アフリカ大陸 、ナイジェリア・オスン州の伝統的なドラマー によるドラム の演奏。アメリカに移った黒人はジャズ やブルース を生み、世界中に広がった[ 1] 。中国の雅楽 を演奏するための楽器編成例。紀元前433年 のもの。中国の雅楽 が、漢字文化圏 の朝鮮の雅楽 や日本の雅楽 に大きな影響を与えた。現代では若者や大衆の間で日常的に広く聞かれている音楽は、いわゆるポピュラー音楽 で、歌声(ヴォーカル )に歌詞 をのせて楽器の伴奏 が伴う 音楽 (おんがく、英語 :Music 、フランス語 :Musique 、イタリア語 :Musica 、スペイン語 :Música )とは、音 による芸術 である。音楽はあらゆる人間社会にみられる普遍文化 だが[ 2] 、その定義 は文化によって様々である[ 3] 。音楽は先史時代 から存在したとされる。
広辞苑 では「音による芸術」と定義されている。
4世紀 古代ローマ の哲学者 、アウグスティヌス の『音楽論』では「Musica est scientia bene modulandi(音楽とは音を良く整えるスキエンティア[ 注 1] である)」とされた[ 4] 。ジョン・ブラッキングの書では「人間が組織づけた音 [ 5] 」とされた。ジョン・ケージ は「音楽は音である。コンサートホールの中と外とを問わず、われわれを取り巻く音である。」と語った。
『呂氏春秋 』(紀元前239年に完成)に既に「音楽」という表現がみられる。
音楽 の由来するものは遠し、度量に於いて生じ、太一に於いて本づく(『呂氏春秋』大楽)英語の"Music"を始め、ヨーロッパの多くの言語においては、古代ギリシャ語 のμουσική (mousike ; 「ムーサ の技[わざ]」の意)を語源とする。ムーサはミューズの名でも知られる芸術や文化を司る女神である[ 6] 。
音楽の「ジャンル 」とは、音楽の様式や形式のこと。古来より音楽は多くの社会で娯楽 、宗教 、儀式 などを通じ、生活に密接したものになっており、多くの特徴ある形式や様式を生み出してきた。
音楽のジャンルは、現在聞くことの出来る音楽の様式・形式であると同時に、発生した源、歴史の手がかりとなっている。
現代の音楽は、様々なジャンルの複雑な合成になっていることが多い[ 7] 。
音楽は有史以前から行われていたとされるが、それがいつ何処で、どのような形で始まったかは定かでない。ただ、それは歌 から始まったのではないかと考えられている[ 8] 。
歴史的に残されている歌は、紀元前1400年頃の現代のシリアにあたるウガリット で発見された粘土板にフルリ語のくさび形文字で「賛美歌」の楽譜が楔型で記されているフルリ人の歌 (英語版 ) が最古級とされる[ 9] [ 10] 。
西洋 では、古代ギリシア の時代にはピタゴラス やプラトン により音楽理論 や音楽に関する哲学 が始まっており、古代ギリシアの音楽 はギリシア悲劇 や詩 に伴う音楽が主であった[ 11] 。これが後のクラシック音楽 に繋がっている。
東洋 では、江戸時代 まで総検校 塙保己一 らによって温故堂で講談された和学や、中国神話によると、縄の発明者の氏族が歌舞や楽器、楽譜などを発明したとされる。塙保己一は、撚糸である縄や結縄 の発祥を日本列島から出土する土器や房総半島 飯岡 の網小屋に遺る有結網に捜し求めた研究成果を群書類従 に編纂した。
歌舞 の発明者―『葛天氏 』治めずして治まった時代の帝王。縄、衣、名の発明者でもある。琴 瑟の発明者―『伏羲 』三皇 の初代皇帝。魚釣り、結縄、魚網、鳥網、八卦の発明者でもある。笙 簧 の発明者―『女媧 』天を補修し人類を創造した女性。クラシック音楽の歴史 クラシック音楽の音楽史においては、8世紀 頃まで遡ることができる。まず、この頃にキリスト教 の聖歌であるグレゴリオ聖歌 や、多声音楽 が生まれ(中世西洋音楽 )[ 12] 、これが発展し、15世紀 にはブルゴーニュ公国 のフランドル地方 でルネサンス音楽 が確立された。16世紀 には本格的な器楽 音楽の発達[ 13] 、オペラ の誕生が起こり[ 14] 、宮廷 の音楽が栄えた(バロック音楽 )。