トライアスロン(英語:triathlon)は水泳・自転車ロードレース・長距離走の順に連続して行う3種競技。アメリカにて1974年に初開催された比較的新しいスポーツ[1]。
triathlonは、ギリシャ語で数字の「3」を意味する接頭辞tri- と、「競技」を意味するathlon の合成語で、英語発音にならって「トライアスロン」と呼ばれる。
この言葉自体は、具体的な種目名を示していないが、現在では、水泳・自転車・長距離走(スイム・バイク・ラン)の3種目を、この順番で、それぞれの距離・コースを設定し1人のアスリートが連続して行う競技を指す。
競技距離は、オリンピックでも実施されるスタンダードディスタンス[注 1] は合計51.5km(スイム1.5km・バイク40km・ラン10km)で行われる。スプリントディスタンスはその半分の合計25.75km(スイム0.75km・バイク20km・ラン5km)で行われる[注 2]。ロングディスタンスはスイム3km以上、バイク91km以上、ラン22km以上のレースを指し、その中でもアイアンマンレースは合計約226km(スイム3.8km・バイク180.2km・ラン42.2km[2])で行われる。大会により様々な距離設定で行われている(規格について詳しくは「種類」の節を参照のこと)。
「ロングディスタンス」の場合、競技時間が10時間を超える場合が少なくないため、「過酷なスポーツ」との認識が根強い。しかし、「スタンダードディスタンス」等のレースでは一般の市民アスリートの参加も多く、現在、このレース距離の大会が多くを占めている。
チームリレーでは1人が3種目を連続して行い、例えばオリンピックでは男女各2名の4人による混合リレーが行われる。またこの種目の他に、3名で1種目ずつ分担する「コーポレイト」という種目もあり[3]、こちらは一般参加の大会でも広く行われている。
オリンピックにおいては、2000年シドニーオリンピックから正式種目となった。パラリンピックの正式種目となるのは、2016年リオデジャネイロパラリンピックからである[4][5]。日本では、2009年のトキめき新潟国体から国民スポーツ大会の公開競技となり、2016年の希望郷いわて国体から正式競技となった。
夏季オリンピック・トライアスロン競技のシンボルマーク
2024年パリオリンピック
皆生温泉にある「日本トライアスロン発祥の地」の看板ワールドトライアスロン競技規則23条(附則A)[16]の定めによるレース距離は以下の通り。大会によって距離は変更される。基準となる規格の背景は黄色。ディスタンスとは距離の意味。
ワールドトライアスロン競技規則による規格| 種類 | スイム | バイク | ラン | 備考 |
|---|
| リレー(1人あたり) | 250 - 300m | 5 - 8km | 1.5 - 2km | 混合リレー、2×2混合リレー、3人リレー。 |
| スーパースプリントディスタンス | 250 - 500m | 6.5 - 13km | 1.7 - 3.5km | |
| スプリントディスタンス | 750m | 20km | 5km | |
| スタンダードディスタンス | 1500m | 40km | 10km | オリンピック個人戦でも実施。 |
| ミドルディスタンス | 1900 - 2999m | 80 - 90km | 20 - 21km | |
| ロングディスタンス | 3000 - 4000m | 91 - 200km | 22 - 42.2km | |
その他の参考規格| 種類 | スイム | バイク | ラン | 備考 |
|---|
| アイアンマン | 3.8km | 180.2km | 42.2km | 五島長崎国際(日本ウルトラロング選手権)など。 |
| アイアンマン70.3 | 1.9km | 90km | 21.0975km | アイアンマンの半分。 |
| トライアスロン101 | 3.0km | 130km | 30km | 合計約101マイル。2007年から。 |
