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冪乗

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
累乗から転送)
曖昧さ回避」はこの項目へ転送されています。この漢字の意味については「wikt:冪」をご覧ください。
演算の結果
加法 (+)
項 + 項 =
加法因子 + 加法因子 = 和
被加数 + 加数 = 和
減法 (-)
被減数 − 減数 =
乗法 (×)
因数 × 因数 =
被乗数 × 乗数 = 積
被乗数 × 倍率 = 積
除法 (÷)
被除数 ÷ 除数 =
被約数 ÷ 約数 = 商
実 ÷ 法 = 商
分子/分母 = 商
剰余算 (mod)
被除数mod 除数 =剰余
被除数mod 法 = 剰余
(^)
冪指数 = 冪
冪根 (√)
次数被開方数 = 冪根
対数 (log)
log(真数) = 対数
この項目では上付き文字を扱っています。閲覧環境によっては、適切に表示されていない場合があります。

数学における冪乗(べきじょう、べき乗、::: exponentiation)または冪演算(べきえんざん)とは、 (てい、:base) および冪指数 (べきしすう、:exponent) と呼ばれる二つのに対して定まる数学算法のことである。その結果は (べき、:power) と呼ばれる。

「冪」という漢字は日本語の常用漢字当用漢字には含まれておらず、冪乗の同義語として、「累乗(るいじょう)」も広く用いられる。

概要

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英語版b および冪指数n をもつ冪は、底の右肩に冪指数を乗せてbn のように書かれる。

bn=b××bn 個{\displaystyle b^{n}=\underbrace {b\times \cdots \times b} _{n{\text{ 個}}}}

であり、bnbn-乗や、n-次のb-冪などと呼ばれる。

特定の冪指数に対して、固有の名前が付けられている。例えば、冪指数が2 である冪(2 乗)b2 は「b平方 (square ofb)」または「b-自乗 (b-squared)」と呼ばれ、冪指数が3 である冪(3 乗)b3 は「b立方 (cube ofb,b-cubed)」と呼ばれる。それ以降は 4 乗、5 乗、… というように「n 乗」という言い方が一般的である。

冪指数が−1 である冪b−11/b であり、「b逆数」(または乗法逆元)と呼ばれる。一般に冪指数が負の整数n である冪bn は、bn ×bm =bn +m という性質を保つように、底b が 0 でないときbn := 1/bn と定義される。

冪乗は、任意の実数または複素数を冪指数とするように定義を拡張することができる。底および冪指数が実数である冪において、底を固定して冪指数を変数と見なせば指数函数であり、冪指数を固定して底を変数と見なせば冪函数である。整数乗の冪に限れば、行列などを含めた多種多様な代数的対象に対してもそれを底とする冪を定義することができる。冪指数まで同種の対象に拡張すると、その上で定義された自然指数函数と自然対数函数をもつ完備ノルム環(例えば実数全体R や複素数全体C など)を想定するのが自然である。

歴史

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歴史上に冪が現れたのは非常に古く、B.C.16世紀ごろに作成された粘土板には平方数表、平方根表、立方根表や三平方の定理について書かれており[1]、エジプト、インド、ギリシアなどでも冪の概念は明示されている。一方で、指数法則に言明する文献は見当たらず「指数概念」には未だ到達していないと考えるべきであるが、冪を意味する英単語"power" はギリシアの数学者エウクレイデス(ユークリッド)が直線の平方を表すのに用いた語に起源がある[2]。また、「原論」において指数法則am ×an =am+n に相当する命題に言及している[1]が、この時代には算式は発明されておらず、すべて言葉で表現していた[1]

記法

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アルキメデス10 の冪を扱うために必要となる指数法則10a • 10b = 10a +b を発見し、証明した(『砂粒を数えるもの』を参照)。9世紀に、ペルシアの数学者アル゠フワーリズミは平方をmal, 立方をkab で表した。これを後に中世イスラムの数学者がそれぞれm,k で表す記法として用いていることが、15世紀ごろのアル゠カラサディ英語版の仕事に見ることができる[3]

16世紀後半、ヨスト・ビュルギは冪指数をローマ数字を用いて表した[4]

17世紀初頭、今日用いられる現代的な冪記法の最初の形は、ルネ・デカルトが著書La Géométrie の一巻において導入した[5]

アイザック・ニュートンなど一部の数学者は冪指数は 2 乗よりも大きな冪に対してだけ用い、平方は反復積として書き表した。例えば、多項式をax +bxx +cx3 +d のように書いた。

用語

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15世紀にニコラ・ショケ英語版は冪記法の一種を用い、それは後の16世紀にハインリヒ・シュライベル英語版およびミハエル・スティーフェル英語版が用いている。

16世紀にロバート・レコードは、square(二次), cube(三次), zenzizenzic(四次), sursolid(五次), zenzicube(六次), second sursolid(七次), zenzizenzizenzic(八次英語版)の語を用いた[6]。4 乗については biquadrate(複二次)の語も用いられた。

歴史的には "involution" が冪の同義語として用いられていた[7]が現在では稀であり、別の意味(対合)で用いられているので混同すべきではない。

冪指数

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冪の肩に書かれる数のことを冪指数と呼ぶ[8]が、冪指数を意味する用語として、英語ではしばしば exponent と index が同義語として用いられる。この用語選定は18世紀、19世紀を通じて極めて曖昧で個人の嗜好に委ねられていた[9]。しかし、ガウスは、その著書Disquisitiones Arithmeticae において通常の冪指数と数論的な指数を峻別する必要性から exponens は通常の冪指数、index は数論的な指数を表すものとして明確に区別し使い分けて解説に使用しており、この使い分けはディリクレ、デデキント、ヒルベルトを通じて数論の世界での標準となった[9]