これ以前の音楽を、初期音楽 と呼ぶことが多い。その後18世紀 半ばになると民衆にも音楽が広まり、古典派音楽 と呼ばれる「形式」や「和声 」に重点をおいた音楽に発展した。また、この頃から一般的に音楽が芸術 として見られるようになる。19世紀 には「表現」に重点を置いたロマン派音楽 に移行し[ 15] 、各国の民謡 などを取り入れた国民楽派 も生まれる[ 16] 。20世紀 頃には「気分」や「雰囲気」で表現する印象主義音楽 や、和声および調 の規制をなくした音楽などの近代音楽 が生まれ、さらに第二次世界大戦 後は現代音楽 とよばれる自由な音楽に発展した。
ポピュラー音楽の歴史 ポピュラー音楽 の歴史は17世紀 頃、アメリカ への移民 まで遡る。本格的に移民が行われるようになると、白人によるミュージカル のような劇場音楽が盛んになった。また、アフリカ からの黒人により霊歌 (スピリチュアル)、ブルース やゴスペル が始まった。19世紀末にはブルースが西洋音楽と融合し、スウィング や即興 、ポリリズム が特徴的なジャズ に発展していった。1920年代 には、ブルースやスピリチュアル、アパラチア 地方の民俗音楽が融合したカントリー・ミュージック (カントリー)が人気を集め、1940年代 には電子楽器 や激しいリズムセッションが特徴的なリズム・アンド・ブルース (R&B)、1950年代 にはR&Bとゴスペルが融合したソウルミュージック (ソウル)が生まれた。さらに、1950年代半ばには、カントリー、ブルース、R&Bなどが融合したロックンロール (ロック)が現れ、1970年代 にはヒップホップ の動きが現れた。
日本では、縄文時代 から既に音楽が始まっていたが、5世紀 から8世紀 にかけて朝鮮半島 ・中国 から音楽を取り入れたことからさまざまなジャンルの音楽が始まった[ 17] 。まず、平安時代 に遣唐使 を廃止して国風文化 が栄えていた頃、外来音楽を組み込んだ雅楽 が成立し、宮廷音楽が盛んになった。その後、鎌倉時代 ・室町時代 には猿楽 が始まり、能 ・狂言 に発展した。江戸時代 でも日本固有の音楽が発達し、俗楽 (浄瑠璃 、地歌 、長唄 、箏曲 など)に発展した。明治時代 以降は、音楽においても西洋化や大衆化が進み、西洋音楽の歌曲 やピアノ曲 が作曲された。1920年代 には歌謡曲 や流行歌 などの昭和時代のポピュラー音楽が始まり、1960年代に入るとアメリカのポピュラー音楽や現代音楽が取り入れられ、ロックやフォークソングが盛んとなる一方、演歌 が成立した[ 18] 。1990年代にはJ-POP が成立し隆盛を迎えた[ 19] 。
ヨーロッパでは古くは王侯貴族や教会 などが音楽家を保護し、そのなかで数々の名曲が生み出されていたが、18世紀頃よりヨーロッパにおいては市民 の経済力が向上し、不特定多数の聴衆に向けての演奏会が盛んに行われるようになった[ 20] 。この傾向はフランス革命 (1789年)以後、上記の特権階級の消滅や市民階級の経済力向上(貴族に代わるブルジョワ 市民の台頭)に従ってさらに加速していった[ 21] 。
また、16世紀には活版印刷 の発明によって楽譜も出版されるようになった。印刷楽譜はそれまでの書写によるものより量産性・正確性・価格のすべてにおいて優れたものであり、音楽、とくに同一の曲の普及に大きな役割を果たした[ 22] 。楽譜出版 は、19世紀には商業モデルとして確立し、音楽産業の走りとなった[ 23] 。
19世紀末までは自分で演奏を行う場合以外は音楽を楽しむには基本的に音楽家が必要であったが、1877年にトーマス・エジソン が蓄音機 を発明し、次いで1887年 にエミール・ベルリナー がこれを円盤形に改良し、ここからレコード が登場すると、音楽そのものの個人所有が可能となり、これにより各個人が家庭で音楽を楽しむことも可能となった[ 24] 。
