この項目では、モクレン科の植物の1種について説明しています。中国の伝説の女戦士については「木蘭 」をご覧ください。
モクレン (木蓮[ 注 2] 、木蘭、学名 :Magnolia liliiflora )は、モクレン科 モクレン属 に属する落葉低木の1種である。花の形は蓮華に似ており、香りは蘭に似ていることから木蓮という[ 15] 。春に葉が展開するのと同時期に紫紅色の花が上向きに咲く(図1)。花が紫色であることからシモクレン (紫木蓮)ともよばれ、こちらを標準名としていることも多い[ 16] [ 17] 。白い花は「白木蓮」「白木蘭」と呼ばれている[ 15] 。中国 南部原産であり、日本を含む世界各地で観賞用に植栽されている。またモクレン類のつぼみを風乾したものは生薬 として辛夷 ( しんい ) とよばれるが、漢名の辛夷はモクレン(シモクレン)とされることが多い(日本ではコブシ に辛夷の字を充てる)[ 18] 。
また「モクレン」という語は、モクレン属 (Magnolia )の植物の総称として使われることもある[ 6] [ 19] 。以下では種 としてのモクレン(シモクレン)について解説する。
落葉広葉樹 の低木 から小高木 [ 20] 。株立ち することが多く[ 20] [ 8] 、幹はしばしば基部で分枝し、高さ2 - 4メートル (m) になる[ 7] [ 17] [ 21] [ 22] (下図2a)。樹皮 は灰白色で、平滑で皮目がある(下図2b)[ 8] [ 7] [ 22] 。若木の樹皮は褐色を帯びる[ 8] 。一年枝はやや細く紫褐色[ 8] 、小枝は紫緑色から紫褐色で短枝化しやすく、托葉 痕が枝を一周する[ 8] [ 22] 。
葉 は互生 し、葉身 は広倒卵形から卵状楕円形で、長さ8 - 20センチメートル (cm)、幅 3 - 11 cmになり、葉縁は全縁 でやや波状、基部はくさび形、先端は急に突出する[ 17] [ 7] [ 21] (上図2c, 下図3b)。葉脈 は羽状、側脈は8 - 10対[ 21] [ 22] 。葉はやや厚く、表面は緑色、裏面は灰緑色で葉脈 上に毛がある[ 17] [ 7] [ 21] [ 22] 。葉柄 は長さ 0.8 - 2 cm[ 17] [ 7] [ 21] [ 22] 。
冬芽は互生し、葉芽 は小さく、短毛に覆われる[ 8] [ 7] (下図3a)。葉痕は浅いV字形や三日月形であり、維管束痕は7 - 8個、托葉痕は枝を1周する[ 8] [ 7] 。花芽 は大きく、長さ2 cmほどの先がとがった長卵形で枝先につき、白く長い軟毛で覆われる[ 8] [ 7] (下図3a)。冬芽の芽鱗は托葉2枚と葉柄基部が合着して、帽子状に被っている[ 8] 。若葉は、開花と同時期に開き始める[ 20] 。
花期は3 - 4月であり、葉より前に開花し始め、葉の展開に伴って咲き続ける[ 17] [ 7] (上図2a, 3b)。花は両性花 、長さ約 10cm 、上向きに直立して開花するが、ふつう全開しない[ 20] [ 17] [ 7] [ 22] (上図3b)。モクレンの花は大形で、開きはじめのころは日当たりの良い方が早く生長するため、先端部が北の方角に向くのが目立つ[ 23] 。花被片 はふつう3個ずつ3輪、外側の3枚は萼片状で長さ 2 - 3.5 cm、黄緑色から紫緑色で反曲し、早落性(上図3b)、内側の6枚は花弁状で倒卵状長楕円形、8 - 10 × 3 - 4.5 cm、紅紫色だが内面が白っぽいことがある(上図3b)[ 17] [ 7] [ 22] 。雄しべ は多数がらせん状につき、長さ8 - 10ミリメートル (mm)、紅紫色、花糸は短く、葯 は側向葯で長さ約 7 mm、葯隔は突出する[ 17] [ 22] (上図3c)。雌しべ は多数がらせん状につき、離生心皮 、淡紫色、無毛[ 22] (上図3c)。花にはやや芳香があり[ 22] 、花の匂いの主成分はペンタデカン である[ 24] 。
果期は8 - 9月、個々の雌しべ は袋果 となり、花軸が伸長して長さ 7 - 10 cm ほどの集合果 になる[ 7] [ 17] [ 22] (下図4a)。袋果が裂開すると、赤い肉質種皮で覆われた種子 が珠柄に由来する白い糸で垂れ下がる[ 17] (下図4b)。染色体 数は 2n = 76[ 17] [ 22] (4倍体)[ 5] 。
中国 南部(福建省 、湖北省 、湖南省 、雲南省 、陝西省 、四川省 )が原産地であるが、日本やヨーロッパ 、北米 など世界各地で観賞用に植栽されている[ 4] [ 12] [ 22] 。日本へは元々薬用として中国から持ち込まれたが、庭木として定着している[ 20] 。
英語圏に紹介された際に Japanese magnolia と呼ばれたため、日本 が原産国と誤解されたことがある[要出典 ] 。
原産地では、標高300から1,600メートル の林縁に生育する[ 12] [ 22] 。中国では野生のものは絶滅危惧種に指定されている[要出典 ] 。
古代中国では、モクレン(シモクレン)はハクモクレン とともに、花の気高い印象から宮廷の庭園や寺院に植えられていた[ 20] [ 25] [ 26] 。日本には古くに導入され、また欧米には18世紀後半に紹介された[ 26] 。
