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ナス ナスの果実 ナスの果実
分類 学名 Solanum melongena L. (1753 ) [ 1] 和名 ナス ナスビ 英名 aubergine(英) eggplant(米、豪) brinjal(南アジア、南アフリカ)
ナス (茄子[ 2] 、茄、ナスビ、学名 :Solanum melongena )は、ナス科 ナス属 の植物。また、その果実 のこと。別名ナスビともよばれる[ 3] 。インド東部原産[ 4] 。
クセのない味わいと火を通したときのなめらかな食感が特徴で、品種によって様々な調理法 があり、料理のジャンルを問わず使えるため、定番の野菜として欠かさないものとなっている[ 5] [ 6] 。
茎 は黒紫色で、高さ60 - 100センチメートル (cm) になる[ 7] 。中には茎にトゲが見られるものがある[ 7] 。トゲは茎葉や萼片にみられるが、とげなし性品種も育成されている[ 4] 。
葉 は互生 し、葉身 は卵状楕円形で、葉縁 は波打ち、葉柄 に近いところでは左右非対称になる[ 7] 。
花は両性花で、紫色の花弁の中心に黄緑色の柱頭と子房があり、それを囲むように黄色の葯が付く[ 4] 。日長の影響を受けることなく開花する中性植物である[ 4] 。花期は夏から秋で、葉腋 と次の葉柄の途中に花柄 を出して、紫色の花 を下向きに1個咲かせる[ 7] 。稀にトマトのようにひとつの花柄に複数の花を付けるが、その場合でも基部の1個以外は結実しない[ 7] 。
果実 は品種によって形も色も様々で、色はふつう紫色であるが、中には緑色、白色のものがある[ 8] 。
果皮や花弁の紫色はアントシアニン色素のナスニンに由来する[ 4] 。
種子 は短卵型で無毛、大きさは 3.5×3.0×1.0 mm(ミリメートル ) 程度で、1000粒重は4 g(グラム ) 程度。有胚乳種子[ 9] 。
子葉 は地上性 (英語版 ) で、種子の殻(外種皮 )を持ちあげて地上に出てくる。このタイプの子葉は胚乳 の栄養を吸い取る吸器、および最初に光合成 をおこなう器官という2つの役割がある[ 10] 。
草姿
葉。葉脈は羽状脈
花。
若い果実。萼は果実になっても付いたまま
果実の断面
原種は見つかっていないものの、原産地はインド亜大陸 の東部が有力とされる[ 9] 。実際にここに近い地域では多様なナス類と利用文化が見られるという[ 11] 。
ナスは寒さや乾燥には弱く、日当たりがよい場所と水を好む性質がある[ 12] 。
着花位置は温度や日長の影響を受けるという[ 13] [ 14] 。
質の良い種子を得るためには果実の登熟期間中は高温が望ましい[ 15] 。種子には休眠性がある。ナスの場合、高温環境や赤外線照射によって深い休眠が誘導される[ 16] 。どのような条件で休眠性が誘導されるのかは種によって様々である。草本植物の種子の休眠についての総説論文 に中村 (1975)などがある[ 17] 。発芽には25度以上の高温が望ましく低温での発芽率は低く遅い。さらに恒温状態よりは夜はいくらか低くなる変温が望ましい[ 9] 。
夏に収穫する野菜で、日当たりの良い場所で、春の気温が十分暖かくなってきたら苗 を植えて育てる[ 18] [ 19] 。苗は、一般の種から育てただけのものと、接ぎ木 苗があるが、耐病性に優れるのは接ぎ木苗の方である[ 18] 。栽培時期は晩春から秋まで(5 - 10月)で、夏の暑さによく耐える[ 18] [ 20] 。果菜の中では高温を好む性質で、栽培適温は昼温28 - 30度 、夜温15 - 28度とされ、10度以下では成長が悪くなる[ 20] 。早いものは初夏(6月ころ)から収穫が始まり、夏に剪定 して切り戻せば秋まで実がなる[ 18] [ 19] 。よい実を収穫するには、伸び始めのわき芽摘みと、夏場の水やりと追肥 が重要になってくる[ 18] [ 19] 。実の着色は光線に敏感であり、光線不足は発色不良の原因となるので、混みいった葉を除いて実に光線を当てるようにする[ 20] 。大型サイズのプランター (コンテナ)を使っても栽培することができる[ 19] 。
