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ロシア語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ロシア語
русский язык
発音IPA:[ˈru.skʲɪj jɪ.ˈzɨk]
話される国ロシアの旗ロシア
 ベラルーシ
 ウクライナ
モルドバの旗モルドバ
カザフスタンの旗カザフスタン
ウズベキスタンの旗ウズベキスタン
キルギスの旗キルギス
タジキスタンの旗タジキスタン
トルクメニスタンの旗トルクメニスタン
ジョージア (国)の旗ジョージア
アゼルバイジャンの旗アゼルバイジャン
アルメニアの旗アルメニア
 エストニア
 ラトビア
 リトアニア
地域東ヨーロッパ北アジアカフカス中央アジア東アジア
話者数約1億8000万人
話者数の順位8
言語系統
表記体系キリル文字 (ロシア語アルファベット
公的地位
公用語

ロシアの旗 ロシア
ベラルーシの旗 ベラルーシ
カザフスタンの旗 カザフスタン
キルギスの旗 キルギス
タジキスタンの旗 タジキスタン
沿ドニエストル共和国の旗沿ドニエストル共和国
アブハジアの旗アブハジア
南オセチアの旗南オセチア
ガガウズ自治区
ノルウェーの旗スヴァールバル諸島

国際連合の旗国際連合
統制機関ロシアの旗ロシア科学アカデミー[1]
言語コード
ISO 639-1ru
ISO 639-2rus
ISO 639-3rus
  公用語(ストライプ:紛争地域)
  人口の30%以上が第1言語または第2言語として使用する。
  上記のどちらでもない
テンプレートを表示

ロシア語(ロシアご、:русский язык[ˈruskʲɪj jɪˈzɨk] (音声ファイル)ルスキー・イズウィーク:Russian language)は、インド・ヨーロッパ語族スラヴ語派東スラヴ語群に属する言語露語(ろご)とも略され、ロシア連邦公用語。表記体系はキリル文字である。

特徴

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標準ロシア語は古東スラヴ語(東スラヴ語群)と教会スラヴ語南スラヴ語群)の要素が混交して発展した言語である。そのため言語学的に東スラヴ語群に分類されるウクライナ語ベラルーシ語とは異なり、東スラヴ語と南スラヴ語との間の二重語が豊富である。例えばスラヴ祖語*golva "頭" に由来する語で、東スラヴ語的なголова (golova) "頭" と南スラヴ語的なглава (glava) "首領" という形が併存している。

ロシア語はヨーロッパで最も母語話者が多い言語であり、母語話者数では世界で8番目に多く、第二言語の話者数も含めると世界で4番目に多い。国際連合においては、英語フランス語中国語スペイン語アラビア語と並ぶ、6つの公用語の1つである。

歴史

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→詳細は「ロシア語の歴史ロシア語版」を参照
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この節の加筆が望まれています。

スラヴ祖語

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→詳細は「スラヴ祖語」を参照

聖キュリロス(キリル)と聖メトディオス

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→詳細は「en:Saints Cyril and Methodius」、「キュリロス (スラヴの(亜)使徒)」、および「メトディオス (スラヴの(亜)使徒)」を参照

古ロシア語

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→詳細は「古ロシア語」を参照

ロシア語の起源については諸説あるが、東スラヴ人が使っていた古東スラヴ語10世紀 -15世紀)から発展したという説が最もよく知られている。13世紀にキエフ大公国が崩壊した後、ルーシの地はモンゴル帝国に支配(タタールのくびき)されており、現代ロシア語にも財政金融に関わる単語を中心に、タタール語などのテュルク諸語モンゴル語の影響が残っている。その後、北東ルーシの辺境(現在のヨーロッパ・ロシア)でモスクワ大公国が成立し、この国の公用語がロシア語として独自に発展していった。

ロシア帝国の時代には、1708年ピョートル1世によってアルファベットが単純化されたのを皮切りに、ロシア語の改革が盛んとなった。18世紀後半にはミハイル・ロモノーソフが初めてロシア語の文法書を著し、標準語の形成に大きく寄与した。19世紀初頭にはアレクサンドル・プーシキンによって近代的な文語が確立した。また、宮廷は西欧諸国を模範として近代化を進めたことから、大量の専門語彙がオランダ語フランス語ドイツ語などから取り入れられた。その一方で、当時の上流階級はフランス語を日常的に使用しており[1]、19世紀の小説(レフ・トルストイの『戦争と平和』など)はフランス語を交えて書かれた作品が多い。

ソ連時代

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ソビエト連邦ではロシア語が事実上の公用語であり、ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国を除くソビエト連邦構成共和国において共通語として機能していたが、公式には公用語は存在しなかった。テュルク系のチュヴァシ人を祖先に持つレーニンオーストロ・マルキシズムカウツキーの影響のもと、1914年の論文『強制的な国家語は必要か?』において国家語の制定を批判した。また、自身も少数民族グルジア人の出自を持つスターリン民族問題の専門家として民族語奨励政策を採用した結果、ソ連はその崩壊にいたるまで、ロシア語を正式な公用語の地位につけることはついになかった(ちなみに、オットー・バウアーから借用した「形式は民族的、内容は社会主義的な文化の建設」というスターリンのテーゼはまず言語問題にまつわる1925年の演説『母語による教育』において現れた)。それゆえ、ロシア語が公的に国家語化したのはロシア連邦成立後である[2]

1918年には、アレクセイ・シャフマトフロシア語版が準備していたアルファベット改革案がボリシェヴィキによって実行に移され、現在のロシア語の正書法が成立した。ただし、Ёはこの時点でまだ正式なアルファベットとして認められておらず、正式に組み入れられたのは1942年のことである。なお、1964年にもソ連科学アカデミーによって正書法の改革案が作られたが、こちらは実施されなかった。

→「ロシア語正書法の改革英語版」も参照

ソ連崩壊後

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1991年末のソビエト連邦の崩壊で、ソ連を構成していた各共和国はそれぞれ独立し、それまでロシア語との併用という形を採っていたそれぞれの民族語が第一の公用語へと昇格したが、その後の言語状況に関しては様々である。

バルト三国と呼ばれるエストニアラトビアリトアニアでは、ソ連からの独立以降急速に各民族語(エストニア語ラトビア語リトアニア語)が使用される機会が増えている。もちろんソ連崩壊後30年程しか経過しておらず、またロシア系住民が多い地域などではロシア語が今でも使われるが、ソ連時代と比べるとロシア語はそれほど使われなくなっていると言える。特にこの3か国が2004年EUに加盟してからは、英語ドイツ語がより広く学ばれるようになっている。ただし、ソ連時代後期にロシア語人口がラトビア語人口を逆転するのではないかと言われたラトビアでは、独立回復後に制定した国籍法で国籍取得要件にラトビア語の習得を義務付けたという経緯がある。これによって多くのロシア系住民をロシアへ移住させる事に成功したが、国籍を与えられない残留ロシア人の権利が阻害されているとするロシア政府からの抗議を受け、さらに欧州委員会からもこの言語規定が市民の平等を定める欧州憲法に違反しているという指摘を受けた。2018年4月には、教育法が改正され、ロシア系住民が通う学校であっても、小学校は50%以上、中学校は80%、高校は100%の科目をラトビア語で教育することが義務付けられた[3]

モルドバにおいては、ロシア語が国内共通語と法定されてきたが、2018年6月に失効が確認された[3]

また、ロシア影響圏からの離脱を模索するウクライナジョージアでも、ロシア語ではなくウクライナ語グルジア語がより広範に使われている。ウクライナでは、西部を中心に従来よりほとんどウクライナ語のみが使用されている地域がある一方で、ウクライナ語とロシア語両方が使われている地域もあり、また東部やクリミア半島ではロシア語の使用者が大勢である地域もあり、地域によっては将来的にもロシア語は当分使われ続けると推定されている。一方で、都市部を中心に伝統的にウクライナ語とロシア語の混交が起こっていたが、ソ連の崩壊以降、それまでロシア語が優勢であった地域を中心にウクライナ語にロシア語の要素が混じった「スールジク(混血)」と呼ばれる混交言語が広まりを見せている。現在でも、ウクライナ西部を除く広範囲でロシア語は使用、理解されており、ロシア語をウクライナ語に次ぐ第二公用語に加える動きもあるなど、今までのロシア語排除の動きから転換点を迎えようとしている。

ジョージアもまた長年ロシア語による支配を受けてきた国であった。ジョージア政府はロシア語教育を廃止し、ロシア語読みに基づいた国名である日本語の「グルジア」を英語読みの「ジョージア」に変更することを要請しており(グルジア語名では「サカルトヴェロ」)、日本政府も承諾している。また、ロシアに多くのジョージア人が住んでいることなどからロシア語は今でもよく使われている。

それ以外の地域に関しては、今でもロシア語が幅広く使われ続けている。ベラルーシカザフスタンキルギスウズベキスタントルクメニスタンなどでは非ロシア人でもロシア語しか喋れない人も多く、また多民族が入り混じって生活する中央アジア諸国では、ロシア語が民族を超えた共通語として使われている。カフカース地域、及びモルドバでも、現地人同士の日常会話には現地語が用いられることが増えてきたものの、ロシア語で会話する人々は少なくない。なお、ロシアとの統合に積極的なアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の独裁体制が続くベラルーシでは、ベラルーシ語とロシア語が公用語に指定されているが、隣国ウクライナとは逆にロシア語使用が奨励され、本来の民族語であるベラルーシ語が軽視される傾向にある。

ポーランドブルガリアなど旧共産圏諸国では、共産主義体制ではロシア語が広く学習されていたが、民主化後は英語やドイツ語(歴史的にはチェコハンガリーなど、オーストリア帝国の支配下にあった国も少なくない)など西欧の言語に押されて、ロシア語学習は下火になった。またバルト三国や東側諸国はハンガリー動乱やプラハの春などでソ連軍による民主化弾圧などがあったために、かつて第一外国語だったロシア語を使う事も拒んでいる者もいる。

一方、ウラジーミル・プーチン政権で経済の立て直しに成功したロシアがBRICSと呼ばれる経済成長地域の一つに加わり、天然資源を核にした諸外国との経済関係が再び拡大すると共に、ロシア語の需要は再び高まりつつある。バルト三国などでもロシア語に対するマイナスイメージもソ連時代を経験していない若い世代を中心に徐々に薄れてきており、ロシア語は英語ドイツ語などと共に、ビジネスなどで必要な言語ととらえる人も増えてきている。また、宇宙開発においては国際宇宙ステーションの公用語になるなど、英語と並んで必要不可欠な言語の1つとなっている。