次いで、1920年代 にラジオ放送 が開始されマスメディアが音声を伝えることも可能になるとすぐに音楽番組 が開始され、不特定多数の人々に一律の音楽を届けることが可能となり、音楽の大衆文化 化が進んだ。そしてその基盤の上に、音楽の制作や流通、広告 を生業とするレコード会社 が出現し、大規模な音楽産業が成立することとなった。その後、テレビ などの新しいメディアの登場と普及、カセットテープ や1980年代のコンパクトディスク の登場など新しい媒体の出現、1979年に発売されたウォークマン のような携帯音楽プレーヤー の登場などで音楽愛好者はさらに増加し、音楽産業は隆盛の一途をたどった。
音楽産業隆盛の流れは、1990年代後半にインターネット が普及し初めてから変化しはじめた。インターネットを介した音楽供給 はそれまでのように音楽を保存した物理的な媒体をもはや必要とせず、物として音楽を所有する需要は減少の一途をたどった。一方で、音楽祭 や演奏会 はこの時期を通じて開催され続けており、ライブ などはむしろ隆盛を迎えているなど、音楽産業を巡る環境は変化し続けている[ 24] 。
音の要素 音には、基本周波数 (音の高さ、音高 )、含まれる周波数(音色 、和音 など)、大きさ(音量 )、周期性(リズム )、音源の方向などの要素がある。 西洋音楽における三要素の概念 上記の要素に関連して、いわゆる西洋音楽 の世界では、一般に音楽はリズム 、メロディー 、ハーモニー の三要素からなる、と考えられている。だが実際の楽曲では、それぞれが密接に結びついているので一つだけを明確に取り出せるわけではない。また、音楽であるために三要素が絶対必要という意味ではない。たとえば西洋音楽以外ではハーモニーは存在しないか希薄であることが多いし、逆に一部の要素が西洋音楽 の常識ではありえないほど高度な進化を遂げた音楽も存在する。このようにこれら三要素の考え方は決して完全とは言えないが、音楽を理解したり習得しようとする時に実際に用いられ、効果をあげている。
西洋音楽において和声が確立した音楽におけるメロディ メロディ (旋律)は特に和音 の構成によってなされており、和音は周波数 のおよそ整数比率によって発生する。音の発生方法 音 を発生する方法には声 、口笛 、手拍子、楽器 などがある。西洋の伝統的な分類法においては楽器は息を吹き込む管楽器 [ 注 2] 、弦を振動させることで音を出す弦楽器 [ 注 3] 、そして楽器そのものを打ったり振ったりして音を出す打楽器 (太鼓 など)の3つに分類される。楽器は地域的な特色が強く出るものであり、西洋音楽の普及によって西洋起源の楽器が世界中に広まっていった後も、世界各地にはその土地ならではの特徴的な楽器が多く存在し、同じ楽器でも使用する素材が異なることも珍しくない[ 25] 。音楽行為に関しては、現代では一般的に「作曲 」「演奏 」「鑑賞 」が基本として考えられている。作曲とは、作曲者 の心に感じた事を音によって表現することである。演奏とは、再現芸術ともよばれ、作曲された音楽を実際に音として表現する行為であり、原曲を変え(=編曲 )つつ演奏したり、声楽曲を器楽曲に変える(編曲 )等した上で演奏する行為も演奏行為とされる。(#演奏 )。鑑賞とは、音楽を聴いてそれを味わったり、価値を見極めたりすることである。
作曲 とは、曲を作ること、あるいは音楽の次第を考案することである。具体的には、楽譜 を作成することもあれば、即興演奏 という方法で楽譜制作は抜いて、作曲をすると同時に演奏をしていくこともある。また、作曲者は楽譜を作るにあたって、様々な音を形で表したもの(いわゆる音符や記号など)を五線譜に従い、その音を置くことによって、リズムのある「音楽」に仕上がる。
演奏 とは、実際に音を出すこと、つまり音楽を奏でることであり、楽器 を奏することだけでなく、広義には歌 を歌うことも含まれる。演奏には即興演奏 もあれば、譜面 に従った演奏もある。中でもジャズ では即興演奏が多用される一方で、クラシック音楽 では通常は譜面の音符 の通りに演奏されている。真に機械だけによる演奏は自動演奏 と呼ばれている。
音楽鑑賞とは、人または機械が行った演奏やその録音を自分の聴覚 で聴き、それを鑑賞 することである。また音楽作品を聴いてそれの「品定め」することを指す場合もある。 [要出典 ]
楽器の編成は演奏する楽曲の音楽ジャンルと関連がある。
