
国立大学法人(こくりつだいがくほうじん、英語:national university corporation)とは、日本の国立大学およびその附属学校を設置・運営する法人である。
2003年(平成15年)制定の国立大学法人法により設置され、これにより国立大学は国の行政機関から、国立大学法人が運営する機関となった。
国立大学法人は独立行政法人の一形態であり、政府の施策においても国立大学法人は独立行政法人と同様に扱われる。
国立大学法人の業務の範囲は、国立大学法人法第二十二条により、次のように規定されている。
- 国立大学を設置し、これを運営すること。
- 学生に対し、修学、進路選択及び心身の健康等に関する相談その他の援助を行うこと。
- 当該国立大学法人以外の者から委託を受け、又はこれと共同して行う研究の実施その他の当該国立大学法人以外の者との連携による教育研究活動を行うこと。
- 公開講座の開設その他の学生以外の者に対する学習の機会を提供すること。
- 当該国立大学における研究の成果を普及し、及びその活用を促進すること。
- 当該国立大学法人から委託を受けて、当該国立大学法人が保有する教育研究に係る施設、設備又は知的基盤(科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律第二十四条の四に規定する知的基盤)の管理及び当該施設、設備又は知的基盤の他の大学、研究機関その他の者による利用の促進に係る事業を実施する者に対し、出資を行うこと。
- 当該国立大学における研究の成果を活用する事業(第三十四条の二第一項に規定する事業を除く)であって政令で定めるものを実施する者に対し、出資を行うこと。
- 当該国立大学における技術に関する研究の成果の活用を促進する事業であって政令で定めるものを実施する者に出資すること。
- 産業競争力強化法第二十一条の規定による出資並びに人的及び技術的援助を行うこと。
- 前各号の業務に附帯する業務を行うこと。
ただし、「研究の成果の活用を促進する事業」に出資する際には、文部科学大臣の認可を受けなければならない[1]。
国立大学法人には、大学の理念や長期的な目標を実現するため、6年間に達成すべき業務運営に関する目標として、文部科学大臣によって「中期目標」が設定される[2]。これは、大学があらかじめ提出する原案を踏まえ策定されるもので、2025年現在は「第4期中期目標期間」にあたる[2][3]。具体的な中期目標の評価については「大学評価・学位授与機構」などの専門機関や、「国立大学法人評価委員会」によって行われる[4]。

2015年(平成27年)に国立大学協会は国立大学法人の直面する問題点として、運営費交付金、附属病院、施設整備費補助金、寄付金税制、競争的資金、制度・規制の6項目を取り上げ、運営費交付金が法人化後11年間で12%減少した一方、消費税、電気料金、電子ジャーナル料などで諸経費が高騰したことにより人件費と基盤的教育研究費が圧迫され、常勤教職員の減少や、教員の多忙化と研究時間の減少、基盤的研究費の不足による論文数の停滞などの悪影響が顕著に出ているとした[5]。また、私立大学とは異なる税制上の扱いのため寄付金額が伸び悩んでいるとしたほか、競争的資金の使い勝手の向上が必要であるとした[5]。
佐和隆光は滋賀大学学長時に、科学・学術研究の国際競争力が低下したこと、運営費交付金が毎年1%減額されるために、教員人件費の徹底的な節約を実施したことにより、教育の質の低下が起きたこと、外部資金の獲得競争では東京大学の一人勝ちが続くなど、大学間格差が拡大したことを指摘している[6]。
国立大学の運営費交付金は、国立大学法人化により義務的経費(英語版)から裁量的経費(英語版)に変更され、基盤的経費については国立大学法人化以降、効率化係数、大学改革促進係数、機能強化促進係数などの算定ルールによって削減が為されてきた[7]。交付金は、2004年から2024年の間に全体の13%にあたる年額1600億円が削減されている[8]。また、この一方で競争的資金の額と交付金に占める割合が増加してきた(選択と集中)[7][9]。
このような状況について、国立大学法人法成立時の附帯決議において、従来以上の国費投入額を確保するよう努めるとする合意事項があるにも関わらず交付金が減額され続けてきたことに対する批判がある[10]。
