ミジンコ目 (ミジンコもく)は、節足動物門 甲殻亜門 鰓脚綱 に属する分類群の名称。枝角亜目 (しかくあもく )とも言う。
ミジンコ目はミジンコ類を含む動物群である。水中の主としてプランクトン として生活する、ごく小型の甲殻類である。体は丸っこく、第二触角が大きく発達し、これを掻いて游泳する。プランクトンの典型として、教科書や図鑑 では必ず紹介され、知名度は高い。
ミジンコの体長は普通0.5-3mmのものが多く、中型以上のものは簡単に見ることができる。オオミジンコ Daphnia magna Straus, 1820 は5mm、捕食性ミジンコのノロLeptodora kindtii (Focke, 1844) は10mmにも達する。
ミジンコの構造 大部分のものはごく小型で、体長は数mmまでの動物で、左右に扁平で、丸みを帯びた二枚貝様の背甲 に覆われる。単脚下目(ノロミジンコなど)では、体は細長く、18 mmに達するものがある。
単脚目以外では、二枚貝様の背甲の中に胴部(胸部と腹部)が覆われる。頭部のみは殻の上に突き出す。胴部は分節が不明瞭で、胸肢がある部分を胸部、それより下を腹部と呼ぶ[ 3] 。頭部が小さく胴が丸い形は、だるま の様である。
頭部にはノープリウス眼 由来の単眼 と大きな複眼 を有する。複眼は左右のものが融合して頭頂部で単一のドーム状のものとなり、正中線上に頭部前方の単眼と頭頂部の複眼が並ぶ。頭部はしばしば背甲から前方に伸びたヘルメット状の甲で覆われ、この甲の先端部は尖って吻 となる。口は頭部と胸部との境目の腹側に開く。その近傍に単純な形の第一触角がある。第一触角はごく短くて目立たないのが普通だが、雄では雌を把持する器官となり、長く曲がっているものがある。頭部にある第二触角は強大でよく発達している。左右に張って伸び、途中で二またに分かれ、それぞれに長い毛が並んでおり、これを使って泳ぐことができる。
胸部以降の体は胸部に発する背甲の中に収まり、その形は簡単になっている。体節は不明瞭で、五対ほどの胸脚は鰓状で、呼吸に使われるとともに、水流を起こして水中の微粒子を口に運ぶ役割を担っている。腹部の末端は前方に曲がり、その先端に尾爪という爪のようなものがある。少し上の背面には、一対の長い毛が生えている。
胸部と腹部を覆う背甲は二枚貝の貝殻のように腹面で分かれ、腹部の背面とのすき間が育房となり、ここで卵は孵化するまで保護される。育房のすぐ頭部側の胸部背面で背甲は虫体と接続し、ここに心臓が見える。心臓はあるが血管がなく(解放血管系 )、血液が全身を直接めぐっている。
ミジンコ類は、単為生殖 を行うものが多く知られている。それらのものでは、卵は減数分裂を経ずに形成され、すべてが雌となる。卵から孵化したものは、すでに成虫とほぼ同じ形で、いわゆる直接発生 をする。このようにして好適な条件下では非常に素早く増殖し、大発生をするものもある。
環境条件が悪化したり、密度が上がりすぎたりすると、減数分裂 によって卵が作られ、同時に単為発生のものから雄が生まれる。雄は雌と交接し、受精が行われると、この卵は殻の内側の部分の肥厚したものに包まれて耐久卵となる。この、鞘に収まった卵は乾燥にも耐え、条件が良くなってはじめて孵化するに至る。
なお、ノロでは孵化した幼生 はノープリウス である。
ほとんどが淡水産である。大きな湖水から小さな水たまりまで、あるいは高層湿原から富栄養な水たまりまで、様々な環境で発見される。環境によって生息する種も異なる。游泳力は強くないので、流水に生息するものはあまりない。海産種はきわめて少なく、ウスカワミジンコ属 、ウミオオメミジンコ科の計8種だけである。
ミジンコ類は大部分がプランクトン であるが、一部は底や水草の表面に付着する時間が長いものがある。また、水底や泥の間を這うように泳ぐ種もある。そのような種はプランクトンネット では採集されない。いずれにせよ、はい回る足は持っていないので、移動は第二触角による遊泳が中心である。泳ぎはバタフライ である。
餌は水中の微粒子(デトリタス )を鰓で作った水流によって集めて食べるものがほとんどである。飼育下ではドライイースト などを用いる。なお、オオメミジンコ とノロ はより小さい動物を捕獲して喰う。胸脚は鰓状ではなくしっかりとした脚の形になっている。
金魚 や熱帯魚 の餌としてよく使われ、金魚の稚魚の餌には欠かせない。金魚養殖業者は、そのためにミジンコの養殖 を行う場合がある。金魚繁殖の手引き書には往々にしてミジンコの養殖法が解説されるほどである。乾燥させたものも餌として用いられる。
また、手頃な大きさで観察が容易なため、理科の教材、顕微鏡 観察の材料としても手頃である。体が小さくて透明であるので、心臓 や血球 、筋肉 などが生きたままで観察できる。メチニコフ は、食細胞 の発見に際して、ミジンコの血球も観察している。彼は、ミジンコの体内に寄生する酵母 であるメチニコービア の胞子が、ミジンコの体内で時にある種の細胞に取り込まれて殺されるのを観察した。
ミジンコ 類の中には比較的大型の種が存在し、その代表例としてオオミジンコ (Daphnia magna )が知られている。これらの大型種は体長が数ミリメートルに達し、通常のミジンコよりも大きく、形態や生態の面で特徴的である。