ロシア国内では急速な資本主義化や新技術の導入に伴い、今まで存在しなかった概念や用語が大量に導入された。これにロシア語の造語能力が追いつかず、特に英語を中心とした外来語がそのままロシア語に導入される例が多くなっている。

例:コンピュータ - ロシア語では外来語のкомпьютер(カンピユーテル)がスラヴ語的なвычислитель(ヴィチスリーチェリ=数字出力物)より頻出。компьютер では本来のロシア語発音では「イェ」になる「е」が「エ(э)」と発音される点にも、外来語的な特徴がよく表れている。

各国におけるロシア語の状況

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ロシア語話者の分布
  公用語として用いられている
  人口の3割以上が第一あるいは第二言語として話す

公用語

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事実上独立した地域
その他の地域または州
国際機関

人口の3割以上が第一、第二言語

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日本

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稚内市の道路標識
稚内市の道路標識
根室市の道路標識
根室市の道路標識

18世紀には、すでに「北槎聞略」という書物があり、「大黒屋光太夫」の口述による、キリル文字、一部のロシア語の単語、文などの記載も見られる[4]。本格的なロシア語研究が始まるのは、1804年から1811年にロシア使節からもたらされた公文書の翻訳が必要となった江戸幕府の命により、蘭語通詞の馬場貞由(左十郎)らがゴローニン事件によって松前藩に幽閉されていたゴローニンから学んだのが最初[5]

1868年に成立した明治政府は文明開化政策の規範を欧米諸国に取り、イギリス・ドイツ・フランス・アメリカなどから多くの技術や思想を導入した。西欧よりも産業発展が遅れていたロシアはその対象から外れたため、通常の学校教育での採用では英語・ドイツ語・フランス語に次ぐものとして扱われた。その中で東京外国語学校では1873年の第一次創設から魯(露)語学科が設置され[注 1]東京商業学校への統合を経て1899年に再設置されると二葉亭四迷が露語学科の教授として就任して、同校はロシア語やロシア文学の研究拠点となっていった。また、開港地としてロシア領事館が置かれた函館などから布教が広がった日本ハリストス正教会もキリスト教(正教会)の聖職者育成とともにロシア語教育が重視された。ゴローニンの『日本幽囚記』で日本に興味を持ったニコライ(イヴァン・カサートキン)が日本大主教としてロシアから派遣後の1891年に建設された東京復活大聖堂(ニコライ堂)に設けられた正教神学校では昇曙夢が活躍して、自身を含んだロシア文学研究者の育成に貢献した。

一方、南下政策をとるロシア帝国大日本帝国にとって仮想敵国の筆頭にあり、実際に1904年からは日露戦争が勃発、1905年からは樺太の北緯50度線で陸上国境で接するようになったため[注 2]日本軍にとってロシア語を習得する必要は一貫して高く、陸軍の教育機関である陸軍幼年学校陸軍大学校海軍海軍大学校ではロシア語が科目に含まれた。陸軍の東郷正延や海軍の井桁貞敏らは第二次大戦後のロシア語教育でも大きな役割を担った。

1920年には早稲田大学文学部に露文学科が設置され[6][注 3]、1921年設立の大阪外国語学校[注 4]や1925年設立の天理外国語学校[注 5]でも当初からロシア語の学科が置かれた[7]。1917年にロシア革命が始まり、ソビエト連邦が成立、日本とは新たな緊張関係が生まれた。ソ連の国家イデオロギーである社会主義共産主義は天皇制を奉じる日本では危険思想とみなされ、その事実上の公用語であるロシア語学習者は「アカ」などの蔑称で呼ばれることが多く、1937年には早稲田大学の露文学科が閉鎖された[6]。また正教会はロシア本国ではソ連政府による弾圧、日本ではソ連(ロシア)への利敵者とみなされる偏見という二重の苦境に立ち、その影響力とともにロシア語教育への余力も減退した。一方、日本が勢力を伸ばした満州では実務面でもロシア語教育の必要性が高く、1920年にハルピン市に設置された日露協会学校は後にハルピン学院となり、1940年からは満州国立大学となったが、1945年8月のソ連対日参戦とそれに続く第二次世界大戦での日本の敗北で消滅した。赤軍(ソビエト連邦軍)に降伏した日本軍の将兵はシベリア抑留の対象となってソ連国内[注 6]の収容所に連行されて、赤軍が進駐した満州や朝鮮半島北部、ソ連が日本からの領土編入を宣言したサハリン南部(南樺太)や千島列島南部[注 7]ではソ連軍人や一般国民と混住状態になった日本人が日常的にロシア語を使う状況となったが、民間人は一部の残留者を除いて1948年までに日本へ帰国し、シベリア抑留者の送還も1956年に終了して、この状態は短期間で終わった。

1946年に早稲田大学の露文学科は再開され[6]、1949年にはソ連との友好促進を目指す民間団体として(旧)日ソ親善協会が設立されてロシア語教室が開催されるなど、戦後のロシア語教育は東西冷戦の影響も受けながら徐々に拡大された。1956年10月に日ソ共同宣言で両国間の国交回復が決まると同年11月からNHKラジオでロシア語講座が開講され、1957年には同年に日ソ親善協会から改称した日ソ協会系の日ソ学院によってロシア語能力検定試験が開始された。同年はスプートニク1号による史上初の宇宙飛行も行われ(スプートニク・ショック)、ソ連の高い自然科学力を背景にした理工系教員からの要望を受けて1962年には東京大学教養学部に在籍する1年生と2年生の一部を対象にロシア語が第二外国語に加えられ[8]、ソ連政府からの独立性を維持した正教会系のニコライ学院を含め、高等・専門教育ではロシア語教育の機会が増えていった。

1960年代までは上記のようにロシア語の研究論文を読む必要がある自然科学系の研究者、共産主義を支持する人々を中心にロシア文化への関心は比較的高かった。しかしながら、レオニード・ブレジネフ体制下でのソ連文化の硬直化や科学技術の停滞、中ソ対立などにも影響された日本共産党日本社会党などの日本の左派(革新)政党とソ連共産党の関係の混乱などを背景にソ連(ロシア)への関心は低下した。1985年にソ連で始まったペレストロイカによって経済交流や文化的関心は高まり、ロシア語学習者も一時的に増加したが、1991年のソ連崩壊前後の経済混乱はその熱を冷まし、1996年には19世紀からの伝統を持つニコライ学院が閉校に追い込まれた[9]

その後は日ソ学院が改称してロシア語能力検定試験の主催を続ける東京ロシア語学院や、こちらも改称しながら同学院との友好関係を維持する日本ユーラシア協会の独自講座、ロシア連邦教育科学省の認定試験として日本対外文化協会が窓口となって行われているロシア語検定試験(ТРКИ)、各大学で続けられるロシア語・ロシア文学関係の講座、それにNHKの語学番組改革の中で2017年からEテレで始まった「ロシアゴスキー」やラジオ第2放送の「まいにちロシア語」の放送などで日本におけるロシア語教育が継続されている。しかしながら、放送大学におけるロシア語講座開設が2007年度限りで終了するなど、その退潮傾向は続いている。ただ、伝統的にロシアが強国であるフィギュアスケートでは浅田真央や羽生結弦などの日本選手もロシア人指導者のコーチを受けてきた事もあり、ここからロシア語への関心を持つ例も見られる。あるいは後述するアニメ・漫画などのサブカルチャー分野の人気作品内でロシア語が使用される例もあり、2020年4月に京都外国語大学がロシア語学科を新設するなど、一定の状況変化も見られる。

ロシアとの交流は北海道や日本海側の一部の地域を除くと盛んではなく、貿易額で示される経済的なつながりもロシアと同様の近隣諸国である中国や韓国、あるいは多くの面で緊密な関係を維持しているアメリカ合衆国より薄い。そのため、日本(特に西日本)においてロシア語の重要性は低い。英語や中国語、朝鮮語に比べて語学教材も恵まれておらず、改訂も進まない結果、内容がソ連時代のままである教材も少なくない。

しかし、上記のように第二次世界大戦後も日本とソ連は軍事的対立が続き、冷戦終結とソ連崩壊後も日ロ間では領土問題などでの対立が残ったほか、漁船操業や国際協力などでの実務的必要もある。したがって海上保安庁では第二外国語として中国語・朝鮮語と並びロシア語が学ばれており、自衛隊でも第二外国語として学ばれているほか、北海道の一部の高校では地理的に近いということもありロシア語の授業が行われている。さらに稚内根室紋別新千歳空港ではロシア語表記の看板が見られるなど、隣国としてのロシアの姿が実感できる。同様に、新潟東港を通じての対ロ貿易の日本海側拠点である新潟市でも日本語の他英語とロシア語を併記した看板を見ることができる。新潟市ではこれ以外にもロシア語スピーチコンテストを行うなどしている。同じく対露貿易の多い富山県伏木富山港周辺でもロシア語表記の看板が見られ、新潟県や富山県でもロシア語の授業を開講する高校がある。また、2010年代に入り「ガールズ&パンツァー」「ゴールデンカムイ[注 8]などロシア語の台詞が多い漫画・アニメーションの人気作品が制作され、ここからロシア語に興味を持った人が若者が生まれたという指摘もある。上記のNHKテレビロシア語講座「ロシアゴスキー」では2013年から放送が始まった放送シリーズで「ガールズ&パンツァー」に出演したロシア出身の声優であるジェーニャ[注 9]を起用している。

江戸時代まで遡る日ロ両国間の政治交渉、ロシア文学や共産主義思想の受容、宇宙工学を中心とした多くの自然科学分野における重要性の存在などの様々な理由から、今でも日本の多くの大学の第二外国語でロシア語を学ぶことができるものの、日本人(特に西日本在住者)でロシア語を学ぶ人々は少ない。その中で、近畿地方関西圏)における日本海側の最重要港湾都市としてソ連時代から貿易拠点となっていた舞鶴市では北陸地方の各都市と類似したロシア語への接触環境があり、その舞鶴市がある京都府では2020年4月に京都外国語大学がロシア語学科を新設している[注 10][10]

また、2022年3月31日 、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を受け、外務省はウクライナ国内の地名をロシア語からウクライナ語に合わせた日本語表記に変更すると発表した。[11]

例:キエフ (Kiev) →キーウ (kyiv)

このほかに、JR東日本恵比寿駅でもロシア語の看板を撤去するというような事案が発生している。[12]

ロシア語の学科がある主な大学は以下の通りである。このうち1994年に設立されたロシア極東連邦総合大学函館校は他校とは違って日本の教育制度の中では専修学校として扱われ、外国大学の日本校として指定されている。一方、ロシアではウラジオストクにある極東連邦大学の正式な分校として扱われ、本校への留学も含んだロシア語教育が重点的に行われている。