連作障害 が出やすいので、接ぎ木 苗を使わない場合は3 - 5年はナス科の野菜を作っていない畑 で育てる[ 18] [ 21] [ 20] 。根は深く張るほうであるため、畑の元肥は深い位置に入れて根張りをよくするとよい[ 20] 。苗をつくる場合は、育苗箱などに種を4 - 5 cm間隔で蒔き、地温28 - 30度になるように保温養生すると発芽するので間引き を行い、葉が1枚になったら育苗ポットに鉢上げする[ 22] 。ただし、ナスが生育期に入ったころ急に萎れて枯れてしまう青枯病、半枯病などの萎縮性障害が出ることが多いため、対策として台木専用種の「赤ナス」などの台木に次ぐのが一般的で、市場にも苗が広く出回っている[ 23] 。
人工的な種子の発芽促進として植物ホルモン のジベレリン 処理が有効である。ポリエチレングリコール 浸漬も効果がある[ 24] 。
最低気温が15度を下回らなくなってから、地域の気候に適した品種の苗を植え付ける[ 18] 。乾燥を嫌うため、藁 やビニールなどでマルチング をするとよい[ 18] 。苗が伸びてきたら、主枝とすぐ下の勢いがある枝を残して、「二本仕立て」あるいは「三本仕立て」で育てるのが基本である[ 25] [ 19] 。1株に1本支柱を立てて、主枝と支柱を紐で結んで支えても良い[ 19] 。はじめの枝が伸びて枝が充実してくると、開花して実がつき始めるが、栄養分を奪われないように1番果は小さなうちに摘み取って、株を充実させる[ 25] 。気温が上がると、次々と実がなるようになるので、へたの上を切ってまめに収穫する[ 25] 。実を長く株につけておくと、実が固くなってくる[ 19] 。ナスは栄養をたくさん必要とする野菜で、栄養不足にならないようにこまめに追肥することが肝要になる[ 25] 。雨が降らないときには実がかたくなってしまうため、十分な水やりも必要になる[ 25] [ 26] 。肥料の状態が悪いと着果前に落花したり、着果しても肥大が停止する「石ナス果」となり、生産現場では商品価値がないものとして廃棄される[ 4] 。また、ナスの花の状態は生育状態のバロメーターとなり、栄養状態が良い場合には枝先から少し離れて花がつき(花柱が葯と同等かそれより長くなる長花柱花)、栄養状態が悪いと枝先に花が咲くようになる(花柱が葯より短くなる短花柱花)[ 4] [ 25] 。
真夏になると、枝が混み合い生長が鈍り、さらに枝の老化によって実付きが悪くなってくる[ 27] [ 28] 。そこで、葉を2 - 3枚残して、地面から高さの約2分の1から3分の1くらいのところで枝を切り詰める切返し剪定 (更新剪定)を行う[ 27] [ 19] 。さらに剪定した株のまわりの根を切って肥料と水を十分与えておくと、新しい枝や葉が伸びて約1か月後に再び実がつき、10月ごろまで「秋なす」を収穫できるようになる[ 27] [ 19] [ 28] 。
ナスの代表的な病気に、葉が緑色のうちに急激にしおれてしまう青枯れ病 があり、梅雨明けから夏に発生しやすい[ 29] 。害虫はアブラムシ 、オオニジュウヤホシテントウ 、ダニ 類がつきやすい[ 30] 。連作障害が出やすい植物なので、同じナス科のトマト やジャガイモ 、ピーマン を植えた場所では、4 - 5年ほど空けないと土壌伝染する病気になりやすい。害虫がつき始めたら、葉の色に注意して、葉の表裏に薬剤を散布して防除する[ 30] 。ネギやニラなどネギ属植物を混植しておくことで、これら病気を防いだり害虫よけの効果が期待できる[ 29] 。同様にコンパニオンプランツとして、マリーゴールド は土中のセンチュウ 駆除や他の害虫よけ、バジル やナスタチウム はアブラムシ をつきにくくする効果が期待できる[ 29] 。
