ではスープの位置づけが違うのだろうなと思う。文化圏として近いがゆえに違う点を体験するのは楽しいものだ。オタ活でるんるんの配偶者を脇目に、僕はスープでわくわくであった。
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インチョン国際空港に到着すると、配偶者は速やかにスマホで検索をはじめ、こっち!と僕を先導した。韓国のソウルから少し南下したところにある水原という街が今回の目的地である。水原は、古い城壁が残っていたりして、日本で例えるなら、東京からちょっと南下して古い町並みというと鎌倉のようなイメージだろうか。

水原に着いた。配偶者はオタ活で忙しかったので、じゃっと言い残しつむじ風のように雑踏へと消えていった。

水原は、図書館が映えるということで有名らしくホテルから一駅だったので行ってみることにした。図書館は、ショッピングモールのなかに入っていて、なんというか、資本主義だ....という以外にあまり感想がなかった。本を読んでいる人や借りている人がいるというよりは、インテリアとして本が飾られているという感じだ。(そもそも手に取れないところに本がありすぎでは...)

図書館は本の未来というよりは、どちらかというと本という媒体の終わりを感じさせるもので、本の墓を見ているような気持になった。図書館の横に韓国の古いレコードが聴けるカフェがあったのでそこで、韓国の古い歌手のレコードを聴いたりした。
韓国の昔の若者のアンニュイな顔

さて、一人でどうしようかなあと街をあてどなく歩いていた。水原は古い建築がいろんなところに残っているので、単に散歩をしているだけでも楽しい。

GoogleMapを見ながら、スープがありそうなところを探してみることにした。少し歩いたところに、器から骨がどーんと飛び出たスープを出している店を見つけた。これはなんんかよさそうではないかと向かってみることにした。
Hwacheong Galbi

ソジュ(韓国の焼酎)、ユッケ、カルビタンを注文した。ユッケを食べるのは久しぶりだ。肉は、焼いたほうがうまいのではという気持ちがあり、日本で食べることはほとんどないのだけど、韓国にくるとやっぱり食べたくなってしまう。目の前で店員さんが、手袋をつけて肉、かいわれ、卵、梨をかきまぜていく。こんもり混然一体となったところで、店員さんは去っていった。
肉は新鮮そうな色をしている。たまごがねっとりとした一体感を作っている。ゴマ油を少しつけ食べる。大変おいしい。肉のこってりとしたうまみと、梨のさっぱりがいい組み合わせである。しかし、今回の目的はこれではないのだ。

ちびちびとソジュを飲む。よい甘味である。店内には一組しか客がいなかった。窓の外を見るとときおりシュンと車が通る。さみしげな夜である。ユッケをつまむ。そしてソジュを飲む。
そんな感じで骨の飛び出たスープ、すなわちカルビタン待っていると、10分ほどでぐつぐつに煮えた器が運ばれてきた。まず何を思ったか。スープではない、骨である。いくら何でも骨飛び出すぎだろ....と思った。自分の足の骨を切り出したくらいの大きさがあった。恐ろしい熱さでスープは煮えている。湯気に包まれ、ぐっと牛のいい匂いがした。ああ、ここは韓国。灼熱のスープの国。
スプーンに救ったスープをふーふーと必死にさます。あまりにもぐつぐつなので、ちょっとスプーンをスープにつけているだけで、スプーンまで丸ごと熱くなってしまうのである。

カルビタンは牛の出汁がたっぷり出ていてとても幸福な味がした。骨を手に取り、骨についている肉をこそげ落としていく。なんというか不思議な工程である。無心で肉をこそぎ、スープとネギと合わせて食べる。肉はすこしごつごつしているけれど野趣にあふれていて、またそれが良いなあと思った。この肉とスープの塩味が、ソジュに合うのだ。
湯気に顔を包まれ、口内に複数個所のやけどを作り、はひはひ言いながら、スープはしかし大変美味しかった。スープの旅は出だしから好調のようだ。

翌日、配偶者のオタ活は夕刻からだったので、朝ごはんを一緒に食べることになった。僕は、ホテルの近くで朝からやっている飲食店はないかなあと探していると、いろいろなスープを出している店があるのを見つけた。