ウクライナ

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ウクライナ東部や南部ではロシア語が広く使われている。また、ウクライナ語とロシア語の社会方言が混じった口語の混合言語であるスルジク(суржик)も使われている。ウクライナではソ連崩壊後、言語問題がしばしば発生している。2014年にはロシア語話者の多いクリミア共和国とセヴァストポリ特別市が独立を宣言し、それらのロシアへの編入の宣言に至った(クリミア危機)。それと同時に東部のドンバスでも紛争が発生し、一部地域がドネツク人民共和国ルガンスク人民共和国として事実上独立した。2022年にロシアによるウクライナ侵攻に発展し、同年9月30日にロシアはドネツク・ルガンスクの両共和国及びザポロージェ州ヘルソン州併合を宣言した。東部や南部とは対称にロシア語話者が少ない西部のリヴィウ州では、議会が2018年9月18日、ロシア語による歌曲を公共の場で流したり、書籍を出版したりすることを禁じる条例を可決した[13]

ベラルーシ

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ソ連崩壊後、1994年ルカシェンコが大統領に選出された翌年の1995年にロシア語にベラルーシ語と同じ地位が与える国民投票が行われ、可決された。現在、これまでにない規模でロシア語化が推し進められている。また、2019年の国勢調査では、総人口9530.8万人中ベラルーシ語の母語話者は53.2%、対してロシア語の母語話者は41.5%となっている。総人口の4分の3に当たる都市住民の間ではベラルーシ語の母語話者は44.1%、家庭内での使用割合は11.3%に過ぎず、ロシア語化が大きく進行している事が示されている。

エストニア

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ロシアとの歴史的な関係からエストニア国内にはエストニア語を解さないロシア語話者が一定数存在する。エストニア政府は度重なる「言語法」の改訂によって彼らの排除、あるいは社会統合を企図し、その甲斐あって若年層のロシア人(英語版)はエストニア語能力に向上を見せた。しかし、エストニア語能力を有さない住民は北東部イダ=ヴィル県を中心に未だ多く存在し、その社会統合は課題として残されている。

→詳細は「エストニアにおけるロシア語ロシア語版」を参照
2000年国勢調査におけるロシア語話者の分布

ロシアとの国境に近い北東部イダ=ヴィル県ナルヴァではロシア語話者の割合が95パーセント以上を占め、その他イダ=ヴィル県にはロシア語話者が過半数を占める都市が散見される[14]
エストニアの言語法第11条には、「全定住者のうち過半数の使用する言語がエストニア語でない地方自治体においては、自治体内の実務言語として〔中略〕エストニア語に加えて全定住者のうち過半数を形成する少数民族の言語を使用することができる」との条文があり、ロシア人が95パーセント以上を占めるナルヴァ市議会は、これに基づいて議会でのロシア語使用許可を申請している[15]。政府は、同市におけるエストニア語の使用が未だ保障されていない、として申請を却下したが、ロシア人の側は、非合法状態にはありながら公的領域においてもロシア語の使用を続けている[15]
また、過去には首都のタリンでもロシア系住民とエストニア政府との間で大規模な暴動が起きた。

カザフスタン

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カザフスタンではソ連から独立した後も他の中央アジア諸国に比べてロシア語が使用されることが多く、カザフ語は国家語、ロシア語は実質的な共通語としての地位を確立し、都市部ではカザフ語よりもロシア語を得意とするカザフ人は少なくない[16]。こうした状況下で、カザフスタン政府はカザフ語の振興を掲げていて[17]、カザフ語の急速な台頭とロシア語の重要性の低下に対して抵抗を感じる人間がいる一方で、マスメディアにおけるロシア語の支配的な地位を疑問視する意見も投げかけられている[16]
だが、近年ではロシア語離れの動きがあると報じられている。具体的には、カザフ語の表記がキリル文字からラテン文字へ移行する草案が提出された[3]。しかし、この移行は国民の間では一般に普及していない。
また、カザフ語自体もロシア語からの借用語が多い[18]

ウズベキスタン

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ウズベキスタンでは独立以降しばらくはウズベク語とロシア語が公的な文書において使用されていた[19]が、1995年12月に憲法が改正され、ウズベキスタン憲法第四条[20]及び「国家言語法」により[21]ウズベク語が公用語の地位を獲得することになった。
ウズベク・ソビエト社会主義共和国時代はウズベク語とロシア語が公用語の地位を獲得していた。現在、ウズベキスタンではウズベク語とロシア語の他に、主にウズベク人以外の少数民族によってタジク語キルギス語トルクメン語カザフ語カラカルパク語タタール語ノガイ語などのテュルク諸語の他、アゼルバイジャン語ウイグル語などの言語が話されている。地方ではウズベク語を母語とする者の割合が高いが、首都タシュケントでは人口の約半数がロシア語話者であり、ロシア語が日常的に使用されている[22]。また、大学ではウズベク語とロシア語による講義が行われており、研究活動を行う者はほぼロシア語環境で研究を行なっている。一方で、英語が通じることは少なく[22]、2005年時点の調査では、英語を話すことができると答えた人々の割合は9%にすぎず、ロシア語を話すことができると答えた人々の割合は中央アジア全体で80%を超えている[23]
現在、ロシア語は全人口の14.2%に当たる人々が第一言語として使用しており、その他の人々もその多くがロシア語を第二言語として使用しているなど異民族間の共通語・準公用語的な地位にある。

タジキスタン

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タジキスタンではロシア語は帝政ロシアソビエト連邦時代の共通語であったため、現在でも第二言語として教育・ビジネス等で多く使用されている。ただし、2009年10月から国語法が成立し、公文書や看板、新聞はタジク語を用いることを義務づけられた[24]
また、ソビエト連邦の崩壊後に起きたタジキスタン内戦によるロシア人の大量国外流出によりロシア語の通用度が急激に低くなったが、現在では出稼ぎ先の大半はロシアであることと、高等教育にはロシア語習得が不可欠であることから、ロシア語教育も重要視されつつあり[24]、国民の間ではロシア語学習熱が強い。

キルギス

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キルギスではロシア語が公用語キルギス語国家語とされている (憲法第10条第1項、第2項[25])。
2017年の国勢調査によると、母語話者の割合はキルギス語が55.2%、ウズベク語が4.7%、ロシア語が34.0%となっている。
独立以降公用語から除外されたウズベキスタンなどとは違い、引き続き公用語に制定されている。これは、国の中枢を占めていたロシア人などのロシア語系住民の国外流出(頭脳流出)を防ぐためであり、現在でも山岳部を除く全土で通用し、教育、ビジネスや政府機関で幅広く使用される。また医療用語などはロシア語にしか翻訳されていない単語があるため、ロシア語が理解できないと生活に苦労する場合もある。
首都ビシュケクとその周辺では多くの住民はロシア語を使って生活しており、キルギス語が上手に話せないキルギス人も少なくない。このため、現地生まれのロシア人はキルギス語を話せない人がほとんどを占めている。

その他の旧ソ連圏

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エストニアの他に同じくヨーロッパ連合加盟国となったラトビアリトアニアなどの旧ソ連諸国でも、公用語にこそなっていないもののロシア系住民を中心に広く使われているがEUの公用語には加わっていない。2018年には、ロシアに対する反感や地位低下を背景に、先述したウクライナ、カザフスタンのほかにラトビアモルドバでロシア語離れの動きがあるとも報じられている[3]。その中ではカザフ語やアゼルバイジャン語の表記がキリル文字からラテン文字へ変更されたことが挙げられている。ただし、ソ連時代からロシア人の居住比率が10%程度だったリトアニアを除くと上記の各国でロシア系住民の比率は相対的に高く、特に中央アジアにおいては相対的に賃金水準の高いロシアの都市部へ出稼ぎ労働者が流出を続ける状況もあって、ロシア語が対ロシア、および地域諸国内の商業・行政面における共通言語(リングワ・フランカ)として現在でも使用され続けている。

イスラエル

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→詳細は「イスラエルにおけるロシア語」を参照

1999年のデータではイスラエルへの旧ソ連からの移民は75万人にのぼり、ロシア語のテレビ・ラジオ放送局もある。イスラエルの公用語はヘブライ語だけだが公用語ではない英語にならび移民の影響でロシア語も広く使われている。

アメリカ合衆国

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アメリカ合衆国におけるロシア語話者には2類型ある。政治的な理由でロシア帝国やソビエト連邦から移住した人々やその子孫である「ロシア系アメリカ人」、そしてロシア統治時代のアラスカ住民の子孫である。

ロシア帝国ではロマノフ朝との関係が非常に強かったロシア正教会の主流派が絶大な権力を持ち、正教の反主流派である古儀式派モロカン派、そして少数民族となったユダヤ人が信仰を守るユダヤ教などを抑える体制ができていた。特にユダヤ人に対しては「ポグロム」と呼ばれる大量虐殺が一般民衆の手で頻発したため、1880年代以降にユダヤ人がアメリカ合衆国への集団移住が始まった。彼らはニューヨークやサンフランシスコなどの都市部に集住した。

続いて、1917年のロシア革命により社会主義体制のボリシェヴィキ政権が誕生し、ロシア内戦を経て1922年にソビエト連邦が成立したことで、貴族、地主、教会関係者などの旧支配層、さらに政治的混乱と迫害を恐れた一般民衆が多くロシアを脱出し、その一部が既にロシア系コミュニティが成立していたアメリカ合衆国を目指した。これらの亡命者は「白系ロシア人」とも呼ばれ、多くの文化人も含まれていたことから、アメリカでのロシア語及びロシア文化の伝達を促進した。ソ連成立後も合法的な出国を認められる文化人は少数ながら存在し、彼らからも1933年にソ連との国交を樹立したアメリカ合衆国へ移住する例が生まれた。

第二次世界大戦後は東西冷戦が激化し、ソ連からアメリカへの移住は厳しく制限され、ごく少数の亡命者を除けば人口移動は起きなかったが、1970年代に入るとソ連政府は自国民のユダヤ人がイスラエルへ移住することを一定の範囲で認めるようになり、その一部がアメリカへ再移住した。そして1980年代のペレストロイカ政策によるソ連の自由化、そして1991年のソビエト連邦崩壊によるロシア連邦の成立により、ロシア人の国外出国は容易となり、アメリカへの移住者が再び増加した。移住理由には、国内での民族対立を背景とした政治的亡命、より豊かな生活を求める経済移民、ソビエト体制での高い教育水準で育成された技術者のアメリカ企業による雇用などがあり、ロシアン・マフィアによる非合法移住、英語では「メールオーダーブライド英語版」とも呼ばれる、業者を介した簡易な国際結婚によるロシア人女性の渡米なども含まれる。

