『 ……もっとも、人間は孤独でなければなりません。孤独であってはじめて、一人ではないこと、ずっと一人ではなかったことに気づくことができるのです。人間は孤独でなければなりません。孤独になってはじめて、自分との対話が相手との対話であることに、ずっとそうであったことに気づくことができるのです。
人間が自分との対話において、そして最終的には彼との対話において話しかけるものが「無」であるように思われるのは、それが、存在者の中にある存在者ではなく、あらゆる存在者の根拠であり、存在そのものであるからです。存在そのものはどれほど無に似ていることでしょうか。
「見よ、たとえ彼が私のそばを通り過ぎても、私には何も見えない。また、たとえ彼が漂い過ぎても、私は少しも彼に気づかない」(ヨブ記、第9章第11節)。
いわゆる実証主義が本当は偽装されたニヒリズムであることは、どれほど簡単に証明できることでしょうか。また、自称ニヒリズムが結局のところ首尾一貫しない神学であり、「否定」神学であることもどれほど簡単に証明できることでしょうか。
ニヒリズム自身はまだそのことに気づくまでには至っていません。むしろ、ニヒリズム的実存主義については、レオ・ガブリエルが述べたことがまだあてはまります。すなわち、ニヒリズム的実存主義は、最後の叫び声ではあるが、究極の言葉ではない、ということです。けれども、実存哲学もいずれはヴェルラムのベーコンの箴言の正しさを証明することになるでしょう。「人間は、少し哲学すると神から離れるが、多く哲学すると神に戻る」。「予感することなく」、「何も予感せずに」、つまり無を予感しながら、人間は神をあらかじめ立てているのです。
この無は、まさに存在の陰画、存在の裏面にすぎないのです。「汝が見ているのは私の背中である。が、私の顔を見ることはできない」(出エジプト記、第33章第23節)。p196~197』
一人時間をどのように過ごすかによって、人生の質が変わります。
「孤独であってはじめて、一人ではないこと、ずっと一人ではなかったことに気づくことができる」という指摘は、正にそれです。人生には気づきが大切です。
自分の存在と、その立ち位置を確認する環境と時間を大切にしたいものです。
「孤独になってはじめて、自分との対話が相手との対話であることに、ずっとそうであったことに気づく」目の前にいる他人と話をしていたのは、実はもう一人の自分との対話だったという話を共有する事があります。これは、ミステリーでも何でも無く、事実なのです。
自分自身との向き合い方の本質が、正にコレなのです。つまり、もう一人の自分との対話と和解です。それにつながるヒントをフランクルは記していると私は考えています。
「存在そのものはどれほど無に似ている」存在感は、その人が、実際にそこにいる実感を示しますが、それが薄い空気みたいな人も、いるものです。むしろ、空気と思ってもらった方が気楽と考えている人もいます。
でも、これは、使い分けが大切です。自分の存在感を示したり、忍者のように忍んだりすることが可能なのです。
「人間は、少し哲学すると神から離れるが、多く哲学すると神に戻る」これは、名言です。ギリシャ哲学は、創造主である神【主】を受け入れないという傾向があります。人間の意志をどの様に行使するのかを主体としているので、ギリシャ神話に登場する神々の方が、都合が良いようです。でも、非礼を畏れた彼らは、「知られざる神に」という祭壇を設けていたことは、あまりにも有名です。
創造主である神【主】がいないことを立証しようとして、聖書を調べはじめた人は、やがて信仰者になったと聞きました。どのような動機でも、興味を持つことからスタートです。大切なのは、自己吟味と自己決断です。
人間の本質は「無を予感しながら、人間は神をあらかじめ立てている」と言うのです。人間の養育環境や生活環境、社会生活における関わり、人間関係などからの影響はかなり大きいと感じて居る人が多いです。周囲の配慮しすぎるあまり、自分の中にある「本質」を閉じ込めてしまいがちな現実もあります。
創造主である神【主】から魂を授かって生かされているのは、周囲の権力者ではなく、自分自身なのです。その存在責任が問われているのです。
「この無は、まさに存在の陰画、存在の裏面にすぎない」
人間が生きた証は、余程の爪痕を残さない限り、話題にも上がりません。存在は「無」と聞くと寂しいニュアンスを感じますが、それは、「存在の裏面」と聞くと、少し、ホッとしますね。
参考文献
Viktor Emil Frankl Homo patiens : Versuch einer Pathodizee
『苦悩 す る 人 間 V·E· フ ラ ン ク ル著 山田邦男・松田美佳[ 訳 ] 春 秋 社』
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