バイク(自転車)では、ドラフティング(いわゆるスリップストリーム)について、競技会により以下のどちらかのルールが適用される。
- ドラフティング禁止
- ドラフティング許可、バイクの周回遅れでレースから除外 : 主にエリート部門(スタンダード以下の距離)などで適用。
以下ではそれぞれ解説する。
一般参加の大会で適用。また、ミドルディスタンス以上ではエリート含め全部門で適用[17]。
このルールでは、通常の自転車レースに見られる集団走行、他人を風よけに使っての走行は禁止されている。具体的には、スタンダードディスタンス以下では前方選手の前輪先端から後方10m以内、ミドルディスタンス以上では後方12m以内に入ることが出来ず、許されるのは追い越しで通過するときのみ(スタンダード以下では20秒以内、ミドル以上では25秒以内)である[18]。また、並走や集団走行、他の選手のブロックも禁止であり、追い越した後は車間距離を保って左側通行を行わなければならない[19]。
違反した場合、審判からタイムペナルティとして所定のペナルティボックスで待機するよう告げられる。待機時間は、スプリント以下の距離は1分、スタンダードディスタンスは2分、ミドル以上の距離は5分[20]。スタンダードディスタンス以下は2回目の違反で、ミドルディスタンス以上は3回目の違反で失格[21][注 9]。
トライアスロンでのトラブルの多くは、ドラフティングによる失格判定の問題である。ルールを明確化するためいっそのことドラフティングを認める方が良いという意見もある。しかし、ドラフティングを許してしまえば、スイム・バイクでは集団に着いていく力さえあればそれ以上の能力は不要。ランだけで勝負が決まることになるとの批判も多い。特にロング大会においては、自らの力で走りきることを主旨としており、ドラフティングが認められていない(コンペティティブ・ペーシェンスとしての側面が強い)。
ドラフティング禁止というルール、そしてUCI管轄外でバイクはその制限を受けない、という2点があるために、ロードレースでありながらタイムトライアルバイクに複数のボトルや補給食、スペアチューブや畳めるタイヤ、携帯工具など修理機材を積めるように小改修したバイクを使用する選手が多い(UCIの制限は受けないが、トライアスロンとしてのバイクの規定はある。)。
「ドラフティング許可、バイクの周回遅れでレース除外」のルール
[編集]スタンダードディスタンス以下のエリート部門(オリンピック、世界トライアスロンシリーズやワールドカップ、日本選手権を含む)などで適用。
バイクの周回コースで周回遅れとなった場合は、審判によってレースから除外される[22][注 10]。つまり強制的に棄権の扱いとなり、選手はその場で競技中止となる[注 11]。周回遅れのレース除外は記録上「ラップ(LAP)」といい、周回遅れにされることを「ラップされる」という[22]。なお、スイムやランで周回遅れとなっても除外されない(ラップはない)。
ドラフティング許可であっても、性別が異なる選手へのドラフティングは禁止であり、またオートバイや通行車両を風よけにすることは危険回避のやむをえない場合を除き禁止されている[23]。
- 第三者の手を借りてはならない。
- パンクやメカトラブルも自分で対応・処置しなければならない。
- (※:パルクフェルメ#自転車競技におけるパルクフェルメも参照)
すべての年代、あらゆる能力のアスリートにレースを提供し、観客に感動と興奮をもたらすイベントとして、世界各国でロングディスタンスレースを開催している。ドイツのロート発祥。
スタンダードディスタンス(オリンピックディスタンス)の大会は、全国各地で数多く行われており、多くの市民アスリートが出場している。
学生の最大規模の大会(通称インカレ)では日本学生トライアスロン選手権大会(個人戦・団体戦)が毎年行われている。団体戦はチーム上位3名の合計タイムを競う。2019年度の男子団体では、優勝日本体育大学準優勝早稲田大学3位東北大学、女子団体優勝日本体育大学(6連覇)準優勝日本大学3位東海大学で日体大がアベック優勝を成し遂げた。
