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九条林檎さんにVTuberシーンで今話題のトピックや活動の裏側を聞いていく連載「おしえて、九条林檎様!」も、第10回を迎えました。今回のトークテーマは切り抜き動画です。
長時間に及ぶ配信のダイジェストを気軽に視聴することができる切り抜き動画は、ファンとしてはありがたい存在。VTuberとしても認知を広げる手段として受け入れられています。
一方で誤解を生む動画を嫌って切り抜きを禁止するVTuberも少なからずいて、スタンスは人ぞれぞれです。VTuberにとって切り抜き動画とはどういう存在なのか。切り抜き動画の今後の展望と共に聞きました。
目次
- どんなVTuberでも狙って獲得できない切り抜き師の希少性
- 切り抜き動画の収益はVTuberに還元されない?
- 自ら切り抜き動画を制作するVTuberが増えている理由
- 切り抜き動画の産業化は加速する? 九条林檎が予測する未来
どんなVTuberでも狙って獲得できない切り抜き師の希少性
──今日もよろしくおねがいします。最初に切り抜き動画に対するスタンスから聞かせてください。
九条林檎 我のファンコミュニティの規模はあまり大きくなく、特段ルールを策定せずともトラブルが起きないため、配信の切り抜きはVEE所属時代を除いて自由としている(編注:VEEには「ファンコンテンツ創作ガイドライン」があり、切り抜き動画を投稿するには申請して許諾を受けなければならない)。
──YouTubeチャンネルの登録者数が4万人を超えていても特に問題は起きないと?
九条林檎 切り抜き動画に関しては全く起こっていない。そもそも切り抜き動画をつくるファンがそれほど多くないのがあると思う。我は公序良俗に反するようなものでなければ切り抜き動画はあればあるほど良いと思っているので、切り抜き動画をつくるのに便利なソフトや面白くするコツを教える講座を配信したことがある。
九条林檎 結果、我の切り抜き動画のハッシュタグである「#RINGO_cut」を付けて、2024年に投稿された動画の数は3つだ。
──3つですか……! 配信の頻度が今より多かった時期はどうだったのでしょう。
九条林檎 今より多少は多かったが、定期的に投稿する者はあんまりいなかったな。
──林檎さんのファンの方々に、いわゆる切り抜き師があまりいないのは何か理由があるんでしょうか?
九条林檎 あくまで予想ではあるが、まずは公式のコンテンツを楽しむのを第一にしている者が多いのではないかと思う。我が活動をはじめた2018年は、Shorts文化も今ほど大きくなく、切り抜きもまだそこまで盛んではなかったのもあるだろう。最近のいわゆる切り抜き師はTikTokやYouTubeショートに慣れ親しんでいる者も多いと聞く。
ただ、我も昔からファンアートは多く描いてもらっているから、二次創作に熱心なファンが少ないわけではないんだ。単純に動画編集のスキルを持っていたり、編集する時間がある者が少ないのだと思う。
──そうなると、SNSのフォロワーやYouTubeチャンネルの登録者数が多いほど、動画編集のスキルを持つ人がいる可能性が増えますよね。
九条林檎 ああ。あとは運だな。切り抜き動画をつくるスキルを持つ者はいないわけではないが希少なんだ。そこにさらに、余暇を使ってわざわざ切り抜き動画をつくろうとする情熱と、実際に作業の時間を取れるファンとなると実に稀なものになる。狙って獲得するようなものではない。切り抜き動画をつくるのは本当に大変だからな。
──配信などの素材があるとはいえ、1本の動画を編集するのと同様ですからね。
九条林檎 素材となる配信がまず何時間もあったりするわけだ。そして、その中で自分が面白いと感じた部分をメモしておかなければならない。確認のために配信のアーカイブも見返すだろう。
面白い部分を切って貼るだけでも立派な切り抜きだが、我々がよく見かけるようなものだと、上手いこと間を詰めたり、画面構成を変えてみたり、ちょっとズームしてみたりエフェクトを足してみたり、やっていることは非常に多い。テロップを入れるなら文字起こしも必要だが、これがまた面倒くさい。
我も切り抜き動画をつくっていたことがあるんだが、最低5時間はかかっていた。2日にわたって作業することもざらだった。とにかく手間がかかる切り抜き動画の制作をコンスタントに、かつ一定のクオリティを保ちながらやれる者が果たしてどれだけいるだろうか?
──その推しが本当に好きでいろんな人に知ってほしいという類まれな情熱の持ち主か、収益化してそれだけで生活していける状況でなければ続かないと思います。
そして、後者の収益化をメインにしてる方は再生数を求めて過激なサムネイルにしたり、誤解を招きかねない切り抜きをしてしまう可能性が比較的高いのかなと思うんですが、実際はどうなんでしょう。