恋愛小説ってどこか毛嫌いしていた。年かさがいってからは特にそうで、この範疇に入る小説は、そうだとわかった途端に敬遠してきた。恋愛小説の「要素もある」のなら、別筋があるので構わないのだが、恋愛がメインというのはきついなあというのが、正直なところ。いまさら「好き、嫌い」の話じゃないだろうと。
サガン「ブラームスはお好き」が、作家から恋愛小説に属する作品であることは知っていたが、好きな作曲家であるブラームスが小説にどう絡んでくるのが知りたくて手に取った。読んでみると、それぞれの人物の感情の動きがしっかりと言葉になっていて、世代感が理由かもしれないが、気持ちの流れがつかめた気がしている。いや、結構のめり込んで読んでしまった。読みながら頭の中で映像化されているような感覚。昔見た何かの映画に重ね合わせている部分があるのかもしれない。単純に読み物として優れている、と思った。恋愛云々のジャンルなんて関係ないなと。
ポールは39歳のインテリアデザイナーで離婚歴ありだ。ちなみに映画化の時は、米国映画のためか、ポーラとされていたという。タイトルも「さよならをもう一度」となっていて、イングリッド・バーグマンが演じたという。若くないが美しい女性だ。恋人はロジェ。彼女の恋人という自覚はあるはずだが、部屋に入るときに「ひとり?」と聞くような、相手を束縛しないが、自分の「自由」も認めてというタイプとみた。ポールと同年代の中年男性である。
クライアントの依頼で訪ねた先で出会ったのが25歳の若きシモン。こちらはポールに夢中で、かつ積極的である。ポールの気持ちはロジェにあるが、徐々にシモンに惹かれていく。
さて、タイトルの「ブラームスはお好き」だが、シモンがポール宛てに出したコンサートの誘いの手紙に書かれた言葉である。「ブラームスはお好きですか? きのうは失礼しました」と。非常に古典的な(クラシックな)誘いが、ポールが忘れていた何かを思い出させたようである。ポールはコンサートに行き、出張に行くといいながら別の女性と会っていたロジェに日曜はコンサートに行っていたと告げる。そこで、ロジェも「ブラームスが好き?」と聞いてくる。このコンサートはラジオで生放送されていたのだ。
ロジェはクラシック好きながらワーグナーが好きのようだ。ちなみに、ブラームスとワーグナーは同世代の作曲家で、ブラームスはワーグナーを認めていたが、その逆はなかったという逸話を読んだことがある。別な本で読んだ話だが、サガンはこの話を知っていたのかもしれない。
翻訳者の河野万里子さんの解説によると、フランス人はそれほどブラームスを好きじゃないそうだ。フランス映画(パトリス・ルコント監督「仕立屋の恋」)がきっかけでブラームスを聴くようになった自分としてはちょっと残念は話だが、ブラームスのおかげでこの本を読んだのだから、良しとしよう。
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