ぼくは、メニューの写真を撮って、スマホで翻訳した。いまいち正確なところは分からなかったのだけど、じゃあ、これと指さして注文してみることにした。スンデタンというメニューのようだった。スンデというのは、豚の腸に、豚の血やもち米、春雨、香味野菜などを入れた韓国の伝統料理である。配偶者は、カルビタンを注文していた。タンという言葉がさっきからやたらと出てきているが、タンというのは、湯であり、つまりスープのことである。
やはりぐつぐつの器が運ばれてきた。昨日、口の中を見事にやられたので、しばし冷めるのを待つ。

ぐつぐつがおさまってきた。スンデが白濁のスープの中にたくさん潜んでいる。形状はソーセージなのだけど、食感は完全に肉という感じでもなくて、もちっとしているけれど、べとべともしていない不思議な食感である。香りもすこし独特なところがあるので、食べるのに慣れが必要そうである。しかし、こういう土地固有のものを食べるのは楽しい。

配偶者は、カルビタンを食べていた。昨日僕の食べた野生的カルビタンとは違い、なんとも抑制的なカルビタンである。配偶者は、熱いものに大変強いので、僕が、熱々が沈静化するのを待つ間、あちあちと言いながらスープを勢いよく飲み進めていた。
骨付きの肉が底に沈んでいた。配偶者は、骨を箸でつまみ上げ食べようとしていたのだけど、骨が重いので、スープの中に、ぼちゃぼちゃと持ち上げた骨を落としていた。

「もう、スープが服にめっちゃ跳ねるんだけど!」と配偶者が怒り始めた。
「そこの皿に出したらいいんじゃないの」
「ああ、なるほどね」と言いながら配偶者はまた骨をスープの中に落とし「もう!何なの、美味しいけどさ!」と憤慨しながらも、「うまい、うまい」と白濁するスープを嬉しそうに飲んでいた。
朝からスープに惑わされた。午前中は普通に観光をした。水原というのは、伝統的な建築が街中にたくさん残っていて楽しいのだ。


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水原という街はカルビが有名らしい。韓国というと豚のイメージがあるが、牛が名物な地域もあるだなあと思った。水原で有名なカボジョンという店に行ってみることにした。少し遅い時間で、店も大きそうだったのでまあ、多少混んでいるかもしれないけど、すぐ入れるだろうと思っていた。
カボジョン

店の前にも、特に並んでいる人はいなかったので、よしよしと店に近づくと、店内には、わんさか人がいた。ざっと50人くらいは待っているようだった。ウェイティングリストに名前を書いて待つことにした。リストの名前を見ると自分以外全員韓国人のようだった。ソウルだと、50人もいると数人は日本人が混ざっていたりするが、ソウルを外れると、日本人は全然いないのだなあと思った。
こんな並んでるのか......と思っていたのだけど、店がかなり大きいので回転が速く、15分も待っていると順番が回ってきた。
メニューをひらく。生カルビと味付けカルビがあるようだった。どちらも大変美味そうである。それをひとつずつ注文してみることにした。
これが生カルビである。贅沢にサシが入っている。

こちらが味付きカルビだ。中心に骨があり、それを巻くように肉が伸びている。

店員さんが焼いてくれる。

肉が焦げないように、焼けた肉は骨の上に積んでくれる。これはよいアイデアである。なんといっても脂が美味しかった。スープのように脂が流れ出てくるのだ。生カルビも美味しかったのだけど、味付きカルビが、なんともいい味わいの甘じょっぱいタレに付け込まれていて、口に含むとそれだけでよだれがぶわっと出てくるような、そんな味わいだった。久しぶりに焼肉をしたのだけど、やっぱり焼肉はいいなあと思った。

スープという観点でというと、おこげスープというような感じのものを注文したのだけど、写真を撮るのをわすれてしまった。焦げがいい香りでおかゆのような感じであった。
腹ごなしに市場を散歩した。



夕方、配偶者はオタ活へと向かっていった。僕も途中までオタ活についていったのだけど、途中でやや時間を持て余したので、「ちょっとご飯食べてくるね」と言って別行動することにした。

