タデ(蓼)は、タデ科イヌタデ属(学名:Persicaria)の一部[2]、より具体的にはサナエタデ節 (ペルシカリア節、sect.Persicaria) の総称である[3][4]。かつてイヌタデ属などはタデ属 (Polygonums.l.) にまとめられていたが、Hedberg (1946) や続く研究者により、現在ではそれらは約8属に分割される[5][6][1]。全て草本で、陸地生のものは一年草だが、水生のものには地下茎を引く多年草もある[4]。
また、タデ科の一年草の中で穂状花序のものと定義することもある[7]。ただしタデ科内では、イヌタデ属サナエタデ節の他に、同属ミズヒキ節sect.Tovara とイブキトラノオ属Bistorta も花序は穂状である[8]。
狭義にはサナエタデ節のヤナギタデ(柳蓼、Persicaria hydropiper (L.) Delarbre[9])を意味する[4][2]。本来の「タデ」はこの種で、「蓼食う虫」の蓼もこの種である[10]。標準和名「ヤナギタデ」は、葉がヤナギに似ていることから。
葉鞘は切形[8]、花序は穂状[8]。
温帯を中心にほぼ全世界に生息する[11]。
イヌタデ属はサナエタデ節に加え、sect.Tovara、Echinocaulon、Cephalophilon の計4節からなる[5][6][1](第5の節sect.Rubrivena を加える説もあった[11][8]が否定され、オンタデ属に移された[1][6])。それらや近縁属との系統関係は次のとおり[5][6]。
| Persicarieae | | | | | | | イヌタデ属 | | | タニソバ節sect.Cephalophilon | | | | | | | | | ミズヒキ節sect.Tovara | | | | | sect.Echinocaulon | | |
| | | | | サナエタデ節sect.Persicaria | | |
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一方、分子系統により、サナエタデ節のエゾノミズタデPersicaria amphibia とハリタデ(セブアノ語版)Persicaria bungeana を、それぞれ1種からなる新節sect.Amphibia、Truelloides に分離する説が現れた[8]が、少なくともsect.Amphibia はサナエタデ節内に位置するようである[6]。
サナエタデ節には約60種が属す[11][8]。日本には約20種を産する[4](以下のリストの大きな区分けは、生態・形態によるものであり、分類学的なものではない)。
- 陸地生、一年生、茎や葉に毛が多い
- オオケタデPersicaria orientalis (Polygonum orientale)
- ニオイタデPersicaria viscosa (Polygonum viscosum)
- ネバリタデPersicaria viscofera (Polygonum viscoferum)
- 陸地生、一年生、毛がないかわずか
- 水辺生、多年生、地下茎を引く
- 水辺生、一年生、地下茎を引かない
- シマヒメタデPersicaria kawagoeana (Polygonum kawagoeanum)
- ヌカボタデPersicaria taquetii (Polygonum taquetii)
- ヒメタデPersicaria erecto-mina (Polygonum erecto-minus)
- ホソバイヌタデPersicaria praetermissa (Polygonum praetermissum)
- ボントクタデPersicaria pubescens (Polygonum pubescens)
- ヤナギタデ(ホンタデ、マタデ)Persicaria hydropiper (Polygonum hydropiper)
- ヤナギヌカボPersicaria foliosa (Polygonum foliosum)
そのほかの主な種:
このほか、和名に「タデ」を含む種が他の属に散在するが、系統的にはやや遠い(イヌタデ属からオンタデ属に移されたsect.Rubrivena の種とは関係ない)。
食用にするのは北半球に広く分布するヤナギタデ(別名:真タデ)で[12]、特有の香りのある辛味を持ち薬味として用いられてきた[10]。辛味成分はポリゴジアールで、消化促進、食べあたりの予防、抗菌効果やがん細胞の抑制効果が知られている[12][10]。
野菜としては、利用法により発芽した子葉である「芽タデ」と主に本葉である「笹タデ」に分けられる[13]。また、葉の色によって「べニタデ」(紅たで)や「アオタデ」(青たで)に分けられる[12][13]。ともに刺身のつまに用いられるが、一般に白身魚には「べニタデ」、赤身魚には「アオタデ」を用いる[13]。調味料として葉をすりつぶしたものをりんご酢でのばした「タデ酢」がありアユの塩焼きなどに添えられる[10]。また、葉をすりつぶしたものに味噌や味醂を加えたものは「タデ味噌」として白身魚に付けて焼く際に味付けに用いる[10]。
ヨーロッパではヤナギタデは黄色の染料にも用いられる[10]。