もとをたどれば、1544年にミハエル・スティーフェルがラテン語:"exponens" を造語し[10][11]、対して1586年にラザルス・シェーナーが数学者ペトルス・ラムスの書籍への補注としてラテン語:"index" を(スティーフェルが exponens と呼んだものと同じものを指す意味で)用いた[12]のがそれぞれの語源と考えられる。exponent と index はこれらの英語翻訳であり、例えば index はサミュエル・ジーク英語版が1696年に導入した[2]

exponentindex の微妙な使い分けと併用の時代はここから始まり、その併用のされ方は国と時代だけでなく個人によっても異なった。イギリスは当初index が優勢であり、これは聖バーソロミューの大虐殺で殉死したラムスの著作がプロテスタント諸国で非常に人気を集めたからだとの指摘がある[13]

日本語「冪」

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ウィクショナリーに関連の辞書項目があります。

『冪』の字義は「覆う、覆うもの」であって、『』と同音同義である。江戸時代和算家は「冪」の略字として「巾」を用いていた[14]

第二次世界大戦後の漢字制限政策のもと、これらの字は常用漢字当用漢字に含まれず、1950年代以降の学習参考書などの出版物では仮名書きで「べき乗」または「累乗」への書き換えが進められ、結果として初等数学の教科書ではもっぱら「累乗」が用いられた。

冪集合」、「冪級数」などの高等学校以下で扱われない多くの概念に対しては、「冪」の部分が置き換えられることはなく、例えば「べき乗集合」や「累乗集合」などといった表現はあまり生じていない。

定義

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自然数乗冪

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実数(または積×{\displaystyle \times } の定義された、より一般には半群)において、元x自然数n に対してxn

xn=x××xn {\displaystyle x^{n}=\underbrace {x\times \cdots \times x} _{n\ {\text{個}}}}

で定義する(厳密には再帰的に定義する)。上付きn が書けない場合には、x^nという表記を用いることが多い。

この操作を「xn 乗を取る」などといい、特にn を固定してx を入力とする関数(特に実数x の函数)と見るときは、冪関数という。x の 2乗、3乗は特に、それぞれx平方 (へいほう、:square)、立方 (りっぽう、:cube) と呼ばれ、2乗を特に自乗という場合もある。

xn において、x(てい、:base基数)と呼び、n冪数冪指数または単に指数(しすう、:exponent) と呼ぶ[注釈 1]。必ずしも冪指数とは限らない添字n をその基準となる文字x の右肩に乗せる添字記法を指数表記・冪記法などとよぶ場合もある。

厳密には、xn 乗冪は

  1. x1 =x,
  2. xn+1 =xn ×x   (n ≥ 1)

によって再帰的に定義される。

負の整数乗冪

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帰納的定義を見れば下のように拡張するのが自然である。

有理数の範囲で2の冪を例に取ると:

ただし、底が 0 の場合は「0 で割れない」などの理由から定義しないか、または 00 については 1 と定義するのが一般的である。

→詳細は「0の0乗」を参照

有理数乗冪

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→詳細は「冪根」を参照

自然数m に対し、xm乗根すなわちm 乗してx になるような数y がただ一つあるならば、そのyx1/m とし、自然数または整数n に対し

xn/m = (x1/m)n

と定めることによって、x を底とする冪乗の指数を有理数の範囲まで拡張することができる。このとき、指数法則と呼ばれる下の関係式が成り立つ。

  • xr+s =xr ×xs
  • xr×s = (xr)s

ここで、rs は、冪が定義できる範囲の有理数である。つまり、x が逆元をもたないなら自然数、逆元はもつが冪根をもたないなら整数、m 乗根をもつが逆元をもたないならばm を分母とする正の有理数、逆元もm 乗根ももつならばm を分母とする有理数である。

実数乗冪

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→詳細は「指数関数」を参照

x が正の実数ならば、上で制限されていた指数への条件は外れる。正数ならば任意の自然数m に対する正のm 乗根xm{\displaystyle {\sqrt[{m}]{x}}} がただ一つ存在するので、正の有理数nm{\displaystyle {\frac {n}{m}}} に対し

xnm=(xm)n=xnm{\displaystyle x^{\frac {n}{m}}={\bigl (}{\sqrt[{m}]{x}}{\bigr )}^{n}={\sqrt[{m}]{x^{n}}}}

と定めることができる。さらに、x が 0 でなければ逆元が存在するので、指数は有理数全体まで拡張される。

x (>0) の冪は、その指数に関して極限を取ることによって実数上の関数に拡張され、連続関数になる。連続な拡張は一意であり、これをx を底とする指数関数と呼ぶ。

複素数乗冪

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→詳細は「複素指数函数」および「複素対数函数」を参照

複素数z に対して、函数exp を級数

exp(z):=n=0znn!{\displaystyle \exp(z):=\textstyle \sum \limits _{n=0}^{\infty }{\dfrac {z^{n}}{n!}}}

で定義する。この級数は任意の複素数z に対して収束する。特にexp(1) ≕e自然対数の底に等しく、任意の実数x に対してexp(x) =ex(右辺は実数e の実数x 乗の意)である(したがって任意の複素数に対してez ≔ exp(z) とも書かれる[注釈 2])。zx +iyx, y は実数)と表すと、

exp(x+iy)=ex(cosy+isiny)=exp(x)cis(y){\displaystyle \exp(x+iy)=e^{x}(\cos y+i\sin y)=\exp(x)\operatorname {cis} (y)}

