機械 、器械 [ 1] (きかい、フランス語 、英語 、オランダ語 :machine、ドイツ語 :Maschine)とは、広義には、ある力が有用な働きをなし、あるいは他のエネルギー の形態に変化する力の伝達を行うような装置の総称(Brockhausによる定義)[ 2] 。
通常の用語では機械(machine)は一般に簡単な構造を有する器具(implements)または道具(tools)とは区別され、2つ以上の抵抗物を組み合わせて互いに相関的運動を行う工作物をいう[ 2] 。日本語 で「機械」は主に人力以外の動力で動く複雑で大規模なものを言い、「器械」のほうは、人力で動く単純かつ小規模なものや道具を指すことが多い[ 1] 。
機械は英語のmachineにあたる語で、ギリシヤ語 のmakkiné又はmekhané、ラテン語 のmachinaを語源とし「手段」を意味するものであった[ 2] 。
Oxford English Dictionary(1933年)では、広義には力を伝達しその作用を変えるために用いられるものをいうとし、狭義には一定の機能を営む数多くの連結した部分品からできた機械的な力を使用するための装置をいうとする[ 2] 。
広義の機械には梃子 や車軸のような単純機械 とそれらを組み合わせた複合機械がある[ 2] 。この定義では支点に支えられた梃子、使用中のプライヤー、用力点のある滑車なども機械に含まれる[ 2] 。しかし、これらには相関的運動がみられないため通常の意味では機械に含めない[ 2] 。相関的運動がみられないハンマー、鋸、のみ、鉋などの道具も通常の意味の機械には含まれない[ 2] 。
Webster's New International Dictionary(1951年)では、機械学上の広い意味では、歯車 、滑車 、車軸 や心棒、ロープ 、鎖 やベルト 、カム 、ばね 、密閉した液体 等の機械的部分品を多少とも複雑化した結合体であって、ある予想された一定の方式でものを変化させるために設計されたものをいうとする[ 2] 。なお、農業機械学では農業用の機械だけでなく道具や器具などの農具も研究対象にしており各分野の研究対象は機械に限られない場合がある[ 2] 。
機械の定義は時代によって移り変わっており、歴史的には以下のような定義がある[ 3] 。
蒸気機関 が開発されるまでの機械についての定義は、現代における建築 に関わる記述中によく見られる。
機械とは、重いものを移動するとき、極めて大いなる利益をもたらす、1個の物質的装置
古代ローマの建築家マルクス・ウィトルウィウス・ポリオ が『建築十書 』に記述した定義。機械を定義した言葉としてはもっとも古いといわれる。 機械とは、重荷の移動に対して優れた本質を持つ一組の木製の装置
17世紀にツァイジング(Zeising )が原始的なクレーン から影響を受けて説いたと言われる定義。 蒸気機関 が開発されると、建築以外の分野でも機械が多用され、機械を作るための機械である工作機械 も作られるようになり機械の定義が拡張された。これが現代における機械の定義の原型とされる。
機械は人工的製作物であり、その助けを借りて運動を起こすことが出来て、時間や
労力 が節約出来るもの
18世紀 、ドイツの工学者ロイポルト(Leupold )が説いた説。ロイポルトは高圧蒸気機関の原型を考えだした人物である。機械とは、抵抗力を有する物体の組み合わせで、その助けにより一定の運動を生じるように組み合わされたもの
19世紀 、イギリスの技師フランツ・ルーロー が『機械の力学』の中で説いた説。機械学者に支持が広まり、現在の定義の基礎となる。ルーローの説より発展し、現在では機械とは次のような性質をもつ人工の道具を指すことが多くなった。
外からの力に抵抗 してそれ自身を保つことのできる(=非可塑性の)部品 で構成されている 各部品が相対的かつ定まった運動 をする 外部から供給されたエネルギー を有効な仕事に変換する 日本では江戸時代 以前はおもにカラクリ と呼ばれていた[ 注 1] 。明治時代 以降、machine に対応する言葉として機械ということばを作った。
経済学でも様々な経済学者により機械が定義されてきた。
経済学的見地では、人間労働の技術的補助手段で、道具とは異なる自律作業能力をもち、人間の労働を軽減し同時に代替する作用を果たすものをいう[ 2] 。
機械は素朴な織機 のように人力で動くものであったり、水車 や風車 、ウマ などを動力源として動いていた。
