サーミ人のミトン | |
| 種類 | 手の保護 |
|---|---|
ミトン(英語:mitten)は、手袋の一種、手を包むもので、親指以外の4本の指を入れる筒が分かれていないもの。一般的に、ミトンでも、親指は他の4本の指とは別になっている。ミトンの色やデザインは多様である。ミトンは、通常の手袋に比べ、表面積体積比が小さく、冷気に晒されても断熱性に優れているが[1]、手先の器用さは損なわれるトレードオフの関係となる。
ミトンは寒冷な気候、子どもの服装、快適さ、その他の多様な職業上の利用などと結び付く。英語圏においては、「3匹のこねこ (Three Little Kittens)」などに見られるように、ミトンは文化的に家猫と結び付けられている。
ミトンは、スキー場で一般的に見受けられるが、これは、より暖かいことに加え、怪我予防のための保護という意味もある[2]。ミトンはまた、防寒着の一部として推奨されることもある。
台所で使う耐熱手袋(オーブン・ミット (oven mitts))は、熱を持った熱い物体から手を守るものであり[3]:197、鍋つかみの中にもミトン状のものがある[4]。
人類は何千年もの間、ミトンを利用してきたと考えられるが、衣類の製造に使用されるウールやその他の素材は、早々に生分解されるので、現存する遺物は量的に限られている。古代エジプトの異物にはミトンが描かれた例がいくつか残っており[5]、エジプトのピラミッドから発掘された手袋の中には、ミトン状のものもあったと説明されており、エジプト学者ロバート・ヘイ(英語版)のコレクションには「リネン製の袖とミトンが一体になったもの (linen sleeve and mitten in one piece)」が含まれていたと考えられている[6]:18。
はっきりミトンであると確認できる遺物の最も古い部類のものは、西暦1000年ころに遡る、ラトビアで見つかったものがあり[7]、ミトンは現在もラトビアの国家的民族衣装の一部となっている[8][9]。また、別の例では、中世前期の交易都市であったオランダのドレスタッド(英語版)の発掘から発見された標本があり、港湾地区から発見されたウールのミトンは、8世紀ないし9世紀はじめに遡るものである[10]。メアリー・ローズ号で見つかった 2件の左手用の革製ミトンは、鷹狩用と考えられるが、現代の鷹狩ではグローブ型の手袋、ないしは、籠手が用いられる[11]。エリザベス朝のものでは、クリムゾン(深紅)の絹(シルク)のベルベット、サテン、スパンコールで作られ、12色の糸を使った刺繡が施された「ガントレットミトン (gauntlet mitten)」(籠手とミトンが一体化したもの)が残っている[12]。
16世紀にイングランドで編み物が盛んになると、ミトンは家庭内でウールから作られるようになった。最初期の子供用ミトンとして知られるもののひとつは、この時代のものである[13]。これは丸編み(英語版)の形態をとっており、現代の編み手であれば輪針 (circular needle) を使用することがよくある編み方である。
北極圏周辺の多くの人々はミトンを使用しており、さらにバルト人、アメリカ先住民[14]、ヴァイキングたちも同様であった[15]。
ミトンは、ウール、革、毛皮などを含む、多様な素材で作られる。18世紀後半からは、編み図(英語版)の出版が始まり、編み上げるミトンの表面に詩を書くことなどを可能にした[16]。
ミトンの特殊な類型としては、以下に示すものなどがある。

ハンターズ・ミトン (Hunter's mittens) –1930年代に、ミトンの掌の部分にフラップ(開閉部)が付いていて、猟師銃を撃つために指を自由に動かせるようになっている、特製のウールのミトンが導入された[17]。
スクラッチミット (Scratch mitts) - 親指を独立した筒に入れない形のミトンで、運動制御(英語版)がきちんと機能していない赤ん坊が、自分の顔を引っ掻くようなことが起こらないようにするもの[18]。しかし、スクラッチミットは、新生児が自然な振る舞いとして自分の手を吸ってみたり、触覚上の経験をすることを妨げてしまうとして、今日ではもはや推奨されることはない[19][20]。
紐付きミトン (Corded mittens) - ひと組のミトンを長い糸、紐、レースなどで繋ぎ、コートの両袖を通して使う。このような使い方は、典型的には小さな子どもたちがミトンの紐を切って片方を無くしてしまうのを防ぐためにおこなわれ、ミトンを外しても袖口から出た紐にぶら下がることになる[21][22]。
