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中性子

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
中性子
ナイーブなリチウム原子の原子模型。青い球体が中性子を表す。ただし、正確な縮尺ではなく、電子が定まった軌道を回っているわけでもない。
組成udd
粒子統計フェルミ粒子
グループバリオン
反粒子反中性子(n)
理論化アーネスト・ラザフォード (1920)
発見ジェームズ・チャドウィック (1932)
記号n
質量1.674927471(21)×10−27 kg[1]
939.5654133(58) MeV/c2[2]
平均寿命886.7±1.9 秒[3](核子や中性子星以外)
崩壊粒子陽子
電荷0
スピン12
ストレンジネス0
アイソスピン12
超電荷12
パリティ+1
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中性子ちゅうせいし:::::neutron)とは、原子核を構成する無電荷の粒子である。バリオンの1種である。原子核反応式などでは、記号n で表される。質量数原子質量単位で約1.00867 uである。自由な中性子は、平均寿命約15分でβ崩壊し、陽子となる[3]。原子核は、陽子と中性子で構成され、この2つは核子と総称される[注 1]

→原子核内で核子同士をまとめておく力については「パイ中間子」を参照

概要

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中性子の発見は1920年のアーネスト・ラザフォードによる予想に始まり、その存在の実験的証明は1932年ケンブリッジ大学の物理学者ジェームズ・チャドウィックによってなされた[注 2]。その実験とは、ベリリウムに高速のα粒子を当てることで次の核反応

Be49+He24C612+n01{\displaystyle {\ce {_4^9Be + _2^4He -> _6^{12}C + _0^1n}}}

を起こし、ここで発生する粒子 n をパラフィンなどで受け、原子核と衝突させることでさらに陽子を飛び出させ、この荷電粒子である陽子を検出するというものであった[4]。チャドウィックは上記の核反応で発生する粒子(当時はまだベリリウム線と呼ばれていた)n が、陽子とほとんど同じ質量で中性(電荷を持たない)の新しい粒子からなる粒子線であることを確認し、これを中性子 (neutron) と名付けた[5]

→発見に関する詳しい歴史については「§ 歴史」を参照

中性子は、電荷を持っていないことから[注 3]、他の電荷をもつ陽子などに比べて、入射した物質の原子核と容易に直接反応することができる。電磁気力の影響を受けない中性子線は透過性が高く、原子核の核変換に使う粒子として重要である[注 4]

特徴

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自由な中性子、及び中性子数過剰の原子核中の中性子は不安定でありベータ崩壊を起こす[注 5]。自由な中性子は平均寿命886.7±1.9 秒(約15分)[3]半減期約10.3分[6]で陽子と電子及び反電子ニュートリノに崩壊し、それを反応式で表すと

np+e+ν¯e+0.78MeV{\displaystyle {\ce {n->p{}+e^{-}{}+{\bar {\nu }}_{e}}}+0.78\,\mathrm {MeV} }

となる[注 6]。中性子はバリオンの一種であり、ヴァレンス・クォーク模型の見方をとれば、2個のダウンクォークと1個のアップクォークという3個のクォークによって構成されている[7]。中性子は全体として電荷を持たないが、内部では正負の電荷が分布しており、その広がりは約 10−16m である[7]

電荷を持たない中性子と原子との相互作用は、非常に短距離でのみ働く核力によるものがほぼ全てである[注 7]。また、核力の到達範囲はせいぜいπ中間子の換算コンプトン波長h/2πmπc である約1.4×10−15 m[8] -2.0×10−15 m[6] 程度、即ち中性子の電荷分布の広がりである0.1 fm[7] 程度しかない。従って、物質中を移動する自由な中性子は、原子核と「正面」衝突するまで直進する。原子核の断面積は非常に小さいため衝突は稀にしか起こらず、中性子は衝突までに長い行程を飛ぶことになる。生成した中性子が他の原子核と衝突するまで移動する距離を平均自由行程:mean freepath)という指標で表す[注 8]