オオミジンコ (Daphnia magna )オオミジンコDaphnia magna 分類:ミジンコ科 (Daphniidae ) 体長:約3〜5 mm(最大で6 mmに達することもある) 分布:ユーラシア大陸を中心に、世界中の淡水 域に広く分布する。 オオミジンコ はミジンコ類の中でも最大級の種であり、やや透明な体、丸みを帯びた背面、大きな複眼 を持つことを特徴とする。水質の指標生物 として利用されるほか、急性毒性試験 (「オオミジンコ急性毒性試験」など)や環境科学の研究、教育教材などでも広く用いられている。ミジンコ (Daphnia pulex )ミジンコ(Daphnia pulex ) 体長は約2〜3 mmで、世界的に分布する一般的な種である。オオミジンコよりやや小型だが、外見や生態が類似している。止水域 に多く生息し、ろ過摂食 によって水中の微細藻類 などを捕食する。 ハリナガミジンコ (Daphnia longispina )ハリナガミジンコ(Daphnia longispina ) 体長は約1.5〜2.5 mmで、オオミジンコより小型ながら体形が似ており、比較対象として扱われることが多い。ユーラシア各地の湖沼 や岩礁水たまりなどに生息し、寒冷地にも分布する。 ミジンコ属(Daphnia )以外にも、比較的大型の枝角類 が存在する。
現生種は11科600種が知られる。大きくは4つの群(下目)に分ける。もっとも種類が多いのは異脚下目である。
櫛脚下目 のものは、背甲は胴体全部を覆い、異脚下目のものに似るが、胸脚は6対ですべて同型。第2触角は先端に3本、側面には游泳剛毛が多いものが多い。
シダ科Sididae オナガミジンコ属Diaphanosoma オオアタマミジンコDiaphanosoma dubia Latona ミツオミジンコ属Latonopsis コクボミツオミジンコLatonopsis kokuboi ウスカワミジンコ属 Penilia Pseudosida Sarsilatona シダ属 Sida ホロミジンコ科 Holopedidae オオミジンコ Daphnia magna 異脚下目 はもっとも普通なミジンコを含む。櫛脚下目に似るが、胸脚は5-6対で形態に分化がある。第2触角の枝は3節、游泳剛毛は先端に3本、他の節に1本ずつが普通。
ミジンコ科 Daphniidaeネコゼミジンコ属 Ceriodaphnia トガリネコゼミジンコCeriodaphnia cornuta アミメネコゼミジンコCeriodaphnia reticulata ニセネコゼミジンコCeriodaphnia dubia キレオネコゼミジンコCeriodaphnia megalops ヒメネコゼミジンコCeriodaphnia pulchella ネコゼミジンコCeriodaphnia quadrangular ミジンコ属 Daphnia タイリクミジンコDaphnia similis オオミジンコ Daphnia magna ミジンコ Daphnia pulex オオビワミジンコDaphnia pulicaria マギレミジンコ Daphnia ambigua オナシミジンコDaphnia obtusa ビワミジンコDaphnia biwaensis -琵琶湖 水系に分布 絶滅したと考えられる ハリナガミジンコDaphnia longispina カワリハリナガミジンコDaphnia rosea ウスカワハリナガミジンコDaphnia hyaline カブトミジンコDaphnia galeata エゾハリナガミジンコDaphnia ezoensis カムリハリナガミジンコDaphnia cuculata Daphnia cristata トガリハリナガミジンコDaphnia longiremis Daphniopsis Megafenestra オカメミジンコ属 Simocephalus トガリオカメミジンコSimocephalus serrulatus ニッポンテングオカメミジンコSimocephalus japonica トゲオカメミジンコSimocephalus exspinosus オカメミジンコSimocephalus vetulus オオオカメミジンコSimocephalus vetuloides アオムキミジンコ属 Scapholeberis アオムキミジンコScapholeberis mucronata 他1種 タマミジンコ科 Moinidaeタマミジンコ属 Moina スカシタマミジンコMoina micrura ホソタマミジンコMoina rectirostris ワイスマンタマミジンコMoina weismanni タマミジンコMoina macrocopa タマミジンコモドキ属 MoinodaphniaタマミジンコモドキMoinodaphnia macleayii ゾウミジンコ科 Bosminidaeゾウミジンコ属 Bosmina ゾウミジンコBosmina longirostris シナゾウミジンコBosmina fatalis ** ハリナガゾウミジンコBosmina longispina ゾウミジンコモドキ属Bosminopsis ゾウミジンコモドキBosminopsis