医療用 / 介護用ミトン医療や介護の場面でミトンと呼ばれるのは、特に、認知症となった高齢者などが、自分の体を掻きむしったり、点滴を外そうとしたりすることなどを防ぐ目的で、上記のスクラッチ・ミットと同様に、親指も含めて5本の指をまとめた袋の中に入れ、指の動きを抑制する、拘束具に準じる介護用具である[23]。手を開いたり、握ったりする動作は可能なものもあるが、板を挿入してそれもできないようにするものもある[23]。
アメリカ合衆国アリゾナ州のモニュメント・バレーには、ウェスト・アンド・イースト・ミトン・ビュート (West and East Mitten Buttes) というビュート(孤立丘)の岩層があって、「ザ・ミトンズ (The Mittens)」と広く称されているが、これは南方から眺めた時に、ビュート群が、親指を内側にした一対の巨大なミトンのように見えることによっている。ミシガン州のロウアー半島は、地図上の形から「ザ・ミトン (The Mitten)」と渾名され、「親指」を意味するザ・サム (The Thumb) という地区もある。
広く知られたウクライナの民話『てぶくろ』(ウクライナ語:Рукавичка、英語:The Mitten)は、様々な言語に翻訳されている。
カーリー・レイ・ジェプセンのクリスマスソング「Mittens」は、カナダのアダルト・コンテンポラリー・チャートで2010年に26位まで上昇した。
2021年1月20日のジョー・バイデン大統領就任式の際にフランス通信社 (AFP) のフォトグラファーであったブレンダン・スミアロフスキ(英語版)が撮影した、バーモント州選出の上院議員で民主党予備選挙の候補者でもあったバーニー・サンダースの写真は、マスク姿のサンダースが、折りたたみ椅子にすわり、冬場の装いに、目立って大きい、もこもこしたミトンを付けている姿を捉えたが、このミトンはバーモント州の小学校教師ジェン・エリス (Jen Ellis) が作ったものであった。この写真は、インターネット・ミームとなった(バーニー・サンダースのミトン・ミーム (Bernie Sanders mittens meme))[24]。
マザー・グースによるナーサリーライムの「3びきの子ねこ (Three Little Kittens)」では、タイトルとなっているかわいいキャラクターである子ねこたちを通して、子どもがミトンを無くしてしまう話が語られる。
The three little kittens, they lost their mittens,
And they began to cry,
"Oh, mother dear, we sadly fear,
That we have lost our mittens."
"What! Lost your mittens, you naughty kittens!
Then you shall have no pie."[25]大意:
3びきの子ねこ、自分たちのミトンを無くした
3びきとも泣き始めた
「ああ、おかあさん、悲しくて怖いよ
ミトンを無くしちゃったんだ」
「何! ミトンを無くしたって、悪い子ねこたち!
パイはあげませんよ」
英語圏においては、「ミトンズ (Mittens)」 は、よくある猫の名前(英語版)のひとつとなっているが[26]、これはナーサリーライムがあるためでもあるが、ネコのなかには足元の色が異なるブチネコもいて、「ミトンを履いている (wearing mittens)」ような印象を与えるためでもある[27]。1907年に出版されたビアトリクス・ポターの児童文学作品『こねこのトムのおはなし (The Tale of Tom Kitten)』では、主人公トムに、ミトンズ (Mittens) という姉がいる。
ロジャース&ハマースタインが1959年にミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』のために書いた曲「私のお気に入り (My Favorite Things)」の歌詞には、「Raindrops on roses and whiskers on kittens/Bright copper kettles and warm woolen mittens(薔薇の花の雨粒と子猫のヒゲ、ピカピカの銅の薬缶に暖かいウールのミトン)」とある。
ニュージーランドのウェリントンの家猫、ミトンズ (Mittens) は、街の中心業務地区を歩き回り、地元の人々や観光客から好意的に見られている。
2008年に公開されたウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオのアニメーション映画『ボルト (Bolt)』には、主人公の白いシェパード犬(声はジョン・トラボルタ)が家に帰るのを助けるミトンズ(声はスージー・エスマン)という名の野猫が登場する。