彼らもアメリカにおけるロシア語人口の増加に寄与し、21世紀に入ってその数は減少したとされるものの、2000年の国勢調査では70万人がロシア語話者と答え、ロシア系アメリカ人自体はアメリカ全体の人口の約1%である約300万人とされる。

一方、ロシア帝国は16世紀から進めたシベリア征服の結果、ベーリング海峡を越えて北米大陸の北西端にあるアラスカに到達していた。1784年にはアラスカ南部のコディアック島に根拠地を置き、1799年にアラスカ領有を宣言、1821年には正式に「ロシア領アメリカ」が成立していたが、ロシア帝国にとってアラスカはあまりに遠く、有効な植民地統治は困難だった。これは逆に、帝国内での迫害から逃れたい古儀式派にとっては好都合だった。1867年にアメリカ合衆国がロシアからアラスカを購入すると、ロシア帝国の役人や毛皮商などは本国へ帰還したが、古儀式派は帰国を拒否し、自らの信仰が保証されるアメリカ国民になることを選択した。その際に「ロシア語ネイティブのアメリカ人」が生まれ、さらにソビエト政権の成立後にアラスカとシベリアとの交流が断絶したため、アラスカのごく一部ではロシア帝国時代からの古儀式派信仰とロシア語が保存された。特にアラスカ本土、コディアック島から約250km離れたニニルチク英語版:Нинилчикでは下記の「方言」で記す通りに発音や性の構造などで現在の標準ロシア語との差異があるとされ、同地では20世紀末からモスクワ大学などの研究者が言語収集を行っている[26]

表記体系

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→詳細は「ロシア語アルファベット」および「ロシア語の筆記体英語版」を参照

ロシア語では以下の33個のキリル文字が用いられている。音価は固有語におけるもののみに限って紹介するが、外来語の中では延長線上の軟音化・硬音化が行われる場合もある。またロシア語における母音弱化は非常に複雑な変化をもたらすため、この表では概ねそれに触れない。

文字文字の名称音価 (IPA)発音上の注意等
露文羅文カナ硬音軟音
Аааa[a]
Бббэbe[b][bʲ]
Вввэveヴェ[v][vʲ]語末では[f] と発音。またしっかりしていない発音では特に母音に挟まれたв は「ワ」に似たような音価[ʋ] などで発音されることがある
Гггэge[g][gʲ]形容詞・代名詞の活用の語尾の中ではв と読むものがある。また特定の感動詞教会スラブ語由来の言葉では伝統的に[ɣ] で発音される
Дддэde[d][dʲ]軟音は実際に舌端音[d̻ʲ] といったように発音される
Еееjeイェ[je]「イェ」に近い 外来語では不規則的に子音後で硬音化するものがある
Ёёёjo[jo]「ヨ」に近い(母音の実際の音価は[ɵ] )。多くの場合トレマ無表記でE と同じく書かれるが読み方には影響しない
Жжжэzheジェ[ʐ]-そり舌気味で発音される[z]。日本語にないが、例えば中国語の「肉」(ròu) の発音[ʐoʊ̯˥˩][ʐ] はこれに近い。

※正書法におけるжжзж は伝統的に別の、唯一固有の文字を持たない基本音素[ʑː] を表すものが多い(例:жжет[ʑːɵt]езжу[ˈjeʑːʊ]、但しразжать 等はこの音素を含んでいないため[rɐˈʐːatʲ])。20世紀以来に本来[ʑː] と読むべきところを「書かれたまま」[ʐː] と読むのが普及したため、この音素はロシア語話者の間では珍しくなっている。日本語に喩えて音を説明すると「家事」[ka̠ʑi][ʑ] がやや長めに発音された感じになる。

Зззэze[z][zʲ]同じスラヴ語派ポーランド語と違って軟音化のときは[zʲ] になる程度であって、日本語の「家事」[ka̠ʑi] における子音[ʑ] にまでなることはない
Иииi[i]
Ййи краткоеi kratkojeイ・クラトカヤ-[j]半母音[j](短い「イ」)
Кккаka[k][kʲ]日本語と違って、「き」が「ち」のような発音[ci] になるといった訛り方に相当する現象はロシア語には存在せず、ロシア語話者にもっぱらтьч に聞こえ誤解を招き得る
Ллэльel'エル[ɫ][lʲ]硬音は英語feel の L の発音に、軟音はmillion における L の発音にそれぞれ似ている
Ммэмemエム[m][mʲ]
Ннэнenエヌ[n][nʲ]硬音は常に、環境によらず「ナ」の子音[n] であり、日本語の「ン」とは実際にかなり違う。特に多くの言語とは対照的に[ŋ] になることさえない
Оооo[o]アクセントがない場合は a と同じく発音する(ただしрадио[ˈradʲɪo] のような例外もある)
Пппэpe[p][pʲ]
Ррэрerエル[r][rʲ]巻き舌[r] で発音される。軟音化すると口蓋化した[rʲ] になり、発音の仕組みの特徴から[r] に対して[rʲ] は若干ふるえにくい。
Ссэсesエス[s][sʲ]同じスラヴ語派ポーランド語と違って軟音化のときは[sʲ] になる程度であって、日本語の「シ」の子音[ɕ] にまでなることはない
Тттэte[t][tʲ]軟音は実際に舌端音[t̻ʲ] といったように発音される
Уууu[u]日本語の「う」よりも口を丸めて発音
Ффэфefエフ[f][fʲ]英語や中国語にも見られる音声[f] 日本語の「フ」の子音[ɸ] ではない。もっぱら外来語の表記に用いられる
Хххаkha[x][xʲ]「カ」のように発音される「ハ」であるが、軟音化すると日本語の標準的な「ヒ」の子音とさほど変わらない
Цццэtseツェ[ʦ]-「ツァ」「ツ」「ツォ」
Чччеcheチェ-[ʨ]「チャ」「チュ」「チョ」
Шшшаshaシャ[ʂ]-そり舌気味で発音される[s]。日本語にないが、例えば中国語サンスクリット(梵語)における音素[ʂ] はこのような音である(例: 中国語「上海shànghǎi[ʂâŋ.xài]、梵語कृष्ण[ˈkr̩ʂɳɐ]クリシュナ」などの[ʂ]
Щщщаshchaシシャ(シチャ)-[ɕː]「ッシ」(「」の子音[ɕ] に似ているが、やや長め)
Ъътвёрдый знакtvjordɨj znakトヴョルドゥイ・ズナク-硬音記号、非口蓋化する[* 1][* 2]
Ыыыɨウィ[ɨ]カタカナ表記にもかかわらず、あくまで「イ」でも「ウ」でもない単純母音である。日本語に無く、例えば中国語の「吃」(chī) の発音[tʂʰɨ˥] の母音[ɨ] はこのような音である
Ььмягкий знакmjagkij znakミャフキイ・ズナク[◌ʲ]軟音記号、口蓋化する[* 1][* 3]
Эээe[ɛ]日本語の「え」よりも広めに発音される。文字としては主に外来語に使用
Юююju[ju]「ユ」。軟子音に挟まれる場合さらに狭めを起こして[ʉ] と発音
Яяяja[ja]「ヤ」。軟子音に挟まれる場合さらに狭めを起こして[æ] と発音
  1. ^ab硬音の子音は微妙に「ウ」の音感、軟音の子音は微妙に「イ」の音感を伴う。
  2. ^硬音記号は、現在では[j] で始まる単語に硬子音で終わる接頭辞が付加される場合(例:под + ехатьподъехать)にしか用いられない。ただし日本語をロシア語式に音訳する際、[n]と後続の母音を分けて発音することを明示する必要がある場合など(例:欽一の「きんいち」が「きち」にならないようにする)、外国語の表記に用いることがある。
  3. ^軟音記号はそれが伴う直前の子音が軟音であることを現す。
  • 正書法の規則により、г ,к, х, ж, ч, ш, щ の後にはя, ы, юを置かず、代わりにそれぞれа, и, у を用いる。ただし、この規則が適用されないケースもある。
  • 子音字й は通常、母音の直前では用いられず、代わりに[j] + 母音の音結合を表すя, и, ю, е, ё が用いられる。しかし特に外来語ではЙокога́ма(ヨコガマ=横浜)のように単語の先頭に置くこともある。

音韻

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子音

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子音音素
歯茎/後部歯茎硬口蓋軟口蓋
mn
破裂無声ptk
有声bdɡɡʲ
破擦t͡s(t͡sʲ)t͡ɕ
摩擦無声fsʂɕːx
有声vzʐ(ʑː)(ɣ)(ɣʲ)
接近ɫj
ふるえr
  • 軟子音硬口蓋化子音)と硬子音(非硬口蓋化子音)が明確に区別される(例:брать/bratʲ/ "取る" — брат/brat/ "兄弟")。なお日本で出版されているロシア語の参考書では/jV/ (V は母音) という音結合およびその文字を「軟母音(字)」と呼び、それに対して単なる母音を「硬母音」と呼ぶことが多いが、この用語は日本特有のものであり本来ロシア語にこのような母音の硬軟の区別は存在しない。
  • 逆行同化により、軟子音の前にある硬子音は軟音化する(例:если[ˈjesʲlʲi])。
  • ロシア語には/w/ という子音がないため、外来語における/w//v/ で置き換えられる。ただし発音のまま文字があてられたものもある。(例:туалет トゥアリェートゥ←toilette(フランス語より))
  • 西欧語にはない[zn][nr] などの子音連続が多様である。
    例:зна́ние[zna-](知識)
    語頭に現れるもの
    • зв, зд, зн, зл, зм, зр, мгл, мгн, мл, мн, нр... など
  • 一部の子音は語形変化派生に際して規則的に別の子音と交替する。
    • г -ж :могу - можешь
  • /j/母音が後に続き、かつアクセントがある場合、摩擦音が生じ[ʝ]で発音される傾向がある。

母音

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前舌中舌後舌
i(ɨ)u
中央eo
a

ロシア語は定説では5母音体系である。ы[ɨ] は硬子音の後にのみ現れ、音素/i/条件異音である(例:Италия[iˈtalʲijə],в Италии[vɨˈtalʲijə])。

アクセント

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  • 日本語のアクセント高低アクセント)とは異なり、強弱アクセントである。アクセントのある音節は強く、やや長めに発音される。
  • 疑問詞のない疑問文では、一番聞きたい部分の単語のアクセントでイントネーションを上げて発音する。
  • ёは歴史的にアクセントのあるеが変音したものなので原則的にアクセントがあり一単語に1回しか現れない[27](語形変化によりアクセントがなくなった場合、文字上はеに変化する)。ただし接頭辞のтрёх-のような例外もある。
  • у 以外の母音はアクセントが無いと音が弱化する。アクセントの前後、位置で音は変わる。а,о[a]и,э[ɪ]и скло́нно к э「イがエに傾く」)、я,е[jɪ] になる(ただし、厳密には音節によって弱化の度合いが異なり、従って実際の発音も異なる)。結果としてアクセントのないо,е はそれぞれ「ア」「イ」のように聞こえる(例:хорошо́ハラショー)。これは標準ロシア語の基盤となったモスクワ方言の発音であり、いっぽう北部方言においてはアクセントのないо,е をそのまま「オ」「イェ」で発音する。また、е, и の発音が「ヤ」気味になる方言が存在する。