現在では、モクレン(シモクレン)は庭木 や公園樹として世界各地で植栽されている[ 12] [ 7] [ 22] (図5a, b)。栽培には日当りがよい場所で、水はけのよい肥沃な土壌を好む[ 27] [ 28] 。剪定 は花後、新葉が出る前に行う[ 27] 。施肥 は冬と花後に行い、若木には9月頃にも行う[ 27] [ 28] 。カミキリムシ による害が知られている[ 28] 。実生 や挿し木 、接木 により増やすが、挿し木や接木は難しい[ 28] 。植え付けは落葉期の1月から3月上旬[ 28] 。
モクレン(シモクレン)には、いくつかの栽培品種 が知られている。トウモクレン (ヒメモクレン、Magnolia liliiflora ‘Gracilis‘[ 注 3] )は全体に小型であり、葉が細く、花被片の内側は白っぽく先端がやや尖る[ 7] [ 30] 。またカラスモクレン [ 31] (Magnolia liliiflora ‘Nigra‘[ 32] )は花色が濃い(下図6a)。
モクレン(シモクレン)とモクレン属 の他の種との間の交雑種がいくつか作出され、園芸に用いられている。特にハクモクレン との交雑種であるソコベニハクモクレン(サラサモクレン とよばれることが多い)は、欧米で最も人気があるモクレン属の花木である[ 25] 。
木蓮(マグノリア)も持つ香りは古くから愛され、多くの香水に利用されている。一例として、1221年 、イタリアフィレンツェ で開業された世界最古の薬局サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局 でも、マグノリアの香水を製作している[ 40] 。
7 . 辛夷モクレン(シモクレン)などのつぼみを風乾したものは「辛夷 ( しんい ) 」とよばれ、蓄膿症 や鼻詰まり などの鼻炎や、頭痛、熱、咳などに対する生薬とされることがある[ 41] [ 13] [ 42] [ 18] (図7)。主な成分としては、モノテルペン のα-ピネン (α-pinene)やシネオール (cineole)、フェニルプロパノイドのオイゲノール (eugenol)がある[ 13] 。日本ではコブシ に「辛夷」の字を充てるが、中国の「辛夷」は特にモクレン(シモクレン)を意味する[ 18] 。ただし日本薬局方 が定める生薬である辛夷の基原植物としてはタムシバ 、コブシ 、ハクモクレン 、M. biondii 、M. sprengeri が指定されており、モクレン(シモクレン)は含まれていない[ 13] [ 43] 。
「木蓮」や「木蘭」、「もくれんげ」、「紫木蓮」は仲春 の季語である[ 44] 。
モクレン(シモクレン)の花言葉 は、「自然への愛」や「恩恵」とする文献がある[ 45] [ 46] 。
モクレンの学名としては、一般的にMagnolia liliiflora Desr., 1792 が用いられる[ 4] [ 12] [ 16] 。しかし、Buc'hoz (1779) が記載したLassonia quinquepeta Buc'hoz , 1779 もシモクレンであると考えられており、この名に基づくMagnolia quinquepeta (Buc'hoz )Dandy, 1934 を用いるべきとする意見もある[ 34] [ 47] 。
モクレン属 を複数の属に細分する場合は、シモクレンはYulania に分類されることがある(Yulania liliiflora (Desr. )D.L.Fu )[ 22] 。しかし2022年現在、シモクレンはふつうモクレン属に含められ、モクレン属のハクモクレン節[ 2] (sectionYulania )に分類される[ 3] 。
^ 万葉集 で詠まれている初夏に赤い花をつける植物であるが、具体的にどの植物なのかは不明である。シモクレンとする説のほか、ニワウメ (バラ科 )とする説がある[ 11] 。^ 「きはちす」、「きばちす」と読んだ場合はフヨウ やムクゲ (アオイ科 )を意味する[ 14] 。 ^ シモクレンの変種(Magnolia liliiflora var.gracilis )として分類学的に分けることもある[ 29] 。 ^ Global Tree Specialist Group (2014年). “Magnolia liliiflora ”. The IUCN Red List of Threatened Species 2014 . IUCN. 2024年3月8日閲覧。 ^a b 東浩司 (2003). “モクレン科の分類・系統進化と生物地理: 隔離分布の起源”. 