第1期中期計画(2004年 - 2009年)では運営費交付金に対して「効率化係数」が設定され、対象となる事業費に対して一律年1%の減額が求められたほか、「経営改善係数」により、附属病院運営費交付金の交付を受ける法人に一律2%の病院収入の増収を図ることにより、附属病院運営費交付金の減額を求められた[11]。
また、第2期中期計画(2010年 - 2015年)では「効率化係数」と「経営改善係数」が廃止された一方で、「大学改革促進係数」が創設され、この係数を活用して財源捻出を図った上で、「改革に積極的に取り組む国立大学法人」に対して重点支援を行う制度が導入された[11]。
2009年12月25日の閣議決定「独立行政法人の抜本的な見直しについて」では、全ての独立行政法人の全ての事務・事業について、見直しが行われ、結果として独立行政法人の廃止、民営化、移管等が行われることとされ、国立大学法人もこの見直しの対象とされた[要出典]。
国立大学では財政難から、必要な人数の教員や職員を確保できない事態が発生している[12][注 1][要出典]。これは、国立大学の特徴である少人数教育を年々困難にし(例えば教職・学芸員科目以外における非常勤講師の一斉採用停止など)、大学によっては、特に文科系において教員が抜けた場合に補充が行われないという事態が起こり、大学のカリキュラムに歪みが発生している[要出典]。また、一部では専攻閉鎖等も危ぶまれている[要出典]。
2024年度には、東京大学が物価高などを理由とする授業料の値上げを発表し[13]、学生らによる反対運動が発生、政府に対して運営費交付金増額の要求を含む要望書が提出されているほか、国立大学協会は「もう限界です」とする声明を発表している[14]。
研究費調達では各大学の自助努力が求められるようになったため、寄付を募るなど運営が私立大学に近いものになってきているという指摘がある[要出典]。
文部科学省は、国立大学法人における「中期目標」は通常の独立行政法人における「中期目標」とは異なり、大学の意見に十分配慮の上で策定されるものであり、大学の自主性と自律性を尊重しているとしている[15][16][17]一方で、国から国立大学法人に対しては、補助金などの財政的手段による「間接的な統制」が強まっていると批判されている[18]。また、2023年の国大法改正においては「特定国立大学法人」と指定された大学について、中期目標は「運営方針会議」により決定されるとされ、運営方針会議の委員の任命には文部科学大臣の承認が必要なことから、国立大学への政府の関与が強まる可能性が指摘されている[19][20]。
中期目標の作成、評価制度の施行により、むしろ文部科学省による各大学への関与は増大しているとの見方もある[要出典]。また、中期目標・計画に関わらずとも、運営費交付金が毎年一定の率で削減されたり、評価結果と関わりなく文部科学大臣が「組織及び業務全般の見直し」の方針について通知を行っている[21]ことなどから、法人化以前に比べて政府の統制は格段に強まっているとの指摘もある[要出典]。国立大学法人法第三条において「国は、この法律の運用に当たっては、国立大学及び大学共同利用機関における教育研究の特性に常に配慮しなければならない」とされているが、この条項は事実上有名無実となっているとされる[要出典]。
法人化により新設された「理事」に、ほぼ例外なく文部科学省の職員が出向している。このため、法人化は文科官僚のポジション増設になっているとの批判がある。また、国立大学の理事から理事へと「わたり」が行われていることも指摘されている[22][23][24]。
法人化前に行われて来た学長選挙と異なり2012年時点で全体の9割ほどの国立大学法人が学長選出に際して教員(一部の大学では教職員)による意向投票が行われているが、これまでに滋賀医科大学、岡山大学、新潟大学、大阪教育大学、山形大学、高知大学、九州大学、富山大学、香川大学、東京海洋大学、京都工芸繊維大学、北海道教育大学で学長選考会議によって意向投票で2位または3位となった候補を学長に選出しており、滋賀医科大学、新潟大学、高知大学、北海道教育大学では訴訟も起きた。2005年から2007年まで文部科学省事務次官を務めた結城章夫が2007年に山形大学の学長に選出されている[25]。
