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自然科学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
自然科学は、私たちの周りの世界と宇宙がどのように機能するかを理解しようとする。物理学化学天文学生物学地球科学(地学)、一部の数理科学などの主要な分野がある。

自然科学しぜんかがく:natural science〔ナチュラルサイエンス〕, science〔サイエンス[1][2])とは、自然現象を対象とする学問。自然現象の把握に有効な概念を確立し、その法則性を明らかにする[3]

シリーズの一部
科学
一般
分野英語版
社会

自然科学には物理学化学生物学天文学地学などが含まれ、広義にはそれらを実生活へ応用する工学農学医学などを指すこともある[3][4][注 1]

数学と物理学などの諸分野はまとめて理学とも呼ばれ[5][6][7][8]文部科学省の分類において理学は計算機科学(コンピュータ科学)と情報科学をも含んでいる[9][注 2]

数学を形式科学[10]および自然科学とする日本語辞典も[4]、数学を自然科学とは別とする哲学事典もあり[11]、数学と自然科学・物理学(数理物理学量子情報科学など)がどの程度一体的かは諸説ある[12][13][14][注 3]

概要

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自然科学において取り扱う対象は、大きくは宇宙から小さくは素粒子の世界まで含まれる。生物やその生息環境も対象となっており、そこには生物としてのヒトも含んでいる。対照的に、人間が作り出した文化社会──すなわち哲学歴史法律政治経済等々──に関しては、主に人文科学社会科学・人文社会科学(cultural social science)[15]・自然社会科学(natural social science)[16]が扱っている。

この「自然科学」(ナチュラルサイエンス natural science)という用語と対比される用語は、近年の日本では一般に、

  • 社会科学」(ソーシャルサイエンス social science)
  • 人文科学」(カルチュラルサイエンス cultural science)または「人文学」(ヒューマニティーズ humanities)

であることが多い。19世紀のヨーロッパにおいて諸科学が分化・独立した際に英語圏ではそのような呼び分けが生まれた。ただしドイツでは、対比・区分が若干異なり、ナトゥーアヴィッセンシャフト(自然科学・科学 Naturwissenschaft) は「文化科学 Kulturwissenschaft」や「精神科学 Geisteswissenschaft」と対比されることが多い[17]。日本でもドイツの影響を大きく受けていた時代には、こうしたドイツ式の対比で説明する科学者もかなりいたが、近年の日本では主として英語圏に倣った対比が行われている。

→「理学」、「理工学」、および「応用科学」も参照

自然科学の歴史は科学史の分野で研究対象とされている。自然科学を対象とする哲学的考察は認識論および科学哲学においてなされており、「科学基礎論」と呼ばれることもある。

自然科学の歴史と方法論

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何をもって自然科学の誕生と見なすか、という点については科学史の研究者ごとにそれなりに異なった見方がある。自然を対象とした学問としては、確かに古代ギリシア時代以来「自然学」があった[注 4]。またヨーロッパ中世にはスコラ学があり、「自由七科」という学問分類の内の「クアドリウム(四科)」には、天文学も含まれていた。ただし、科学史などでは、それらの学問の中に新たな方法論や傾向が芽生えたことを指摘することで、それらの学問と自然科学的方法論の対比をしたり、それをもって自然科学の初期の歴史の説明としていることが多い。

科学的方法の説明のしかたはいくつもあるが、実験観察とされたり、分析と総合とされたり、仮説と実証とされたりする。


イブン・ハイサム

ロバート・グロステスト

フランシス・ベーコン

ガリレオ・ガリレイ

ヨハネス・ケプラー

ルネ・デカルト

アイザック・ニュートン

現在考えられているような自然科学(近代自然科学)の説明する場合、17世紀のヨーロッパの「自然科学者」(当時は自然哲学者、自然学者と呼ばれていた人々[注 5])の研究の一部が紹介されることが多い。説明する科学史家のバックグラウンドの違い(例えば物理学・化学・生物学などの違い)によって、どの手法をピックアップするのか、選択が異なったり重点の置き方が異なっている。物理系ではケプラーガリレイデカルトニュートン等などの手法の一部に言及することが多い[注 6]