楽器編成は、音楽ジャンル→編成という構成で説明をすると理解しやすいものであり、たとえば以下のようなものがある。
クラシック音楽 オーケストラ (通常、弦楽器、木管楽器、金管楽器、打楽器から成る)オーケストラの編成の詳細についてはオーケストラ#編成 で解説。 ジャズ コンボ(小編成) ビッグバンド(「フルバンド」で総勢17名前後の編成。基本はドラム・ピアノ・ギター・ベースのリズムセクションおよび、トランペットx4、トロンボーンx4、サックス x5。スウィング・ジャズ などの演奏で採用される。) ジャズの楽器編成についてはバンド (音楽)#ジャズバンド で解説。 ロック・ミュージック 次のような編成が一般的である。
ギター・トリオ(ギタリスト+ベーシスト+ドラマー。楽器名で言うと、エレクトリック・ギター +エレクトリック・ベース +ドラムス 。ロックバンドの基本構成のひとつ) ギター・トリオ +ボーカル (これもロックバンドの基本構成のひとつ) ギタリスト2人 + ベーシスト + ドラマー ギタリスト + ベーシスト + ドラマー + エレクトリックキーボード この他の変則的な編成も多い。
ロックバンドの編成の詳細はバンド (音楽)#ロックバンド で解説。 吹奏楽 邦楽 音楽はもともとは生演奏だけだったが、1877年にエディソンが蓄音機を発明して以降は記録・再生された「レコード音楽」あるいは「再生音楽」を楽しむことができるようになった。近年では人々の音楽を聴く行為を統計的に見ると、再生音楽が聴かれている時間・頻度が圧倒的に多くなっている[ 26] 。
路上パフォーマンスを行うトランペット奏者 生演奏される音楽は、en:performing arts (パフォーミング・アート)の一種であり、舞台上で生身の俳優によって行われる演劇 や、生で踊られるダンス など、他のパフォーミング・アートと同様に、パフォーマーがパフォームするたびに、多かれ少なかれ、異なるという特徴がある。
音楽の記録・伝達方法として最も古いものは口承 であるが、やがていくつかの民族は音楽を記号の形にして記す、いわゆる楽譜 を発明し使用するようになった。各民族では様々な記譜法 が開発されたが、11世紀初頭にイタリアのグイード・ダレッツォ が譜線を利用した記譜法を開発し[ 27] 、これが徐々に改良されて17世紀に入るとヨーロッパにおいて五線譜 が発明された。五線譜はすべての楽曲や楽器の表記に使用でき、さらに譜面上で作曲もできるほど完成度が高かったため、以後これが楽譜の主流となった[ 28] 。
楽譜はあくまでも音楽のデータを記号に変換して記すものにすぎなかったが、1877年にトーマス・エジソン が蝋菅録音機(蝋 のチューブを用いる、蓄音機 の初期のもの)を発明すると、音楽そのものの記録が可能となった[ 29] 。録音 の技術はその後も発達し続けた。
記録・配布用媒体の歴史 レコードを聴く女性(1958年) 音楽の記録と伝達には様々な媒体 が使われてきた。エジソンの蓄音機以降のものを、歴史の長い古いものから挙げると、7インチ・レコード(7-inch records 。回転速度が45RPM だったので「45s」とも。日本では「SP盤 」と呼ぶ。en:Gramophone Company により1890年代ころから)、EP盤 (1919年 -)、LP盤 (1948年-)、オープンリール テープ(古くは19世紀末や20世紀初頭から)、コンパクトカセット(カセットテープ) (1962年-)が使われてきた歴史があり、デジタル方式の録音が可能な時代になってからはCD (1982年-)、MD (1992年-)が使われ、(映像・音響を兼ねる媒体の)ビデオテープ 、LD (1970年代や80年代-)DVD (1996年頃-)、BD (2003年頃-)なども使われるようになった。1970年代後半に登場したパーソナルコンピュータが1990年代後半ころから一般家庭に普及して以降、フロッピーディスク 、HDD のほかフラッシュメモリ の技術を利用したSDメモリ (1999年-)、USBメモリー (2000年頃-)、SSD (本格的には2008年以降)などがある。2000年代からは媒体を持たずインターネットによる配信を利用する人も増えた。