日本では全国的に栽培されており、出荷量が最も多い高知県 をはじめ、栃木県 、福岡県 、群馬県 などが主産地である[ 31] 。季節により春は大阪府 ・岡山県 ・佐賀県 ・熊本県 産、夏から秋は茨城県 産も代表的である[ 31] 。夏野菜のため出荷量のピークは6月であるが、通年安定して出回っている[ 31] 。日本へは、韓国 産やニュージーランド 産が主に輸入されている[ 31] 。
実際の栄養価は、栽培条件、生育環境、収穫時期、品種などで異なるため一覧表に記載されている値は代表値である。
ナス果実の93%以上は水分である[ 5] [ 34] 。他の野菜と比べると低カロリー で、脂肪燃焼ビタミンといわれるビタミンB2 などをバランスよく含んでいる[ 5] 。ビタミン類はほとんど含まれていないとする意見はあるが[ 35] 、ビタミンC や、カリウム 、カルシウム などのミネラル類は比較的少ないながらも、まんべんなく含まれている[ 36] 。食物繊維 は淡色野菜 としては平均的な量である[ 36] 。
またナスにはコリン (コリンエステル)という機能性成分が含まれている。このコリンは無色の強アルカリ性 物質で、血圧 やコレステロール を下げる[ 37] 、動脈硬化 を防ぐ、胃液の分泌を促す、肝臓 の働きを良くする、気分改善効果[ 37] などの作用が認められている。
「茄子紺」とよばれるナス果皮の暗紫色の色素成分は、ポリフェノール の一種で、アントシアニン 系の色素ナスニン である[ 5] 。ナスニンには抗酸化作用があり、動脈硬化予防や老化予防などに効果があるとされている[ 5] [ 35] 、またナスニンは水溶性で[ 5] 、加水分解によりデルフィニジン となり、鉄 やニッケル イオン が存在すると安定した塩 (えん)をつくるという特徴がある[ 8] 。ナスの漬物を作るときに鮮やかな色を保たせるために、ナスと一緒に鉄くぎなどを入れるのはこのためである[ 8] [ 35] 。
果皮の色素ナスニンは抗酸化作用 があるアントシアニン の一種である[ 4] 。
『成形図説 』より 2024年 1月には、ナスのヘタ に含まれる天然化合物 に、子宮頸がん 細胞に抗腫瘍効果があることが、名古屋大学 の研究チームの実験で明らかになった[ 38] [ 39] 。
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果実は未熟で果肉や種子が柔らかいうちに収穫し、食用とする。野菜としての旬は初夏から初秋(6 - 9月)で、果皮は変色がなく張りツヤがあり、へたのトゲが鋭いものが良品とされる[ 5] 。ただし、萼片のトゲに関しては、生産上、管理作業の妨げとなったり輸送時に果皮を傷つける原因となるため、とげなし性品種も育成されるようになっており一般的になりつつある[ 4] 。
ナスは味や香りにクセがないが、皮の下の部分に苦味がある[ 31] 。また、産地や品種により、灰汁 の多い・少ないに差がある[ 31] 。料理は、蒸し物、煮物、炒め物や漬物など、幅広く使われている[ 35] 。特に油との相性がよく、炒めたり揚げたりするとやわらかくなり、おいしく食べられる[ 35] 。ナスは身体を冷やす作用があることから、夏に食べるのには向いている野菜といえるが、多く摂取すると身体を冷やしすぎてしまうため、ショウガ などの身体を温める作用がある食材と一緒に食べるとよいとされる[ 40] 。
焼く、煮る、揚げるなどあらゆる方法で調理される[ 6] 。淡白な味で他の食材とも合せやすく、また油を良く吸収し相性が良い[ 31] 。野菜炒めなどで油を吸わせたくない場合は、油を入れる前にナスを少量の水で軽く煮るように炒めて、スポンジ状の実に水分を含ませてやると油を吸い難くなる。皮も薄く柔らかいので剥かずに調理されることが多い。