中世のイスラム科学であれ中世ラテン科学であれ、分析概念は重要な方法論と見なされていた。古代のアルキメデスは解析的方法の巨匠であり、イスラーム中世のイブン・ハイサムもそうした解析的手法の伝統を継ぐ人であったが、20世紀になりラテン科学の歴史研究が発展するつれて、中世ラテン科学の中心的荷い手のひとりロバート・グロステストが「近代的科学方法概念の開拓者」と見なされた理由のひとつは、彼がアリストテレスの『分析論後書』に独創的な注釈を加筆したからであった[18]。こうした古代~中世の分析概念に、ガリレオやデカルトが大きな飛躍をもたらした[18]。ガリレオはパドヴァの学者たちの生み出したものの恩恵を受けつつ、彼の業績を上げた[18]。デカルトはそれまでの数学的な解析を代数的なものに転換するのに大きな役割を果たしたことに加えて、自然哲学において分析概念に枢要な地位を与えた[18]。分析を総合と対比させつつ深化させた人物としてニュートンは特筆に値する[19]。ニュートンは実験科学についての主著とされる『光学』の末尾に添えた「疑問」(Queries)の章において、次のように論じた[19]

数学と同様、自然哲学においても、難解なことがらの研究には、分析の方法による研究が総合の方法に先行しなければならない。この分析とは、実験と観察を行うことであり、またそれらから帰納によって一般的結論を引き出し、そしてこの結論に対する異議は、実験あるいは他の真理から得られたもの以外は認めないことである[19]

また、総合については次のように述べた。

総合とは、発見され、原理として確立された原因を仮に採用し、それらによってそれらから生じる諸現象を説明し、その説明を証明することである[19]

こうした分析と総合に関する説明には、同国人のベーコンの考え方が大きく影響している[19]。ニュートンによって、分析と総合の対概念が、批判的帰納法を介しつつ明確に自然科学にまで拡張されたと言うことができる、と佐々木力は指摘した[19]

実証を支える精密な実験や実験解析方法の進展に加え、理論を展開する土台となる数学手法も構築され、オープンに科学の成果を交換しえる場(王立協会フランス科学アカデミー等)も登場した。また同時期に学術雑誌が登場し、ジャーナル・アカデミズムが確立した。新たな知識は、公開の場で討論され鍛え上げられていくようになり、科学成果は、発見者の占有物ではなく万人の知的共有財産となることになった[注 7]。このように知識が効率的に共有されるシステムが築かれたことが、その後、科学知識が膨大に蓄積されていく原動力となった。これらすべてを可能たらしめるシステム全体が近代自然科学の営為である。

近年の方法論

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還元主義と複雑系

知識をある基本法則に帰着させる方法論は還元主義と呼ばれることがある。この語が否定的トーンで語られることの多いのは、「科学技術」という応用面の発展も促して人類への貢献も大きなものがあったものの、生命の起原や生物社会の成り立ちなどこの方法では説明が困難な対象も存在するからであろう。近年、これらの対象を素因子が相互作用する場として捉えることでその成り立ちを理解・説明しようとする複雑系の手法も成立しつつある。ここでの方法論は還元主義のそれとは違うアプローチをとっており、自然科学および経済活動など社会科学の分野でこれまで説明困難であった事象の理解がすすむのではないかとも期待されている。

分野

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→詳細は「学問の一覧 § 自然科学」を参照

物理学

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物理学は、おもに無生物界の現象を的関係として把握し、無生物界を支配する法則数式で表現し、数学的に推論することを特徴とする部門である[20]

化学

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化学は、物質を研究対象とし、原子分子物質の構成要素と考え、物質の構造・性質・反応を研究する分野である。日本では幕末から明治初期にかけては舎密(せいみ)と呼ばれた。

天文学

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天文学は、天体天文現象など、地球外で生起する自然現象の観測、法則の発見などを行う分野。地球科学や物理学の一分野とされることもある。

惑星科学

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惑星科学は、惑星を研究対象とし、地球科学を含む。

地球科学は、地球を研究対象とした分野であり、内容は地球の構造や環境、歴史などを目的として多岐にわたる。近年では太陽系に関する研究も含めて地球惑星科学ということが多くなってきている。

生物学

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生物学生物や生命現象を研究する分野。広義には医学農学など応用科学総合科学も含み、狭義には基礎科学理学)の部分を指す。