が成り立つ(cis純虚指数函数)。特にeiy = cos(y) +i⋅sin(y)オイラーの公式と呼ばれる関係式である。

さらに、この関数の「逆関数」をlog と書けば、一般の複素数w ≠ 0 に対して

wz:=ezlogw{\displaystyle w^{z}:=e^{z\log w}}

と定義される。log多価関数なので、一般には値が 1 つには定まらない。ただし、w =e の場合には、上の冪級数で定義したほうの意味で用いるのが普通である。

性質

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  • 冪演算は可換でない(たとえば23 = 8 , 32 = 9 , 8≠9.)。また結合的でない(たとえば(23)2 = 64 , 512 = 2(32) , 64≠512.)。
  • 括弧を用いずにabc と書いたときには、これはふつうa(bc) を意味する。すなわち冪演算は右結合的である(これは優先順位(precedence,演算子の優先順位)ではなく、演算子の結合性(associativity,en:Operator associativity)のことである)。

指数法則

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以下の一覧表において多重定義の虞を除くため、底は非零実数であるような冪のみを考える。ただし、正の冪のみを考えるならば、底が0 でも各法則は成り立つ。また以下の一覧において、有理数について分母が奇数あるいは偶数であるというときは、常にその有理数の既約分数表示における分母のことを言っているものとする。

指数法則
規則条件
a0=1{\displaystyle a^{0}=1}a ≠ 0 は任意
ar=1ar{\displaystyle a^{-r}={\frac {1}{a^{r}}}}
  • a > 0 ならばr は任意の実数
  • a < 0 ならばr は分母が奇数の任意の有理数
amn=amn=(an)m{\displaystyle a^{\frac {m}{n}}={\sqrt[{n}]{a^{m}}}=({\sqrt[{n}]{a}})^{m}}
  • a > 0 ならばn は任意の自然数でm は任意の整数
  • a < 0 ならばn は任意の奇数でm は任意の整数
ar+s=aras{\displaystyle a^{r+s}=a^{r}\cdot a^{s}}
  • a > 0 ならばr, s は任意の実数
  • a < 0 ならばr, s は分母が奇数の任意の有理数
ars=aras{\displaystyle a^{r-s}={\frac {a^{r}}{a^{s}}}}
  • a > 0 ならばr, s は任意の実数
  • a < 0 ならばr, s は分母が奇数の任意の有理数
(ab)r=arbr{\displaystyle (a\cdot b)^{r}=a^{r}\cdot b^{r}}
  • a  • b ≠ 0 ならばr は任意の自然数、あるいは任意の整数
  • a > 0,b > 0 ならばr は任意の実数
  • a, b の少なくとも一方が負ならばr は分母が奇数の任意の有理数
(ab)r=arbr{\displaystyle \left({\frac {a}{b}}\right)^{r}={\frac {a^{r}}{b^{r}}}}
  • 整数r に対して、[r ≥ 0 かつb ≠ 0] または [r ≤ 0 かつa ≠ 0] のとき
  • a > 0,b > 0 ならばr は任意の実数
  • a, b の少なくとも一方が負ならばr は分母が奇数の任意の有理数
(ar)s=ars{\displaystyle (a^{r})^{s}=a^{r\cdot s}}
  • a ≠ 0 ならばr, s は任意の整数
  • a > 0 ならばr, s は任意の実数
  • a < 0 ならばr, s は分母が奇数の任意の有理数
(ar)s=ars{\displaystyle (a^{r})^{s}=-a^{r\cdot s}}a < 0 かつ有理数r, s に対して、r およびr  • s は分母が奇数、かつr  • s の分子が奇数のとき
(ar)s = ±ar • s に関して
  • 冪指数r, s の少なくとも一方が無理数であるとき、あるいはこれらの双方が有理数だがr またはr  • s の少なくとも一方の分母が偶数となるときには、a < 0 に対する(ar)s またはar • s は定義されない。それ以外のとき、この両者は定義されて符号の違いを除いて一致する。特に両者はa > 0 ならば任意の実数r, s に対して一致し、またa ≠ 0 ならば任意の整数r, s に対して一致する。
  • a < 0 かつr, s が整数でない有理数であるときには可能性は二通り考えられ、どちらになるかはr の分子とs の分母の素因数分解が関係する。式(ar)s = ±ar • s の右辺の符号は何れが正しいのかを知るにはa = −1 のときを見れば十分である(与えられたr, s に対してa = −1 のとき正しくなる方の符号をとれば、任意のa < 0 についても成り立つ)。
  • a < 0 に対して(ar)s = −ar • s が適用されるならば、a ≠ 0 に対して(ar)s = |a|r • s が成り立つ(冪指数が正ならばa = 0 のときも成り立つ)。

例えば、((−1)2)12 = 1 および(−1)2 • 12 = −1 であるから、a < 0 に対してa2 = (a2)12 = −a2 • 12 = −a, したがって任意の実数a に対してa2 = |a| が成り立つ。

指数・対数法則の不成立

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正の実数に対する冪および対数に関する等式のいくつかは、複素数冪や複素対数がどのように一価函数として定義されようとも、複素数に対しては成り立たないことが起こる。

  1. 等式log(bx) =x⋅log(b)b が正の実数でx が実数のときにはいつでも成り立つ。しかし、複素対数の主枝英語版に対して
    iπ=log(1)=log[(i)2]2log(i)=2(iπ2)=iπ{\displaystyle i\pi =\log(-1)=\log \left[(-i)^{2}\right]\neq 2\log(-i)=2\left(-{\frac {i\pi }{2}}\right)=-i\pi }

    は反例になる。複素対数のどの枝を用いたかに関わらず、この等式には同様の反例が存在する。(この結果のみを使うものとすれば)

    log(wz)zlog(w)(mod2πi){\displaystyle \log(w^{z})\equiv z\cdot \log(w){\pmod {2\pi i}}}