果実を切ったら切り口から灰汁がまわって酸化が始まり、放置すると次第に変色してくる[ 41] 。ナスはポリフェノール系化合物による褐変を起こしやすい食材であり、この褐変を防ぐために水につけるのが一般的で、食塩水を利用すると酵素作用も抑制できる[ 42] 。しかし、ナスニンは水溶性のため、長時間水につけると流れ出てしまうため、調理する直前に切ってすぐに加熱調理すればナスニンの損失は少なく済む[ 41] 。
また、ナス科植物なのでアルカロイド (灰汁 )を多く含み、一部の品種を除き生食はされない。加熱調理しない場合は漬物 にするか、塩揉み で灰汁抜きしてから供される。塩で揉んだ後さらにマリネ などに加工されることもある。多くの栽培品種は、品種改良により灰汁が少なくなっている。灰汁は空気に触れると酸化して出てくるため、切ったらすぐに調理してしまえば水につけなくてもよい[ 5] 。大阪の泉州水茄子など水なす と呼ばれる一部の品種は生食が可能で、皮を剥いて味噌 だれで食べることができるほか、漬け物(ぬかづけ)などにもする。
日本では、しぎ焼き 、揚げ出し 、麻婆茄子 、浅漬け 、ぬか漬け などにして食べられる[ 43] 。長ナスは肉質がやわらかく素焼きして焼きなす に向く[ 31] 。一口なすともよばれる民田なすは丸ごと辛子漬け に、水なすはぬか漬けにされることが多い[ 31] 。
乾燥と低温に弱いため、紙袋などに入れて風通しのよい10 - 15度ほどの冷暗所に保存する[ 48] [ 29] 。ただし、気温が高い時期に保存したいときは、ラップなどに包み、冷蔵庫に入れれば2 - 3日ほどは持つ[ 41] 。ただし、冷蔵すると皮も果肉もかたくなってしまい、風味も落ちる[ 31] 。実を薄くスライスして、天日で乾燥させて干しナスにすると、長期保存も可能である[ 29] 。
ナスの果実、茎、へた、根、花などは薬用にできるため、民間療法 で、打ち身 、捻挫 、やけど 、しもやけ 、腫れ物 、イボ 、あかぎれ 、二日酔い などに薬効があるといわれている[ 8] 。果実は茄子(かし)、へたは茄蔕(かてい)と称して生薬 になる[ 3] 。
打ち身、捻挫、軽いやけどには、十分に冷やした果実を縦切りにして、切り口を患部に当てることを何度も繰り返すと、効果があるといわれている[ 8] 。しもやけには、乾燥した茎10 - 20グラム を水600 cc で煎じた液(水性エキス)で、患部を洗う[ 8] 。腫れ物には、乾燥したヘタ10グラムを600 ccの水で煎じた液で患部を湿布する[ 8] 。イボには、切り口で直接患部をこする。あかぎれでは、乾燥した根10 - 20グラムを同様に煎じた液を患部につける[ 8] 。二日酔いの場合では、乾燥した花とクズ の花を各5グラムずつ入れた水400 ccを煎じて、服用すると良いといわれている[ 8] 。
ナスのへたの黒焼きを作って、粉末状にして食塩を混ぜたものは歯磨き粉 代わりになり、歯槽膿漏 、歯痛 、口内炎 に効果があるといわれている[ 3] [ 8] 。痔 には、果実を黒焼きにして粉末にしたものを1回量1グラム、1日3回服用する用法が知られる[ 3] 。2024年1月には、ナスのヘタに含まれる天然化合物が、子宮頸がん 細胞 に抗腫瘍効果があることが、名古屋大学 の研究チームの実験で明らかになった。 同じウイルス性疾患 の尖圭コンジローマ で効果が確認され、ヒトの子宮頸がん細胞に応用し投与した結果、細胞死を誘導することが確認された。将来的に作用が強すぎない抗がん剤 などの創薬が期待できるとしている[ 38] 。
ナスには鎮静・消炎の効果がある考えられてきたことから、日本では昔から茄子を食べると体温を下げて、のぼせに有効とされてきた[ 41] 。