他分野との学際的関係

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数学・数理物理学・情報物理学

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→「計算機援用証明で示された定理」、「形式科学」、「情報理論」、「ランダウアーの原理」、「量子情報科学」、および「熱力学と情報理論におけるエントロピー#情報は物理的である英語版」も参照

『現代数理科学事典』は、ニュートンポアンカレ由来の概念および計算機科学が示すように、純粋数学物理学情報処理の違いは必ずしも明確でないとしている[14]。相互依存的な概念(量子群偏微分方程式作用素環論など)を共有する数学と物理学は、計算機を伴う「情報科学」によって接近をより進めていると同事典にはある[21]

精選版 日本国語大辞典』では、数学は形式科学[10]および自然科学に属する(工学などは「広義」の自然科学に属し得る)[4]。一方で英語辞典[12]、大学の科学リテラシー講座[22]理化学研究所の数理部門ウェブサイト[23]、『スタンフォード哲学百科事典』では、数学と自然科学は別分野である[11]。また上記の哲学事典によれば、数学の証明の中心的部分を物理的な計算機に行わせた事例(1976年の四色定理など)は、計算機を使う証明が本当に「数学的証明」であるのかという哲学的議論を起こした[11]

→「自動定理証明」、「実験数学」、「ケプラー予想」、および「Lean (証明アシスタント)」も参照

学術論文では、数学に並んで情報科学[24]計算機科学も形式科学とされる[25]。また数学を自然科学の一種とする数学書[26]および記号論理学(数理論理学)の論文[13]、人間の情報処理が熱力学と不可分であるため数学と熱力学は不可分だという熱力学書[27]、「数学は物理学である」という応用数学博士の見解を載せた数学書がある[28][29][注 8]。上記の記号論理学論文は、数学が哲学的に「超自然的科学」であるという見方に対し、数学が自然科学であるとの見方を示している[13]

情報理論は、情報を「数学的に体系化」して情報工学的な基礎を成す分野[31]、数学[32][33]や形式科学の一分野とされており[34]、情報理論と物理現象の結びつきは情報物理学によって[35][注 9]、情報と熱の結びつきは情報熱力学によって研究されている[37][注 10]。情報理論での情報が論理的に不可逆に削除されると熱が散逸するという1961年の「ランダウアーの原理」は、2012年以降に実験で実証されており[40][41]、『ネイチャー』の2021年の解説記事において「今日では‘information is physical’[情報は物理的である]という考えは自明に見える」とされている[42]

数学を物理的と見なす情報物理学論文としてベニオフ(Benioff,2002)[43]、ウー(Wu,2023)[44]、数学書としてライファー(Leifer,2016)[28]、熱力学書としてグラハム(Graham,2025)などがあり[27]、上記のベニオフとウーはランダウアーの原理を援用している[43][44]。一方、「ブラックホール」を命名した物理学者ジョン・ホイーラーは「It from bit」(「すべてはビットから生まれる」)と述べた[45]他、マックス・テグマークの理論物理学論文は「数学的存在と物理的存在は等価」と見なす[46]数学的宇宙仮説[47])。

量子情報科学者ポール・ベニオフ英語版の学術論文は「言語の必然的に物理的な本質」を挙げつつ[48]、数学的推論形式言語自然言語は「物理法則に従う」と述べて[49]、学会誌でのロルフ・ランダウアーの論考「情報は物理的である」を挙げている[43]。グラハムの熱力学書は、数学は根本的には情報処理であると述べる[50]。数学博士ジョン・C・バエズらの数理物理学論文では、アルゴリズム情報理論と熱力学的・統計力学的な物理現象とに数学的な共通基盤があるとされている[51][52]。理論物理学博士かつ数学科教授ヤン・カルボフスキの学術論文は、情報熱力学を理論神経科学(計算神経科学)的なニューラルネットワークへ適用できるとしている[38][53]

テグマークの理論物理学論文(2008)は「十分に広い意味で数学を定義すれば、われわれの物理世界は抽象的な数学構造だ」という数学的宇宙仮説を示している[47]。同論文はそれを「徹底的プラトン主義」(radical Platonism)の一種と呼ぶ[46]