    であるとまでしか言えない。

    この等式はlog を多価函数と考えるときでさえ成り立たない。log(wz) の取り得る値はz⋅log(w) の取り得る値を部分集合として含む。log(w) の主値をLog(w) とし、m, n を任意の整数とすると、両辺の取り得る値は

    {log(wz)}={zLog(w)+z2πin+2πim}{\displaystyle \{\log(w^{z})\}=\{z\cdot \operatorname {Log} (w)+z\cdot 2\pi in+2\pi im\}}
    {zlogw}={zLog(w)+z2πin}{\displaystyle \{z\cdot \log w\}=\{z\cdot \operatorname {Log} (w)+z\cdot 2\pi in\}}
    である。
  2. 等式(bc)x =bx⋅cx および(b/c)x =bx/cxx が実数でさらにbc が正の実数ならば成り立つ。しかし主枝を用いた計算で
    1=((1)(1))12(1)12(1)12=1{\displaystyle 1=((-1)(-1))^{\frac {1}{2}}\neq (-1)^{\frac {1}{2}}(-1)^{\frac {1}{2}}=-1}
    および
    i=(1)12=(11)12112(1)12=1i=i{\displaystyle i=(-1)^{\frac {1}{2}}=\left({\frac {1}{-1}}\right)^{\frac {1}{2}}\neq {\frac {1^{\frac {1}{2}}}{(-1)^{\frac {1}{2}}}}={\frac {1}{i}}=-i}
    が反例として示される。他方、x が整数のときには任意の非零複素数に対して成り立つ。複素数冪を多価函数として考えれば、((−1)(−1))1/2 の取り得る値は{1, −1} で、等式は成り立つが{1} = {((−1)(−1))1/2} と言うことは間違っている。
  3. 等式(ex)y =exyxy が実数であるときには成り立つが、任意の複素数に対して正しいと仮定すると、Clausen et al. (1827)[15]の発見した
    任意の整数n に対して、
    1. e1+2πin=e1e2πin=e1=e{\displaystyle e^{1+2\pi in}=e^{1}e^{2\pi in}=e\cdot 1=e}
    2. (e1+2πin)1+2πin=e{\displaystyle (e^{1+2\pi in})^{1+2\pi in}=e}
    3. e1+4πin4π2n2=e{\displaystyle e^{1+4\pi in-4\pi ^{2}n^{2}}=e}
    4. e1e4πine4π2n2=e{\displaystyle e^{1}e^{4\pi in}e^{-4\pi ^{2}n^{2}}=e}
    5. e4π2n2=1{\displaystyle e^{-4\pi ^{2}n^{2}}=1}
    を得るが、これはn0 でないとき誤りである。

    という不合理が生じる。この推論にはいくつも問題がある:

    • 主な誤りは、二行目から三行目に行くときに冪の順番を変えることで選ばれる主値が変わることである。
    • 多価函数の視点から見ると、最初の誤りは更に早く起きている。一行目で暗にe は実数としているにも拘らず、e1+2πin の結果は複素数であり、e + 0i と書いたほうがよい。二行目を実数ではなくこの複素数で置き換えることで、そこでの冪が取れる値を複数持つようになる。二行目から三行目で指数の順番を変えたことも、取りうる値の数に影響を及ぼす。(ez)wezw だが、整数n にわたって多価な意味で(ez)w =e(z+2πin)w としたほうがよい。

一般化

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モノイドにおける冪

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冪演算は任意のモノイドにおいて定義できる[16]。モノイドは単位元を持つ半群、すなわち適当な集合X を台として合成あるいは乗法と呼ばれる二項演算が定義される代数系であって、その乗法が結合法則を満足し、かつ乗法単位元1X を持つものを言う。モノイドにおける自然数冪は

として帰納的に定義することができる(先の式の右辺(の 1)はX の単位元、後の式の左辺の 1 は自然数の1 で、当然だがこれらは互いに別のものである)。特に先の式(零乗すること)は「単位元を持つ」ことによって初めて意味を成す規約であることに注意すべきである(空積も参照のこと)。

モノイドの例には(の乗法モノイド)のような数学的に重要な多くの構造が含まれ、またより特定の例として行列環の場合について後述する。

行列および線型作用素の冪

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正方行列A に対してA 自身のn 個のを行列の冪と呼ぶ。またA0 は単位行列に等しいものと定義され[17]、さらにA が可逆ならばAn ≔ (A−1)n と定義する。

行列の冪は離散力学系英語版の文脈でしばしば現れる。そこでは行列A は適当な系の状態ベクトルx を次の状態Ax へ遷移させることを表す[18]。これは例えばマルコフ連鎖の標準的な解釈である。これにより、A2x は二段階後の系の状態であり、以下同様にAnxn 段階後の系の状態と理解される。つまり行列の冪An は現在とn 段階後の状態の間の遷移行列であって、行列の冪を計算することはこの力学系の発展を解くことに等しい。便宜上、多くの場合において行列の冪は固有値と固有ベクトルを用いて計算することができる。

行列を離れてより一般の線型作用素にも冪演算は定められる。例えば微分積分学における微分演算d / dx は函数f に作用して別の函数df / dx =f' を与える線型作用素であり、この作用素のn-乗はn-階微分

(ddx)nf(x)=dndxnf(x)=f(n)(x){\displaystyle {\Bigl (}{\frac {d}{dx}}{\Big )}^{\!n}f(x)={\frac {d^{n}}{dx^{n}}}f(x)=f^{(n)}(x)}

