
「糸」字は細い絹糸を意味する。古字は2つの丸い束が連なった形であり、よりまとめられた糸の形に象る。
「糸」の字音はベキであり、常用漢字の「糸」は「絲」(音はシ、絹糸の意)の略字である。
『説文解字』に「糸は細い絲」とある。長さ・重さの単位として蚕が一回に吐くのを忽といい、十忽が絲であるので、「糸」は「絲」の半分とすると、5忽の細さということになる。
ちなみに10絲が1毫、10毫が1厘である。
偏旁の意符としては糸や縄、絹織物、麻織物、衣服は元より、刺繍や染物で用いる色(例:紅、緑、紺、紫)に関する事項を示す。主として左の偏あるいは下の脚の位置に置かれる。楷書では偏の位置に来るとき「小」形を3点に変形させることが多い(下記参照)。
異体字も数多く存在し、部分を変えた異体字(纏と纒)、同音の文字に変えた字体(綫と線(日本では「線」を正字とする)、繍と綉など)、一部分を省略した字(緜と綿(日本では「綿」を正字とする)など)、表外字や常用漢字の新字体とは別の拡張新字体(纖と纎、纃と緕(ちなみにこの字種は和製漢字である)など)、他の部首の異体字(襤(衣部)と繿)などが存在する。
| 康熙字典 日本 韓国 | 中国 (繁体字) 台湾 香港 | 中国 (簡体字) |
|---|---|---|
| 紀 | 紀 | 纪 |
| 細 | 細 | 细 |
楷書では「糸」が偏の位置に来るときには「小」を3点にすることが多い。しかしながら、日本では当用漢字字体表において糸偏の下を「小」にする字体で提示され、3点は注意書きで「筆写(かい書)の標準とする際には、点画の長短・方向・曲直・つけるかはなすか・とめるかはね又ははらうか等について、必ずしも拘束しない」ものの方向の例としてのみ挙げられたので、教科書体も「小」を採用しており、現在、若年層では3点で書く人は少ないように思われる[独自研究?]。
印刷書体(明朝体)では康熙字典体が「小」形を採用した。日本では上記のように当用漢字字体表および常用漢字表において「小」形を採用し、表内・表外を問わず康熙字典体に従っている。一方、中国の新字形、台湾の国字標準字体、香港の常用字字形表はこれを3点に戻している(ただし、コンピュータ上でWindowsが装備するフォント細明體・新細明體 (PMingLiU・MingLiU) は5.03版以降でないとこれに対応しておらず、それ以前の版では「小」形で表されている)。
中国の簡体字では「纟」のように3点を1つの横画に簡略化している。
糸
| 画数 | 例字 |
|---|---|
| 0 | 糸 |
| 1 | 系 |
| 2 | 紆・糾(糾3) |
| 3 | 紀・紅・紂・約 |
| 4 | 級(級3)・紘・紗・索・紙・純・素・紐・納・紊・紛・紡・紋 |
| 5 | 絃・紺・細・終・紹・紳・組・統(統6)絆・累 |
| 6 | 給・結・絢・絞・紫・絨・絮・絲(糸0)・絶・絡 |
| 7 | 經(経5)・絹・綏 |
| 8 | 維・綺・綱・綽・綬・綜・綻・綢・綴・緋・絣(絣6)・綿・網・綾・綠(緑)・綸 |
| 9 | 緯(緯10)・緣(縁)・緩(緩)・緘・緊・緝・緖(緒8)・線・緞・緻・締・編・緬・練(練8)・緺・緟 |
| 10 | 縊・縞・縣(県→目部6)・縟・縉・縋・縢・縛(縛) |
| 11 | 縮・縱(縦10)・績・總(総8)・繁(繁10)・縻・繆・縷・縺・縫(縫10) |
| 12 | 繞・織・繕・繙・繚 |
| 13 | 繹・繰・繪(絵6)・繫(繋11:簡易慣用)・繭(繭12)・繡(繍11:簡易慣用)・繩(縄) |
| 14 | 繼(継7)・纂・繻・辮 |
| 15 | 纈・纐・纏・續(続7) |
| 17 | 纓・纔・纖(繊11) |
| 21 | 纜 |