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森の掟

J-POPやメタルやフェスや音楽番組なんかの批評(という名の無益な墓掘り行為)

ヨット・ロックもポスト・パンクも20年以上リバイバルが続いて飽きたので、次のモードとして「御茶ノ水系」をご提案します

ポップミュージックはリバイバルを繰り返しているし、ほとんどすべてのミュージシャンが意識的か無意識かにかかわらず、過去の音楽を参照している。

藤井風を聴くとスティーヴィー・ワンダーを思い起こすし、Vaundyのこないだのアルバムにレディオヘッドっぽさを見つけてしまう。

 

レコーディングスタジオでは、どんな録り音にしたいか、具体的な既存曲を例に挙げながらイメージを固めていく。

この時代を生きるすべてのミュージシャンやエンジニアたちが、それぞれの感性でふさわしい音の響きやコード進行やメロディのたどり方を選択していっていて、それらの集合体として、2020年代におけるサウンドの「今っぽさ」みたいなものが形成されていっている。

 

その漠然とした「今っぽさ」というものは、すなわち、これまでに存在してきた膨大な過去のサウンドの中から現在のミュージシャンがどれを選んでどれを捨てたかの結果にほぼ等しい。

 

同じくファッションやデザインも、どの時代を参照するかのセンスによって「今っぽさ」が形成されている。

 

で、2020年代の「今っぽさ」のソースといえば、たとえばこんな感じだと思う。

音楽でいうと、いわゆるシティ・ポップリバイバルに繋がったような、AORブルー・アイド・ソウルフュージョンあたりのクリアでハイファイなサウンド。メジャーセブンスのコード感やクリーントーンのギターカッティング、エレピ、16ビートのリズム、みたいな。

ミュージシャンはみんな短髪で、ジャケットを羽織っていたりネクタイを締めていたりして、清潔感がある。ロケ地はリゾートや大都会の夜。

 

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またはこっちの感じも「今っぽさ」のソースになっているだろう。

ポスト・パンクニューウェーブ周辺のサウンドから漂う、ソリッドで金属的でヒリヒリした質感。体温のないコールド・ファンク。反復的で痙攣的な動き、ニヒルな世界観、意味性から遠ざかろうとする言語感覚。

こっち側のミュージシャンもみんな短髪で、見た目もコンセプチュアルなアートの一環ですよといった佇まい。ロケ地は地下のクラブや廃工場。

 

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2025年現在において、このあたりが「今っぽさ」のおもな参照元になっていることは、なんとなく共感していただけるだろう。

 

 

ただ、個人的にはこのモードには正直ちょっと飽きがきている。

 

シティ・ポップ的なサウンドは、2010年代前半から少しずつおもしろがられていたし、そこから考えるともう10年以上も続いているトレンドだと言える。

キリンジのデビュー時、90年代のローファイな価値観へのカウンターとしてAORに光が当たったところからカウントすると、もう20年以上たった。

 

ポスト・パンクの再評価も、ゼロ年代にディスコ・パンクの波が来たときに、フランツ・フェルディナンドラプチャーに影響を与えたバンドとしてギャング・オブ・フォーやポップ・グループが再発見されてからなので、こちらももう20年続いているトレンド。

 

どちらも実はとっくに20年ぐらい続いているモードなのである。

 

こちとら、80年代〜90年代の移り変わりの激しい音楽シーンで育った人間なもんで、20年も同じモードが続くと、飽きる。

 

なので、そろそろ次のモードに期待したいところなんだが、このあたりはどうでしょうか。

 

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すなわち、長髪、ノーネクタイ、ロンドンブーツ、ベルボトムみたいな出で立ちで、ギターはテレキャスではなくレスポール、鍵盤はエレピじゃなくてオルガン、シンセじゃなくて本物のストリングス。

都会人のクリスタルな恋とか、ポストモダンな虚無感とかじゃなく、寓意や内省を歌う。

アダルトでコンテンポラリーではなく、ダークでヒリヒリしてるわけでもなく、マスタリングされていない波形を大音量の生音で鳴らし、ときに大仰でときに甘酸っぱいような。

 

 

1991年のニルヴァーナのブレイクにより、もともと「じゃないほう」だったオルタナが、ゼロ年代にはすっかりロックのメインストリームになり、さらにはそもそもロックバンドという存在が古びてきている2020年代

 

今こそ逆に、かつての王道を参照元にすることで、おもしろいものが作れるような気がする。

ただ、当時の王道の価値観をそのまま持ってきても刺さらない部分があるのも確か。廃れたものには廃れた理由がある。

とはいえ十把一絡げに捨ててしまうのではなく、現代の空気感になじみやすくて、フレッシュに感じられるようなものをピックアップしていくことは可能だと思う。

 

実は、上記に挙げたトッド・ラングレンや10cc、チープ・トリック、EL&Pピンク・フロイドといったあたりはそこに配慮して選んでみました。

70年代の王道ロックとしてまっさきに想起される、レッド・ツェッペリンブラック・サバスエアロスミスやキッスは、それはそれで魅力的だけどあえて除外してあり、2020年代の目や耳にフレッシュに届きそうな感じを狙ってみた。

 

既存のジャンル名で呼ぶとしたら、パワーポップグラムロックプログレッシヴ・ロックみたいな名前になるんだけど、このあたりを包括する呼び名として、「お茶ノ水系」と勝手に呼んでいる。

 

御茶ノ水〜神保町界隈の、楽器店に飾られたヴィンテージ機材、ディスクユニオンや今はなきジャニスに並ぶレコードや再発紙ジャケCD、古書街にある当時のロック雑誌、といったものによって形成されてきたカルチャー(ミュージック・マガジン誌のオフィスも神保町にあるし)をイメージしてのネーミング。

 

いかがでしょうか、御茶ノ水系。

2020年代にはいい具合に埋もれていて手つかずなので、このあたりの感覚をフレッシュに掘り起こせば一大ムーブメントになるのになと何年も前から思っていて。

 

実はそんな期待にバッチリこたえてくれた近年のバンドが一組だけいまして。

ザ・レモン・ツイッグスっていうんだけど、ファッションもサウンドもめっちゃ御茶ノ水系で最高なんすよ。彼らがでてきたとき、待ってた流れがついにきたぞと思ったもんだった。

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しかし、2025年現在、彼らのあとに続く人たちはまだそんなにおらず、御茶ノ水系がムーブメントになるには程遠い状況。

若くて活きがいい人たちが和製レモン・ツイッグスみたいなことをやってくれたら、めっちゃおもしろいと思うので、誰かお願いします。

 

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