精霊馬(しょうりょううま) 初夢 の縁起物:古来から「一富士、二鷹、三茄子」とされる。『盂蘭盆会 』には、ナスで馬をかたどって祖先の霊に供える風習がある[ 31] 。お盆 の期間中には、故人の霊魂がこの世とあの世を行き来するための乗り物として、「精霊馬 」と呼ばれるキュウリ やナスで作る動物を用意する。4本の麻幹あるいはマッチ棒、折った割り箸 などを足に見立てて差し込み、馬 、牛 とする。キュウリは足の速い馬に見立てられ、あの世から早く家に戻ってくるように。ナスは歩みの遅い牛に見立てられ、この世からあの世に帰るのが少しでも遅くなるように、また、供物を牛に乗せてあの世へ持ち帰ってもらうとの願いが込められている。 七夕の「七夕馬」に真菰 や藁 などの材料のかわりに、キュウリやナスを使う地域もある。 子供の嫌いな野菜として挙げられることが多い。 二宮尊徳 は夏前にナスを食べたところ秋茄子の味がしたため冷夏 になることを予測した。「毒キノコ でも、ナスと一緒に調理すれば中毒しない」とする言い伝えがあるが、全くの迷信であり、ナスにそのような効用は存在しない[ 49] 。 中国では、日本人が写真を撮るときに言う「はい、チーズ」の掛け声のように、「一〜、二〜、三〜、茄〜子」と言う文化がある。茄子の「子」を発音した際に、口が横に広がり笑顔が作りやすいためである。 茄子紺:茄子の実のような紫みの濃い紺色のこと。江戸時代から使われる色名。 「秋茄子は嫁に食わすな」 この言葉には三つの解釈がある。一つは、秋の茄子がシャキッとはぎれよくおいしいので、嫁にはもったいないという解釈。「秋茄子わささの糟に漬けまぜて 嫁には呉れじ棚に置くとも」という歌が元になっており、嫁を憎む姑の心境を示しているという。 二つ目は、「嫁」とはネズミのことで、おいしく栄養価の高い秋茄子をネズミが食べると増えて困るという解釈[ 50] 。なお、前述の歌で、「嫁には呉れじ」の「嫁」とは「嫁が君(ネズミ のこと)」の略であり、それを嫁・姑の「嫁」と解するのは後世に生じた誤解であるとする説もある(『広辞苑 』第三版、「あきなすび」の項)。 三つ目は、秋茄子は種子が少なく、アクが強いので、お腹が冷えやすくなる。子供が生まれにくくなると困るので、嫁を案じたという解釈。「茄子は性寒利、多食すれば必ず腹痛 下痢 す。女人はよく子宮 を傷ふ(養生訓 )」などから、嫁の体を案じたという[ 41] 。ナスは熱帯の植物であり8月上旬までに開花・結実した実でなければ発芽力のある種子を得ることが難しい。そこから秋ナスは子孫が絶えると困ると連想されたという説もある。 「親の小言と茄子の花は 千に一つの無駄もない」 ナスの花には徒花がほとんど現れないことから、将来を思う親の意見に耳を傾けよという意味の諺[ 4] 。 「瓜の蔓に茄子 ( なすび ) はならぬ」 非凡な子供を茄子に例えて、平凡な親からは非凡な子は生まれない、という意味。似た諺として「蛙の子は蛙」がある。 原産地はインド の東部が有力とされ[ 51] 、インドでは有史以前から栽培されていたと考えられている[ 31] 。その後、ビルマ を経由して中国 へ5世紀ごろに渡ったと考えられており、多くの変異が生じていった[ 31] 。ヨーロッパ へは13世紀に伝わったが、もともと熱帯植物であったため、あまり普及はしなかった[ 31] 。東南アジア では古くから栽培されており、日本 では見られないような赤、黄、緑、白などカラフルで、形や大きさも様々な物が市場に並ぶようになった[ 31] 。
日本には7世紀から8世紀ごろに中国から伝わり[ 35] [ 52] 、奈良時代 から食されていたといわれ[ 5] 、東大寺正倉院の古文書で、「天平勝宝二年(750年)茄子進上」とあるのが日本最古の記録である[ 31] 。平城京 の長屋王 邸宅跡から出土した木簡に『進物 加須津毛瓜 加須津韓奈須比 』との記述があり、高位の者への進物にナスの粕漬け が使われていたことが判明した。また、正倉院文書 には「天平 六年(734年 )茄子 十一斛、直一貫三百五十六文」をはじめとして多数の「茄子」の記述がみられる。平安時代 中期に編纂された『延喜式 』には、ナスの栽培方法の記載が見られる[ 53] 。1600年ごろ、静岡県三保では地温があたたまる砂地を利用した日本初の促成栽培がナスで始まり、旬の早い「折戸なす」が徳川家康 にも献上されたといわれる[ 53] 。