文法

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→詳細は「ロシア語の文法英語版」を参照
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ロシア語の基本的な語順SVO型(主語-動詞-目的語)であるが、変化によって文中の各要素の役割が示されるため、語順は比較的自由であり、文頭には既知情報(主題、テーマ)が、文末には新情報(レーマ)が置かれる傾向が強い(機能的文脈主義)。例えば、Студент читает книгу.(学生が本を読んでいる)は「学生は(何をしているか)」の答えであるのに対し、Книгу читает студент.(本を読んでいるのは学生だ)は「(誰が)本を読んでいるか」の答えとなる。

疑問文は、疑問詞(кто「誰」、что「何」、где「どこ」など)を用いるか、平叙文のイントネーションを上昇調にするか、あるいは不変化詞ли を用いて作られる。ли は、疑問の焦点となる語の直後に置かれる(例:Знаетели вы его?「あなたは彼を知っていますか?」)。

否定文は、通常、否定したい語(主に動詞)の直前に否定の不変化詞не を置くことで作られる(例:Яне знаю.「私は知らない」)。ロシア語では否定の呼応が特徴的であり、否定的な代名詞や副詞(никто「誰も...ない」、никогда「決して...ない」など)が用いられる文では、動詞もне で否定される(例:Яникогдане был в Москве.「私は一度もモスクワに行ったことがない」)。

主語が明示されない文型も多用される。

主語がない無人称文ロシア語版がある。無人称文では意味上の主語は与格で表される(例:Мне холодно.「私は寒い」、Ему нужно...「彼は...する必要がある」)。

不定人称文ロシア語版では動詞は三人称複数となる。

普遍人称文ロシア語版では、一般的な真理や格言を表し、動詞は主に二人称単数形(例:Тише едешь, дальше будешь.「ゆっくり行けば、遠くまで行ける」)や、三人称複数形(例:Цыплят по осени считают.「雛は秋に数えるものだ」)が用いられる。

名詞

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名詞は、男性、中性、女性の3つのに分かれている。ロシア語の名詞は、例外はあるものの総じて、単数主格形について男性名詞は子音字または軟音記号で、女性名詞は母音字-а, -я または軟音記号 で、中性名詞は母音字-о, -е または-мяで終わる。そのため、名詞の性の判別が比較的容易である。これに加えて名詞は言葉の意味によって、人や動物を表す活動体とそれ以外のものを表す不活動体に分けられる。

は、単数と複数の区別を有する。複数では性の対立は薄れ、主格・生格・対格を除くとどの性の名詞も同一の格語尾を有する。複数主格の語尾は、男性・女性名詞では-ы / -и が多いが、一部の男性名詞や中性名詞では-а / -я となる。歴史的には単数・複数の他に双数(目、手、足など、二つ一組のものに用いられる数)が存在したが、現在は数詞 два「2」との結合(男性名詞のかつての双数主格の語尾 -а が後に単数生格の語尾 -а と解釈され、それが一般化された結果どの性の名詞に対しても数詞 два は後ろに単数生格を要求するようになった)あるいは берег「岸」の複数主格 берега(本来想定される複数主格は *береги)などに痕跡的に見られるのみである。

名詞の主格生格与格対格造格前置格の6種類である。これらに加え、一部の名詞には以下のような特殊な格形が痕跡的に残る。

呼格 (звательный падеж)
神への呼びかけ (Боже!「神よ!」,Господи!「主よ!」) に見られるほか、口語では名前などの語尾を切り詰めた形 (Мам!「ママ!」,Саш!「サーシャ!」) が用いられることがある。
処格 (местный падеж) または 第二前置格
一部の男性名詞が、前置詞в(~で),на(~で)の後で場所を表す際に、通常の ではなく強勢のある-у́ または-ю́ の語尾をとる (例:в лесу「森で」,на берегу「岸で」)。
分格 (разделительный падеж) または 第二生格
一部の男性(不活動体)名詞が、部分や不定量を表す際に、通常の生格-а / -я ではなく-у / -ю の語尾をとることがある (例:стакан чаю「お茶を一杯」,купить сахару「砂糖を買う」)。

は語尾によって表され、性・数とともに語形変化を引き起こす文法カテゴリーである。例外的に語尾が変化しない名詞もあるが、ほとんどは格によって語の文中での役割が示されるため、語順は比較的自由に変えられる。

名詞の中には、молоко(牛乳)、сахар(砂糖)のように通常複数形を持たないもの({singularia tantum)や、очки(眼鏡)、ножницы(はさみ)、сани(そり)のように単数形を持たないもの({pluralia tantum)がある。

他にも大きな特徴として出没母音がある。これは語形変化に合わせて出現あるいは消滅する母音であり、主にо, е が用いられる。例えば、пирожокピロシキ)を複数形にすると、最後のо が消滅してпирожки になる。通時的に見れば、出没母音о, е は元来スラヴ祖語に存在した弱化母音 ъ, ь から生じたものである。

名詞の格変化の基本パターンは以下の通りであるが、特に活動体不活動体の対格の区別は注意すべきである。活動体名詞の対格は生格と同形になり、不活動体名詞の対格は主格と同形になる。この区別は、男性名詞(単数・複数)、女性名詞(複数)、中性名詞(複数)で適用される。(中性名詞の活動体はживотное「動物」など少数である。)また、アクセント移動、出没母音や正書法の制約などによる不規則変化も多いほか、外来語などに不変化の名詞もある。

男性名詞
語尾は子音(самолёт 飛行機)語尾は子音(студент 男子大学生)語尾はмузей 博物館)語尾はсловарь 辞書)
単数複数単数複数単数複数単数複数
主格самолётсамолётыстудентстудентымузеймузеисловарьсловари
生格самолётaсамолётовстудентaстудентовмузеямузеевсловарясловарей
与格самолётусамолётстудентустудентмузеюмузеямсловарюсловарям
対格самолётсамолётыстудентaстудентовмузеймузеисловарьсловари
造格самолётомсамолётaмистудентомстудентaмимузееммузеямисловарёмсловарями
前置格самолётесамолётстудентестудентмузеемузеяхсловаресловарях
女性名詞
語尾はмашина 車)語尾はрыба 魚)語尾はстанция 駅)語尾はтетрадь 手帳)
単数複数単数複数単数複数単数複数
主格машинамашинырыбарыбыстанциястанциитетрадьтетради
生格машинымашинрыбырыбстанциистанцийтетрадитетрадей
与格машинемашинамрыберыбамстанциистанциямтетрадитетрадям
対格машинумашинырыбурыбстанциюстанциитетрадьтетради
造格машиноймашинамирыбойрыбамистанциейстанциямитетрадьютетрадями
前置格машинемашинахрыберыбахстанциистанцияхтетрадитетрадях
中性名詞
語尾はвино ワイン)語尾はморе 海)語尾は-мяимя 名前)
単数複数単数複数単数複数
主格виновинамореморяимяимена
生格винавинморяморейимениимён
与格винувинамморюморямимениименам
対格виновинамореморяимяимена
造格виномвинамиморемморямиименемименами
前置格виневинахмореморяхимениименах

このほか、-анин / -янин で終わる名詞(англичанинангличане「イギリス人」)や、ребёнок(子供)→детичеловек(人)→люди のような補充形、друг(友人)→друзьябрат(兄弟)→братья のような特殊な複数形も多く存在する。

数詞とそれに関連する名詞は特殊な変化をみせる。主格(および不活動体対格)において、

  • 1 (один, одна, одно) は形容詞のように性・数・格を名詞に一致させ、名詞は単数主格をとる。
  • 2 (два [男・中],две [女]), 3 (три), 4 (четыре) およびこれらで終わる合成数詞は、名詞の単数生格をとる。この単数生格の形 (例:стола) は、歴史的には双数形の主格語尾に由来する。
  • 5 (пять) 以上の数詞(および 11-19)は、名詞の複数生格をとる。
  • сани(そり)のような複数形しか持たない名詞や、男性の集団を指す場合などには、двое (2),трое (3),пятеро (5) といった集合数詞が用いられる。

斜格では、事情が異なる。

  • 1 (один) は、形容詞として名詞と性・数・格を一致させる(例:содним другом「一人の友人と」)。
  • 2 (два, две), 3 (три), 4 (четыре) は、数詞自体が格変化し、後ろの名詞は複数形の格変化をとる(例:кдвум другзьям「二人の友人のところへ」)。
  • 5 (пять) 以上の数詞も、数詞自体が格変化し(主に女性名詞-ь型)、後ろの名詞は複数形の格変化をとる(例:спятью другзьями「五人の友人と」)。
男性名詞(сантиметр センチ)女性名詞(деревня 村)中性名詞(яблоко リンゴ)複数名詞(сани 橇)
1один сантиметродна деревняодно яблокоодни сани
2два сантиметрадве деревнидва яблокадвое саней
5пять сантиметровпять деревеньпять яблокпятеро саней
12двенадцать сантиметровдвенадцать деревеньдвенадцать яблокдвенадцать саней
22двадцать два сантиметрадвадцать две деревнидвадцать два яблокадвадцать двое саней

代名詞

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人称代名詞

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単数複数再帰
一人称二人称三人称一人称二人称三人称
男性女性中性
(日本語)彼女それ私たちあなた、あなたたち彼ら、彼女ら、それら自分自身
主格ятыононаономывыони
生格менятебяегоеёегонасвасихсебя
与格мнетебеемуейемунамвамимсебе
対格менятебяегоеёегонасвасихсебя
造格мной
(мною)
тобой
(тобою)
имей
(ею)
имнамивамиимисобой
(собою)
前置格мнетебенёмнейнёмнасваснихсебе
  • егог は「в」と発音する。
  • 三人称の生格・与格・対格・造格・前置格(表では既にнを附している)は、前置詞があると、前にн を付ける(例:у негос неё)。

敬称としてのвы は、文中でもВы のように大文字で書き始めることがある。なお、ロシア語では動詞の現在形と未来形の語尾変化から人称と数がわかるので、主語が文脈上明らかな場合は主格人称代名詞を省略することが多い(例:Читаю книгу. 「(私は)本を読む」)。ただし、過去形は性・数しか示さないため、主格人称代名詞(я, ты, он, она など)が用いられるのが普通である。

