この記事は特に記述がない限り、日本国内の法令について解説しています。また最新の法令改正を反映していない場合があります。ご自身が現実に遭遇した事件については法律関連の専門家にご相談ください。免責事項もお読みください。 |
文書偽造の罪(ぶんしょぎぞうのつみ)は、公文書や私文書の偽造に関する犯罪類型。講学上社会的法益に対する罪に分類される。文書偽造の罪の立法態様には形式主義と実質主義がある[1]。
広義の偽造には有形偽造と無形偽造がある[2]。なお、有形変造は有形偽造に含められることがあり、この場合、有形偽造は狭義の有形偽造と有形変造に分けられる[2]。
文書偽造の罪の立法態様には実質主義と形式主義がある[1]。実質主義は無形偽造(虚偽文書の作成)の処罰、形式主義は有形偽造(他人名義の冒用)の処罰を中心に考える。
実質主義とは無形偽造の処罰を文書偽造の罪の原則とする立法をいう[3]。実質主義では文書偽造の処罰根拠は内容虚偽の文書が証拠とされることは事実の真相を知ることを害する行為であるとする[3]。
しかし、形式主義の観点からみると、作成者不明の文書は怪文書であって誰もその文書に記された内容の真偽を問題にするはずがないという指摘がある[4]。文書の記載内容の真偽は文書の作成者に対する記載の意義の確認などの行為があって初めて判明する性質の問題であるとの指摘である[4]。
形式主義とは有形偽造の処罰を文書偽造の罪の原則とする立法をいう[3]。形式主義の根拠には帰属説と責任追及説がある[5]。
帰属説とは、文書に存在する意思表示が名義人に帰属しないものは名義人による意思表示として用いることができない文書であり、そのような文書を不正に作出する行為を処罰するものであるとする[5]。
責任追及説とは、文書の名義人と作成者が一致していないにもかかわらず一致していると誤解を与える文書が作出されると、その受取人には名義人から作成者を把握することができなくなり作成者に責任を追及することができなくなるため処罰するものであるとする[5]。
文書の作成者の意味については物体化説と精神性説がある[6]。
物体化説(行為説・事実説)では、文書を物理的に作成した者が文書の作成者であるとする[6]。しかし、物体化説によると乙が甲法人の代表者丙の依頼を受けて株券を印刷した場合、通常、株券には作成者の記載はないため名義人が存在しない文書になってしまい、株券など法人の印刷物が文書偽造罪による保護の客体に含まれないこととなる問題点がある[6]。そのため物体化説はほとんど支持を得ていない[6]。
精神性説(意思説・効果帰属説)では、精神的営為として文書に意思表示を固定化させた者が文書の作成者であるとする[7]。精神性説では乙が甲法人の代表者丙の依頼を受けて株券を印刷した場合、その意思を表示させた甲法人が名義人であり、株券も文書偽造罪による保護の客体に含まれるとする[6]。
| 文書偽造の罪 | |
|---|---|
| 法律・条文 | 刑法154条-161条の2 |
| 保護法益 | 文書に対する公衆の信用 |
| 主体 | 人 |
| 客体 | 文書(詔書、電磁的記録) |
| 実行行為 | 各類型による |
| 主観 | 故意犯(目的犯) |
| 結果 | 挙動犯、抽象的危険犯 |
| 実行の着手 | 各類型による |
| 既遂時期 | 各類型による |
| 法定刑 | 各類型による |
| 未遂・予備 | 未遂罪(157条3項、158条2項、161条2項、161条の2第4項) |
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| 日本の刑法 |
|---|
| 刑事法 |
| 刑法 |
| 刑法学 ・犯罪 ・刑罰 |
| 罪刑法定主義 |
| 犯罪論 |
| 構成要件 ・実行行為 ・不作為犯 |
| 間接正犯 ・未遂 ・既遂 ・中止犯 |
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| 責任 ・責任主義 |
| 責任能力 ・心神喪失 ・心神耗弱 |
