佐野洋のミステリ短篇集『歩きだした人形』を読みました。
佐野洋の作品は1年前に読んだ『殺人書簡集』以来ですね。
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私は、新聞は、推理小説の宝庫だと考えている。
新聞記事はそのまま小説にはならないが、作家の脳細胞を刺激してくれるのだ。
それで新聞を読むときには、赤鉛筆を持ち、興味を抱いた記事の周囲を赤線で囲むようにしている。
このシリーズの通しタイトルにある「赤枠の記事」は、そのようにして拾い上げた記事のことである。
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1988年(昭和63年)に『歩きだした人形 シリーズ「赤枠の記事」』というタイトルで刊行された後、改題された作品です。
■遠慮深い鍵
■親切過ぎた的
■気まぐれな鏡
■不公平な声
■歩き出した人形
■厳しすぎた砂
■疑わしい贈り物
■訴える機関車
■時間どおりの名前
■早過ぎた年賀状
■解説 清
水谷宏「新聞記事をヒントに物語を構築する」というスタイルで描かれた10篇から成る、論理と人間模様を融合させた昭和的ミステリ集……日常の断片から犯罪や人間心理を鋭く描き出す構成が特徴で、昭和の空気感を漂わせつつ、論理的な謎解きと人間模様を融合させた著者の技巧派ぶりを堪能できる1冊でした。
鍵の扱い方という些細な行為が、人物の心理と事件の真相を暴き出す『遠慮深い鍵』、
複数の解釈ができる暗号によるどんでん返しが愉しめる『気まぐれな鏡』、
タクシーに置き忘れられた人形をきっかけに、保険会社支店長と
若い女性が出会い、母親の殺害事件と人形の存在が絡み合って疑念と真実が交錯する『歩き出した人形』、
血の繋がりが判明した瞬間、周囲との人間関係が一変! 衝撃的な結末が印象に残る『訴える機関車』、
等々、日常の些細な違和感が社会的背景と結びつく瞬間が愉しめる作品集でした。