分類 3 (2): 123-140. doi :10.18942/bunrui.KJ00004649577 . ^a b Wang, Y. B., Liu, B. B., Nie, Z. L., Chen, H. F., Chen, F. J., Figlar, R. B. & Wen, J. (2020). “Major clades and a revised classification of Magnolia and Magnoliaceae based on whole plastid genome sequences via genome skimming”. Journal of Systematics and Evolution 58 (5): 673-695. doi :10.1111/jse.12588 . ^a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y “Magnolia liliiflora ”. Plants of the World Online . Kew Botanical Garden. 2022年2月13日閲覧。 ^a b 「シモクレン 」。https://kotobank.jp/word/%E3%82%B7%E3%83%A2%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%B3 。コトバンク より2022年2月16日閲覧 。 ^a b 「モクレン 」。https://kotobank.jp/word/%E3%83%A2%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%B3 。コトバンク より2022年2月16日閲覧 。 ^a b c d e f g h i j k l m n o 勝山輝男 (2000). “モクレン”. 樹に咲く花 離弁花1 . 山と渓谷社. p. 377. ISBN 4-635-07003-4 ^a b c d e f g h i j 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014 , p. 240. ^ 「木蘭花 」。https://kotobank.jp/word/%E6%9C%A8%E8%98%AD%E8%8A%B1 。コトバンク より2022年2月16日閲覧 。 ^ 「木蓮・木蘭 」。https://kotobank.jp/word/%E6%9C%A8%E8%93%AE%E3%83%BB%E6%9C%A8%E8%98%AD 。コトバンク より2022年2月26日閲覧 。 ^ 「唐棣花・棠棣・朱華 」。https://kotobank.jp/word/%E5%94%90%E6%A3%A3%E8%8A%B1%E3%83%BB%E6%A3%A0%E6%A3%A3%E3%83%BB%E6%9C%B1%E8%8F%AF 。コトバンク より2022年2月16日閲覧 。 ^a b c d e f g GBIF Secretariat (2022年). “Magnolia liliiflora Desr. ”. GBIF Backbone Taxonomy . 2022年2月17日閲覧。 ^a b c d e “シモクレン ”. 熊本大学薬学部 薬草園 植物データベース . 2022年2月16日閲覧。 ^ 「木蓮 」。https://kotobank.jp/word/%E6%9C%A8%E8%93%AE 。コトバンク より2022年2月26日閲覧 。 ^a b 瀧井康勝『366日 誕生花の本』日本ヴォーグ社、1990年11月30日、189頁。 ^a b 米倉浩司・梶田忠 (2007– エラー: 日付が正しく記入されていません。(説明 ) ). “シモクレン ”. 「植物和名ー学名インデックスYList」(YList) . 2022年2月18日閲覧。 ^a b c d e f g h i j k l 大橋広好 (2015). “モクレン科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1 . 平凡社. pp. 71–74. ISBN 978-4582535310 ^a b c 「辛夷 」。https://kotobank.jp/word/%E8%BE%9B%E5%A4%B7 。コトバンク より2022年2月26日閲覧 。 ^ 「モクレン(木蓮∥木蘭) 」。https://kotobank.jp/word/%E3%83%A2%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%B3%28%E6%9C%A8%E8%93%AE%E2%88%A5%E6%9C%A8%E8%98%AD%29 。コトバンク より2022年2月26日閲覧 。 ^a b c d e f 平野隆久監修 1997 , p. 16. ^a b c d e 馬場多久男 (1999). “モクレン”. 葉でわかる樹木 625種の検索 . 信濃毎日新聞社. p. 167. ISBN 978-4784098507 ^a b c d e f g h i j k l m n o p q Flora of China Editorial Committee. “Yulania liliiflora ”. Flora of China . Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2022年2月18日閲覧。 ^ 菱山忠三郎 1997 , pp. 76–77.^ 東浩司 (2004). “モクレン科の花の匂いと系統進化”. 