筑波大学では2020年に学長の任期が撤廃され、意向投票で2位であった永田恭介が学長に再任された。同大学では、2025年現在も永田恭介が学長を勤めている[26]
学研は2013年に、入試ではこれまで国立大学協会の決定が尊重されていたが、法人化により各大学の裁量が増えた後は京都大学の入試で後期日程が廃止されたことや、国立大学協会の通知にもかかわらずセンター試験の「地歴・公民」での4単位科目の選択指定が一部大学に留まったことなどを挙げ、受験生にとっては法人化が入試の複雑化・混乱を生じたというマイナス面を指摘している[30]。また、少子化を背景に国立大学の統廃合が避けられないことと相俟って、将来的には法人化を通じて大学は数種の類型に機能分化(種別化)していくと予想している[30]。
国立大学法人化前は役員・職員は公務員とされたが、法人化後は公務員ではなくなりみなし公務員[注 2]となった(非公務員化)。そのため、国立大学職員には国家公務員法や人事院規則等の規定が適用されなくなり、労働基準法や労働安全衛生法等に基づいて各国立大学法人が自主的に就業規則を定めることとなった。このことにより、例えば、国家公務員法等による兼業規制が緩和されたり、産学連携等を容易に行うことが可能となった[要出典]。
職員の宿舎には、従来どおり国家公務員宿舎の文部科学省割り当てを利用する事が可能である(臨時的任用職員やポスドクを除く)。健康保険、年金保険については、国家公務員共済組合法第124条の3の規定により、職員(国家公務員共済組合法の対象となる)[要校閲]とみなされるため、文部科学省共済組合に加入する(臨時的任用職員やポスドクは、常時勤務を要する職員でないため対象外)。雇用保険については、雇用保険法第6条第6号の「国、都道府県、市町村その他これらに準ずるものの事業に雇用される者のうち、離職した場合に、他の法令、条例、規則等に基づいて支給を受けるべき諸給与の内容が、求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認められる者であつて、厚生労働省令で定めるもの」として厚生労働省令で指定されれば適用除外になったが、雇用保険法施行規則第4条で、国立大学法人職員は指定されなかった。つまり厚生労働大臣が諸給与の内容が、求職者給付及び就職促進給付の内容を超えると認めなかったわけである。このため、雇用保険の加入が義務付けられた分、経済的負担は増加した(ただし退職時には失業等給付が受けられるようになった)。海外出張については、従来は公用旅券の発給が受けられたが、国立大学法人化以降は、政府(各省庁)の予算や国際機関の依頼により旅費の全額または一部が支給される出張等に限定された[31]。
2004年に87の国立大学法人が発足し[32]、2025年現在で81法人(85大学)が国立大学協会会員となっている[33]。
2016年の第190回国会で国立大学法人法が改正され、指定国立大学法人制度が制定された[34][35]。指定を受ける法人は国立大学法人法の本文中では指定されず、文部科学大臣が指定する。この点で、同時期に制定された特定国立研究開発法人制度とは異なる。
指定国立大学法人制度では、世界最高水準の教育研究活動の展開が相当程度見込まれる国立大学法人を「指定国立大学法人」と指定し、法人の研究成果を活用する事業者への出資を認めるほか、中期目標に関する特例等について定めるとされた[36][37]。
| 節内の全座標を示した地図 -OSM |
|---|
第3期中期目標期間(2016年 - 2021年)における申請要件は、「研究力」に関する2つの国内ランキング、「社会との連携」に関する3つの国内ランキング、「国際協働」に関する3つの国内ランキングが提示され、それら3つの領域において各々1つ以上が国内10位以内に位置している国立大学法人が申請できるとされた[38]。