媒体に記録された音楽はいわゆる再生機器(あるいは「録音再生機器 」)によって再生される。たとえば蓄音機 (1877年-)、レコードプレーヤー 、ハイファイ 装置、コンポーネントステレオ 、ラジカセ (1960年代-)、携帯カセットプレーヤー(ウォークマン など、1979年-)、CDプレーヤー (1982年-)、携帯CDプレーヤー (1984年-)、デジタルオーディオプレーヤー (iPod など、2001年-)などである。21世紀にデジタル化が進んでから聴取環境は多様化し、家庭用PCのほかフィーチャーフォン やスマートフォン でも標準で再生機能を備えるようになった。
ラジオ放送を聴く人 放送・配信 音楽を人々に届ける経路(チャネル)としてはAM放送 (1920年代ころ-)、FM放送 (1933年-)などのラジオ放送 や、テレビ放送 (1930年代や40年代ころから。映像と音響を届ける)が使われ、21世紀にはデータ圧縮 技術を活用して、インターネット 経由の音楽配信 が盛んとなってきている[ 29] 。デジタルでもハイレゾリューションオーディオ の高音質音源が登場した。
ソニーのハイレゾ・ウォークマン NW-ZX300 音楽を、単なる「音」ではなく、また「言語」でもなく、「音楽」として認識する脳 のメカニズムは、まだ詳しくわかっていない。それどころか、ヒトが周囲の雑多な音の中からどうやって声や音を分離して聞き分けているのかなど、聴覚認知の基本的なしくみすら未解明なことが多い。しかし、音楽と脳の関係について、以下のようないくつかの点はわかっている。
音楽に関係する脳:側頭葉 を電気刺激すると音楽を体験するなどの報告から、一次聴覚野 を含む側頭葉が関係していることは確かである。 音楽、とくにリズムと、身体を動かすことは関連している。 音楽には感情を増幅させる働きがある。たとえば映画・演劇などで、見せ場に効果的に音楽を挟むことによって観客の涙を誘ったり、あるいは怪談話の最中におどろおどろしい音楽を挟むことにより観客の恐怖感を煽る、といったものである。 幼い頃から練習を始めた音楽家は、非音楽家とくらべて大脳の左右半球を結ぶ連絡路である「脳梁 」の前部が大きい(Schlaugら、1995)。楽器の演奏に必要な両手の協調運動や、リズム・和音・情感・楽譜の視覚刺激などといった様々な情報を左右の皮質の各部位で処理し、密接に左右連絡しあうことが関係している可能性がある。 絶対音感 :聴いた音の音階、基準になる音との比較なしに、努力せずに識別できる能力のことで、9 - 12歳程度を超えると身に付けることができないといわれている。アジア系の人には絶対音感の持ち主が多いと言われているが正確なデータはなく、これが遺伝的、文化的要因のいずれによるのかも医学的な根拠は示されていない。また、絶対音感を持っている人と持っていない人では、音高を判断しているときに血流が増加する脳の部位が異なる。持っていない人では、音高を短期記憶 として覚えることに関係する右前頭前野 の活性が弱いのに対し、持っている人では記憶との照合をする、背外側前頭前野の活性が強かったという。また絶対音感保持者では側頭葉の左右非対称性(左>右)が強いという(Zattoreら、2003)。音楽と数学の関係 :中世ヨーロッパで一般教養として体系化された「自由七科 」では、音楽は数学的な学問の一つとして数えられている。また、子供に音楽の練習をさせると数学の成績が伸びたという報告(Rauscherら、1997)もあり、音楽と数学の関連性を示唆する。楽器を習うと脳の両側が刺激され、記憶力 が強化される[ 30] 。 音楽は、認知機能を刺激し、幸福を促進し、生活の質を改善する[ 31] 。リラックスしたり、エネルギーを増やしたり、思考を改善したり、その日のやる気を引き出したりする必要がある場合でも、明るい音楽は最も必要なときに追加のサポートを提供できる。科学者たちは、音楽を聴くことで、思考や動きを変えるさまざまな脳の領域を刺激できることを発見した[ 32] 。 多くの研究は、勉強しながら環境音楽 を聞く大学生は、不安が少なく、集中力があり、テストスコアが高いことを示している。 