
2025年5月22日にド派手な授賞式が放送されたMUSIC AWARDS JAPAN(以下MAJ)。
音楽業界主要5団体が連携して新たに創設した賞で、文化庁のバックアップなんかもありつつ日本のグラミー賞を目指すとかアジアの音楽業界と連携していくとか、かなり気合が入っている。
YOASOBIや藤井風を筆頭に、J-POPが世界中で人気を博しているここ数年の状況。
この追い風をさらに加速させたいという業界や政府の思惑を、賞のカテゴリだったり選考方法からひしひしと感じることができる。
これまでの日本の代表的な音楽賞だった日本レコード大賞は、新聞社の社員と業界の大御所数人による審査で決まるっていうスタイルがもはや時代に合わなくなって久しいわけで、MAJはそんなレコ大を反面教師にしようとしているんだろう。
アーティストを中心にした音楽関係者5,000人以上の投票によって各賞が決まる仕組みは、たしかに特定の有力者の圧力がかかりにくいし、フレッシュな選考になることが期待される。
「審査員が金品や接待を求めた」過去も 元審査員が明かす「レコ大」の裏側(全文) | デイリー新潮
ただ、実は多くの賞は5,000人の投票メンバーの投票が行われる前に、チャート上位300曲の「エントリー作品」というかたちでふるいにかけられている。
この「エントリー作品」の制度によって、一定以上の人気がすでにある楽曲・アーティストしかそもそも候補になり得ないようになっていることが、個人的には窮屈に感じてしまう。
投票メンバーにとっても、本当に投票したい楽曲・アーティストはリストに載っていないっていう事態があったんじゃないでしょうか。
エントリー作品規定
Billboard JAPAN Hot 100の6指標(ラジオ、CD、ダウンロード、ストリーミング、MV、カラオケ)およびTop User Generated Songsのいずれかの指標でランクインした各指標300位の総合週次チャートを作成し、上位300位を選定。その上で、1年を2ヶ月のピリオドに分け、上記の総合週次チャートを当該ピリオド内で楽曲ごとに合算し、同ピリオドでの総合チャートを作成し、上位300曲を選定。
最終的に、その300曲を全6ピリオドでポイント順に並べ、最大ポイント以下の重複を削除し作成した年間のオリジナルチャートの全曲の中から国内アーティストによる楽曲をエントリー作品とする。
Best Japanese Song : MUSIC AWARDS JAPAN
たとえば、最優秀国内オルタナティブアーティスト賞のエントリーはここに載ってる人たちで、ここから投票によってノミネート5組(羊文学、Kroi、離婚伝説、TOMOO、土岐麻子)が決まり、最終的に羊文学が受賞した。
【MAJ】「最優秀国内オルタナティブアーティスト賞」は羊文学 活動休止中メンバーへメッセージ | ORICON NEWS
羊文学に不満があるとかではないけど、エントリーされたものの中から選ぶ仕組みじゃなくてもいいのではないかとは思った。
オルタナティブ部門なんて特に、まだ世間に知られていない気鋭のアーティストを心ある関係者がフックアップする場にしてもいいんじゃないか。ノミネートも10組ぐらいあっていい。
というか「オルタナティブ」っていうカテゴリが令和のご時世には難しいな。土岐麻子は果たしてオルタナティブなんだろうか。
MAJは、オルタナティブなんていう文脈依存なワードを今さら冠するよりは、インディーズのアーティストを対象としたインディペンデント賞みたいなものにするのはいかがでしょうか。
※そもそもオルタナティブとは何かっていう話は弊ブログの過去記事を参照で
あと、やっぱりここ1年以内にリリースされた曲みたいな縛りはあったほうがいいんじゃないか。一度ヒットした曲は何年も聴かれ続けるっていうサブスク時代の特徴はあるにしても、「怪獣の花唄」とか「アイドル」がノミネートされてるのは違和感あるし、「今夜はブギー・バック」がヒップホップ/ラップ楽曲賞にノミネートされてるのはさすがにどうかと思う。リバイバル楽曲賞は別にあるんだし。
このあたりのことは年を追うごとに整っていけばいいと思います。