deiterisi ケブカミジンコ科 MacrothricidaeAcantholeberi Bunops カマトゲケブカミジンコ属Drepanothrix (1種) Echinisca Grimaldina Guernella Iheringula フトオケブカミジンコ属Ilyocryptus (1種) Lathonura ケブカミジンコ属Macrothrix (3種) Neothrix ニセケブカミジンコ属Ophryoxus Parophryoxus Pseudomoina ケブカミジンコモドキ属Streblocerus (1種) Wlassisca マルミジンコ科 Chydoridaeノコギリミジンコ亜科Eurycercinae ノコギリミジンコ属Eurycercus (3亜属6種) Saycia シカクミジンコ亜科 Aloninae (計19種)フナゾコミジンコ属Acroperus (1種) シカクミジンコ属Alona (6種) Biapertura ヒラタミジンコ属Camptocercus (1種) Kurzia ヒロハシミジンコ属Graptoleberis (1種) トゲヒロオミジンコ属Leydigia (3種) ヒトツメマルミジンコ属Monospilus (1種) Oxyurella カギシカクミジンコ属Rhynchotalona (2種)カギシカクミジンコRhynchotalona falcata マルミジンコ亜科 Chydorinaeシカクミジンコモドキ属Alonella Alonopsis ヒドラマルミジンコ属Anchistropus マルミジンコ属Chydorus (3種) Dunhevedia Ephemeroporus Phrixura ハシミジンコ属Pleuroxus (15種) マルマルミジンコ属Pseudochydorus 亜科不明Archepleuroxus Australochydorus Bryospilus Celsinotum Dadaya Disparalona Euryalona Leberis Monope Notoalona Paralona Planicirclus Plurispina Rak Spinalona Tretocephala 鉤脚下目 Onychopoda 背甲は胴体背中側のみを覆い、保育室としてのみ働く。胸脚は4対、すべて歩脚型で捕食的に餌をとる。第2触角の游泳剛毛は数が多い。海産種が多い。
単脚下目 は構造的には鉤脚下目に似た点も多いが、全体の姿は他の群と全く異なる。全体に細長く、背甲は保育室のみ。胸脚は6対、すべて歩脚型。第2触角の游泳剛毛は多数。
^ Shane T. Ahyong, James K. Lowry, Miguel Alonso, Roger N. Bamber, Geoffrey A. Boxshall, Peter Castro, Sarah Gerken, Gordan S. Karaman, Joseph W. Goy, Diana S. Jones, Kenneth Meland, D. Christopher Rogers & Jörundur Svavarsson (2011). “Subphylum Crustacea Brünnich, 1772. In: Zhang, Z.-Q. (Ed.) Animal biodiversity: An outline of higher-level classification and survey of taxonomic richness”.Zootaxa , Volume 3148, Magnolia Press, Pages 165-191. ^ 田中正明・牧田直子『日本産ミジンコ図鑑』共立出版、2017年。 ^a b c d 大塚攻・駒井智幸 「3.甲殻亜門」 『節足動物の多様性と系統』石川良輔 編、岩槻邦男・馬渡峻輔監修、裳華房、2008年、172-268頁 ^ “1/8(金)第8回生命科学セミナーにて坂田明客員教授が講演されます。 ”. 東京薬科大学 生命科学部. 2019年1月20日閲覧。 ウィキメディア・コモンズには、
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時下進一, 時下祥子, 志賀靖弘, 太田敏博, 小林道頼, 山形秀夫, 「枝角目甲殻類(ミジンコ類)の遺伝子解析 」『日本陸水学会 講演要旨集』 日本陸水学会第69回大会 新潟大会 セッションID:3D24,doi :10.14903/jslim.69.0.145.0 田中正明, 小鹿亨, 永野真理子, 「地理的分布からみた日本産鰓脚類の現状 」『日本陸水学会 講演要旨集』 日本陸水学会第70回大会 大阪大会 セッションID:P20,doi :10.14903/jslim.70.0.136.0 牧野渡, 「日本におけるSinodiaptomus 属ケンミジンコの分布と遺伝的分化 」『日本陸水学会 講演要旨集』 日本陸水学会第73回大会 札幌大会 セッションID:1A04,doi :10.14903/jslim.73.0.163.0 ミジンコが教えてくれる世界 国立環境研究所東京薬科大学生命科学部環境分子生物学研究室