分類 4 (1): 49-61. doi :10.18942/bunrui.KJ00004649594 . ^a b 植田邦彦 (1997). “シモクレン”. 週刊朝日百科 植物の世界 9 . 朝日新聞社 . pp. 114-116. ISBN 9784023800106 ^a b 植田邦彦, 緒方健 (1989). “モクレン属”. In 堀田満ほか. 世界有用植物事典 . 平凡社. pp. 650–652. ISBN 9784582115055 ^a b c “シモクレン(紫木蓮)のまとめ! ”. 植物の育て方や豆知識をお伝えするサイト . 2022年2月18日閲覧。 ^a b c d e “モクレンの育て方 ”. ガーデニングの図鑑 . 2022年2月18日閲覧。 ^ 米倉浩司・梶田忠 (2007– エラー: 日付が正しく記入されていません。(説明 ) ). “トウモクレン ”. 「植物和名ー学名インデックスYList」(YList) . 2022年2月19日閲覧。 ^ 「トウモクレン 」。https://kotobank.jp/word/%E3%83%88%E3%82%A6%E3%83%A2%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%B3 。コトバンク より2022年2月27日閲覧 。 ^ 「カラスモクレン 」。https://kotobank.jp/word/%E3%82%AB%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%A2%E3%82%AF%E3%83%AC%E3%83%B3 。コトバンク より2022年2月27日閲覧 。 ^ “モクレン ”. 三河の植物観察 . 2022年2月19日閲覧。 ^ Smith, H. C.. “Magnolia acuminata L. ”. U.S. FOREST SERVICE. 2022年2月26日閲覧。 ^a b 大場秀章 (1980). “モクレンとハクモクレン並びにサラサレンゲの学名について”. 植物研究雑 55 (6): 188–192. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2007– エラー: 日付が正しく記入されていません。(説明 ) ). “ソコベニハクモクレン ”. 「植物和名ー学名インデックスYList」(YList) . 2022年2月15日閲覧。 ^ “Magnolia ‘Ann’, ‘Betty’, ‘Jane’, ‘Judy’, ‘Pinkie’, ‘Randy’, ‘Ricki’, and ‘Susan’ ”. U.S. National Arboretum Plant Introduction. 2022年2月23日閲覧。 ^ “Magnolia ‘Star Wars’ (M. liliiflora x M. campbellii) ”. BLACK DIAMOND IMAGES. 2022年2月27日閲覧。 ^ “Magnolia (liliiflora 'Nigra' x sprengeri 'Diva') 'Galaxy' ”. UNL Gardens. 2022年2月27日閲覧。 ^ “Magnolia liliiflora x veitchii 'Sayonora' (Sayonora Magnolia) ”. WORLD Plants . 2022年2月27日閲覧。 ^ “サンタ・マリア・ノヴェッラが、初のオードパルファムコレクションを発表。かのメディチ家にゆかりのある4種の植物を香りに投影 ”. VOGUE JAPAN (2024年3月25日). 2025年7月4日閲覧。 ^ 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014 , p. 68.^ “春を告げる香り高い「ハクモクレン」 ”. 生薬ものしり事典 . 養命酒製造株式会社. 2022年2月6日閲覧。 ^ “シンイ ”. 第十七改正日本薬局方(JP17) 名称データベース . 国立医薬品食品衛生研究所. 2022年3月14日閲覧。 ^ “木蓮(もくれん) ”. きごさい歳時記 . 2022年2月28日閲覧。 ^ “モクレンの花言葉 ”. はなたま (2021年4月6日). 2022年2月19日閲覧。 ^ “モクレン(木蓮)の花言葉 ”. LOVEGREEN . 2022年2月19日閲覧。 ^ Ueda, K. (1985). “A nomenclatural revision of the JapaneseMagnolia species (Magnoliac.), together with two long-cultivated Chinese species: III.M. heptapeta andM. quinquepeta ”. Acta Phytotaxonomica et Geobotanica 36 (4-6): 149-161. doi :10.18942/bunruichiri.KJ00001078551 . Magnolia liliiflora Yulania liliiflora