エリート(プロ選手・実業団等に属す選手等)部門を対象とするレースは、日本トライアスロン選手権や国民体育大会などがある。日本トライアスロン選手権など一部のレースは日本トライアスロン連合による「ジャパンランキング」(後述)の対象イベントとなっており、この成績に国際大会の成績を加味した国内年間ランキングを決定する。
NTTトライアスロンジャパンランキングは、日本国籍[注 13]の日本トライアスロン連合登録選手による年間ランキング[27]。1996年(平成8年)からトライアスロンジャパンカップの名称で始まった[28]。年によって対象となるレースや計算方法が異なっている。
2024年基準では、ワールドトライアスロンの最新1年間の獲得ポイントに、日本トライアスロン選手権の特別ポイントを加え年間ランキングを決定する[27]。
- 過去の基準
選手たちは成績により、高い方から SS、S、A、B、C の5つのカテゴリーでポイントが付与される。SSカテゴリーは、ITUワールドチャンピオンシップシリーズの世界ランキングを点数化して付与するが、Sカテゴリー以下は各大会ごとの成績で付与される。Sカテゴリーは同シリーズの各大会にあたり、日本ではWCS横浜大会が同カテゴリーで開催される。Aカテゴリーは、日本において伝統的に国内最高峰大会に位置づけられてきた大会で、開幕戦(石垣島大会)と最終戦(東京港大会)にて行われる。石垣島大会は、ITUトライアスロンワールドカップの1つでもあった。東京港大会は日本トライアスロン選手権にあたる。Bカテゴリーは、その他の日本国内における国際大会であり、アジアを転戦するITUアジアトライアスロン大会のシリーズ戦に含まれている(東京港大会以外のSおよびAカテゴリーもアジアのシリーズ戦に含まれる)。CカテゴリーはJTUによる国内大会である(大会名に「国際」が付いているが、ITU国際大会ではない)。
WCS横浜大会は、東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の影響で当初予定の5月には開催せず、延期された。
- 参加資格
- 日本トライアスロン連合強化指定選手(S、A、B、C)
- 認定記録会7級以上
- 加盟団体推薦選手(都道府県連合、学生連合)
アイアンマン70.3を2010年から2020年まで知多半島(2020年時点ではアイアンマン70.3セントレア知多半島ジャパンとして愛知県知多市の新舞子マリンパーク周辺)[29][注 14]、2023年に渥美半島(アイアンマン70.3東三河ジャパンin渥美半島として田原市と豊橋市)で開催している。アイアンマン70.3世界選手権(9月開催:ラスベガス)の参加資格を得られる。
ロングディスタンスの大会は、2022年現在、日本国内では5つある。
2009年(平成21年)までアイアンマン・ジャパントライアスロン五島長崎が行われた。2010年(平成22年)は口蹄疫の発生等が原因で中止になった。2013年からアイアンマン・ジャパンが北海道・洞爺湖周辺で開催されていたが、体制の見直しを理由に2015年(平成27年)大会を最後に一時休止中[33]。
五島長崎国際トライアスロン大会については、2011年(平成23年)以降について「アイアンマン」の商標権所有会社と五島市の間で「アイアンマン」の商標使用に関する契約締結はなく、独自ブランド「五島長崎国際トライアスロン大会」(愛称:バラモンキング)で、2011年(平成23年)以降もトライアスロン大会を継続することになった。
2023年時点で、日本国内で大会名にアイアンマンと付くものは、アイアンマン70.3のみとなっている。
JTU主催の元、毎年、全国各地で認定記録会が行われている。16歳以上カテゴリの課題はスイム400mとラン3000mを別々に計測した合計タイムである。以下、男女ともにU15、U12、U10(男女共通)、U8(男女共通)とパラに分けられる。