である。これは線型作用素の離散的な冪の例であるが、作用素の連続的な冪が定義できたほうがよい場面が多く存在する。C0-半群の数学的理論はこのような事情を出発点としている[19]。離散冪指数に対する行列の冪の計算が離散力学系を解くことであったのと同様に、連続冪指数に対する作用素の冪の計算は連続力学系を解くことに等しい。そういった例として熱方程式シュレーディンガー方程式波動方程式あるいはもっとほかの時間発展を含む偏微分方程式を挙げることができる。このような冪演算の特別の場合として、微分演算の非整数乗は分数階微分と呼ばれ、分数階積分とともに、分数階微分積分学の基本演算の一つとなっている。

有限体における冪

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→「冪剰余」も参照

は、四則演算が矛盾なく定義されそれらの馴染み深い性質が満足されるような代数的構造である。例えば実数全体は体を成す。複素数の全体、有理数の全体などもそうである。これら馴染み深い例が全て無限集合であるのと異なり、有限個の元しか持たない体も存在する。そのもっとも簡単な例が二元体F2 = {0,1} で、加法は 0 + 1 = 1 + 0 = 1, 0 + 0 = 1 + 1 = 0 および乗法は0  • 0 = 1  • 0 = 0  • 1 = 0, 1  • 1 = 1 で与えられる。

有限体における冪演算は公開鍵暗号に応用を持つ。例えばディフィー・ヘルマン鍵交換は、有限体における冪は計算量的にコストが掛からないのに対し、冪の逆である離散対数は計算量的にコストが掛かるという事実を用いている。

任意の有限体F は、素数p がただ一つ存在して、任意のxF に対してpx = 0 が成り立つ(xp 個加えれば零になる)という性質を持つ。例えば二元体F2 ではp = 2 である。この素数p はその体の標数と呼ばれる。F を標数p の体としてF の各元をp-乗する写像f(x) =xp を考える。これはFフロベニュース自己準同型と呼ばれる。新入生の夢(幼稚な二項定理)とも呼ばれる等式(x +y)p =xp +yp がこの体においては成り立つため、フロベニュース自己準同型が実際に体の自己準同型を与えるものであることが確認できる。フロベニュース自己準同型はF の素体上のガロワ群の生成元であるため数論において重要である。

抽象代数学における冪

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冪指数が整数であるような冪演算は抽象代数学における極めて一般の構造に対して定義することができる。

集合X は乗法的に書かれた冪結合的英語版二項演算を持つもの:

(xixj)xk=xi(xjxk)(xX){\displaystyle (x^{i}x^{j})x^{k}=x^{i}(x^{j}x^{k})\quad (\forall x\in X)}

とするとき、任意のxX と任意の自然数n に対して冪xn は、xn 個のコピーの積を表すものとして

x1=xxn=xn1x(n>1){\displaystyle {\begin{aligned}x^{1}&=x\\x^{n}&=x^{n-1}x\quad (n>1)\end{aligned}}}

のように帰納的に定義される。これは以下のような性質

xm+n=xmxn(xm)n=xmn{\displaystyle {\begin{aligned}x^{m+n}&=x^{m}x^{n}\\(x^{m})^{n}&=x^{mn}\end{aligned}}}

を満足する。さらに、考えている演算が両側単位元1 を持つ:

!1 s.t. x1=1x=x(xX){\displaystyle \exists !1{\text{ s.t. }}x1=1x=x\quad (\forall x\in X)}

ならばx0 は任意のx に対して1 に等しいものと定義する。[要出典]

さらにまた演算が両側逆元を持ち、なおかつ結合的

xx1=x1x=1,(xy)z=x(yz){\displaystyle {\begin{aligned}xx^{-1}&=x^{-1}x=1,\\(xy)z&=x(yz)\end{aligned}}}

ならばマグマXを成す。このときx の逆元をx−1 と書けば、冪演算に関する通常の規則

xn=(x1)nxmn=xmxn{\displaystyle {\begin{aligned}x^{-n}&=\left(x^{-1}\right)^{n}\\x^{m-n}&=x^{m}x^{-n}\end{aligned}}}

はすべて満足される。また(例えばアーベル群のように)乗法演算が可換ならば

(xy)n=xnyn{\displaystyle (xy)^{n}=x^{n}y^{n}}

も満足される。(アーベル群が通常そうであるように)二項演算を加法的に書くならば、「冪演算は累乗(反復乗法)である」という主張は「乗法は累加(反復加法)である」という主張に引き写され、各指数法則は対応する乗法法則に引き写される。

一つの集合上に複数の冪結合的に項演算が定義されるときには、各演算に関して反復による冪演算を考えることができるから、どれに関する冪かを明示するために上付き添字に反復したい演算を表す記号を併置する方法がよく用いられる。つまり演算 および# が定義されるとき、xn と書けばx ∗ ⋯ ∗x を意味し、x#n と書けばx # ⋯ #x を意味するという具合である。

上付き添字記法は、特に群論において、共軛変換を表すのにも用いられる(即ち、g, h を適当な群の元としてgh =h−1gh)。この共軛変換は指数法則と同様の性質を一部満足するけれども、これはいかなる意味においても反復乗法としての冪演算の例ではない。カンドルはこれら共軛変換の性質が中心的な役割を果たす代数的構造である。

集合の冪

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デカルト冪

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→詳細は「デカルト積」を参照

自然数n と任意の集合A に対して、式An はしばしばA の元からなる順序n-全体の成す集合を表すのに用いられる。これはAn は集合{0, 1, 2, …,n−1} から集合A への写像全体の成す集合であると言っても同じことである(n-組(a0,a1,a2, …,an−1)iai へ送る写像を表す)。