弾性衝突を起こすような場合、運動量保存則に従い、ビリヤードのボールが互いに衝突するように振る舞う。もし衝突された核が重い場合は核の加速は比較的少ない。中性子とほぼ等しい質量をもつ陽子(水素原子)と衝突した場合、陽子は元々の中性子が持っていた運動量のほとんどを受け取りはじき出される。一方、中性子はほとんどの運動量を失うが、この衝突の結果生じる二次的に放射された粒子が電荷を持っている場合、電離作用があるため、検知することが可能である。

電気的に中性であるため、観測だけでなく中性子を制御するのも難しい。荷電粒子に対しては電磁場によって加速、減速、軌道修正などの操作や制御が可能であるが、中性子にはそれが使えない。自由中性子を制御し、減速、進路の変更、吸収などの結果を得るには進路に原子核を配置するしかない。このことは平均自由行程と併せて原子炉核兵器を設計する際、非常に重要である。

諸定数

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中性子の質量などは、物理定数の1種としてCODATAより4年に1度のペースでNISTのWebページを介して公開されている[9]

質量
中性子の質量mn
mn=1.674 927 471(21)×1027kg=939.565 4133(58)MeV/c2{\displaystyle {\begin{aligned}m_{\text{n}}&=1.674\ 927\ 471(21)\times 10^{-27}\,{\mbox{kg}}\\&=939.565\ 4133(58)\,{\mbox{MeV}}/c^{2}\end{aligned}}}
であり[1][2]、統一原子質量単位で表すと1.00866491588(49) u となる[10]
また、陽子の質量mp電子の質量me に対する比は
mnmp=1.001 378 418 98(51)mnme=1838.683 661 58(90){\displaystyle {\begin{aligned}&{\frac {m_{\text{n}}}{m_{\text{p}}}}=1.001\ 378\ 418\ 98(51)\\&{\frac {m_{\text{n}}}{m_{\text{e}}}}=1838.683\ 661\ 58(90)\end{aligned}}}
である[11][12]
さらに、中性子の質量mn は同じ核子である陽子の質量mp よりわずかに大きい程度で、その差はわずか
mnmp=2.305 573 77(85)×1030kg{\displaystyle m_{\text{n}}-m_{\text{p}}=2.305\ 573\ 77(85)\times 10^{-30}\,{\mbox{kg}}}
である[13]。ただし、中性子は陽子とは異なり、電気的に無電荷(中性)であるため、陽子や電子が持っているような比電荷という値を持たない。
コンプトン波長
中性子のコンプトン波長λn や換算コンプトン波長λn/2π
λn=hmnc=1.319 590 904 81(88)×1015mλn2π=0.210 019 415 36(14)×1015m{\displaystyle {\begin{aligned}&\lambda _{\text{n}}={\frac {h}{m_{\text{n}}c}}=1.319\ 590\ 904\ 81(88)\times 10^{-15}\,{\mbox{m}}\\&{\frac {\lambda _{\text{n}}}{2\pi }}=0.210\ 019\ 415\ 36(14)\times 10^{-15}\,{\mbox{m}}\end{aligned}}}
である[14][15]
磁気モーメント
中性子は電気的には無電荷で中性であるが、磁気モーメントを持っており、その値μn
μn=0.966 236 50(23)×1026JT1{\displaystyle \mu _{\text{n}}=-0.966\ 236\ 50(23)\times 10^{-26}\,{\mbox{J}}\,{\mbox{T}}^{-1}}
である[16]。電気的には中性である中性子が磁気モーメントを持つ理由は、中性子を構成する3個の各クォークの磁気モーメントの和として説明される[8]
また、核磁子μN に対する比(異常磁気モーメント)は
μnμN=1.913 042 73(45){\displaystyle {\frac {\mu _{\text{n}}}{\mu _{\text{N}}}}=-1.913\ 042\ 73(45)}
である[17]

中性子温度による分類

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中性子はその運動エネルギー(運動速度)に応じて大体[注 9]以下のように分類される[18][6]

中性子の運動エネルギーによる分類
中性子温度に応じた名称エネルギー (E) の範囲(電子ボルト
冷中性子 (cold neutrons)E <0.026 eV
熱中性子 (thermal neutrons)0.001 <E <0.01 eV
熱外中性子 (epithermal neutrons)0.1 <E <102 eV
低速中性子 (slow neutrons)0.1 <E <103 eV
中速中性子 (intermediate neutrons)1 <E <500 keV
高速中性子 (fast neutrons)0.5 <E <20 MeV
超高速中性子 (ultrafast neutrons)20 MeV <E

