| 箱根心中 | |
|---|---|
| 作者 | 松本清張 |
| 国 | |
| 言語 | 日本語 |
| ジャンル | 短編小説 |
| 発表形態 | 雑誌掲載 |
| 初出情報 | |
| 初出 | 『婦人朝日』1956年5月号 |
| 出版元 | 朝日新聞社 |
| 刊本情報 | |
| 収録 | 『紙の牙』 |
| 出版元 | 東都書房 |
| 出版年月日 | 1959年9月15日 |
| 装幀 | 中島靖侃 |
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『箱根心中』(はこねしんぢゅう)は、松本清張の短編小説。『婦人朝日』1956年5月号に掲載され、1959年9月に短編集『紙の牙』収録の一作として、東都書房から刊行された。
中畑健吉のいる銀座の社に従妹の貴玖子が電話をかけてきた。会えば、いつも軽口ばかり言いあっている従兄妹の間であった。十四五年前のひそかに愉しい思い出の話のあと、健吉は「このごろ、気がくさくさして仕方がないんだ。日帰りで箱根にでも行ってみないか?」と身体をのりだし、貴玖子は「行ってみたいわ、どこかに」と、少し投げやりな調子で云った。健吉は彼女の顔に血の色のさしてくるのを見て、胸がさわいだ。
貴玖子の夫の雄治には女遊びのくせがあった。貴玖子夫婦の別れ話も健吉は前にきいたが、そのつど、親類の年よりが出て話をさばいた。貴玖子が結婚してしばらくして、雄治から「健吉君は、おまえが好きだったんだろう」と言われたということを、健吉は親類の誰からか聞いた。
宮ノ下から木賀までは近いから歩いた。右側は早川の深い渓流になっていた。「健さん、ここから飛びこむと死ぬかしら」「(健吉の妻の)芳子さんはお仕合わせね」。うしろから姿を見せてきたタクシーに乗り、登り坂に入ると、不意に空のタクシーが、二人の乗ったタクシーの横腹に突っこんだ。健吉は胸部に打撲傷を負った。二日は動かせないと医者は貴玖子に言った。強羅駅を出た最終登山電車が、闇のなかを走っていくのが見えた。それが二人と東京を結んでいるロープの切断のように思えた。