元は貴重な野菜であったが、江戸時代頃より広く栽培されるようになり、以降日本人にとってなじみのある庶民的な野菜 となった[ 54] 。寛文 年間(1661年 - 1673年)には江戸でも旬を先取りするナスの促成栽培が広がり[ 53] 、『農業全書 』(1697年)には「紫、白、青の三色あり、又丸きあり長きあり」の記述があり、江戸時代から多くの品種が栽培されていたことがうかがえる[ 35] 。1918年(大正 7年)、鹿児島県指宿で温泉ナスの栽培が始められ[ 53] 、1924年(大正13年)に世界で最初の野菜のF1品種 がナスで実用化され、埼玉県農業試験場の柿崎洋一が「浦和交配1号」「浦和交配2号」を育成し、農家から「柿崎ナス」とよばれた[ 55] 。戦前の日本では、果菜類のなかで最も生産量が多いのがナスであったが、終戦後は生食できる野菜に抜かれた[ 56] 。1961年(昭和36年)に誕生した「千両」は実の形と食味の良さからヒットし、1964年(昭和39年)にはさらに改良された「千両二号」がロングセラーとなった[ 55] 。
品種は数が多く、産地によっても様々で、日本では概ね70種類ほどある[ 57] 。世界では1000種類もあると言われている[ 58] 。
賀茂茄子などの一部、例外もあるが、日本においては南方ほど晩生の長実または大長実で、北方ほど早生の小実品種となる[ 52] 。本州の中間地では中間的な中長品種が栽培されてきた。これは寒い地域では栽培期間が短く大きな実を収穫する事が難しい上に、冬季の保存食として小さい実のほうが漬物 に加工しやすいからである。日本で一般に流通している品種は中長品種が中長ナスである[ 41] 。日本で栽培される栽培品種 のほとんどは果皮 が紫色又は黒紫色である。しかしヨーロッパやアメリカ等では白[ 注 1] ・黄緑色・明るい紫、さらに縞模様の品種も広く栽培される。果実の形態による分類は以下のようなものがある。
小丸ナス (小ナス) - 皮がやわらかく、種子が少ないのが特徴[ 41] 。在来品種では、京都の椀ぎ(もぎ)、東北の民田(みんでん)、山形の出羽がある。丸ナス - 扁球形の果実は、皮がかためで果肉が緻密なのが特徴。煮崩れしにくく、田楽などに使われる。信越地方、関西。京野菜の賀茂なす がよく知られる[ 41] 。トキタ種苗 の「グリルでイタリア」[ 20] 、家庭菜園向けのサントリー本気野菜シリーズの「とろとろ炒めナス」などもある[ 59] 。収穫期の丸ナス。ヘタ部分にはトゲが有る。 卵形ナス - 関東一円で多く出回る品種。代表種は「真黒」(しんくろ)で、現在は流通していない[ 60] 。千両ナス - 卵形ナスと中長ナスの交雑による改良品種。ヘタの近くまで濃い紫色になる。関東を中心に東日本で出回る[ 60] 。タキイ種苗 が開発した「千両」とその改良種「千両二号」は、長卵形の好まれる形と黒くやわらかい果皮が好まれて、全国的なロングセラーとなった[ 61] 。中長ナス - 流通量が最も多い品種。皮・果肉ともやわらかく調理法を選ばず使える[ 41] 。サカタのタネ が開発した「黒福」などがある[ 20] 。長ナス - 果実の長さが20 - 30 cmあり、果肉がやわらかいのが特徴。やや水分が多く、調理法は蒸したり、焼いたりしたり、塩揉みに向く[ 41] 。代表品種の「黒陽」「PC筑陽」があるほか[ 61] 、西日本の「津田長」「博多長」、東北の「仙台長」「南部長」などがある[ 60] 。洋種では「ブルネット」など[ 60] 。大長ナスでは、長さ30 - 40 cmになる「庄屋大長」(タキイ種苗 )などが知られる[ 59] 。米ナス (べいなす、アメリカなす) - アメリカ品種ブラックビューティーを日本で改良した大型種で、ヘタが緑色なのが特徴。果肉は締まっていて、焼き物・炒め物・煮物などの加熱調理に向く[ 41] [ 60] 。「くろわし」などがある[ 61] 。