ぶらぶらと街を散歩する。徐々に腹が減ってきた。繁華街があったので進んでいく。街の中の食堂に目を光らせる。どれがいいだろうか。あれはなんかどこにでもあるチェーン店っぽいな、あれはちょっと入りずらそう、あれは今食べる気分じゃないななどといろいろ考える。知らない街で過ごすこんな時間が意外と楽しかったりする。
デジクッパの美味しそうな写真を掲げている店があるのを見つけたので入ってみることにした。席に着くや否やデジクッパを注文した。韓国語でいくつか質問をされたのだけど、全然わからず、Yeah, yes, yesと答えていると何かを納得してくれたようで、スタッフの人は去っていった。何かのオプションについておそらく聞かれていたのだろうと思うが、まあ細かい部分はなんでもよいのである。
何度目みたことか、ぐつぐつの器がやってきた。キムチも美味しそうである。

スープをかき混ぜる。薄い豚肉が大量に入っている。乳化した白いスープは豚骨ラーメンを思わせる。なんだかんだけっこう遅い時間になっていたので、腹が減っていた。すくって飲むと、スープがつーっと食道を下っていくのを感じた。豚のうまみがふわっと膨らむ。ネギがよい香りをつける。アミ塩辛を入れて味を少し強くする。米とキムチも追加して、ぐるぐると混ぜて食べる。美味しい。韓国料理は味変が好きな人にとっては大変向いていると思う。

いやあ、韓国のスープはいいものだなあと思った。しっかりお腹にもたまった。温かく、塩気のある、スープという観点では、韓国におけるスープの需要は、日本ではラーメンがひきうけているのかもしれないなと思ったりした。
オタ活を存分に楽しんできた配偶者に合流した。「あのね、あそこのだれだれがうんぬんかんぬんで、それはとても信じられないようなことで、素晴らしいことだったのだ!!」というようなことをすごい勢いで話してきた。僕は、正直半分くらいしか分からなかったのだけど、うんうんそうかそうか、なるほどと相槌を打ち続けた。

最終日、朝ごはんを食べて、あとは帰宅の飛行機に乗るだけだ。何かスープないかなあと探していると配偶者が、ここ、有名らしいよとユチ会館という店を教えてくれた。ヘジャングクという酔い覚ましのスープが美味しいと評判のようだ。熱狂から冷め、日常に帰るのにとてもよいスープのように思った。

これがヘジャングクである。

肉の出汁がめちゃくちゃよく出ている味噌ベースのスープである。上の写真中央の黒い物体はソンジという豚の血を固めたものだ。レバーのように見えるけれど、そんなにつよい味はせず、なんというかでっかいゼラチンのような雰囲気だ。
肉は火が通っているのだけど、少し赤みがかっているように感じた。韓国語を翻訳しているので正確かは不明だけど、検索してみた感じだと、どうも牛すじのようである。たっぷりと牛すじが入っていて、本当にぜいたくである。前日に大量に飲み食いして、これを食べるのだろうかという疑問はわいてくる。韓国人は健啖家が多いのかもしれない。何はともあれ、抜群に美味しい。
配偶者も「なにこれ、はーうまっ!」といって必死に食べていた。配偶者はうまいものを前にすると勢いがすごいので見ていて楽しい。

米を入れる。野菜もたっぷり入っていて栄養もよさそうだ。これを血が回りきっていないような極寒の韓国の早朝に食べたりしたら、もうとんでもないおいしさなんだろうなあと思う。韓国には、たくさんの魅惑的スープがあった。とにかく具沢山で、これだけで、お腹いっぱいになってしまう。あったかい液体がお腹を満たすのは幸せなことである。スープ大国韓国、今度は真冬に来て、もっとたくさんのスープを飲まねばならない!
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国内外、色々な場所に旅行にいった記録が本になりました!ソウルで平壌冷麺食べたり、ホーチミンでカオラウ食べたり、宮城ではらこ飯食べたり埼玉でなまずを食べたりしています!
食べ物好きなかたはぜひ!
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