環境音には、自然音、アコースティックギター、ピアノ、電子音などの心地よい楽器音が含まれる。お気に入りの音楽の曲は、前向きな思い出をかき立て、気分を高め、落ち着いたリラックスできる雰囲気を作り出すことができる。環境音楽はまた、分析的思考と創造性に関与する脳内の領域を活性化し、情報を吸収して保持する脳の能力を高めると考えられる[ 32] 。 残念ながら、音楽は脳に多くの恩恵をもたらすが、言語と音楽は脳の同じ部分で処理されるため、環境音楽以外の音楽を聴きながら作業をすると、創造性と読解力が著しく損なわれる。研究者たちは、音楽を聴くことによって、言語情報を記憶し、課題を完了する能力が破壊されると推測している[ 33] [ 34] 。 音楽のなだめるようなやる気を起こさせる音は、心臓血管の健康へのさまざまな利点を含む[ 35] 、幅広い健康上の利点を提供する。適切な状況で適切な種類の音楽を使用すると、ニーズに応じて、感情的な状態と全体的な健康状態を向上させることができる[ 32] 。
音楽を研究する学問として音楽学 がある。音楽理論 に関するものとしては音楽哲学 、音楽美学 がある。ほかに音楽の歴史を研究する音楽史 、音楽教育学 、音楽心理学 、音楽音響学 などもある。西洋音楽と各民族 の民族音楽 を比較研究する比較音楽学 は、人類学 の影響を受けて各民族の音楽文化を研究する民族音楽学 へと変化した[ 36] 。また、文学 研究でも音楽との関連などが研究される。研究者が音楽評論 を書くこともある。
その文化的発展度を問わず、音楽はどの民族にも普遍的に存在しており、様々に利用されてきた。軍隊 の行軍や指揮に音楽はつきもので[ 37] 、現代においても多くの国家の軍は軍楽隊 を所持している。日々の労働にリズムをつけ効率を高めるための労働歌 もまた多くの民族に伝わっており、日本でも田植え歌や木遣 などはこれにあたる。歌垣 のように、求愛 のために音楽を用いることも世界中に広く見られる[ 38] 。
魔術的・呪術的用途、さらには宗教的用途に音楽を使用することも多くの民族に共通しており、例えばヨーロッパにおいては教会が18世紀頃までは音楽の重要な担い手の一つだった[ 39] 。一方、1990年代にアフガニスタン で政権を打ち立てたターリバーン は、公共の場の音楽はイスラムの基準に合致しないと解釈しており、徹底的な弾圧 を行った。2021年 にターリバーンが復権した際には、直ちに有名歌手が殺害されたほか[ 40] 、弾圧を恐れたアフガニスタン国立音楽院の教師や生徒100人以上が国外へ脱出した[ 41] 。
ヨーロッパの中世大学教育における自由七科 のひとつに音楽が含まれていたように、音楽は教養としても重視されることが多く[ 42] 、やがて19世紀に入り近代教育がはじまると、音楽も初等教育 からそのカリキュラムの中に組み込まれていった。明治維新後の日本もこの考え方を踏襲したが、西洋音楽を扱える人材がほとんど存在しなかったため即時導入はできず、明治15年の「小学唱歌集 」の発行を皮切りに徐々に唱歌が導入されていくこととなった[ 43] 。こうした一般教養としての音楽教育のほか、音楽のプロを育成する音楽学校 も世界各地に存在し、さまざまな音楽家 を育成している。
音楽はしばしば、民族のアイデンティティと結びつきナショナリズム の発露をもたらす[ 44] 。世界のほとんどの独立国が国歌 を制定しているのもこの用途によるものである[ 45] 。国歌だけでなく、一般の音楽においてもこうしたつながりは珍しくない。19世紀にはナショナリズムのうねりの中で、当時の音楽の中心地であるドイツ・フランス・イタリア以外のヨーロッパ諸国において、自民族の音楽の要素を取り入れたクラシック音楽の確立を目指す国民楽派 が現れ、多くの名作曲家が出現した[ 46] 。民族音楽においてもナショナリズムとのつながりは一般的に強いものがあり、また、ポピュラー音楽でも、民族 を越えてその国家内で愛唱される場合、国民 の統合をもたらす場合がある[ 47] 。
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