無限基数κ と集合A に対しても、記号Aκ は濃度κ の集合からA への写像全体の成す集合を表すのに用いられる。基数の冪との区別のためにκA と書くこともある。

反復直和

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→詳細は「直和」を参照

一般化された冪は、複数の集合上で定義される演算や追加の構造を持つ集合に対しても定義することができる。例えば、線型代数学において勝手な添字集合上でのベクトル空間直和を考えることができる。つまりVi をベクトル空間として

iNVi{\displaystyle \bigoplus _{i\in \mathbb {N} }V_{i}}

を考えるとき、任意のi についてVi =V とすれば得られる直和を冪記法を用いてVN あるいは直和の意味であることが明らかならば単にVN のように書くことができる。ここで再び集合N を基数n で取り替えればVn を得る(濃度n を持つ特定の標準的な集合を選ぶことなしに、これは同型を除いてのみ定義される)。V として実数体R を(それ自身の上のベクトル空間と見て)とれば、n を適当な自然数として線型代数学でもっともよく調べられる実ベクトル空間Rn を得る。

配置集合

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冪演算の底を集合とするとき、何も断りがなければ冪演算はデカルト積である。複数の集合のデカルト積はn-組を与え、n-組は適当な濃度を持つ集合上で定義された写像として表すことができるのだから、この場合冪SN は単にN からS への写像全体の成す集合

SN{f:NS}{\displaystyle S^{N}\equiv \{f\colon N\to S\}}

である。この定義は|SN| = |S||N| が満たされるという意味で基数の冪と整合する。ただし|X|X の濃度を表す。"2" を集合{0, 1} として定義すれば|2X| = 2|X| が得られる。ここに2XX冪集合であり、普通は𝒫(X) などで表される。

圏論における冪対象

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→詳細は「デカルト閉圏」を参照

デカルト閉圏において、任意の対象に対して別の任意の対象を冪指数とする冪演算を冪対象によって与えることができる。集合の圏における冪対象は配置集合であるから、これはその一般化になっている。考えている圏に始対象0 が存在するならば、冪対象00 は任意の終対象1 に同型である。

順序数・基数の冪

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→詳細は「基数の冪」および「順序数の冪」を参照

集合論では基数順序数の冪演算も定義される。

基数κ, λ に対して冪κλ は基数λ の任意の集合から基数κ の任意の集合への写像全体の成す集合の基数を表す[20]κ, λ がともに有限ならばこれは通常の算術的な(つまり自然数の)冪演算と一致する(たとえば、二元集合から元を取って得られる三つ組全体の成す集合の基数は8 = 23 で与えられる)。基数の算術においてκ0 は常に(特にκ が無限基数や0 であるときでさえ)1 である。

基数の冪は順序数の冪とは異なる。後者は超限帰納法を含む過程の極限として定義される。

反復冪

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→詳細は「テトレーション」を参照

自然数冪が乗法の反復として考えられたことと同様に、冪演算を繰り返す演算というものを定義することもできる。それをまた反復すれば別の演算が定義され、同様に繰り返してハイパー演算の概念を得る。このようにして得られるハイパー演算の列において、次の演算は前の演算に対して急速に増大する。

→「アッカーマン函数」、「クヌースの矢印記法」、および「巨大数」も参照

写像の冪の記法に関する注意

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合成冪

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→「反復合成写像」も参照

写像の冪乗となるべきものとして、写像を表す符牒の直後に整数の上付き添字を添えたとき、それは(反復乗法ではなくて)反復合成冪の意味で用いることがよく行われる。つまり例えばf3(x)f(f(f(x))) の意味であり、また特にf−1(x)f逆写像を意味するのが普通である。反復合成写像はフラクタル力学系の研究において興味を持たれる。チャールズ・バベッジ写像の平方根f 1/2(x) を求める問題を研究した最初の人であった。

値ごとの冪

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→「点ごとの積」も参照

しかし歴史的経緯により、三角函数の場合には、函数の略号に正の冪指数を添えたときは函数の値に対して冪を取ることを意味する一方で、−1 を冪指数としたときは逆函数を意味するという特別な文法が適用される。つまり、sin2x(sin x)2 を括弧を用いずに略記する方法に過ぎない一方、sin−1x逆正弦函数arcsin x を意味するのである。三角函数の逆数函数は(例えば1/(sin x) = (sin x)−1 = csc x のように)それぞれ固有の名前と略号が与えられているから、三角函数の逆数の略記法は無用である。同様の規約は対数函数にも適用され、log2x はふつう(log x)2 の意味であってlog log x の意味でない。

上付き添字

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→「添字表記法」も参照

添字付けられた変数を考えるとき、その変数の添字を上付きにする場合があり、それはあたかも冪であるかのような印象を受けるかもしれないが混同するべきではない。これは特にテンソル解析においてベクトル場の座標表示などで現れる。あるいはまた数列のような、既にそれ自身添字付けられているような量に対してさらに添字付けを行う場合にもしばしば用いられる。

高階導函数

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函数fn-階導函数はふつうf(n) と書かれるように、冪記法は冪指数を括弧で囲んで書くこともある。

効率的な演算法

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コンピュータ上で指数を自然数とする冪乗(累乗)を効率よく行う演算方法としてバイナリ法二進数法;en:exponentiation by squaring) とも呼ばれる演算方法を示す。

RSA暗号確率的素数判定法であるフェルマーテストなどでは、巨大な自然数を指数とする累乗を行う。この方法を使うと、指数がいかに巨大であっても高々そのビット数の2倍の回数の乗算で算出することが可能になり、繰り返し掛けるよりも大幅に効率がよくなる。特にRSA暗号やフェルマーテストなどにおいて各演算後に必要となる剰余演算(一般に最も計算時間がかかる)の回数を減らす効果がある。