所有代名詞

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所有代名詞(「私の」「あなたの」など)は、修飾する名詞の性・数・格と一致して変化する。

  • мой(私の)、твой(君の)、наш(私たちの)、ваш(あなた(たち)の)は、形容詞の軟音型(синий)に似た格変化をする。
  • его(彼の、それの)、её(彼女の)、их(彼らの)は、人称代名詞の生格形であり、格変化しない。
  • свой は、文の主語自身(三人称も含む)の所有物であることを示す再帰所有代名詞であり、мой などと同様に格変化する。

指示代名詞

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этот(この)、тот(あの)は、形容詞とほぼ同様に性・数・格で変化する。中立的な「これ・それ」を指すэто は不変化で、コピュラ文などで多用される(例:Это стол.「これは机だ」)。

疑問・関係代名詞

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кто(誰)、что(何)は、性・数の区別なく格変化する。

  • 主格:кто,что
  • 生格:кого,чего
  • 与格:кому,чему
  • 対格:кого,что
  • 造格:кем,чем
  • 前置格: (о)ком, (о)чём

кто は活動体として(対格=生格)、что は不活動体として(対格=主格)変化する。

動詞

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動詞は1回限りの動作や、その開始と終了がはっきりと意識できるひとまとまりの動作など(日本語で言えば「食べてしまう」「読み切る」のような)を表す完了体(совершенный вид)と、進行・継続・反復する動作または動作そのものなど(「食べている」「読む」のような)を表す不完了体(несовершенный вид)(未完了体とも)の2つの体(相 (言語学)参照)に分類され、多くの動詞で対になっている。一部には対になる体をもたないものや、完了体でもあり不完了体でもあるものなど、変則的な動詞も存在しているが、いずれにも属さない動詞は存在しない。

アスペクトのペアは、多くの場合、不完了体を基本として以下のように作られる。

  • 接頭辞の付加:不完了体に接頭辞を付けて完了体を作る(例:делатьсделать「する」)。
  • 接尾辞の交替:接尾辞(しばしば母音交替を伴う)によって区別される(例:решать [不完] →решить [完]「解決する」)。
  • 補充形:全く異なる語幹がペアをなす(例:говорить [不完] →сказать [完]「言う」)。

時制は、過去・現在・未来の3つである。時制の表現は動詞の(アスペクト)と密接に関連している。

  • 不完了体動詞は、過去形(例:читал「読んでいた」)と現在形(例:читаю「読んでいる」)を持つ。未来形は、助動詞быть の未来形(буду, будешь...)に不完了体の不定詞を組み合わせて表現する(例:буду читать「(これから)読むだろう」)。
  • 完了体動詞は、過去形(例:прочитал「読み終えた」)と未来形(例:прочитаю「読み終えるだろう」)を持つ。完了体動詞の未来形は、形の上では現在形と同じ変化(第一式または第二式)をするが、意味は未来を表す。完了体動詞は現在の動作を表す形(現在形)を持たない。
  • 助動詞быть(である、ある)は不完了体動詞だが、例外的に未来形は不定詞と組み合わせず、それ自体が未来形として変化する(буду, будешь...)。


動詞の過去形の語形変化の基本パターンは1つしかないが、不規則なものがある。

動詞の過去形の語形変化
一般(читать 読む)特殊(идти 行く)語尾は -сястроиться 建設する)
単数複数単数複数単数複数
男性он читалони читалионшёлонишлион строилсяони строились
女性она читалаонашлаона строилась
中性оно читалооношлооно строилось

不定詞において語尾-ть/-тиの前に母音がないもの(例:нести 運ぶ)や-чь[28]で終わるもの(例:печь 焼く)は、男性形で語尾лが付かない(例:нёс [男],несла [女])。また、語幹がдтで終わる動詞では、それが脱落することがある(例:вести(я веду)-вёл, вела, вело, вели「連れて行く」)。

動詞の現在形の語形変化の基本パターンは2種類があるが、不規則なものも多い。

動詞の現在形の語形変化
第一式変化(читать 読む)第二式変化(смотреть 見る)語尾は -сястроиться 建設する)
単数複数単数複数単数複数
一人称я читаюмы читаемя смотрюмы смотримя строюсьмы строимся
二人称ты читаешьвы читаететы смотришьвы смотритеты строишьсявы строитесь
三人称он/она/оно читаетони читаютон/она/оно смотритони смотрятон/она/оно строитсяони строятся
быть の未来形の語形変化
単数複数
一人称я будумы будем
二人称ты будешьвы будете
三人称он/она/оно будетони будут

コピュラ動詞(…であるбыть の現在形は、通常は省略され、主語と補語が並置される(例:Я чайка. 「私はかもめ」)。かつて用いられていた人称変化形(есмь, еси...)は、現代語ではほぼ失われている。ただし、三人称単数形のесть は、以下の用法で現在でも用いられる。

  • 存在を表す場合(例:В комнатеесть стол.「部屋に机がある」)。
  • 所有を表す場合(У меняесть сын.「私には息子がいる」)。所有されるものが複数の場合もесть が用いられる(У меняесть дети.「私には子供たちがいる」)。суть(三人称複数形)は古風な文語表現である。
  • 定義同一性を強調する場合(文語的)(例:Москваесть столица России.「モスクワはロシアの首都である」)。

さらに、есть は存在だけを問題としているので、存在することが前提となっている場合は不要になる(例:У меня маленький сын. 「私には小さな息子がいる」→息子の有無についてではなく、それがどのような息子なのかが問題となっている)。

なお、否定の表現(…がない、…がいない)はнет を使い、存在を否定する名詞を生格に変える(例:У меня нет сына. 「私に息子はいない」)。このнет は、не есть の音便形であり、"Да(はい)"、"Нет(いいえ)" の "Нет" とは、別物である。

移動の動詞

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идти / ходить(歩いて行く)、ехать / ездить(乗り物で行く)、лететь / летать(飛ぶ)など、移動を表す一部の動詞は、不完了体動詞がさらに二種類に分かれるという特殊な体系を持つ。

  • 定向動詞(идти, ехать, лететь など): 一回限り、一方向への具体的な移動を表す(例:Я иду в школу.「私は学校へ(今)行っているところだ」)。
  • 不定向動詞(ходить, ездить, летать など): 反復、往復、または方向を定めない移動を表す(例:Я хожу в школу каждый день.「私は毎日学校へ通っている」)。

これらの移動の動詞に接頭辞(при-「到着」、у-「出発」、в-「入る」、вы-「出る」など)が付くと、定向動詞の語幹が完了体、不定向動詞の語幹が不完了体として機能する、規則的なアスペクトのペアが形成される(例:приходить [不完] /прийти [完]「到着する」)。

命令形

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命令形(相手への指示・依頼)は、通常、動詞の現在形(または完了体未来形)の語幹から作られる。

  • 二人称単数 (ты に対する): 語幹末が母音なら(例:читай!「読め!」)、子音なら(例:смотри!「見ろ!」)を付ける。一部の動詞は となる(例:готовь!「準備しろ!」)。
  • 二人称複数 (вы に対する): 単数形に-те を加える(例:читайте!,смотрите!,готовьте!)。

仮定法(接続法)

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ロシア語には固有の接続法(動詞の形態変化)はないが、動詞の過去形と不変化詞бы を組み合わせることで、仮定、願望、丁寧な依頼などを表す(例:Если бы я знал, ябы сказал.「もし知っていたら、言っただろう」,Ябы хотел...「私は...したいのですが」)。

動詞から派生した形として形動詞(形容詞の働きをし、性・数・格で変化する)や副動詞(副詞の働きをし、変化しない)がある。ся動詞と呼ばれる一群の動詞(語尾に再帰代名詞ся がつく)はフランス語などの再帰動詞と同様に用いられ、また相互の動作や受動表現にも用いられる。

形動詞(男性単数主格形)と副動詞
第一式変化(читать /прочитать 読む)第二式変化(смотреть /посмотреть 見る)語尾は -сястроиться /построиться 建設する)
不完了体完了体不完了体完了体不完了体完了体
能動形現在читающийсмотрящийстроящийся
能動形過去читавшийпрочитавшийсмотревшийпосмотревшийстроившийсяпостроившийся
受動形現在читаемыйсмотримый
受動形過去прочитанныйпосмотренный
прочитанпосмотрен
副動詞читаяпрочитавсмотряпосмотревстроясьпостроившись

形容詞

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形容詞は、修飾する名詞の性・数・格に応じて語尾が変化し、これらが一致する。形容詞には長語尾形новый,синий など)と短語尾形нов,синь など)がある。

  • 長語尾形は、名詞を直接修飾する限定用法(例:новый дом「新しい家」)と、コピュラ(быть)を介して叙述する叙述用法(例:Этот домновый.「この家は新しい」)の両方で用いられる。
  • 短語尾形は、叙述用法でのみ用いられる(例:Этот домнов.「この家は新しい」)。短語尾形は、長語尾形の叙述用法と比べて、一時的な状態、主観的な評価、または「(人にとって)大きすぎる」 (слишком велик) のような相対的な性質を強調する傾向がある。短語尾形は性・数によってのみ変化し、格変化はしない。

格変化

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形容詞の格変化の基本形は以下の通りである。なお、ロシア人の形容詞型のチャイコフスキートルストイなど)も同じ格変化になる。

硬音型(новый 新しい)
単数複数
男性女性中性
主格новыйноваяновоеновые
生格новогоновойновогоновых
与格новомуновойновомуновым
対格новый またはновогоновуюновоеновые またはновых
造格новымновойновымновыми
前置格новомновойновомновых
短語尾形новновановоновы
軟音型(синий 青い)
単数複数
男性女性中性
主格синийсиняясинеесиние
生格синегосинейсинегосиних
与格синемусинейсинемусиним
対格синий またはсинегосинююсинеесиние またはсиних
造格синимсинейсинимсиними
前置格синемсинейсинемсиних
短語尾形синьсинясинесини
  • 男性および複数の対格は、名詞が活動体であれば生格と同じになり、不活動体であれば主格と同じになる。

-ин (мамин「母の」) や-ов / -ев (отцов「父の」) といった接尾辞で形成される所有形容詞も存在し、名詞と形容詞の混合型ともいえる特殊な格変化(例:男性単数生格мамина)をとる。

