カモシカ(氈鹿)は、哺乳綱偶蹄目ウシ科に分類されるカモシカ属(Capricornis)に属す種の総称[5]。この属は別名シーロー属ともいう[6]。アジアの山岳部に分布する[6]。
シカの名が入っているが、シカの属するシカ科ではなく、ウシやヤギと同じウシ科に属する[7]。したがって、シカとは違い、ウシ科のほかの種同様、角は枝分かれせず、生えかわりもない。
また、日本ではしばしば、カモシカと言えば、国内に棲息する唯一のカモシカ類であるニホンカモシカを指す[8]。山形県・栃木県・山梨県・長野県・富山県・三重県の県の獣にも指定されている。
ニホンカモシカを羚羊と表記することもあるが、本来は誤りである[8]。羚羊をカモシカではなくレイヨウと読めば、アンテロープ、つまり、ウシ科の大部分を含む(しかしカモシカは含まない)不明確なグループのことになる。細く伸びた足を指す「カモシカのような足」という表現に現れるカモシカとは、本来はレイヨウのことで[4]、羚羊をカモシカと呼ぶように変化したことで混同されたが、実際のカモシカの足は太い[9]。
ヤギ亜科内では原始的とされるシャモア族Repicapriniに含める説や[6]、ゴーラル属に近縁としてNaemorhedini に分類する説がある[1]。古くはゴーラル属に含める説もあったが、形態的に別属とされている[10]。分子系統解析ではゴーラル属やジャコウウシ属とともに単系統群を形成するという結果が得られている[11][12]。属内では大型でたてがみの発達したスマトラカモシカなどをシーロー亜属Capricornis、小型でたてがみのないニホンカモシカとタイワンカモシカをカモシカ亜属Capricornulusに分ける説もあった[6]。ミトコンドリアDNAに基づく分子系統解析では、属内ではニホンカモシカが初期に分岐し、次にタイワンカモシカ・アカカモシカからなる系統とスマトラカモシカ(チュウゴクカモシカ・ヒマラヤカモシカを含む)の系統に分かれたという結果が得られている[13]。
以下の分類は、Moriet al.(2019)に従う[13]。和名は川田ら(2018)に[3]、英名はGrubb(2005)に従う[1]。
これらの他にも、鹿間時夫によって葛生動物群の一角として記載された後期更新世のゴーラル属の化石種Naemorhedus nikitini は、骨格の特徴などの判断要素から後年にはカモシカ属に再分類されており、現生のニホンカモシカよりも大型である「ニキチンカモシカ」として命名されている[14][15]。
本来はニホンカモシカを指した。その語源はカモ + シカ(鹿)であるが、カモの語源には諸説ある。
- ニホンカモシカが険しい山岳(かま)に住むことから。
- 毛氈(もうせん、けむしろ、かも)にニホンカモシカの毛を織ったことから[8]。
ニホンカモシカ(群馬県)
ニホンカモシカ(秋田県)
スマトラカモシカ(タイ、ドゥシット動物園)
アカカモシカ(インド、アッサム州立動物園)
タイワンカモシカ(台湾)
- ^abcdPeter Grubb, “Order Artiodactyla,” In Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.),Mammal Species of the World (3rd ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 637-722.
- ^abColin Groves and Peter Grubb, “Capricornis Ogilby, 1837,”Ungulate Taxonomy, Johns Hopkins University Press, 2011, Pages 255-261.
- ^ab川田伸一郎・岩佐真宏・福井大・新宅勇太・天野雅男・下稲葉さやか・樽創・姉崎智子・横畑泰志「世界哺乳類標準和名目録」『哺乳類科学』第58巻 別冊、日本哺乳類学会、2018年、1-53頁。
- ^ab関 1980, p. 24.
- ^北原正宣「カモシカ」『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館。https://kotobank.jp/word/%E3%82%AB%E3%83%A2%E3%82%B7%E3%82%AB。コトバンクより2025年4月29日閲覧。
- ^abcd今泉吉典「ヤギ亜科の分類」、今泉吉典 監修『世界の動物 分類と飼育7 (偶蹄目III)』東京動物園協会、1988年、86-122頁。
- ^関 1980, pp. 22–23.
- ^abc関 1980, p. 22.
- ^フジテレビトリビア普及委員会『トリビアの泉〜へぇの本〜 5』講談社、2004年。
- ^Christopher N. Jass & Jim I. Mead, “Capricornis crispus,”Mammalian Species, No. 750, American Society of Mammalogists, 2004, Pages 1-10.
- ^Alexandre Hassanin, Frederic Delsuc, Anne Ropiquet, Catrin Hammer, Bettine Jansen van Vuuren, Conrad Matthee, Manuel Ruiz-Garcia, Franc ois Catzeflis, Veronika Areskoug, Trung Thanh Nguyen & Arnaud Couloux, “Pattern and timing of diversification of Cetartiodactyla (Mammalia, Laurasiatheria), as revealed by a comprehensive analysis of mitochondrial genomes,”Comptes Rendus Biologies, Volume 335, Issue 1, Académie des sciences, 2012, Pages 32-50.
- ^Chengzhong Yang, Changkui Xiang, Wenhua Qi, Shan Xia, Feiyun Tu, Xiuyue Zhang, Timothy Moermond & Bisong Yue, “Phylogenetic analyses and improved resolution of the family Bovidae based on complete mitochondrial genomes,”Biochemical Systematics and Ecology, Volume 48, Elsevier, 2013, Pages 136-143.
- ^abEmiliano Mori, Luca Nerva, Sandro Lovari, “Reclassification of the serows and gorals: the end of a neverending story?,”Mammal Review, Volume 49, Issue 3, Mammal Society, 2019, Pages 256-262.
- ^仲谷英夫「日本産の更新世ウシ科化石」(pdf)『化石研究会会誌』第19巻第2号、化石研究会、1987年3月、48-52頁、2025年6月12日閲覧。
- ^樽野博幸、石田克、奥村潔「岐阜県熊石洞産の後期更新世のヒグマ、トラ、ナウマンゾウ、カズサジカ、カモシカ属の化石」(pdf)『大阪市立自然史博物館研究報告』第72号、大阪市立自然史博物館、2018年3月31日、81-151頁、2025年6月12日閲覧。
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