歴史

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→詳細は「中性子の発見」を参照

1914年イギリスラザフォードは、重い原子核ではα線を接近させてもクーロン力によって弾き返されるが、軽い原子核では原子核かα粒子いずれかの破壊が起こるのではないかと考え、1917年から1919年にかけて、さまざまな条件下で空気に対してα線を当て、ZnSシンチレーションを利用して破壊の影響で生ずる可能性のある粒子を発見しようと試みた結果、水素の原子核が発見された[19]。この水素の原子核は、α線が空気中の窒素の原子核に当たった際に

He24+N714O817+H11{\displaystyle {\ce {_2^4He + ^{14}_7N -> ^{17}_8O + ^1_1H}}}

という核反応によって生ずるものである。この結果を受けてラザフォードは、翌1920年ロンドン王立協会に於いて行なった講義の中で、原子核を構成する粒子には陽子の他に陽子とほとんど同じ質量で中性の粒子が存在すると予想した[20][21]

1929年に中性子の発見により、ソ連ヴィクトル・アンバルツミャンドミトリー・イワネンコは直ちに原子核の構造についての従来の見解を改変し、「原子核の中には中性子と陽子だけが含まれており、電子は存在しない」という説を提唱した。ヴェルナー・ハイゼンベルクもこれを支持し、以後の原子核理論の方向性を決めることになったと言われる彼の3部作の論文『原子核の構造について1〜3(Über den Bau der Atomkerne Ⅰ-Ⅲ)[22][23][24]』の基本仮定として採用されることとなった[25][7]

それから10年後の1930年ドイツW・ボーテH・ベッカーは、ポロニウムから放出されるα線を、リチウムベリリウムホウ素などの軽元素に当てると非常に強い透過力をもった放射線(当時はまだベリリウム線と呼ばれていた)が放出されることを発見した[26][21]。2人はベリリウム線の正体はγ線であると推測し、そのエネルギーは普通のγ線の大体2倍程度であると結論付けた[27][21]

その翌年の1931年に、ジョリオ=キュリー夫妻(イレーヌと夫のフレデリック)は、パリラジウム研究所において、このベリリウム線をパラフィンセロファンなどの水素を含む物質にあてると、これから高速度の水素核すなわち陽子が飛び出すことを発見した[28][21]。2人もやはりボーテとベッカーと同じくベリリウム線の正体はγ線であると考えていたが[29][7][21]、実験からさまざまな矛盾が出て来た[注 10]。その結果を受ける形で、同年、ケンブリッジ大学の Webster によって、ベリリウム線の放出がγ線の放出と全く異なることが示された。

これらの実験結果を総合して、同年に同じくケンブリッジ大学の物理学者ジェームズ・チャドウィックは、それら矛盾はベリリウム線をγ線と仮定していることに起因していることに気付き、これが陽子とほとんど同じ質量で中性(電荷を持たない)の新しい素粒子からなる粒子線であることを実験的に確認し[30][21]、これを中性子 (neutron) と名付けた[31][5][7]

脚注

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[脚注の使い方]