これに対して、東北大学、東京大学、京都大学、東京工業大学、名古屋大学、大阪大学、一橋大学の7大学法人が申請し、2017年6月30日に東北大学、東京大学、京都大学の3大学法人が指定、残る4法人は指定候補とされた[39]。指定候補とされた法人のうち、東京工業大学、名古屋大学の2大学法人は再審査を申請し、2018年3月20日に追加指定された[39]。また、その後にも大阪大学が再審査を申請し、2018年10月23日に追加指定された[39]。2019年9月5日には残っていた一橋大学も指定された。2020年10月15日には新たに東京医科歯科大学、筑波大学の2大学法人が指定、2021年11月22日には、九州大学が追加指定された[40]。
2021年11月現在、旧帝国大学の内北海道大学のみが指定国立大学法人に申請しなかったため、不認定状態である。
2023年の国立大学法人法の改正で、政府によって「特定国立大学法人」と指定された大学には、学長選考・監察会議と学長が協議の上、文部科学大臣の承認を得て学長が任命する委員からなる「運営方針会議」を設置することが義務付けられた[41]。
同改正法では、学長は運営方針会議に大学法人の運営状況について報告する必要があるほか、運営方針会議は学長に解任の必要があると認められた場合、学長選考・監察会議に報告する必要があることが定められている[42]。
2024年時点で、特定国立大学法人には東北大、東京大、東海国立大学機構(岐阜大、名古屋大)、京都大、大阪大が指定されている[41]。
同時期に制定された国際卓越研究大学法による国際卓越研究大学とは異なる。こちらは公立大学や私立大学も対象である[43]。
国立大学が法人化された2003年から2024年7月までに、2組5大学で統合が行われている[44]。国立大学法人法の施行当初は、1つの国立大学法人が1つの国立大学を運営する形とされており、これにより国立大学法人を統合する場合は存続する法人(新設合併の場合は新設法人)が設置する大学のみが存続するという形を取る必要があった。
一方で、2019年の第198回通常国会で国立大学法人法の一部改正を含む「学校教育法等の一部を改正する法律」(文部科学省)が成立し、一つの国立大学法人が複数の国立大学を運営(アンブレラ方式)することが可能になった[45]。国立大学法人の統合には、国立大学法人法の改正が必要となる[注 4]。
国立大学法人の統合は近年増えているとされる[46]。
| 統合年月日 | 統合前の国立大学法人 | 統合前の国立大学 | 統合後の国立大学法人 | 統合後の国立大学 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| 2005年10月1日 | 国立大学法人富山大学 | 富山大学 | (新) 国立大学法人富山大学 | 富山大学 | 新設合併 |
| 国立大学法人富山医科薬科大学 | 富山医科薬科大学 | ||||
| 2007年10月1日 | 国立大学法人大阪大学 | 大阪大学 | 国立大学法人大阪大学 | 大阪大学 | 吸収合併 |
| 国立大学法人大阪外国語大学 | 大阪外国語大学 |
| 統合年月日 | 統合前の国立大学法人 | 統合前の国立大学 | 統合後の国立大学法人 | 統合後の国立大学 |
|---|---|---|---|---|
| 2020年4月1日 | 国立大学法人岐阜大学 | 岐阜大学 | 国立大学法人東海国立大学機構 [注 5] | 岐阜大学 |
| 国立大学法人名古屋大学 | 名古屋大学 | 名古屋大学 | ||
| 2022年4月1日 | 国立大学法人小樽商科大学 | 小樽商科大学 | 国立大学法人北海道国立大学機構 [注 6] | 小樽商科大学 |
| 国立大学法人帯広畜産大学 | 帯広畜産大学 | 帯広畜産大学 | ||
| 国立大学法人北見工業大学 | 北見工業大学 | 北見工業大学 | ||
| 2022年4月1日 | 国立大学法人奈良教育大学 | 奈良教育大学 | 国立大学法人奈良国立大学機構 [注 7] | 奈良教育大学 |
| 国立大学法人奈良女子大学 | 奈良女子大学 | 奈良女子大学 |
| 幹部 | |
|---|---|
| 内部部局 | |
| 審議会等 |
|
| 施設等機関 | |
| 特別の機関 |
|
| 外局 | |
| 独立行政法人 | |
| 国立大学法人 |
|
| 大学共同利用機関法人 | |
| 特殊法人 | |
| 関連項目 | |