シチメンチョウ (七面鳥、吐綬鶏[ 1] 、学名 :Meleagris gallopavo )は、シチメンチョウ属 に分類される鳥類 である。
シチメンチョウ属の模式種 である。なおシチメンチョウ属には他にヒョウモンシチメンチョウ が属するが、まれにこれを別属としシチメンチョウをシチメンチョウ属唯一の種 とすることがある。
キジ目 の最大種で全長122 cm、体重は9 kgに及ぶ。メスはオスのおよそ半分の全長60 cm程度である。胴は構造色による光沢がある黒い羽毛 で覆われていて、メスよりオスの方が光沢が強い。また、オスの胸部から平均230 mmの毛の房が出ているが、メスの10-20%にも短いが毛の房がある場合がある[ 2] 。
頭部や頸部には羽毛がなく赤い皮膚が露出し、発達した肉垂がある。繁殖期になるとオスの皮膚は色が鮮やかになり、胸部が隆起する。和名の七面鳥の由来は頭部の首のところに裸出した皮膚 が、興奮 すると赤、青、紫などに変化するため、七つの顔(面)を持つ様に見えることに由来する。体温は40 °C で、32 km/hで走る。
アメリカ合衆国 、カナダ 南部ならびにメキシコ に分布し、開けた落葉樹 と針葉樹 の混合林に生息する。かつて硫黄島 で飼われていたが[ 3] 、戦後に目撃談があり野生化している可能性がある[ 4] 。
食性は植物食傾向の強い雑食 で果実 、種子 、昆虫類 、両生類 、爬虫類 等を食べる。
繁殖期 にはオス1羽に対しメス数羽からなる小規模な群れを形成し生活する。同じ親から生まれた若鳥も群れを形成し生活するが、その後オスだけの群れを形成する。繁殖期になるとオスは尾羽を扇状に広げ、翼を下げて振るわせ頭部の肉垂を膨らませてある一定の場所で徘徊する。繁殖形態は卵生で、メスが地面を掘って落ち葉を敷いた巣に1回に8-15個の卵を産む。1羽が作った巣に他のメスが卵を産むこともある。メスのみが抱卵を行い、雛の世話もメスのみが行う。メスは日光により卵を産みたくなる体質である。単為生殖 を行う場合もあるが[ 5] [ 6] 、しかし現象としては「無精卵なのに発生が進行する」ものであり、孵化できる個体はごく一部で大半は卵のまま死ぬ[ 7] 。
危険を感じると走って逃げるが、短距離であれば飛翔することもできる。オスのみが出す警戒声(アラームコール)は鳥類の中でも最も大きく歓声のような独特な声である。
シチメンチョウの肉 頭部周辺の名称 1.カランクル (英語版 ) , 2.スヌード , 3. 肉垂 Wattle (Dewlap), 4. Major caruncle, 5. Beard 食用とされることもあり、家禽 としても飼育される。現在家禽として飼育されているのは尾羽の先端が白いメキシコの個体群 に由来するものとされる。中央アメリカ の先住民族 によって家畜化され新大陸到達後、1519年 にはスペイン 王室に、1541年 にはイギリス のヘンリー8世 に献上された。七面鳥の英語名のターキー (turkey )は、日本でも食肉名として用いられる。味はニワトリ より脂分が少なく、さっぱりとしている。トルコ を意味する名前が北アメリカ原産の鳥につけられている理由は、トルコ経由で欧州に伝来したホロホロチョウ との混同によるもの。
アメリカ合衆国 とカナダ では詰め物 をした七面鳥の丸焼きが特に感謝祭 (Thanksgiving Day)でのごちそうであり、感謝祭のことを口語的にTurkey Day(七面鳥の日)とも呼ぶ。クリスマス の料理としても供される。シチメンチョウのハム (英語版 ) やベーコン は一年を通じて販売されており、豚肉 のハムやベーコンに比べて脂身の少ないヘルシーな代替品と考えられている。
「すべてのヤンキー の父」で知られるベンジャミン・フランクリン はアメリカ合衆国の国鳥 として最後までハクトウワシ に反対し、シチメンチョウを推していた。娘宛の手紙にて[ 8] ハクトウワシは死んだ魚を漁る、他の鳥から獲物を横取りするなどの不品行で横着な鳥で道徳的観念からふさわしくないとこき下ろし、野生のシチメンチョウこそ生粋のアメリカ人を象徴するにふさわしい勇気と正義感を兼ね備えた鳥だとした。ただ文面からは冗談、皮肉であるとも受けとれ、本気で推薦していたのかは定かではない。
家禽を撃つことは容易い事から、アメリカの慣用句として「ターキー・シュート(七面鳥撃ち)」がある。太平洋戦争 後半、マリアナ沖海戦 での大勝は「マリアナの七面鳥撃ち (Great Marianas Turkey Shoot)」と表現されている。