比較級・最上級

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形容詞には比較の度合いを示す比較級最上級の形がある。

比較級
  • 単一式: 形容詞の語幹に接尾辞-ее(例:красивее「より美しい」)または(子音交替を伴うことが多い。例:громче「より大きい(音で)」)を付けて作られる。この形は変化しない。
  • 合成式: 不変化詞более(より)を形容詞の長語尾形の原級の前に置く(例:более красивый)。
最上級
  • 単一式: 形容詞の語幹に接尾辞-ейш- (-айш-) を付けて作られ、形容詞として格変化する(例:красивейший「最も美しい」)。
  • 合成式: 不変化詞самый(最も)を形容詞の長語尾形の原級の前に置き、самый 自体も性・数・格を一致させる(例:самый красивый)。

副詞

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副詞は動詞、形容詞、または他の副詞を修飾し、変化しない。

多くの副詞は、形容詞の語幹に接尾辞(硬音型)または-е / -и(軟音型)を付けて作られる(例:хороший「良い」→хорошо「良く」、искренний「誠実な」→искренне「誠実に」)。

形容詞と同様に比較級(-ее / -е)と最上級(более всего など)を持つ(例:быстро「速く」→быстрее「より速く」)。

前置詞

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前置詞は、名詞・代名詞の格と結びついて、場所、時間、方向、原因などの関係を示す。ロシア語の格は、前置詞との組み合わせによってその機能の多くを担っている。

前置詞は特定の格を要求する(格支配)。

  • 生格を要求:у(~のところに)、от(~から)、без(~なしで)、для(~のために)など。
  • 与格を要求:к(~の方へ)、по(~に沿って、~に従って)など。
  • 造格を要求:с(~と一緒に)、над(~の上方に)、под(~の下方に)など。
  • 前置格を要求:о / об(~について)、при(~の許で)など。
  • 対格と前置格の両方を要求:в(~の中へ[対格] / ~の中で[前置格])、на(~の上へ[対格] / ~の上で[前置格])。
  • 対格と造格の両方を要求:за(~の後ろへ[対格] / ~の後ろで[造格])、под(~の下へ[対格] / ~の下で[造格])など。

接続詞

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接続詞は、語、句、節を結びつける。

  • 等位接続詞:и(そして)、а(一方で、しかし)、но(しかし)、или(あるいは)など。а は軽い対比、но は強い逆接を表す。
  • 従位接続詞:что(~ということ)、когда(~の時)、потому что(なぜなら)、если(もし~ならば)、чтобы(~するために)など。чтобы は仮定法(接続法)のбы と関連し、動詞の過去形を伴う。

方言

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ロシア語の方言図(1915年)

北部方言

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  1.アルハンゲリスク白海)方言
  2.オロネツ方言
  3.ノヴゴロド(北西)方言
  4.ヴャトカ(北東)方言
  5.ウラジーミルヴォルガ方言

基本的特徴

  • オーカニエ:古ロシア語の が強勢の有無にかかわらず全て[o] と発音される現象。e.g.дома́[doˈma],молоко́[moloˈko],го́род[ˈɡorot].
  • ヨーカニエ:強勢前の音節において軟子音の後かつ硬子音の前の/е/[o] と発音される現象。e.g.весна́[vʲoˈsna],несу́[nʲoˈsu]. 標準語におけるёж — ежа́[ˈjoʂ — jɪˈʐa] のように、アクセント下の/e/[o] と発音されるのとはまた異なる現象である。
  • г を破裂音[g] で発音し、語末および無声音の前では[k] と交替する。
  • 母音間の[j] が脱落し、2つの母音は同化する。さらに縮約を起こすこともある。結果として、形容詞の長語尾形が短語尾形と形の上で区別できなくなることがある。e.g.де́лает[ˈdʲelajet] >[ˈdʲelaet] >[ˈdʲelaat] >[ˈdʲelat],но́вая[ˈnovaja] >[ˈnovaa] >[ˈnova].
  • 動詞の現在3人称の語尾が硬子音 -т[t] になる。
  • 名詞に後置される指示代名詞起源の助詞(-от, -та, -то, -те など)が存在する。ブルガリア語マケドニア語後置冠詞と同様に、名詞の性・数によって助詞の形が変化する。e.g.до́м-от,жена́-та,жену́-ту,дома́-те.
  • 代名詞の生格・対格:меня́, тебя́, себя́[meˈnʲa, teˈbʲa, seˈbʲa]. スラヴ祖語の生格*mene, *tebe, *sebe と対格*mę, *tę, *sę が混合した*menę, *tebę, *sebę が規則的な音変化によりmenʲa, tebʲa, sebʲa になったとされる。

中部方言

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  6.モスクワ(中東)方言
  7.トヴェリ(中西)方言

北部方言と南部方言の中間的な特徴を有する。各特徴の詳細については北部および南部方言を参照のこと。

  • 北部方言的な特徴:破裂音[g]、動詞の現在3人称形の語尾 -т[t]、代名詞の生格меня́, тебя́, себя́ など
  • 南部方言的な特徴:アーカニエ、イーカニエなど。
  • イェーカニエ:強勢前の音節において軟子音の後の/e/,/a/ が区別されず、[e] と発音される現象。e.g.весна́[vʲeˈsna],неси́[nʲeˈsʲi],пяти́[pʲeˈtʲi]. 北部方言の一部にも見られる。ヤーカニエの変種とする立場もある。

標準語の基盤となったモスクワ方言は本来オーカニエの方言だったとされるが、15世紀のモスクワ大公国時代には既にアーカニエの影響が文献に広く見られるようになっている。またイェーカニエは19世紀まで標準語の発音として優勢だったものの、19世紀末以降イーカニエに取って代わられていった。現在でもイェーカニエは標準語の規範的発音として認められているが、実際には完全にイーカニエが支配的である。

南部方言

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  8.オリョールドン)方言
  9.リャザン(南東)方言
  10.トゥーラ方言
  11.スモレンスク(南西)方言

基本的特徴

  • アーカニエ:強勢のない音節において/o/,/a/ が区別されず、[a][ə] と発音される現象。e.g.дома́[daˈma],молоко́[məlaˈko],го́род[ˈɣorət].
  • ヤーカニエ:強勢前の音節において軟子音の後の/e/,/a/ が区別されず、[ʲa] と発音される現象。e.g.весна́[vʲaˈsna],неси́[nʲaˈsʲi],пяти́[pʲaˈtʲi]. 方言によっては実現されない音環境もあり、その際は後述のイーカニエが起こる。
  • イーカニエ:強勢のない音節において軟子音の後の/e/,/a/ が区別されず、[i] と発音される現象。e.g.весна́[vʲiˈsna],неси́[nʲiˈsʲi],пяти́[pʲiˈtʲi].
  • г を摩擦音[ɣ] で発音し、語末および無声音の前では[x] と交替する。代名詞・形容詞の生格語尾 -ого, -его においても[ɣ] となる。
  • в を接近音[w] や母音[u] で発音する。e.g.правда[ˈprawdə],всего́[usʲaˈɣo].
  • 動詞の現在3人称において、軟子音 -ть[tʲ] が現れる。e.g.читаеть[t͡ʃʲiˈtajitʲ],читають[t͡ʃʲiˈtajutʲ]. これはウクライナ語やベラルーシ語と共通の東スラヴ語本来の特徴であるが、標準ロシア語ではбыть の現在形есть, суть を除いて全て硬子音 -т[t] になってしまっている。
  • 代名詞の生格・対格:мене́, тебе́, себе́[meˈne, teˈbe, seˈbe]. スラヴ祖語*mene, *tebe, *sebe をそのまま引き継いだ形である。
その他
  12.ベラルーシ語の影響を受けたロシア北部の方言
  13.ウクライナ語の訛り(スロボダの訛り、草原の方言)
  14. ロシア語の影響を受けたウクライナ語の草原(クバーニ)の方言

ロシア領時代からアラスカに残存するロシア語方言

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上記の通り、アラスカがロシアの領土であった時代にニニルチク英語版:Нинилчик村に定住して現地の民族と融合したロシア人は、1867年のアラスカ購入以降ロシアとの接触が減少し、さらには1917年の十月革命によるロシアの共産化、さらには第二次世界大戦後の米ソ冷戦によって接触機会が完全になくなったため、標準語のロシア語から完全に隔離された状態で約100年にわたって独自の発達を遂げてきた。シベリアの方言、英語エスキモー諸語アサバスカ諸語の単語が混ざり、中性名詞が消えていて、女性名詞もかなり少なくなっている。2013年現在、ニニルチク村では英語が使われていて、ロシア語を覚えている住人はわずか20人であり、全員が75歳以上となっている[29]

文例

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日本語ロシア語備考
こんにちはЗдравствуйте!ズドラーストヴイチェひとつめのвは黙字
やあ!Привет.プリヴィェート親しみを込めた「こんにちは」
やあ!Здравствуй.ズドラーストヴイ親しみを込めた「こんにちは」
はじめましてОчень приятно.オーチニ プリヤートナ名前を言った後に言う
おはようДоброе утро.ドーブライェ ウートラ
こんにちはДобрый день.ドーブルィイ ヂェーニ
こんばんはДобрый вечер.ドーブルィイ ヴィェーチェル
お休みなさいСпокойной ночи.スパコーイナイ ノーチ
さようならДосвидания!ダスヴィダーニヤ「また会いましょう、また会うときまで」
さようならПрощайте.プラシャーイチェ当分会えない場合
さようならДозавтра.ダザーフトラ「また明日」
ありがとうСпасибо!スパシーバ
すばらしいХорошо.ハラショー
はいДа.ダー
いいえНет.ニェート
すいません 、ごめんなさいИзвините.イズヴィニーチェ「許してください」の意。
どういたしましてНе за что.ニェー ザ シュトー「全くない」という意味。(英語:Not At All)
お名前は?Как вас зовут?カーク ヴァース ザヴート
私は…です。Меня зовут ….ミニャー ザヴート「…」の部分は名前
私はあなたを愛しています。Я тебя люблю.ヤー チビャー リュブリューтебяを取って最後に名詞の対格を持ってくると「~が好きです」という意味になる。
おかえりなさいС возвращением.ス ヴァズヴラシェーニイム
喜んでС удовольствием.スダヴォーリストヴイム英語:With pleasure
残念ながらК сожалению.
幸いなことにК счастью.
夕食はいつか?Когда ужин?
これをロシア語で何という?Как это по-русски?