注釈

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  1. ^陽子1個で出来ている1
    1
     
    H
    と陽子3個で出来ている3
    3
     
    Li
    の2つを例外として、2015年現在の時点で発見報告のある原子の内、最も重い294
    118
     
    Og
    までの全ての"既知の"原子核は陽子と中性子の2種類の核子から構成されている。
  2. ^チャドウィックによる実験的確証を得るまでの経緯については、チャドウィックによる中性子の発見が詳しい。
  3. ^電荷を持たないため、直接的に観測することが難しく、中性子の発見は電子や陽子と比べて遅れた。
  4. ^通常の状態では荷電していない原子は中性子と同じようには利用することができない。なぜならば、正電荷を持つ原子核の周りに負電荷を持つ電子が広く分布していることから、原子は中性子よりも約1万倍も大きいものとして扱わなくてはならないためである。
  5. ^例えば三重水素重水素とは異なり、不安定核種である。
  6. ^同様な崩壊(β崩壊)が何種類かの原子核においても起こる。核内の粒子(核子)は、中性子と陽子の間の共鳴状態であり、中性子と陽子は互いにπ中間子を放出・吸収して移り変わっている。これは、アイソスピンという考え方に基づいたもので、陽子と中性子は質量や核力がほぼ等しいので、共にアイソスピンが ±1/2 の核子という1つの粒子の異なる荷電状態であり、+ の状態が陽子で − の状態が中性子であるとする考え方のことである。
  7. ^陽子、電子やα粒子などの荷電粒子や、γ線のような電磁波は、物質中を通過する際に電磁気力によって通過する物質の原子をイオン化するため、エネルギーを失う。イオン化に費やされたエネルギーはすなわち、荷電粒子の失ったエネルギーであり、その結果、荷電粒子は減速し、γ線は吸収されるが、中性子はそのような過程でエネルギーを失うことはない。
  8. ^空気中で220 m軽水の場合は0.17 cm重水では1.54 cmウランでは0.035 cm である。
  9. ^厳密な分類ではなく、ほぼその領域で分けられるという意味である。
  10. ^夫妻は陽子が飛び出して来る理由を、γ線が陽子に当たった際に発生するコンプトン効果であると考えた。そこで、飛び出して来る陽子のエネルギーからそのエネルギーを計算してみると、γ線の持つエネルギーが50 MeV となった[21]

出典

[編集]
  1. ^abCODATA Value
  2. ^abCODATA Value
  3. ^abc日本アイソトープ協会 (1992), p. 29.
  4. ^Murray & 杉本 (1955), p. 29.
  5. ^ab武谷 (1954), pp. 93–95.
  6. ^abc化学小事典
  7. ^abcdef中性子 - コトバンク(日本大百科全書)
  8. ^ab物理小事典
  9. ^2014CODATA推奨値(一覧)
  10. ^CODATA Value
  11. ^CODATA Value
  12. ^CODATA Value
  13. ^CODATA Value
  14. ^CODATA Value
  15. ^CODATA Value
  16. ^CODATA Value
  17. ^CODATA Value
  18. ^日本アイソトープ協会 (1992), pp. 29–30.
  19. ^Rutherford (1919).
  20. ^Rutherford (1920).
  21. ^abcdefgチャドウィックによる中性子の発見
  22. ^Ambartsumian1930 (1930).
  23. ^Heisenberg (1932a).
  24. ^Heisenberg (1932b).
  25. ^湯川, 坂田 & 武谷 (1965), pp. 44–45.
  26. ^Bothe & Becker (1930a).
  27. ^Bothe & Becker (1930b).
  28. ^Curie (1931).
  29. ^Curie & Joliot-Curie (1932).
  30. ^Chadwick (1932a).
  31. ^Chadwick (1932b).

関連文献

[編集]

原論文

[編集]
アーネスト・ラザフォード
ヴァルター・ボーテおよびH.ベッカー
イレーヌ・ジョリオ=キュリーフレデリック・ジョリオ=キュリーの夫妻
ジェームズ・チャドウィック
ヴェルナー・ハイゼンベルク
ヴィクトル・アンバルツミャン
  • Ambarzumian V., Iwanenko D. (1930). Les électrons inobservables et les rayons. Paris: Compt. Rend. Acad. Sci. Paris. pp. 582. 
  • “[Astrophysics]” V. A. Ambartsumian — a life in science. 51. London: Springer. (2008). pp. 280—293. doi:10.1007/s10511-008-9016-6. 

参考文献

[編集]

書籍

[編集]
洋書
和書

関連項目

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外部リンク

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科学
燃料
中性子
原子力
原子力発電
その他
核医学
画像処理
治療
兵器
核兵器
関連兵器
廃棄物
産物
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議論
原子力利用
原子核物理学
原子核変換
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放射性物質
関連項目
素粒子
フェルミ粒子
クォーク
レプトン
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ゲージ粒子
スカラー粒子
その他
仮説上の
素粒子
超対称性粒子
ボシーノ
ゲージーノ
スフェルミオン
ゲージ粒子
位相欠陥
その他
複合粒子
ハドロン
バリオン/ハイペロン
中間子/クォーコニウム
異種原子
その他
仮説上の
複合粒子
異種ハドロン
異種バリオン
異種中間子
その他
準粒子
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