2007年、七面鳥を恩赦するジョージ・W・ブッシュ 大統領 感謝祭前日にはホワイトハウス にて七面鳥恩赦式 が行われる。これは全国七面鳥連盟 (英語版 ) が大統領に七面鳥を贈るという儀式である。この式典はハリー・S・トルーマン 大統領の時代から開始されている[ 9] [ 10]
この式典の中では、予め選出された二羽の七面鳥のうち、市民の投票によって選ばれた七面鳥に現職大統領が「恩赦 」をあたえる儀式が行われている[ 11] 。近年では最終選考に残された恩赦を受けなかった七面鳥も助命されるケースが多い[ 11] 。恩赦が正式な行事として行われるようになったのは1989年で、ジョージ・H・W・ブッシュ 大統領がこれを始めた[ 11] 。2014年の例では放免されたシチメンチョウは、バージニア州 の農場で余生を送ることとなった[ 12] 。
行事の由来としては、様々な逸話が語られる。エイブラハム・リンカーン 大統領の息子がクリスマスディナーのために連れられてきた七面鳥の助命を願ったというエピソードもある[ 11] [ 13] 。アメリカでは最初に七面鳥を助命し、恩赦の習慣を開始したのは式典を開始したトルーマン大統領であるという説が広まっているが根拠はなく、最初の式典の際の七面鳥はおそらく食べられたものと見られている[ 9] 。1963年11月19日、ジョン・F・ケネディ 大統領は式典において「Good Eatin', Mr. President(美味しく食べてね、大統領)」と首からメッセージを下げた七面鳥が贈られたものの、彼は「これは育てておこう」と述べ、その七面鳥を食べず農場に送り返した[ 14] [ 13] 。この行為はロサンゼルス・タイムズ によって「大統領の恩赦」と表現された[ 13] 。その後リチャード・ニクソン 大統領とジミー・カーター 大統領に贈られた一部の七面鳥も助命されている[ 10]
1987年にはロナルド・レーガン 大統領も式典の際に七面鳥の助命を行ったが、この際には「恩赦」という言葉を初めて用いている[ 13] 。これ以降、贈られた七面鳥が助命され、農場に送られることが通常の慣習となっている[ 10] 。
イギリス ではロースト した七面鳥がクリスマス 料理のごちそうとされる。ロンドン では、台所から発生する七面鳥の油が50mプール2杯分にも及ぶと推定されており、下水管に大きな負担を与えている[ 15] 。チャールズ・ディケンズ の『クリスマス・キャロル 』の最後の章で、改心した主人公が彼の書記に買い与えるのが七面鳥である。1960年 に発生した3ヶ月で10万羽の大量死事件がきっかけとなりアフラトキシン が発見された。
七面鳥は新大陸由来であり、ヨーロッパ含む旧大陸ではガチョウ の方がはるかに歴史が古い。『マッチ売りの少女 』(アンデルセン童話 )にも見られるように、クリスマスにガチョウが供される場合も多く、原型もこちらと考えられる。
アメリカ合衆国やイギリスのクリスマスに鳥肉を食する文化が日本にも知られるようになったが、七面鳥の入手困難から鶏肉 に代用されることが多い。英米に比べ概して気候的に食材の傷みが早く、七面鳥あるいはビーフ のような大きいロースト肉を仕立てて常備菜 的に日数をかけて食する慣習は日本人にはなじまず、大型の七面鳥を調理できるオーブンなどが2020年代に至っても家庭に普及していないこともあり、七面鳥の導入も進んでいない。おもな生産地は高知県、石川県、北海道で年間3000羽ほど。1億を優に超える鶏と比べると、好事家向け食材の域にとどまる。
ブロードブレステッドホワイト種 ブロードブレステッドホワイト種(Broad Breasted White) 食肉用に家禽化されたシチメンチョウの中で最も広く飼育されている品種である。野生種や既存のシチメンチョウの品種に比べて胸骨 や脚 が短いため人の補助なしでは繁殖できず、繁殖は体外受精 によっておこなわれている。改良の結果大胸筋 が肥大しているため胸肉が多く取れ羽毛 が白く枝肉 になったときに目立たないことから、食肉用の大規模なシチメンチョウ飼育場で盛んに飼育されるようになった。 ウィキメディア・コモンズには、
シチメンチョウ に関連する
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『原色ワイド図鑑4 鳥』、学習研究社 、1984年、102頁。 『動物大百科7 鳥類I』、平凡社 、1986年、145-148、154頁。 『小学館の図鑑NEO 鳥』、小学館 、2002年、162頁。