この本は私のイチ押し。
本当に面白い。
小学生の時、近くの公民館に毎月、貸し出し図書が届いていて、その中から借りた。まさかその記憶がその後の人生にこんなに鮮明に残るとは思わなかった。
子供が生まれてからまた読みたくなり、タイトルだけを忘れていて、児童文学評論家の赤木かん子さんという方の、オフィシャルサイト、そこの「本の探偵コーナー」で質問したら、ありがたいことに答えて頂いて、買うことができた。
家族と奥さんに優しく、責任感があって有能。キツネらしく用心深く、我慢強い。そんな父さんがみんな大好き。
「大草原の小さな家」を知っている人なら、インガルス一家のチャールズ・インガルス氏(役名)のような頼れるお父さんに例えれば、そのまんま。
ただ、インガルス氏と違うのは、やっていい事と悪い事にはマイルールがある。人間ではないから当然でもあるけど。

あらすじ
三つの農場があった。それぞれ個性的な農夫が経営していて、働き者の大金持ちなのだが、人柄がいけない。三人ともケチで不潔で意地悪。
山のキツネにとって農場は大切な狩場で、生きていく分の獲物をいつもこっそり頂戴していた。ところが、やられてばかりの農夫たちは協力してこのキツネ一家を根絶やしにすることにした。そうしてとうとう地面に大穴を掘ってしまったが、キツネの巣穴はどこまでも続いている。
掘ることをあきらめてそこでキャンプを張る三人。兵糧攻めとおびき出し作戦に変更。穴の中でキツネたちは飢え死にしそうだった……。
感想
物語では動物たちは人間と同じように会話し、動物どうしで助け合う。父さんぎつねは「家族のため」という”善”で動いているので、人間はこれでもかとばかりに下衆に描かれる。父さんぎつねの考え方に、少しだけ異を唱える動物もいる。こういう、『チクッと』するところも面白い。
大人になって読んでみたら、また違う面も見えた。
農夫は見てくれは悪いし性格も悪い、けれども、大変な働き者で大金持ち……
大変な働き者なんでしょう?それはそれでよいのでは?
”どっちの視点で見るか”の違いを考えても面白いな。
すべての文が面白かったけれど、一番記憶に残ったのがここ。
酒蔵に侵入したキツネたちが、蔵の中のリンゴ酒を盗み、味見しているところの表現がすごい。子供心に想像を掻き立てられた。
このリンゴ酒は、そこらの酒屋で売っている、ありきたりの、シュッと泡立つ薄いリンゴ酒とは、わけがちがう。これは、ほんもの、自家製の、のどを焼き、胃の中で煮えたぎる、火のように強いお酒。
「まるで……まるで、黄金が溶けて流れるみたいだ!」
「ああ、キツネくん!お日さまのかがやく光を……七色の虹を、飲んでいるみたいだ!」
出典:『父さんギツネバンザイ』(ロアルド・ダール/評論社)
子供の私がいかに「リンゴ酒」とやらを飲んでみたくなったか、分かるでしょう?
独り立ちしてからシードルの瓶を見るたびにこの本を思い出し、憧れていたものの、アルコール度数の高い方は未だ出会わず。
また、訳の仕方が個性的で、ネットで知ったのだけど、田村隆一・米沢万里子の訳は語り口で人気があるらしい。確かに、訳知り顔な隣人から聞くような、語り手の見解が含まれているような軽妙な文章だと思う。
「ロアルド・ダール コレクション」だと「すばらしき父さん狐」というタイトルになっている。これもいいけど、私が撮った上の写真のこの本がお薦め。
だけれども、コレクションもお薦め。全部面白い。
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