ハコフグ科 (学名:Ostraciidae)は、フグ目 の科 の1つ。全種が海水魚 で、6属に約23種が分類されている。
1810年にフランス の博物学者 であるコンスタンティン・サミュエル・ラフィネスク (英語版 ) によって設立された[ 2] 。以前はハコフグ科の範囲はより広く、イトマキフグ科 が亜科として含まれていた。最近の系統学的研究では、本科とイトマキフグ科は同じ系統群であるハコフグ亜目 (英語版 ) の一部であると結論付けられている[ 3] 。フグ亜目のハコフグ上科とする場合もあるが、『Fishes of the World (英語版 ) 』第5版ではハコフグ亜目に分類されている[ 4] 。
学名は基準属であるハコフグ属の学名に由来する。「小さな箱」を意味し、基準種であるミナミハコフグ の体の形を示している[ 5] 。
6属25種が属する[ 6] [ 7] [ 8] 。
大西洋 、インド洋 、太平洋 に分布し[ 4] 、一般的には中緯度海域で見られる。Lactophrys trigonus はカナダ からも記録されている[ 9] 。
体色は様々で、皮膚 は発達した六角形の板状体で覆われる。六角形の板が組み合わさって全身を装甲する硬い甲羅 を構成し、全体は三角形、四角形、五角形の箱型となる[ 10] 。各鰭、尾、目、口が突き出ており、ひれをはばたかせるようにしてゆっくりと動くことしか出来ないが、成魚の天敵は少ない。皮膚から毒を分泌し、防御に利用している[ 11] 。成魚は四角い形をしているが、幼魚はより丸みを帯びている。幼魚は成魚よりも体色が明るい。ツノハコフグ (英語版 ) は体長50センチメートルに達するが、高緯度地域ではより小さい。歯はフグ科 やハリセンボン科 、マンボウ科 、ウチワフグ科 のように全部が融合してペンチ状の歯板を形成することはない。むしろ同じフグ目のカワハギ科 などと同様、くちばし 状の吻の先端に鑿 状の歯が集まった形状になっている。
産卵形態は多様であり、水面付近で産卵する種もあれば、海底付近で産卵する種もいる。ハーレムを作ってペアで産卵する[ 12] 。
防御のために陽イオン界面活性剤 を皮膚から分泌することができる[ 13] 。その一例がパフトキシン である。これは水溶性のある結晶性化学毒素で、クロハコフグ などがストレスを受けた際に皮膚から分泌する粘液に含まれる[ 14] 。パフトキシンは3-アセトキシパルミチン酸の塩化コリン エステルであり[ 15] 、棘皮動物 に見られるステロイドサポニン に似た働きをする[ 14] 。この有毒な粘液が放出されると、すぐに環境に溶解し、周囲の魚に溶血 などの悪影響を及ぼす。この毒素は特定の洗剤に非常によく似ているため、海洋生物の受容体 に干渉する可能性がある[ 16] 。水槽内での不用意な刺激によって毒が海水中に放出され、他の魚が死滅することがあり、その毒で自分も死ぬことがある。
一般的にフグ毒として知られるテトロドトキシン は持たない。だが、パリトキシン に類似した毒性物質 を体内に蓄積していることがある。これはアオブダイ やソウシハギ などと同様に、食物連鎖 を通じて蓄積されると推測される。この物質はパフトキシンと違い食用部分に存在しており、重篤な中毒を起こす事がある[ 17] 。厚生労働省 から2002年(平成 14年) - 2007年(平成19年)に、このパリトキシン様毒を持つ個体による5件9名、死亡1名の食中毒 例が報告されている[ 18] 。
焼くと骨板は容易にはがすことができるため、一部の地方では昔から美味として好んで食用にされてきた。例えば長崎県 の五島列島 ではカトッポ (「かどっぽ」とも。五島の方言 で魚を「ぼっぽ」と言う)と呼ばれ、焼いて腹部の甲羅をはがしてから味噌 や薬味 を入れ、甲羅の中で身と和える調理法が知られる。元は漁師 料理で、現在では観光客らにも提供されている。同地では「米 を5合 食べられるほどおいしい」という意味で「ゴンゴブ」と称される。毒を含むことがあるぬめり(後述)を落とすため、皮をタワシ などで洗ってから調理される[ 19] 。
食品衛生法 に基づく厚生労働省通知(処理等により人の健康を損なうおそれがないと認められるフグ21種類及び部位)ではハコフグ(ハコフグ科)について肝臓及び卵巣、皮を食べられない部位としている[ 20] 。
色も美しく、体型や泳ぎの様子の愛らしさから観賞魚 として飼育されることもある。
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