デーヴァナーガリー文字における「オーム」の合字表記オーム(サンスクリット:ओम्;om、またはॐŌm̐〈オーン〉)は、バラモン教をはじめとするインドの諸宗教において神聖視される呪文。
漢訳仏典では、唵(おん、口偏に奄)と音写される。
なお、日本では「オーム」と表記する事が多いが、oṃは「オーン」と読み[1]、omは「オーム」である。
ヴェーダを誦読する前後、また祈りの文句の前に唱えられる。ウパニシャッドにおいては、この聖音は宇宙の根本原理であるブラフマンを象徴するものとされ、特に瞑想の手段として用いられた。
また、この聖音 は「a」、「u」、「m」の3音に分解して神秘的に解釈される。これは、サンスクリット語ではaとuが隣り合うと同化して長母音oになるという音韻法則があるからである。
例えば『ブリハッド・アーラニヤカ・ウパニシャッド』では「a」は『リグ・ヴェーダ』、「u」 は『サーマ・ヴェーダ』、「m」 は『ヤジュル・ヴェーダ』の三ヴェーダを表し、「aum」全体でブラフマンを表すと解釈された。
さらに後世のヒンドゥー教になると「a」は創造神ブラフマー、「u」は維持神ヴィシュヌ、「m」は破壊神シヴァを表し、全体として三神一体(トリムールティ)の真理を表すものとされ、民間においても浸透しており同教のシンボル的な意匠となっている。
この聖音は後に仏教にも取り入れられ、密教では真言の冒頭の決まり文句(オン)として、末尾のスヴァーハー(ソワカ)と共に多用された(例えば「オン アビラウンケン ソワカ」で大日如来の真言)。また、仏教の経典『守護国界主陀羅尼経』では「a」は法身、「u」は報身、「m」は応身の三身を象徴し、すべての仏たちはこの聖音を観想する事によって成仏すると説かれる。
京都府の観音正寺にある仁王像。口を開いた像は「阿」、閉じた像は「吽」を象徴し、合わせてオーム(AUM)の始まりと終わりを表すと解釈される[2][3]。阿吽(あうん)は、サンスクリット語の二音節「a」と「hūṃ」の日本語音写であり、デーヴァナーガリー文字では「अहूँ」と表記される。日本語ではしばしばオーム(梵語: ॐ)と混同されるが、阿吽は「a」(ア)と「hūṃ」(フーン)という二つの音から成り立ち、それぞれデーヴァナーガリーの最初の文字(अ)と最後の文字(ह)に由来する[4]。後者にはアヌスヴァーラなどの発音記号が付され、「hūṃ」の音を形成する。これらの音は、象徴的に万物の始まりと終わりを表すものとされる[5]。
日本の仏教(特に真言宗などの密教)においては、「阿」と「吽」は宇宙の根源と終焉を象徴する文字として解釈される。この概念は、キリスト教における「アルファとオメガ」(ギリシャ文字の最初と最後)と類似しており、イエス・キリストを万物の始まりと終わりとする象徴と比較されることもある[4]。
阿吽という語は、比喩的に用いられることも多く、「阿吽の呼吸」や「阿吽の仲」といった表現は、言葉を交わさずとも心が通じ合う調和的な関係性や、非言語的なコミュニケーションを示す。
阿吽の概念は、仏教建築や神道においても視覚的に表現されている。寺院や神社の入口には、対になった像が配置されることが多く、代表的な例として仁王像(金剛力士)や狛犬(獅子像)が挙げられる[4]。
通常、右側の像は口を開けて「阿」の音を象徴し、左側の像は口を閉じて「吽」の音を象徴する。この二体が揃って「阿吽」を表すとされる。口を開けた像は「阿形(あぎょう)」、口を閉じた像は「吽形(うんぎょう)」と呼ばれる[6]。
仁王像は、日本および東アジアの仏教寺院において、山門や仏塔の前に対で設置されることが多く、金剛力士(ヴァジュラパーニ)としての守護的役割を担う。狛犬もまた、日本・韓国・中国などの寺院や公共空間において対で配置され、同様に「阿形」と「吽形」に分かれている[7][8]。
オーム(ॐ)は、ブラーフミー系文字をはじめとする多くの文字体系で表記されており、密教やヒンドゥー教、ジャイナ教、仏教などの宗教的文脈において象徴的な役割を果たす。以下は、北方系・南方系ブラーフミー文字および非ブラーフミー文字における「オーム」の表記例である。
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