巾着ナス - 丸ナスの一種で、小ぶりな丸く潰れた巾着型で、皮がやわらかく、果肉がしっかり詰まって固いのが特徴[ 2] 。加熱しても煮崩れしにくく、煮物、揚げ物、漬物に使われる[ 31] 。新潟・魚沼産の「長岡巾着」(中島巾着)がよく知られる[ 41] [ 62] 。白ナス - 東南アジアの品種で、果実が真っ白になるナス。皮がややかたい[ 31] 。アクが少なく、皮から色素が出ないため煮ると煮汁が黒くならない。「ホワイトベル」[ 62] 「越後白ナス」などがある[ 35] 。白長ナス - 実が20 - 23 cmほどの大長タイプの白ナス。淡緑色でヘタが小さい。実は皮がかたいが果肉は柔らかく、焼き茄子などに使える[ 35] [ 63] 。「味しらかわ」(丸種種苗)などがある[ 64] 。緑ナス - 埼玉県などで栽培される緑色のナス。加熱すると身は柔らかくなり、焼き物、炒め物、揚げ物に向く[ 2] 。長さ30 cmになる緑色の大長ナス「緑美」などもある[ 65] 。ヘビナス - 長さ25 - 30 cm、太さ2 - 2.5 cmの細身な果実が特徴。果皮は濃い紫色で、果皮や果肉もやわらかくて甘い。油と相性がよく、加熱調理するととろけたような触感になる[ 62] 。栽培の歴史が長いことから、その土地ならではの伝統品種が多く、北部で丸・卵形の小・中型品種、中部が卵形・中長形の品種、南部では長形・大型品種が多い傾向がある[ 31] 。在来品種は東北の仙台長、山形の民田なす、京都の賀茂なす 、大阪泉州の水なす 、九州の大長茄子 などがよく知られる[ 35] [ 31] 。
イタリア産のゼブラ模様のナス ローザビアンカ(ロッサビアンコ) -イタリア ナスの品種。紫と白のやや縦縞模様で直径10 cmほどになる。皮・身ともかたく締まり、焼き物、煮込み料理に向く[ 35] 。 ゼブラ - イタリアやスペインのナスで、紫と白の縦縞模様が特徴。皮はかたく、身は柔らかい[ 35] 。セブラナスは紫色の縞模様があるナスの総称で、「ゼブラ」のほか、「カプリス」「フェアリー・テイル」「リスターダ・デ・ガンディア」などの品種がある[ 65] 。 スティックテイスト - イタリア系のゼブラ模様の長さ7 - 8 cm、50グラム ほどになる小ナス[ 35] 。 フィレンツェ - イタリアのトスカーナ地方の伝統品種で、直径15 cmにもなる大型の丸ナス。パスタやラザニア、カポナータなどの料理に適している[ 65] 。 リスターダデガンジア - スペインの伝統品種。赤紫と白の縦縞のまだら模様をしている。肉質はやわらかい[ 69] マクワポ(マクアポ) -タイナス (英語版 ) の品種。果実が卵形で白いことから「卵なす」ともよばれている。観賞用にされることも多い[ 31] 。タイの食卓では一般的な小ナスで、グリーンカレーの具材にも適している[ 65] 。 マクアポー・ピンポン - タイナスの品種。ピンポン玉大と小ぶりの丸ナスで緑色。歯ごたえがあり、タイでは生のまま食べたり、カレーなどに使われる[ 70] 。 和名 ナス の語源 については諸説あり、実の味から「中酸実」(なかすみ)の略であるとする説[ 71] [ 72] 、夏に実がなるので「夏実」(なつみ)と読んだが、それが訛って「なすび」(奈須比)と呼ばれたとする説がある[ 31] 。室町時代頃に宮廷の女官が女房言葉 として「おなす」と呼び[ 72] 、その呼称が定着した。
英名 はオーバァジーン(Aubergine )(主に英国)、またはエッグプラント(Eggplant )(主に北米)で、仏名 はオーベルジーヌ(aubergine )、伊名 はメランザーナ(melanzana )[ 73] 、漢名 ではチェ(茄 Qie2)もしくはチェーズー(茄子 Qie2zi)の名で広く栽培される[ 3] 。「茄」は植物をさし、「茄子」は果実をさすともいわれている[ 31] 。
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