水車などに見られるように、動力源の単純な運動を別種の運動に変換する必要性から機械は徐々に複雑なものとなり、歯車 やカム 、滑車 、クランク といった機構が次第に開発されていった。
こうした近代化以前の機械のなかでもっとも精巧なものは時計 であり、1736年 にはジョン・ハリソン が正確なクロノメーター を完成させるなど、18世紀 ごろにはヨーロッパにおいてかなりの精度の時計が生産できるようになっていた。時計産業は多くの部品を必要としたため個人での制作は効率が悪く、必然的に分業により制作する方式を採用していたが、これによって精度の高い部品を正確に組み合わせることのできる高度な技能を持った職人集団が成立し、この技術を他の機械製作にも応用することで蒸気機関 や紡績機 といった高い精度の必要とされる機械の生産が可能となり、産業革命の技術的基礎となった[ 4] 。また、1690年 にドニ・パパン が原始的な蒸気機関 を開発し、1712年にはトマス・ニューコメン によって蒸気機関が実用化された[ 5] 。
ウィトルウィウス (紀元前1世紀の人物)の記述から復元した古代ローマの水力製粉機の模型。
産業革命 はまず、紡織機械の改善からスタートした。
1733年 にジョン・ケイ が飛び杼 を開発したのを皮切りに[ 6] 、1764年 にはジェームズ・ハーグリーブス がジェニー紡績機 を開発して紡績工程が改善され[ 7] 、1770年 にはリチャード・アークライト が水力紡績機 を開発することで紡績機械は人力から動力を利用するものへと変化した[ 8] 。
1769年にはジェームズ・ワット が復水器 を独立させた新しい蒸気機関 を開発し、これによって真に強力な動力源を得た人類は工業化 を行うことが可能となった。
1785年 にはエドモンド・カートライト が蒸気機関 を動力とした力織機 を開発した。蒸気機関を交通に応用することも行われ、1804年 にはリチャード・トレビシック が蒸気機関車 を発明し、1807年 にはロバート・フルトン が蒸気船 を実用化することで、輸送機械 と呼ばれる新たな機械が誕生した。
また、1800年 にはヘンリー・モーズリー が実用的なねじ切り旋盤 を発明した[ 9] ことによってボルト とナット の生産が容易になり、機械化の基盤となった。このことから、モーズリーは工作機械 の父とも呼ばれる。
19世紀 に入るとこうした機械技術の進歩を基盤として工業化が急速に進むようになり、それまで人力によって行われていた工業分野が次々と機械化 されていくようになった。
大規模な産業機械が工場に備え付けられるようになり、成立した工場制機械工業 は世界の工業化 を急速に推し進めることとなった。
19世紀後半にはミシン や洗濯機 が発明され各家庭に徐々に普及し、家事労働 にも機械が使われるようになっていった。
ボンサックのタバコ巻き上げ機(
1881年 特許取得)
19世紀の終わりころにはアメリカで発明家トーマス・エジソン によって電力会社が設立され、そこで天才ニコラ・テスラ も雇われたことで三相交流 や電気モーター の研究・利用が推進されることになった。20世紀初期には電気式の掃除機 も発明された。
20世紀前半の工場の機械でしばしば採用された
布ベルト による動力伝達。
製紙 工場の紙製造機械とオペレーターたち(1930年代)
産業分類(機械器具製造業)では、はん用機械器具、生産用機械器具、業務用機械器具、電気機械器具、情報通信機械器具、輸送用機械器具に分類される(他に電子部品・デバイス・電子回路も機械器具製造業に含む)[ 10] 。
業務用機械器具 電気機械器具 情報通信機械器具 輸送用機械器具(輸送機械 )
機械遺産分類では、工作機械、動力・エネルギー機械、交通機械、産業機械、測定器・実験機器、機械構造物、機巧・機械要素、その他の資料に分類される[ 11] 。
工作機械 工作機械(切削加工) 工作機械(塑性加工) その他の工作機械 動力・エネルギー機械 交通機械
産業機械1製鉄製鋼機械 鋳造機械 鉱山機械 食品製造機械 木工機械 繊維機械 製紙機械 印刷機械 化学機械 産業機械2農林水産機械 土木建設機械 医療機械 窯業機械 電気機械 荷役・運搬機械 その他の産業機械 測定器・実験機器 機械構造物 機巧・機械要素 その他の資料
メカ とは、メカニズム の略語であるが、フィクションの分野(アニメ やライトノベル 、SF映画 など)においては特に「空想的な 機械装置」を指す用語になっている。
アンティキティラ島の機械 。紀元前150 - 100年に製作されたと考えられている天文計算機械。