オオケタデは観賞用に栽培される。
- 蓼食う虫も好き好き -ことわざ。他に草があるにも係わらず辛い蓼を食べる虫も居るように、人の好みは様々で、一般的には理解しがたい場合もあるということ。
- 蓼虫辛きを知らず(りょうちゅうからきをしらず、蓼虫不知辛) -王粲の詩「七哀詩」の一節から来た格言。
- 谷崎潤一郎 『蓼喰ふ虫』
- ^abcdLi, Bo (2004), “Reinstatement of Persicaria sinica Migo (Polygonaceae, Persicarieae)”, Phytotaxa 161 (2): 148–156, doi:10.11646/phytotaxa.161.2.6
- ^ab土屋和三 (2009), “タデ(蓼)”, 世界大百科事典, 2009年改定新版, 平凡社
- ^籾山泰一 (1972), “タデ(蓼)”, 万有百科大事典 19 植物, 小学館
- ^abcd小林純子 (1987), “タデ(蓼)”, 日本大百科全書, 小学館
- ^abcKim, Sang-Tae; Donoghue, Michael J. (2008), “Molecular phylogeny of Persicaria (Persicarieae, Polygonaceae)”, Systematic Botany 33 (1): 77-86
- ^abcdeFan, Deng-Mei; Chen, Jia-Hui; et al. (2013), “Molecular phylogeny of Koenigia L. (Polygonaceae: Persicarieae): Implications for classification, character evolution and biogeography”, Molecular Phylogenetics and Evolution 69: 1093–1100, http://210.72.14.139:8080/bitstream/131C11/2691/1/V.69%201093-1100%202013.pdf
- ^“タデ”, ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 REFERENCE GUIDE, 第2版改訂版, ティービーエス・ブリタニカ, (1993)
- ^abcdefGalasso, G.; Banfi, E.; et al. (2009), “Molecular phylogeny ofPolygonum L. s.l. (Polygonoideae, Polygonaceae), focusing on European taxa: preliminary results and systematic considerations based onrbcL plastidial sequence data”, Atti della Società Italiana di Scienze Naturali e del Museo Civico di Storia Naturale di Milano 150: 113–148, http://www.researchgate.net/profile/Gabriele_Galasso/publication/257029473_Molecular_phylogeny_of_Polygonum_L._s.l._%28Polygonoideae_Polygonaceae%29_focusing_on_European_taxa_preliminary_results_and_systematic_considerations_based_on_rbcL_plastidial_sequence_data/file/60b7d5243dcbdf2e06.pdf
- ^米倉浩司; 梶田忠 (2003- エラー: 日付が正しく記入されていません。(説明)). “「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)”. 2012年6月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年11月15日閲覧。
- ^abcdef“100回記念号”. 農業・食品産業技術総合研究機構. 2022年7月12日閲覧。
- ^abcPersicaria (Linnaeus) Miller Flora of North America.
- ^abc講談社編『からだにやさしい旬の食材 野菜の本』講談社、2013年5月13日、112頁。ISBN 978-4-06-218342-0。
- ^abc“ヤナギタデ”. 山科植物資料館. 2022年7月12日閲覧。
ウィキスピーシーズに
イヌタデ属に関する情報があります。
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| Persicariasect. Persicaria | |
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