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| 誤想防衛 ・過剰防衛 |
| 共犯 ・正犯 ・共同正犯 |
| 共謀共同正犯 ・教唆犯 ・幇助犯 |
| 罪数 |
| 観念的競合 ・牽連犯 ・併合罪 |
| 刑罰論 |
| 死刑 ・拘禁刑 |
| 罰金 ・拘留 ・科料 ・没収 |
| 法定刑 ・処断刑 ・宣告刑 |
| 自首 ・酌量減軽 ・執行猶予 |
| 刑事訴訟法 ・刑事政策 |
日本法では刑法第17章「文書偽造の罪」に規定される犯罪類型をいい、次のものがある。
日本の刑法は公文書については形式主義と実質主義を併用し、私文書については形式主義をとっている[3]。
なお、一部の犯罪については、他人の氏名や印影などを表示すると罪名の冒頭に「有印」の文字が加わる(「有印私文書偽造の罪」など)。
文書偽造罪が処罰されるのは、文書には一般的に社会的信用性が認められるところ、これを保護することが社会生活上必要であるとの判断があるからである。従って、一般に文書といい難い場合であっても、文書の社会的信用性を保護するとの必要から文書とされることもあるし、およそ社会的信用性を害し得ない態様での偽造は処罰されない。
詔書など特別な公文書の偽造等を内容とする犯罪類型である。法定刑が通常の類型の文書偽造等の罪よりも重い加重類型である。行使の目的で、御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造し、又は偽造した御璽、国璽若しくは御名を使用して詔書その他の文書を偽造した者は、無期又は3年以上の拘禁刑に処せられる(刑法154条1項)。また、御璽若しくは国璽を押し又は御名を署した詔書その他の文書を変造した者も、同様である(刑法154条2項)。
通常の公文書の偽造・変造を内容とする犯罪類型である。
公文書の無形偽造を内容とする犯罪類型である。
公務員が犯罪の主体となる(身分犯)。非公務員が間接正犯によった場合では本罪は成立せず(最判昭和27年12月25日刑集6巻12号1387頁)、公正証書原本不実記載等罪の成立の可能性が問題となるに留まる。
刑法第154条から157条までの文書若しくは図画を行使し、又は前条第一項の電磁的記録を公正証書の原本としての用に供した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は不実の記載若しくは記録をさせた者と同一の刑に処せられる(刑法158条1項)。未遂も罰せられる(刑法158条2項)。
文書偽造の罪における「行使」とは、偽造文書を真正な文書として(又は、虚偽文書を内容の真実な文書として)使用し、人にその内容を認識させ、又はこれを認識し得る状態に置くことをいう(最大判昭和44年6月18日刑集23巻7号950頁)。行使の方法に限定はなく、他人に交付する、提示する、閲覧に供するなどがある。
一部の重要な私文書(権利義務に関する文書又は図画、事実証明に関する文書又は図画など)についての偽造、変造、行使を内容とする犯罪類型である。判例で問題になった私文書の例としては、借用書、交通事件原票(交通切符)中の供述書(違反者がサインをする部分は私文書の性質を有する)、入学試験の答案、無線従事者国家試験の答案(学科、実技)などがある。
本人承諾の本人名義文書の偽造(無形偽造)も偽造罪になりうるとした様々な判例がある。
一般的に、虚偽私文書の作成(私文書の無形偽造)を処罰する規定は存在しない。ただし、私文書のうち、一定のものについてはその無形偽造を内容とする犯罪類型が規定されている。
刑法159条(私文書偽造行使等)と160条(虚偽診断書等作成)の文書又は図画を行使した者は、その文書若しくは図画を偽造し、若しくは変造し、又は虚偽の記載をした者と同一の刑に処せられる(刑法161条1項)。未遂も罰せられる(刑法161条2項)。
文書偽造の罪における「行使」の意味については#偽造公文書行使等罪を参照。
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