一方で応用数学博士マシュー・ライファーは、数学書(シュプリンガー刊、2016年)の「数学は物理学である」という章で、テグマークのプラトン的な仮説に反論している[54]。ライファーの見解では、圏論などの抽象的な「純粋数学」がますます理論物理学の中心となりつつある[55]。その見解では圏論などの「純粋数学」は、厳密にはイデア数学的プラトン主義の類ではなく、物理世界の「規則性」が繰り返し抽出されてきた結果である[56]。数学的な「無限」や「極限」などの概念も、究極的には物理世界(段階的に限りなく小さく区切られていく物理世界)に由来しており、例えば無限数列極限の定義が明確化されたことは解析学微積分学の発展から生じ、それらの分野は物理世界に基づいた幾何学流れ (数学)から生じたとライファーは言う[56]

→「計算心理学」、「マーゴラス=レヴィンチンの定理」、「自然科学における数学の不合理な有効性英語版」、「数覚英語版」、「動物における数覚英語版」、および「近似数認知機構英語版」も参照

教育・学習

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日本

自然科学分野の教育は、現代の日本の小・中・高では「理科」という名の教科で行われている。初等・中等教育などでの自然科学教育のことを「理科教育」と呼んでいる。

日本の大学では、主に理学部理工学部医学部歯学部薬学部獣医学部農学部水産学部(また工学部)などが教育研究をおこなう。放送大学には(教養学部教養学科(学士(教養))・自然と環境コース、大学院修士課程修士(学術))・自然環境科学プログラム、博士後期課程博士(学術))・自然科学プログラム)と自然科学の学士課程のコースや修士と博士課程のプログラムもあるので、学生として学費を納めて履修し単位を取得することも出来、また、単位が不要であれば、学生登録もせず放送を無料で視聴して学ぶこともできる。

イギリス

ケンブリッジ大学ではNST(Natural Sciences Tripos)で学ぶことができる。

米国

米国のいくつかの大学が自然科学を学ぶための無料オンラインコースを設けている[57]。たとえばカーネギーメロン大学は、「バイオケミストリー」「現代生物学」。マサチューセッツ工科大学は、「生物学基礎」「(物理I)古典力学」「(物理II)電気と電磁気学」。タフツ大学は「遺伝学」「現代物理入門」。カリフォルニア大学バークレー校は、「天文学」「化学」。

脚注

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[脚注の使い方]

注釈

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  1. ^以下、『精選版 日本国語大辞典』の原文:
    しぜん‐かがく ‥クヮガク【自然科学】
    〙 (natural science の訳語) 自然現象を対象とする学問の総称。狭義には自然現象そのものの法則を探求する数学、物理学、天文学、化学、生物学、地学などをさし、広義にはそれらの実生活への応用を目的とする工学、農学、医学などを含むこともある。[4]
  2. ^九州大学は理学に「数学」と「情報科学」を含めつつ、理学の主目的を「自然のより深い理解」としている[7]
  3. ^
  4. ^自然学(physica)[要出典]。自然科学とは異なり、ここでは自然哲学を指す[要出典]。近代自然科学の成立の後はこのphysicaという語は指す対象が変わり、物理学を意味するようになった[要出典]
  5. ^19世紀まではscienceという言葉には今日的な意味での「科学」というニュアンスはなく(詳しくは科学#日本語を参照)、今日の自然科学に相当する分野には「自然哲学」(natural philosophy)もしくは「自然学」(physics)という名称がもっぱら使われ、その分野の研究者も自然哲学者、自然学者を自認していたが、自然科学成立の経緯も踏まえて、当時の自然哲学研究も自然科学の一部に含むことが多い[要出典]
  6. ^例えば物理学をバックグラウンドとする科学史家などが説明する場合は、天文現象の研究にばかり言及し、他領域を見落としたり無視してしまうことも多い[要出典]
  7. ^成果・知識が共有されても、発見した者、プライオリティがある者は社会的には特別な扱いを受け、名誉などを得ることが多い[要出典]。20世紀に始まったノーベル賞でもプライオリティのある者に対して賞および賞金が与えられている[要出典]
  8. ^「FQxI」(基礎問題研究所英語版)および「逆説科学研究所」から表彰された、学術的な論考(essay[30]
  9. ^information physics[36]
  10. ^information thermodynamics[38]、 thermodynamics of information[39]

出典

[編集]
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参考文献

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関連項目

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ポータル 自然科学
ウィキブックスに自然科学関連の解説書・教科書があります。
ウィクショナリーに関連の辞書項目があります。
科学と非科学
帰納の問題
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