一般に、コンピュータにとって標準的な(32ビットコンピュータならば約4億までの)自然数や浮動小数点数を底とする場合は下位桁から計算する方式を、前述のような巨大な自然数を底とする場合には上位桁から計算する方式を用いると効率が良い。

下位桁から計算する方式

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バイナリ法では、次の性質を利用する。

(ax)2=a2x{\displaystyle (a^{x})^{2}=a^{2x}}

例えば(a8)2 =a16 である。したがって、a(すなわちa1)から始めて2乗を繰り返すと次行のとおりになる。

a1a2a4a8a16a32{\displaystyle a^{1}\to a^{2}\to a^{4}\to a^{8}\to a^{16}\to a^{32}\to \cdots }

これらの数のうち、適切なものを選んで掛け合わせれば、任意の累乗を速く(すなわち少ない乗算回数で)計算することができる[21]。例えばa43 は、指数法則によって、

a43=a32+8+2+1=a32×a8×a2×a1{\displaystyle a^{43}=a^{32+8+2+1}=a^{32}\times a^{8}\times a^{2}\times a^{1}}

として計算することができる。乗算回数は 8 回[注釈 3]で済むので、a を 42 回繰り返し掛け合わせるのに比べて効率が良い。(下図で「→」は乗算を表し、「⇒」は2乗を表す。)

(十進表記): a1a2a4a8a16a32
2乗の繰返し(二進表記): a1a10a100a1000a10000a100000
    
累乗の計算(二進表記): a1a11──a1011───a101011
(十進表記):a1a3a11a43

コンピュータアルゴリズムとして書くとこうなる。

  1. 指数を n とし、2乗していく値 p :=a、結果値 v := 1 とする。
  2. n が 0 なら、v を出力して終了する。
  3. n の最下位桁が 1 なら、v := v * p とする。
  4. n := [n/2] とし(端数切捨て)、 p := p * p として、2. に戻る。

整数の内部表現が二進法であるコンピュータなら、4. では除算の代わりにシフト演算を用いることができる。

この方式はa が浮動小数点数である場合や、最終結果がレジスタに収まることがわかっている場合に効率が良い。また乗算にモンゴメリ乗算などを用いて冪剰余を計算する場合も、この方式で充分な効率が得られる。

上位桁から計算する方式

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上の方式と同様に、次の性質を使う。

a2x=(ax)2{\displaystyle a^{2x}=(a^{x})^{2}}

これに性質ax+1=axa{\displaystyle a^{x+1}=a^{x}\cdot a} を組み合わせると、次の関係が成り立つ。

a2x+1=(ax)2a{\displaystyle a^{2x+1}=(a^{x})^{2}\cdot a}

指数が偶数か奇数かによってこれら二つの式を使い分け、指数を順次約1/2にしていくことができる。例えばa43{\displaystyle a^{43}} は、

a43=a212+1=(a21)2a{\displaystyle a^{43}=a^{21\cdot 2+1}=(a^{21})^{2}\cdot a}

である。そしてa21{\displaystyle a^{21}} も同様に、

a21=a102+1=(a10)2a{\displaystyle a^{21}=a^{10\cdot 2+1}=(a^{10})^{2}\cdot a}

である。a10{\displaystyle a^{10}} はこうなる。

a10=a52=(a5)2{\displaystyle a^{10}=a^{5\cdot 2}=(a^{5})^{2}}

以下同様に、こうなる。

a5=a22+1=(a2)2a{\displaystyle a^{5}=a^{2\cdot 2+1}=(a^{2})^{2}\cdot a}
a2=a12=(a1)2{\displaystyle a^{2}=a^{1\cdot 2}=(a^{1})^{2}}
a1=a{\displaystyle a^{1}=a}

これを逆順にたどり、

a43=(((((a)2)2a)2)2a)2a{\displaystyle a^{43}=(((((a)^{2})^{2}\cdot a)^{2})^{2}\cdot a)^{2}\cdot a}

として算出できる[注釈 4]。(下図で「→」は乗算を表し、「⇒」は2乗を表す。)

aaa
二進表記: a1a10a100a101a1010a10100a10101a101010a101011
十進表記: a1a2a4a5a10a20a21a42a43

2乗した後にa を乗算するか否かは、指数n を二進表記したときの各ビットが1であるか否かと一致する。

コンピュータのアルゴリズムとして書くとこうなる。

指数n の二進表記を n とし、n の最下位桁を n[0]、最上位桁を n[m]、最下位から数えて k 桁目を n[k] と表記する。
  1. 結果値 v := 1 とし、
  2. k := m とする(最上位)。
  3. v := v * v
  4. n[k] が 1 ならば v := v *a とする。
  5. k := k − 1
  6. k ≧ 0 なら 3. に戻る。

この方式では、4. における乗数が常にa なので、下位桁から計算する方式に比べて乗数の桁数が小さくなり、計算時間がかからない。これは特に、レジスタに入りきらないような巨大な自然数を扱う場合に顕著となる。ただし(RSA暗号のように)冪乗の剰余を計算する場合であって法の大きさがa と同程度ならば、この効果はない。

また 4. における乗数が常にa なので、あらかじめa が定数(2 や 10 など、またはディフィー・ヘルマン鍵共有の生成元g など)であることがわかっている場合には、4. の乗算を最適化をすることができる。

巨大な自然数の汎用的な冪算ルーチン(a が小さい可能性が高い)や、a が小さかったり定数であることがわかっている場合、冪乗の剰余を計算する場合であってモンゴメリー演算を用いず別途剰余を計算する場合、数を保持するコストが高い場合など、指数を二進表記するコスト以上の効率が得られる場合に選択される。