日本語かなのキリル文字表記

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→詳細は「日本語のキリル文字表記」を参照

以下に日本語かなのキリル文字表記を示す[30]

日本語かなのキリル文字表記
あ列
а
い列
и
う列
у
え列
э
お列
о
ゃ列
я
ゅ列
ю
ょ列
ё
あ行

а

и

у

э

о
か行
к

ка

ки

ку

кэ

ко
きゃ
кя
きゅ
кю
きょ
кё
さ行
с

са

си

су

сэ

со
しゃ
ся
しゅ
сю
しょ
сё
た行
т

та

ти

цу

тэ

то
ちゃ
тя
ちゅ
тю
ちょ
тё
な行
н

на

ни

ну

нэ

но
にゃ
ня
にゅ
ню
にょ
нё
は行
х

ха

хи

фу

хэ

хо
ひゃ
хя
ひゅ
хю
ひょ
хё
ま行
м

ма

ми

му

мэ

мо
みゃ
мя
みゅ
мю
みょ
мё
や行
й

я
N/A
ю
N/A
ё
N/AN/AN/A
ら行
р

ра

ри

ру

рэ

ро
りゃ
ря
りゅ
рю
りょ
рё
わ行

ва
N/AN/AN/A
о
N/AN/AN/A
が行
г

га

ги

гу

гэ

го
ぎゃ
гя
ぎゅ
гю
ぎょ
гё
ざ行
дз

дза

дзи

дзу

дзэ

дзо
じゃ
дзя
じゅ
дзю
じょ
дзё
だ行
д

да

дзи

дзу

дэ

до
ぢゃ
дзя
ぢゅ
дзю
ぢょ
дзё
ば行
б

ба

би

бу

бэ

бо
びゃ
бя
びゅ
бю
びょ
бё
ぱ行
п

па

пи

пу

пэ

по
ぴゃ
пя
ぴゅ
пю
ぴょ
пё
撥音
н
N/AN/AN/AN/AN/AN/AN/A

母音の後に続く「い」はи ではなくй を用いる。例えば愛知あいちАити ではなくАйти である。

ロシア語由来の日本語外来語

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日本語ロシア語意味および備考
アジトагитпункт扇動本部
イクラикра魚卵
インテリ
(インテリゲンツィア、インテリゲンチャとも)
интеллигенция知識層
ウォッカводка蒸留酒
カチューシャКатюша女性名・エカテリーナの愛称。※ヘアバンドを意味するものは日本独自の呼称
カンパкампанияキャンペーン
グラスノスチгласность情報公開
コミンテルンКоминтерн国際共産党・第三インター。Коммунистическийинтернационал の略語。
コルホーズколхоз集団農場。коллективноехозяйство の略語。
コンビナートкомбинат企業集団
サモワールсамоварロシア式湯沸かし器
ステップстепь草原
セイウチсивучトド
ソビエト
(ソヴィエト、ソヴェトとも)
Совет会議
ソフホーズсовхозソビエトの農場。советскоехозяйство の略語
ソユーズсоюзソビエト連邦とロシアの宇宙船。本来は同盟、連合の意
タイガтайга密林
チェルノーゼム чернозём黒土:地理用語
ツァーリ(ツァーとも)царь皇帝・王
ツンドラтундра(本来はサーミ語からロシア語を経由したもの)
テトリスтетрисコンピュータゲーム
トーチカточка点、地点
トロイカтройка3つ組、3頭立ての馬車
トロツキストтроцкист(しばしば軽蔑の意味をこめて言われる)
ノーメンクラトゥーラноменклатура支配的階級に属する人々
ノルマнорма生産や製造の基準量
バラライカбалалайка
ピロシキпирожки
ヴ・ナロードв народ人民の中へ
ペチカпечка暖炉、ストーブ
ペレストロイカперестройка建て直し
ポドゾルподзолシベリア地方に見られる酸性土壌(地理用語)
ボリシェヴィキ
(ボルシェヴィキとも)
большевики多数派
メンシェヴィキ
(メニシェヴィキとも)
меньшевики少数派

ロシア語から日本語に入った単語は、18世紀以降の両国間の接触によってロシアの文物が日本に紹介されたものと、1917年ロシア革命とその後のソビエト体制の成立によって社会主義(共産主義)思想と共に日本に導入されたものの2種類が多い。前者は日常生活の中で使用されている例があるが(イクラなど)、後者はむしろソ連・ロシア社会の特定の組織や現象を指す固有名詞としてとらえられるものが多い(コルホーズ、ペレストロイカなど)。ただし、後者にもロシアから離れ、日本社会の事象を説明するときに使われる用語もある(コンビナート、ノルマなど)。
文字в[v] は、古くから入った外来語の場合「ワ・ウィ・ウ・ウェ・ウォ」と転写し、比較的新しいものは「ヴァ・ヴィ・ヴ・ヴェ・ヴォ」と転写する。ただし、女性の姓末尾の -ва は現在でも「ワ」と転写する慣用が残っている(例:マリア・シャラポワ)。

日本語由来のロシア語単語

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日本語からロシア語への単語移入は、日本文化の文物がロシアで紹介された時に単語が使われる場合が多く、技術用語や学術用語では例が少ない。

脚注

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[脚注の使い方]

注釈

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  1. ^公的なロシア語教育の起源は1871年に外務省が設置した「独魯清語学所」で、これは東京外国語学校に統合された。
  2. ^同年のポーツマス条約で日本が南樺太を領有。サハリンをロシアと南北分割する。1910年の韓国併合で日本領となった朝鮮北東端の日本海沿岸部分が、ロシアの沿海地方と豆満江河口部で接した。
  3. ^杉山は1916年を同大学露語学科の設置年としている。
  4. ^戦後の学制改革で大阪外国語大学となり、2007年に大阪大学へ統合。ロシア語教育の部署は同大学外国語学部ロシア語専攻としてその後も残存。
  5. ^現在の天理大学。2020年現在ではロシア語やロシア文学の単独学科はなく、同大学国際学部地域文化学科ヨーロッパ・アフリカ研究コースにロシア語担当の教員が在籍。
  6. ^一部はソ連とともに日本と戦ったモンゴル人民共和国領内の収容所へ送られた。
  7. ^千島列島南部の国後島択捉島、北海道東方の色丹島などでは日本政府が領有権の残存を主張している(北方領土問題)。
  8. ^「ゴールデンカムイ」は日露戦争後の北海道が主な舞台となる作品で、登場人物は作品中でサハリンに渡航し、戦後に日本領となった南樺太とロシア領にとどまった北樺太の双方を訪れる。詳細は当該項目参照。
  9. ^ノヴォシビルスク出身、現在は日本在住の女性声優。本名はイヴギェーニヤ・ダヴィデューク。
  10. ^但し同大学が本拠地を置く京都市はウクライナの首都キーウと姉妹提携を結んでおり、京都市においても、ロシア・ウクライナ危機を受け、ウクライナ国内の地名をロシア語ではなく、ウクライナ語での表記を行っている。
  11. ^「ヤカガーマ」古い時期の表記でハ行音にхでなくгを使用している

出典

[編集]
  1. ^岩間他(1979), pp. 260-261.
    袴田茂樹. “第5回 ロシア人と外国語――欧米文化に復帰するロシア人”. TMU CONSULTING. 2012年11月27日閲覧。[リンク切れ]
  2. ^田中克彦『「スターリン言語学」精読』、岩波書店、2000年、171頁
  3. ^abcd旧ソ連圏で相次ぐ“ロシア語離れ” 反露感情、ロシアの地位低下を反映か産経新聞 2018年9月30日
  4. ^ 桂川甫周『北槎聞略・大黒屋光太夫ロシア漂流記』亀井高孝校訂、岩波書店(岩波文庫)1993年(平成5年)、148~156頁、273~332頁
  5. ^ロシア語の黎明期渡辺雅司、ロシア語ロシア文学研究15号、1983-09
  6. ^abc概要”. 早稲田大学文学学術院文学部 ロシア語ロシア文学コース. 2020年12月13日閲覧。
  7. ^杉山、138p。
  8. ^西原史暁、「ロシア語、第二外国語となる―戦後の東京大学の場合」、2011年2月6日公開、2020年12月13日閲覧。この時点では理科一類(工学部系)と理科二類(理学部・農学部・薬学部系)の学生のみ。後に全6科類の学生に対象が拡大。
  9. ^東京物語 Токио Моногатари - ニコライ堂”. ロシア語通訳協会. 2020年12月13日閲覧。
  10. ^京都市も「キーウ」に ウクライナ首都の呼称、4月1日から”. 47NEWS. 2022年4月1日閲覧。
  11. ^キエフを「キーウ」へ変更 ウクライナの首都名称”. 中日新聞. 2022年4月1日閲覧。
  12. ^【追記あり】駅に掲出されていた「ロシア語の案内」が「調整中」に…… ウクライナ侵攻との関連は? JR東に聞いた - ねとらぼ
  13. ^「旧ソ連圏、強まる反露感情 ロシア語離れ加速」『産経新聞』朝刊2018年9月30日(国際面)2019年1月10日閲覧
  14. ^小森 (2007a) 228頁
  15. ^ab小森 (2009) 119頁
  16. ^ab坂井「二つの主要言語」『カザフスタンを知るための60章』、34-38頁
  17. ^淺村卓生「カザフスタンにおける自国語振興政策及び文字改革の理念的側面」『外務省調査月報』第1号、外務省、2011年、1-24頁。 
  18. ^坂井「カザフ語」『中央ユーラシアを知る事典』、117-118頁
  19. ^Статус русского языка в странах бывшего СССР. Справка.”. fito-center.ru. 2013年2月23日閲覧。
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  23. ^ティムール・ダダバエフ『社会主義後のウズベキスタン - 変わる国と揺れる人々の心』アジア経済研究所、2008年。ISBN 978-4-258-05110-6 
  24. ^ab旧ソ連圏、ロシア語回帰 タジキスタン ことばを訪ねて(4)”. 朝日新聞 (2011年10月17日). 2012年5月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年6月25日閲覧。
  25. ^キルギス共和国憲法 (2010年6月27日採択)”. 在キルギス日本国大使館. 2021年2月24日閲覧。
  26. ^アラスカに残る18世紀のロシア語”. ロシア・ビヨンド (2014年2月20日). 2022年12月1日閲覧。
  27. ^2つ以上ヨの音を持つ外国語の表記の場合はこの限りではない。例:сёгёмудзё「諸行無常」。
  28. ^чьはktiまたはgtiの変音で生じたもの。
  29. ^アラスカでロシア語の方言発見、ロシアNOW、2013年5月30日
  30. ^ソ連科学アカデミー東洋学研究所『和露大辞典』ニコライ・コンラド監修、1976年、ナウカ、裏表紙の表の表記に基づいた。
  31. ^ГабдуллинаЛексические заимствования из японского языка в русский: когнитивно-прагматические особенности и процесс ассимиляции // Вест. Челябинского гос. университета. — 2012. — № 2 (256), Филология. Искусствоведение. — Вып. 62. — С. 12—16.

参考文献

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  • 杉山秀子、『日本におけるロシア語教育(戦前)』、駒澤大学外国語部論集(55)、137-152、2001-09

関連項目

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外部リンク

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