ところで、22日の授賞式は豪華でしたね。
細野晴臣御大による賞の意義を端的に言い表したスピーチから、YMOの「ライディーン」をいろんなアーティストがマッシュアップしたパフォーマンスへ。
Perfumeにはじまり砂原良徳にSTUTSと、YMOの遺伝子が濃そうなところに繋がり、ちゃんみなやNumber_iやVaundyといった今が旬の面々が目まぐるしく入れ替わっていき、10-FEETに千葉雄喜やアイドル勢で幅広さを見せ、YUKIや岡村靖幸といった現役の重鎮で締めるという、実によくできた人選と編曲。
幻となったほうの東京オリンピック開会式のリベンジを見ているようだった。
その後も各賞の発表の合間にYOASOBIやちゃんみならの気合の入ったパフォーマンスが繰り広げられ、MAJにかける業界の意気込みがこれでもかと伝わってきた。
なかでも、ベテラン現役アーティストを讃える「MAJ TIMELESS ECHO」部門を受賞した矢沢永吉や、AI×Awich×NENE×MaRIによる「Bad Bitch 美学 Remix」のパフォーマンスは強烈だった。
NHKの地上波にNENEがあんなに長くデカデカと映ってて、うれしく思いつつもなぜだかハラハラしてしまった。
初回だからことさら気合を入れたんだとは思うけど、来年以降も露骨にトーンダウンするわけにもいかないだろうし、紅白歌合戦や、ある時期のFNS歌謡祭のような、テレビで特別なパフォーマンスが見られる番組としての一定のクオリティを保っていただきたい。
その上で、テレビ界や芸能界ではなく、あくまで音楽業界から発信されたものであるという立ち位置と、アジアや世界に向けたものであるという目線を忘れず、独自の存在であり続けてもらえたら。
つまり、単に人気者をたくさん呼べばとか座りのいい大御所がいればいいということではなく、筋の通った座組みであってほしいということ。
今回の「RYDEEN REBOOT」はその趣旨を見事に体現できていたと思うので、今後も期待したい。
とはいえ、日本の音楽界に「ライディーン」ほどの大ネタはそうそう豊富にあるわけではない。
音楽性の高さと世代を超えた影響力という意味では「勝手にシンドバッド」「風をあつめて」「君は天然色」「卒業写真」「雨上がりの夜空に」「今夜はブギー・バック」あたりが思い浮かぶけど、いずれもグローバルな知名度は低い。
いっそ毎年「ライディーン」でもいいかもしれない。アーティストを入れ替えればあと何年かは味がするはず。
それか、YMOよりさらにさかのぼって「上を向いて歩こう」はどうか。
星野源、藤井風、miletあたりがしっとりと歌い上げたり、髭男やaikoが複雑なコードでアレンジしたり、PUNPEEがラップしたりっていうのはなんかイメージできるし、結構いいものになりそう。
あとは世界的にロックが絶滅しかけている状況に対するカウンターとして「リンダリンダ」をぶつけるとか。BPMをグッと落としてトラップのビートにしちゃってもいけそうだし、余白の多いメロディはアレンジしがいがあるな。で、アメリカからリンダ・リンダズに来てもらったり。
永ちゃん枠でいうと、芸能界っぽくないほうがいいし音楽業界へのインパクトっていう意味では、松任谷由実か井上陽水かサザンか。山下達郎が出てきたらかなり大事件だけどまあ無理か。
まあ、こうやって考えてみたら少なくともあと何年かは普遍性と斬新さとグローバル目線を兼ね備えたパフォーマンスのネタはありそう。
世界の音楽シーンと切り離されて独自の進化を遂げたガラパゴスだとなかば揶揄されてきたJ-POPが、その独自性が極まってきたことと、アニメやゲームとの親和性が強まったおかげで、そのままのかたちで世界に受け入れられてきたここ数年。
とはいえ、まだグローバルに評価されているのがYOASOBI、竹内まりや、BABYMETAL、フィッシュマンズ…みたいに局地的な点々でしかないのも事実だと思う。
そんな点を面にするようなイメージで、日本にはもっとたくさんのいい音楽があるってことを知らしめる機会として、ますますの発展を期待します。
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