脚注

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注釈

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  1. ^単に「指数」と呼ぶ場合、"exponent" に限らず、(数学に限っても)種々の index を意味する場合も多く、文脈に注意を要する(たとえば部分群の指数)。また、(必ずしも冪指数のことでない)"exponent" の訳として冪数が用いられることもある(たとえば群の冪数)。
  2. ^このような実函数の複素解析的延長は一意に定まる。
  3. ^乗算回数は、a32={\displaystyle a^{32}=}((((a2)2)2)2)2{\displaystyle ((((a^{2})^{2})^{2})^{2})^{2}} を計算するのに 5 回、a1×a2×a8×a32{\displaystyle a^{1}\times a^{2}\times a^{8}\times a^{32}} に 3 回の、合計 8 回かかる。
  4. ^この場合の乗算回数も、下位桁から計算するのと同じく合計 8 回かかる。

出典

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  1. ^abc鈴木 2013, p. 319, (PDF p. 5).
  2. ^abO'Connor, John J.; Robertson, Edmund F., “Etymology of some common mathematical terms”, MacTutor History of Mathematics archive, University of St Andrews, https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Miscellaneous/Mathematical_notation/ .
  3. ^O'Connor, John J.; Robertson, Edmund F., “Abu'l Hasan ibn Ali al Qalasadi”, MacTutor History of Mathematics archive, University of St Andrews, https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Al-Qalasadi/ .
  4. ^Cajori, Florian (2007). A History of Mathematical Notations, Vol I. Cosimo Classics. Pg 344.ISBN 1602066841
  5. ^René Descartes,Discourse de la Méthode ... (Leiden, (Netherlands): Jan Maire, 1637), appended book:La Géométrie, book one,page 299. From page 299:" ... Etaa, oua2, pour multipliera par soy mesme; Eta3, pour le multiplier encore une fois para, & ainsi a l'infini ; ... " ( ... andaa, ora2, in order to multiplya by itself; anda3, in order to multiply it once more bya, and thus to infinity ; ... )
  6. ^Quinion, Michael. “Zenzizenzizenzic - the eighth power of a number”. World Wide Words. 2010年3月19日閲覧。
  7. ^This definition of "involution" appears in the OED second edition, 1989, and Merriam-Webster online dictionary[1]. The most recent usage in this sense cited by the OED is from 1806.
  8. ^小学館デジタル大辞泉「冪指数」[2]
  9. ^ab鈴木 2013, p. 372, (PDF p. 58).
  10. ^See:
    • Earliest Known Uses of Some of the Words of Mathematics
    • Michael Stifel,Arithmetica integra (Nuremberg ("Norimberga"), (Germany): Johannes Petreius, 1544), Liber III (Book 3), Caput III (Chapter 3): De Algorithmo numerorum Cossicorum. (On algorithms of algebra.),page 236. Stifel was trying to conveniently represent the terms of geometric progressions. He devised a cumbersome notation for doing that. On page 236, he presented the notation for the first eight terms of a geometric progression (using 1 as a base) and then he wrote:"Quemadmodum autem hic vides, quemlibet terminum progressionis cossicæ, suum habere exponentem in suo ordine (ut 1ze habet 1. 1ʓ habet 2 &c.) sic quilibet numerus cossicus, servat exponentem suæ denominationis implicite, qui ei serviat & utilis sit, potissimus in multiplicatione & divisione, ut paulo inferius dicam." (However, you see how each term of the progression has its exponent in its order (as 1ze has a 1, 1ʓ has a 2, etc.), so each number is implicitly subject to the exponent of its denomination, which [in turn] is subject to it and is useful mainly in multiplication and division, as I will mention just below.) [Note: Most of Stifel's cumbersome symbols were taken fromChristoff Rudolff, who in turn took them from Leonardo Fibonacci'sLiber Abaci (1202), where they served as shorthand symbols for the Latin wordsres/radix (x),census/zensus (x2), andcubus (x3).]
  11. ^鈴木 2013, p. 337, (PDF p. 23).
  12. ^鈴木 2013, p. 348, (PDF p. 34).
  13. ^鈴木 2013, p. 350, (PDF p. 36).
  14. ^王青翔『「算木」を超えた男』東洋書店、東京、1999年。ISBN 4-88595-226-3 
  15. ^Steiner, J.; Clausen, T.; Abel, N. H. (January 1827). “Aufgaben und Lehrsatze, erstere aufzulosen, letztere zu beweisen [Problems and propositions, the former to solve, the later to prove]”. Journal für die reine und angewandte Mathematik (Berlin:Walter de Gruyter) 2: 286-287. doi:10.1515/crll.1827.2.96. ISSN 0075-4102. OCLC 1782270. http://gdz.sub.uni-goettingen.de/no_cache/dms/load/img/?IDDOC=270662. 
  16. ^Nicolas Bourbaki (1970). Algèbre. Springer , I.2
  17. ^Chapter 1, Elementary Linear Algebra, 8E, Howard Anton
  18. ^Strang, Gilbert (1988), Linear algebra and its applications (3rd ed.), Brooks-Cole , Chapter 5.
  19. ^E Hille, R S Phillips:Functional Analysis and Semi-Groups. American Mathematical Society, 1975.
  20. ^N. Bourbaki, Elements of Mathematics, Theory of Sets, Springer-Verlag, 2004, III.§3.5.
  21. ^奥村晴彦『C言語による最新アルゴリズム事典』技術評論社、1991年、304頁。ISBN 4-87408-414-1 

参考文献

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関連文献

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  • 高木貞治、1904、「第十一章 冪及對數」、『新式算術講義』

関連項目

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外部リンク

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