16歳以上の場合は、最上級の1級から最下級の50級まで標準記録が設定されている。標準記録は数年ごとに変更されている。2022年からの標準記録は、16歳以上男子の1級で11分35秒81(内訳はスイム400mが3分50秒00、ラン3000mが7分45秒81(アレックス・イーの3000m走自己記録))。16歳以上女子の1級で13分06秒94(内訳はスイム400mが4分13秒00、ラン3000mが8分53秒94(ベス・ポッターの3000m走自己記録))[34]。
スイム、ラン両方が7級を超えるとトップ・オブ・トップス大会以外のジャパンカップに出場できる。(スイム×2+ラン)の合計タイムが(スイム5級×2+ラン5級)を超えると強化指定選手となり、ワールドカップに出場できる。
トライアスロン大会に参加・完走した経験がある有名人
- 小説
- 漫画
- 映画
- 『風の歌が聴きたい』(大林宣彦監督・脚本)
- 『太陽(てぃだ)』(小田大河監督・脚本)
- 『宮古島トライアスロン』
- 『グレート デイズ! ―夢に挑んだ父と子―』
- 『セーヌ川の水面の下に』
- ^ab2000年9月、シドニーオリンピックでトライアスロンが正式種目となり、スタンダード・ディスタンス形式が採用され、これ以降スタンダードディスタンスを「オリンピックディスタンス」とも呼ばれるようになった。競技規則では「スタンダードディスタンス」と記載されている。
- ^コース設定の関係で「スプリント」よりも短かかったり長かったりした場合、ショート・ディスタンスと呼ぶ主催者もいるが、これは競技規則にはない
- ^従来から1/4以下の短距離のため「ショート・ディスタンス」と呼ばれていた。
- ^1人がスイム0.3km・バイク6.8km・ラン2kmの合計9.1kmを走り、女・男・女・男の順でリレーした[10]。2022年競技規則から男・女・男・女の順に改正。
- ^「日本トライアスロン発祥記念碑」が同温泉に隣接する海水浴場に設置してある[11]。
- ^NHK総合テレビで、1985年(昭和60年)4月28日大会当日、合計2時間30分(7:30〜8:00・10:00〜10:45・13:00〜13:30・18:00〜18:45)、「挑戦することは素晴らしい、中継・南の島のトライアスロン大会」として全国中継された。
なお、地理的条件から、通常の全国中継と異なり、実現には衛星使用が不可欠だったが、当時まだ、専用の放送衛星はなく(衛星放送開始1989年6月以前だったため)、NHKは、東京放送センターと沖縄放送局間を、借り受けた通信衛星・さくら2号(多目的衛星)で結ぶことで、総合テレビによるこの大会の全国中継を実現させた。[13]。 - ^NHK衛星第1テレビジョン(放送開始1989年(平成元年)6月1日)にて、同年9月17日大会当日、合計6時間(6〜8時・11〜12時・15〜18時)、“日本列島古里発スペシャル「トライアスロン・イン・佐渡」(中継・向後雅博、金剛英華)”で、早朝スイムスタート、日中バイクコース、夕方ゴールシーンなど、全国中継され、長距離に渡るバイクコースは、ヘリコプターで中継された[14]。なお、現在の大会名「佐渡国際トライアスロン大会」となったのは1996年大会(平成8年9月1日)から、また、開催日が毎年9月第1日曜日となったのは1990年大会(平成2年9月2日)からである。佐渡国際トライアスロン大会#歴史
- ^以前は諸般の事情から、アイアンマン・ジャパンの制限時間は15時間であったが(長崎県・五島市で開催されていた時代)、北海道・洞爺湖畔にて開催されるようになってからは17時間に延長されている。
- ^タイムペナルティを履行できなかった場合も失格。
- ^周回遅れの追い抜きが起こるであろうと審判が判断した場合も安全上の理由から除外を宣告できる。
- ^競技会によっては、バイクで周回遅れになってもレース除外とならない(競技続行を認める)よう変更することも可能。その場合は、周回遅れとなった選手が周回遅れとした選手の後ろに付く事が禁止となる(114条2項)。
- ^1人がスイム・バイク・ランを連続して行い、男女男女の順(2022年競技規則から)にリレー。2021年の東京オリンピックからの新種目。
- ^国籍移動申請中も含む。
- ^当初は常滑市の中部国際空港周辺で開催していた[30]が、後に知多半島広域がコースとなっていた[31]。